バギーは七武海になった為鼻高々で真っ赤っかだった。
頂上戦争で目をかけられたのか分からないが、そう時間も経たないうちに海軍から『七武海になりませんか』というお誘い(強制)の手紙。
ついに、この俺が!世界に見つかってしまったようだ!
七武海は他の海賊から『政府の犬』だと馬鹿にされているが、やはり影響力は強い。何より海軍に無闇矢鱈に狙われなくなるのは大きすぎるだろう。
「くっくっくっ、このまま七武海で名声を高め?」
「たちまち四皇!?」
「いやさ勢い余って──海賊王!?」
ま、そーんな淡い期待を抱いていたのだが。
七武海がめちゃくちゃ怖いやつらばっかりだってことに気付いた。
「こ、こえ〜〜〜〜〜!一緒に脱獄したクロちゃんでさえめちゃくちゃ怖いよ!」
「ったく、情けないわね」
そんでもって海軍の奴らは人使いが荒い。
やれあっちに行け、やれこっちに行け、部下の管理を何とかしろ、略奪行為はするな。
「はい、はい、申し訳ございません、はい、滅相も、はい……」
まるで顧客のクレーム対応をしている中間管理職だ。バギーの心はボロボロ。
「お前らァ!(俺が海軍に怒られるから)高潔な海賊としての教えをくれてやろう!いいか!俺達が目指すべき場所は、無力な一般人から奪うことじゃあねぇ!(被害があったら怒られるし)宝を、探すんだよォ!海賊が残した宝、敵船との戦い、その男らしい生き様で得た物こそ!俺達にとっちゃと〜〜〜〜んでもねぇ宝になるってわけだ!」
物は言いよう。
部下の心をうまーいこと動かしつつ、海軍にはペコペコ頭を下げて怒られないようにする。
世渡り上手といえば聞こえがいいだろう。
討伐した海賊の情報とか書類は(カバジ達に頼んで)しっかり書き上げ、海軍に報告しているため、七武海の中では評価が割と高い。
七武海になり早一年、いや二年がもうすぐ経とうとしている。そんなバギーは順調な海賊街道にほくそ笑んでいた。
「(フッフッフッ、しかも、この俺様には心強い味方がいる……!)」
「──バギー」
海軍本部内で『名前』を呼ぶのはこの者くらい。
中性的な声に少し低い慎重。白い死装束のような服を着、狐の仮面を付けた海軍の最高戦力。
「女狐……!」
なーーーぜか距離が近いんだよなぁ!
とバギーは考えつつ、それはそれでラッキーだと味をしめている。
何せ部下たちは『あの海軍大将女狐に目をかけられるバギー船長、パネェ!』とばかりに尊敬の念を向けてるからだ。
一方、その女狐とて、内心バギー相手だと気持ちが楽なので気が落ち着く。
強くもなければ、権力もない、小心者。しかしムダにカリスマ性があるため部下の戦力は大きい。仕事を任せればきっちり報告書まで出す。他の七武海、口頭報告しかしないもので。海軍内で地味にありがたがれているのだが、バギーに知られると調子に乗るから厳しく行くようにと指示が回っていた。
「バギー、仕事だ」
「へい!お任せ下さい女狐様〜〜」
「……キモ」
「キモイはないだろ!あっ嘘ですごめんなさいなんとでも言ってください」
バギーはハンドサインで屈め、と言われたので、いつも誤魔化しで大きくしている体躯を普通のサイズに戻す。
そんなバギーの肩に肘をかけた女狐は書類を見せながら指示をした。
「ここ。縄張りのそば。能力者の情報は別ページ」
「これをどうするんだ?」
「潰せ。完膚なきまで。溜め込んである財宝は無いが、別途報酬が出る。食料品は市民巻き込んで宴でもしろ。現地消費」
「そりゃまた……なんで…?」
理由は答えてくれなかったが、女狐の指示通りに従えばなんか株が上がった。
良い子はこれが女狐の情報操作だと気付くのだが、バギーはなんかラッキーくらいに思っているので特に怖がったりしなかった。
それでもなんか目をかけられていることは分かっていたので、バギーは七武海の中でもかなり特別な位置に居るんだと考えていた。
「バギー、次の仕事」
「女狐!」
「約1ヶ月後、部下と共にある国へ向かえ」
「ほへ?」
その命令に、素直に従わなければ良かったとバギーは後悔した。
「──ドレスローザかよぉ!!」
「まぁまぁまぁまぁ」
女狐の部下だというオカマと子供バギーのお目付け役としてはなよなよしている二人がやってきた。月組とかいう一等兵が何人か共にいる。
ドレスローザといえば、ドフラミンゴの国。
「七武海は互いの領域に入っちゃダメだって言ってたじゃね〜〜か〜〜!??」
「そうねい。でもほら、ルールは海軍のルール。うちの女狐大将が決めたなら、海軍のルールじゃなーい?」
「横暴だ!!!!」
要は『ルールって変わるよね』ということだ。都合のいいルール。
バギーは知らないが、旧七武海は縄張り関係なく会合していたのでルールの体裁はガチで整っていない。
嫌だ嫌だと駄々を捏ねてもドレスローザに着いているのだ。
「それより月組って仕事どうしてるの?」
「まぁ……ちょっとパンクハザードで色々あったから……後始末もあるから。月組を分けて急遽ベンサムと合流してるからさぁ、色々人手も足りてない状態」
「うわ…………」
「それよりも流石の元元帥が頭抱えてる姿を見たんだけど、俺はそれが不安だよ」
「じゃあG-5じゃなくて本部に戻ったんだ?」
子供と普通の海兵が話し合っているのをバギーは聞き耳立てる。
や、厄介事の気配〜〜!
