2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第320話 工場とトンタッタ族

 

 

 

「──まずは、工場の破壊……」

 

 

「──まずは、破壊の阻止と保護」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 さて、リィンの指示でとある海岸線にやってきたサンジとカルー。サンジの指示は『向かえ』と、たったそれだけ。

 それでも指示には従わなければろくなことにはならない。

 

 ただ、ひとつ文句があるとすれば。

 

「遠い……っ!」

 

 街中を横断するにしたってだいぶ遠い。

 カルーは地形を把握しているが、流石は陸上最速のカルガモ。

 

 ただ、2人とも瞬発力はあっても持久力面ではそこまでだ。特にサンジは瞬発力特化。……カマバッカ王国ておかまを受け入れて逃げなかったので、少し持久力の方が劣る。

 

 そうして一時間走りつづけてたどり着いた場所は、何の変哲もない崖だった。

 

 カルーはここで海に向かって飛び降りることで飛行のコツを掴んだ。懐かしい潮風の匂いに喜び雄叫びをあげようとしたところ……。

 

「クぉもご!」

 

 くちばしが一瞬にして締められた。

 もごもごともがくカルー。

 

「こっちよ」

 

 ローブを被り様相は見えないがカルーのくちばしを掴んだまま、女が二人を案内した。

 人質ならぬカモ質を取られている状態なため、サンジも大人しく着いていく。

 

 無言で向かった先は、崖の下にある洞穴だった。潮の香りがそこらじゅうから漂うことから、潮の満ち干きで見つかりにくくなる場所なのだろうということが見て取れる。

 

 

 

「待っていたわ、〝黒足〟」

 

 ある程度進めば、女はローブを脱ぎその黒髪を見せる。

 

「私の名前は、そうね、ヴァイオレットと呼ばれているわ」

「ヴァイオレット……ちゃん……?」

 

 ヴァイオレットと名乗るレディ。

 サンジは特別な警戒なく、カルーは久しぶりと言いたげにひと鳴きした。

 

「ふふ、久しぶりね、カルー」

 

 少し微笑んたヴァイオレットは改めてサンジに向き直った。

 

「私は敵では無いわ、どちらかと言うとドフラミンゴの敵、信じてもらえるか分からないけど」

「や、信じるよ。うちの護衛隊長、カルーが信頼を寄せてるっぽいしな」

「……あなた護衛隊長だったの?」

「クオーー!」

 

 自信満々に胸を張るカルー。ヴァイオレットはその姿に微笑んだ。

 彼女は元王族で、ドフラミンゴに並ならぬ敵意を向けている。もちろん隠してはいるが、バレていても仕方ないだろう。

 

「私はドンキホーテ海賊団のトレーボル軍幹部の殺し屋、悪魔の実の能力はギロギロの実。能力の詳細は主に3つ。『千里眼』『思考解読』『涙の硬質化』……」

「そいつはすごいな」

 

 何がすごいって、情報収集特化型という点だ。サンジは深く感心をした。

 具体的には、一味のもう1人の金髪と組み合わせたらえぐい事になりそうだな、という点だ。

 

 千里眼。

 視界を鳥のよつな形で飛ばし、あらゆる視覚情報を取り入れる事ができる。その範囲、4000km。

 

 ドレスローザをまるまる見渡される彼女の能力は、この近海で起こったことを一から十まで全て知っていた。

 

「まずは状況を説明するわね」

 

 そうしてヴァイオレットは、その能力で見たことを話し始めた。

 

 

 麦わらの一味の船。

 シーザーが乗っていた守りの要だが、ジンベエの努力も虚しくドフラミンゴに襲われて連れ去られてしまったとの事。

 サンジはさすがにまずすぎて冷や汗を流した。

 

「いや、でもリィンちゃんがいればリカバリーが」

「その堕天使なのだけど──」

 

 ほぼ同タイミング。

 コロシアムにクロコダイルが向かい、変装していたリィンを気絶させて誘拐したと。

 そして現在リィンは海楼石の錠で拘束された上に、七武海が物理的に押さえ込んでいるせいで身動きが取れないとのこと。

 

