「…………──いたぞ、本物だ」
『フッフッフッ、あんたが言うなら間違いねぇな』
電伝虫の向こう側で、不気味な笑い声が響いた。
『そちらは、お前らにまかせた』
「あぁ」
==========
Bブロックの試合が始まる。
国王のエリザベローⅡ世、革命軍のハックさん。
バルトロメオは大ブーイングの中出場。メイナード中将は出場を辞退したのか居なかった。そうだよね、中にいる海賊の名前と賞金額を調べるための人だもんね。
それから空島から黄金を持ち込んで幹部昇格間近のベラミー。
そして──
「〝火拳〟のエースだァ〜〜!」
白ひげ海賊団から暖簾分けならぬ旗分けをしたスペード海賊団の船長が今回のBブロックで1.2を争う注目株だろう。
「あ、リー!居た〜〜!」
「ルーシー」
ルフィが手を振りながら私のところにやってきた。キラッキラのお目目で。
「エースがいる!なぁエースだよ」
「ぞ!」
「……………俺嫌な予感した」
「何ぞり」
「…………リー、エースいるの知ってたな?」
ルフィの勘が鋭い。
私は目を閉じ、親指を立てた。
──イグザクトリー!
「リー!!!」
そんなの知ってるに決まってるじゃん。
「やぁルーシー、試合の様子は……っと、君は?」
「おれの妹だ」
「初めます…………白馬?」
「リー、ほんとお前なんでも知ってるよな。兄ちゃんはおまえのそういう所は好きなんだけど、知りすぎてて面白くないと思います」
金髪の縦ロールの男性がルフィの偽名を呼んだ。
「おや、君は僕のファンかな?」
「はいです、元ブルジョア王国の皇太子ですぞね。流石に印象強すぎますて……」
「おやおや、詳しいね」
確か、美しすぎて国内の女性が未婚のままで国が傾くからと追放された経歴を持つ方だ。
「それから、3年前まで頭角を現すた賞金稼ぎで、とある傷害事件で海軍本部は2億の賞金首」
「そうとも。だが1年後、全てをかき消す頂上戦争、湧き出る荒廃の
それはごめん。
新聞で操作するのは情報戦の定石なんだよ。マスメディアあるあるです。
「リーなんか詳しすぎないか?」
「別に私だけじゃなく白馬さんのことはび……うちの腐王女様もご存知ぞ?」
「そうなのか」
「それに……3年前なら私もシャボンディ諸島でフェヒ爺に『あいつらなら非能力者みたいだし行ける、おら小娘行ってこい』って半泣きになりながらも押し出されますた故に。あのじじい、2億の首は流石に無理だって」
ルフィの船に乗る前の2年間、海賊掃除としてセンゴクさんに追い出され、フェヒターやレイリーにレベルアップ式の海賊を見繕われ。
流石に億超は嫌すぎて仮病使って無視したけど、ここで出会うならエンカウントしておけばよかったなぁ。
「君、名前は?」
「リーンです」
「そうか……やはり聞いた事のない名前だ。ブロックは?」
「Dです」
「おや、一緒だね。試合では敵同士だ、正々堂々戦おう」
「……正々堂々、ね」
バトロワで果たして正々堂々が出来るのかはさておきだけど。
私は昔に比べて強くなったとは思う。けど、けど。
──圧倒的に戦いたくないんだよ…!
嫌だよ、本当に嫌だよ。バトロワなんて死ぬほどの理由が無ければ絶対参加したくないもん!
「ルーシー」
「んん?」
「エースが勝つぞり」
「ほんとか!?」
エリザベローⅡ世は多分めちゃくちゃ強いだろう。でも、うちの兄は強い。
おそらく、バルトロメオだろうとハックさんだろうと、エースが勝ち星をあげる。
「ルーシー、あのどぐされ記憶障害鈍感男に会うのですたらあとはよろしくです」
「……エースは何をしたんだ?」
「いやいや、何も?えぇ、なーーーにも、覚えるすてないだけで──へぶっ」
私が観覧席から去ろうと踵を返すと、眼前に肉壁が広がっていた。
要するに後ろに人がやってきていて、私は全然気付いていなかったのだが思いっきりぶつかってしまった。
「ぴっっっ、いっっだぁ……」
「おっと、すまない。ひゃゃー、大丈夫かな……?」
「……痛い」
「す、すまん……」
鼻の頭にガツーンって衝撃が来た。
流石に痛くて悶えていると、出場選手のドン・チンジャオがオロオロと私を見下ろしていた。
「リー大丈夫か?ほら、痛いの痛いの、キャベツに飛んでけ」
「僕か!?」
「じゃあこっちのおっさんに飛んでけー!」
「ぐ、グワーッ!」
……いい年した大人たちが何やってるんだろう。
「だい、大丈夫です。おじいちゃん、とってもいい人ですぞね!」
私がにっこり笑うと、ドン・チンジャオは困ったふうに笑った。
出場者がビックネームばっかりだよね。
さて、どうしてここまで大物達が集まったのか。困ったものだ。
でも、ドフィさんをぶち倒す反乱に火力はあればあるだけいい。大物達は必ず、私の計算たらしかルフィの天然たらしで仕留める。
なめんなよドフィさん、私の一味の船長のたらし具合は計算できないはずだ!
「……大丈夫そうなら良かった。ひやはや、時に麦わらのルフィくん。ガープさんは元気かね?」
「えっ」
「あ!?」
「私はかつてガープさんに殺されかけてね。孫子の代まで殺すと恨むと決めていた。……幼子もおるようだし、この場では殺さんが同じCブロック。コロシアムの上では覚悟をしておくように」
物騒な事を言ったがこの場の喧騒になることはなく、勝手に始まって勝手に収束した。
じじ、何した?
「ルーシー、君麦わらのルフィだったのか!?それなら生かして置けない!」
「ちっ違う!違うぞ!な、リー……リーーー!!??」
私はルフィの悲鳴を聞きながらしれっと離脱させてもらった。
ほら、私って別に目立たないじゃん?麦わらのルフィのネームバリューに比べたら、千も超えてないような雑用係なんて目にも止まりませんって。
私はぶらぶらと歩いていた。
Dブロックの出場までまだ時間がある。
「ドフィさん……」
必ず、必ず彼なら、ここの出場者をおもちゃに変える。
過去、コロシアムの敗北者の記憶が誰にもないのが証拠だ。
Aブロックの敗者とは誰だったか。私には勝者の記憶しかない。
それから、エースがいるなら必ず、船員のあの二人が……。
「──下手くそな変装だな」
「え……」
サラリと触れる熱に視界が真っ黒に染まり。
「良い夢を、リーン?」
拳を握りしめる気配がして、私は咄嗟に防御の姿勢をとった。
「っっ!!」
気絶は、やばい。
ガンッ、と吹き飛ばされた先で頭を打った私は、くらくらする視界の中黒い革靴が私の方へ向かってくるのを見て──目を閉じた。