「さぁ、気張ってくわよ」
ベンサム、と呼ばれたオカマが、まるで死の覚悟を決めてますみたいな顔でバギーの肩を叩いたのだった。
──彼らは、対策だ。
「……、バギー」
「いーーーーーーーやーーーーーーー!!!だ、ダグラス・バレットじゃん!??!!」
目の前にいるのはちぎれ耳の大男。
インペルダウンでの脱獄以来、しばらく会っていなかった旧い知り合い。しかもよりにも寄って、あの船に乗っていた人物の中で2番目にやばい人物。
え?1番?
理不尽の悪ガキ担当、エースに決まってる。
バギーは涙を流した。
「海軍を引き連れて、俺を捕らえにでも来たか」
「い、いやいやいやいやいや!!さっさ、さ、さすがそんな馬鹿な真似はし、しな……いよな?」
恐る恐る海軍の方に目を向けると、バレットの圧にビビりながらも答えた。
「違うわよ……、少なくとも、あちしたちはその意図は無いわね」
「バレット〜〜! 何話して……海軍?」
話の途中で、赤髪と白髪の女がやってきた。
その顔に若干の見覚えがあったバギーは頭を捻って、ようやく答えを見つけ出した。
「お前!シャンクスのガキ!?」
「あ!バギーおじさん?」
「誰がおじさんだ派手馬鹿め!」
バギーは昔、一度だけウタと会ったことがある。それはシャンクスがまだフーシャ村に行く前の時代であり、麦わら帽子を被っていた頃の話だ。
「おじさん、変わんないね」
「派手に変わってんだろ!」
そんな懐かしい様子でケラケラ笑うウタとキレるバギー。バレットはため息を吐いている。
「シャンクスって赤髪の、だよな?」
「そ、そうねい。娘が居るだなんて、聞いてないわよーう」
コソコソ海軍側でも会話している。
嘘だろ?ダグラス・バレットだけじゃなくて赤髪の娘?マジで?
信じられない情報に動揺が走る。
「で、何の用なんだ」
「いや俺も、バレットさんとは出来るだけ会いたくなゲソンゲソン。えーっと、海兵」
「バギーちゃん、これ読んで」
「これ?」
バギーの手元に手紙が渡される。
疑問符を浮かべながら受け取った。
「ちなみに、あちしたちその中身は知らないわよ」
渋々、バギーは手紙を開き、最初の文から読み始めた。
──
拝啓 ダグラス・バレット殿
お前の手配書、それから歌姫の手配書。諸々既に手配されています。大人の事情で中々配布が出来ないのですが、くれぐれも、他人に迷惑をかけないように居てくれると助かります
──
「なんだこりゃ?」
「いや、わかんないわよう?」
「なにこれ、誰から?大将?」
「続き読めよ」
──
ダグラス・バレット君は、そりゃもうお強くて、かっこよくて、まるで無敗の男みたいな感じではございますが。
お前は俺に負け越しだということをゆめゆめ忘れないようにしろよ。
「っっはあ!!!??」
その時点でバギーの声から悲鳴が出た。
「エース!!!???」
「……エースだな」
「え?エースが何?」
「エースって火拳か……」
月組のその発言にバギーはグルンと向きを変えて肩を掴んだ。
「馬鹿野郎!あんな可愛げのある男と一緒にすんじゃねぇ!かーっ!これだから海軍は者を知らねぇやつが多くて困る!」
ブンブンと揺さぶるバギーは怯えている。
「エースといや、ロジャー海賊団の古参だろうがよ!!!!」
「はあ……?なんでそんなやつの手紙が?ベンサム?」
「いや…………本当に全く知らないわよう」
「驚き…………」
海軍側も大混乱である。初耳の情報が転がり込んできて、驚きの連続が止まらないのだ。勘弁してくれ。
七武海を操作する側だと思って挑んだ任務で、まさか海賊側から振り回されるとは思わないだろ。
「エース船長と同じ名前なんだ」
「というか、ルーツだ。とはいえ、あの寝坊助野郎がなんで海軍に手紙を渡している……」
あのバレットが苦い顔をして息を吐き出している。
「(心友だから仕方ないわねい?)」
「(あの人だからあるか)」
「(リィンちゃんの伝手って本当にどうなってんだよ)」
「あれ、続きあるけど…………」
手紙を拾ったウタが内容を見るが、首を傾げてバレットに渡した。
「……。嘘だろ?」
わぁ、ダグラス・バレットのそんな顔、初めて見た〜。
バギーは気絶するかと思った。