「…………なんで、クロコダイルの名前が?」

 

 サンジが恐る恐る聞けば、ヴァイオレットは沈んだ顔を見せた。

 

「この島、七武海のほとんどがいるのよ」

「ほとんどが!?」

 

 ドフラミンゴの王宮にクロコダイル、ミホーク、ハンコック、モリア。

 海軍にバギー。

 

「いやほとんどっていうか、全員じゃないか…?」

 

 ローも加えれば7人だ。

 七武海が7人であれば、幻の8番目とか0番目とか出てこなければ間違いなく全員だろう。

 

「七武海一人何とかするのでも骨が折れるぞこれ……」

 

 しかも随時指示を出すつもりだったリィンが動けない身。詰んでないか、という思考が頭をチラつく。

 

 

「お仲間は……、まだ誰も大きな怪我は負ってないわ」

 

 コロシアムにルフィ、それからエース。

 ルフィは予選を突破し、エースも勝利し、今はDブロックが戦っているのだという。この時点でサンジはエース達がいるということにおどろいた。新情報が激しすぎる。

 

 ロー達はおもちゃの兵隊というものに導かれ地下に。SADの工場に向かっていくのだという。

 

 さらに地上にいるゾロ、ビビ、ロビンはトンタッタ族という小さな種族と共にいるらしい。

 

「黒足の仲間達の状況はこんなところね」

 

 サンジは顎に手を当てて考え込む。

 敵の手に渡ってはならない二大巨頭。シーザー、そしてリィン。

 

 誰も重傷ではない。それだけが唯一の救い。

 

 だが、軍師不在の軍がどれほど脆いかは、サンジ自身が痛いほどわかっていた。

 リィンの読みと采配がなければ、バラバラな戦線を束ねることも、仲間を繋ぐこともできない。

 

「リィンちゃん自体は無事に違いない……けど、どうしようか…」

 

 胃痛がしてきたのかサンジはしゃがみこむ。

 

「それから海軍もかなりいる状況よ」

「海軍まで……」

「軍艦8隻、ざっと8000人以上は居るわ」

 

 その数を聞いて驚いた。

 

「ば、バスターコール並じゃないか!?」

「何よりも厄介なのは、大将や中将がいる事ね」

「う……そいつらが七武海側に着いたら…というか敵対する可能性は低いよな……」

 

 海軍と七武海は、いわば同盟関係のようなものだ。

 

 息を吐き、サンジはふとヴァイオレットに尋ねた。

 

「ところで、この道は?」

 

 崖下の洞窟、にしては不自然にも整備されているように思える。

 

「王宮に続く裏道よ。ただし、堕天使がいるメインの客室には繋がってない。……けれど──シーザーがいる部屋へは通じているわ」

 

 サンジの目が静かに細まる。

 思考が音を立てて動き出す。

 今動けるのは自分とカルーだけ。選択肢は限られている。

 

 

『サンジ様には、割と危険なお願いがあるです──』

 

 リィンの言葉を思い出し、サンジの今後の方針が決まった。

 

「なら、俺がやることは一つだな……」

 

 

 サンジは電伝虫を取り出した。

 

 

 ==========

 

 

 一方その頃、ロー、フランキー、ウソップ、錦えもんは、片足のおもちゃの兵隊に事情を説明されていた。

 

「かつてこの国を統治していた素晴らしい方の話をさせて欲しい」

 

 仲間(リィン)と連絡が取れなくなってしまった不安感はあれど、情報は聞いておくに越したことはない。ローたちは一方的な語りとも言える過去を傾聴した。

 

 

「私の仲間にはトンタッタ族というものたちがいる、それを前提として聞いてもらいたい」

 

 はるか昔からドレスローザは存在していたが、今は天竜人になった王族はトンタッタ族というを奴隷として扱った。しかし、空白の100年を跨ぎ今から800年前、当時のリク王はそれに酷く衝撃を受け、王冠を外し頭を地面に擦り付けてまで謝罪をしてくれたというのだった。

 

「その、かつてトンタッタ族を苦しめていた王族の名を──ドンキホーテ一族という」

「な……っ!」

「そう、今国王としてこの国を支配するドンキホーテ・ドフラミンゴも、天竜人のドンキホーテ一族の末裔に違いないんだ……!」

 

「──それは知ってたけども」

 

 うん、知ってた。事前説明で妹屋絡み聞いていた。ローは頷く。

 ギリギリまでガチで疑っていたが、本当に知ってた。やっぱりという感想が強い。

 

「さて、ここでその関係性を語ったということは、私の敬愛する陛下、リク・ドルド3世。あの方の転落と繋がっている。全ては……あの夜から──いや、ずっと前から始まっていたのかもしれない。モネという女が王宮に使え始めたその日から」

「モネだと……?」

「それってパンクハザードにいたやつ、だっけか?」

 

 

 ドレスローザは貧しい国ではあったが、妖精、トンタッタ族のおかげで花は枯れず、何より800年前にリク王家が国を治めてから一度も戦争をしていない奇跡にも等しい国だった。

 

 しかし、悪夢は突如やってくる。

 10年前、突如現れた先代王朝の末裔を名乗る海賊ドンキホーテ・ドフラミンゴに「100億ベリーでこの国を売ってやる」と脅しをかけられ、リク王は国中から金品を掻き集めることになった。

 夜明けまでという短いタイムリミット。当時の軍隊長のタンクが最前線で国民に頼み込み、リク王ですら映像越しに頭を下げた。

 

 そして800年の信頼が実った。国民は、その映像に心動かされ、あの心優しいリク王が悪意を持ってこんなことをするはずがない、とありったけの財産を投げ出した。

 これで国は救われるのだと誰もが信じていた。

 

「しかし──全てが、罠だった」

 

 国王、そして兵士達は国民を襲い始めた。罪もなく貧しい、戦争を知らない国民たちはろくに逃げ出せず、1人、またひとりと死んでいく。

 

「……寄生糸(パラサイト)、だっけか」

「いや知らないが?」

「ルフィとリィンとエースがアラバスタでドフラミンゴと会った時、その技で操られてたとか言ってたな」

 

 ウソップの言葉に兵隊はこくりと頷く。

 

 国中が恐怖に震え上がり、リク王を心底恨んだ時、ヒーローが現れた。悪逆非道のヒーローが。

 

「国は、リク王を止めたドフラミンゴの手に落ちた。黒幕だと分からずにな」

「なんちゅうはなしだ……」

「ふ、ぐが!ゆ、ゆ!許せねぇ!ドフラミンゴォ!」

「拙者も今、饒舌に尽くしがたい感情でいっぱいでござる……!」

 

 涙が止まらないフランキーにタオルを渡しながら、ウソップは独り言のように呟いた。

 

「やっぱクロコダイルのやり方と似てるな」

 

「……。ドフラミンゴにひれ伏した兵士もいる。殺された兵士もいる。彼らにとって苦渋の選択だったのだと信じている。──しかし、トンタッタ族、私、旧リク王軍だけでは足りない。もちろん、君たちを含めても、だ」

「そりゃ……そうだけど……」

「だからおもちゃ、というわけか」

 

 ローが問いかければ兵隊は無言で頷いた。

 おもちゃにされた人間は人間時代の記憶を覚えているが、周りの人々はたとえ家族であれすっかり忘れてしまう。おもちゃ同士も、忘れてしまうのだ。

 

「かく言う私も、レベッカ……今Dブロックで戦っているリク王の孫……彼女の父親だが、レベッカはそれを覚えていない」

「なぁ!?ちょ、ちょっと待て、それならお前はリク王の」

「さらにはおもちゃにされた時点で、皆、ドフラミンゴに並ならぬ怒りを覚えている。ドフラミンゴは反乱の意志を闇へと葬り去るが、裏を返せば闇には反乱の意思が輝いている」

 

 大きな鍵だ。

 やはりドレスローザとおもちゃの関係性は、必要不可欠なのだと実感する。

 

 

「だが、ひとつ謎が残る。なぜ俺たちに声をかけた?言ってしまえば、王下七武海のドンキホーテ・ドフラミンゴに喧嘩を売る海賊は数いただろう」

 

 ローの質問に、兵隊は首を横に振った。

 

「その話はまだ出来ない。ただ、我々にも導き手が居た、ということだけは先に言っておこう。無論人間では無い、がな」

 

 

 兵隊は話を変えるように声のトーンを変えた。ブリキのおもちゃからどのようにして声が出るのかは分からないが。

 

 

「で、トンタッタ族はまぁ、かなり騙されやすい。善良といえば聞こえはいいが、800年前のリク王が妖精と言う文化を周知させたのは悪意ある人間に利用されないためだと言うことはよくわかる」

「そんな純粋無垢な生物がいんのか?人間は小さけりゃ小さいほど凶悪な気がするんだが」

「なぜ??????」

 

 ウソップの発言に流石の兵隊も思いっきり首を傾けた。

 いや、だって、ねぇ?

 そんな視線を向ければ、フランキーとローは頷いた。すごくわかる。

 

「話を戻そう。そんなトンタッタ族が、悪人に利用されスマイルの生産工場で働かされている。君たちは破壊を目的としているのだろう。だから、トンタッタ族の救出を助太刀願いたい」

 

「──話をさえぎってすまぬ!拙者には、カン十郎という仲間を救うという目的がある、カン十郎の行方は知らぬだろうか!」

 

 錦えもんは話を遮ってすまぬ、と弁明を加え、兵隊に問いかける。必死の形相に思うところがあったのか、兵隊はひとつの提案をした。

 

「…………。ふむ、情報を取り扱う人物がおる。話をつけておこう」

「情報……?」

 

 なんだろう、嫌な予感化する。

 

 

「あぁ、ピエロの仮面をつけた、背の高い男だ」

 

 

「──シーナかよッ!!!」

 

 ウソップの怒号が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 エレガントサンフラワーの光が降り注ぐ。

 なんと、一行は錦えもんの変装で工場内を難なく入ることができた。

 

「まさか、ここまで何も問題ないとはな……」

 

 ローが驚くが、何も不思議なことは無い。錦えもんの変装、そして能力。

 これらが組み合わせれば何が起こっても安心だ。

 

 何より、ローの能力だけでも人を避ける手段は多い。

 

「おい、あれ、トンタッタ族というってやつじゃないか?」

 

 ウソップの指さす先に小さな小人がいた。

 手のひらの上に乗るほどの小人が、人の数倍の力でものを持ち上げている。

 

 悪魔の実のなりたてのような果実を収穫している者もいた。

 

「おい、そこのお前、少しこっちに来い」

「は、はいれす!」

 

 ローがドンキホーテファミリーのフリをしてトンタッタ族を呼び寄せる。

 

「ここのトンタッタ族は何人いるんだ?」

「ざ、ざっとれすが、五百人くらいれす」

 

 トンタッタ族が騙されやすい、ということは口を割りやすいということ。さて、どういうふうに情報を隠してトンタッタ族の救出をしようかと考え込んだその時だ。

 

 

 ウソップは、気付きたくない所に気付いた。

 

「ん? ちょ、ちょっとまて? え、なんで、お前ら──どうして影がないんだ?」

 

 とてもとても、ものすごーーーく嫌なことを思い出してフランキーとウソップは顔を合わせた。

 

「あ、はいれす!さっきのことですけども。白い肌のお化けみたいな、お腹の大きな方がいらっしまって。おいらたちの影をハサミで持って行ったれす」

 

 

 ウソップは崩れ落ちた。

 

 

「なんだ、どういうことだ?」

 

 ローはどういうことか分からなくて混乱におちいる。ウソップは『無計画な救出が難しい』ということに気付いた。

 

 ここは、雨のあまり降らない、太陽が降り注ぐ花と情熱の街、ドレスローザ。

 

「モリアだよ!あいつ、影を奪うんだ……。影を奪われた者は……太陽の下に出れねぇんだ!消えちまうんだよ!」

 

 

 

 

「──やり、やがった…っ!」

 

 ローはドフラミンゴの策に先手を打たれたことに気付いてしまった。

 

 太陽の光を、当ててはならない。

 

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