ドフラミンゴは警備の配置を対四皇に合わせて変更していた。
「四皇全員がかかってくると思って動いたほうがいい」
それを裏付けるようにかは分からないが、リィンの過去の動きを思い返せば、アラバスタでも白ひげの隊長格を動かしていた。さらに言うなら、……あいつの部下にはワノ国の出身の人間もいる。
もちろん身内だからこそ、というものはあるのかもしれないが。出そうと思えばいくらでも出せる手だ。
麦わらとローの組み合わせは、ドフラミンゴにとって厄介ではあるが、四皇は比では無い。
備えずぶつかる方が厄介、というものだ。
「……チィッ、七武海を呼んでおいて正解だったな」
リィンの打つ手を次々と潰していく。いや、正確に言うと既に打っていた手を。
海軍に──ボア・ハンコック
赤髪に──ジュラキュール・ミホーク
白ひげに──モリアとピーカー
ビッグマムに──ジョーラとマッハバイス
カイドウは──残された幹部で標的を変更する方向だ。
まず、赤髪と白ひげ相手だと丸め込めない。繋がりはリィンの方が強く、奴らは善政で動く可能性が高い。
「ビッグマムとカイドウ、話は通じないが、余地がある」
両者ともにシーザーを利用した取引を行っている。そのため、共闘して麦わらにヘイトを向かせる可能性がある。
主たる思考のリソースは、その二角に対する交渉と誘導。リィンがどの手を打っているのか、どう誘導しているのか、それに対抗出来うる条件などを考えなければならない。
リィンが差し出すメリットよりも大きなメリットを提示する。
ひとつ、またひとつ。
リィンの手を予想して潰して行く。
「ねぇ若!」
ドフラミンゴの部屋にデリンジャーが入ってきた。少し焦ったような表情。例え僅かな情報でも、幹部には報告義務が設けられている。
「デリンジャー、どうした。ローや麦わらの一味の捜索はまだか?」
「それは、ロー兄ぃの姿見えないけど……それよりも大変なの」
闘技場から急遽呼び戻し、海側からデリンジャーは敵の位置を探らせる任務につかせていた。
ヴァイオレットが居ればいらない仕事だったが……ドフラミンゴははなからその女を信用して居なかった。
「で、何があった?」
「ロー兄ぃ達を探してたんだけどね、海に」
「海に…?」
「魚人がいた。しかも、多分兵士」
「……ネプチューン軍の兵士、か」
ドフラミンゴは嫌な手にひくりと喉がなった。
脳裏に掠めるのは、リィンが宣戦布告をした新聞の情報。
──
複数の大事件において、ドフラミンゴの影が取り沙汰されてきた。
アラバスタ王国での反乱事件、ヴェズネ王国で発覚した麻薬流通、パンクハザードでの爆発事故、魚人島における反乱。さらに、人身売買ネットワークや奴隷オークションの黒幕としての噂がある。今回の同盟がこれらの構造にどのような影響を及ぼすのか、注視が必要だ。
──
「──魚人島における反乱、か」
一切合切関わっていなかった『魚人島』のなまえ。他は心当たりがあるのでちょっと黙っていたが、見逃しては居なかった。
まさかまさかとは思っていた。
今まで四皇、海賊同士のやり取りを視野に入れていた。
「(国を持ち出すのは、話が違ぇだろ……!)」
ドフラミンゴは七武海。
カイドウは四皇。
立場は違えど、所詮基本は海賊だ。
勝った負けた、それで済む……という訳では無いが、まぁそこそこ終わる。
──しかしドフラミンゴは国王である。
その立場を望んでいたし、足枷になったとは思わない。七武海の中でもかなり有利に運ぶスペックで、ジョーカーとしての取引も、国王という立場が信用の後押しになった。
政府、サイファーポール、諸々を利用出来る立場だ。
しかし!国と国のやり取りは話が違う。
国王同士は対等であるし、それがよりにもよって、王下七武海のジンベエに縁が深い魚人島。
国家戦争まで行けば、立場も揺らぐ。
しかも国が深海にあるため、能力者の多いドンキホーテファミリーから攻めにくい欠点がある。
「(四皇同士や七武海同士の縄張り争いとは規模が違う……!)」
どんなに裏社会に精通していても、国際問題だけは闇に葬れない。
もし、ここで他国と衝突をしてみろ。海賊という地位が一気に足を引っ張る。
『やはり海賊が治めるから』と、国としての国交は減退するだろう。
七武海である前に、王としての彼が問われる。
それは海賊行為ではなく侵略行為だ。
「(海賊ならまだ潰し合いで済む……だが、国同士となれば外交が絡む。今は海賊相手だからとお目こぼしされているだろうが、世界政府も黙っちゃいねぇ)」
ましてや、ドレスローザもリュウグウ王国も世界政府加盟国だ。
加盟国同士の武力衝突は、世界会議の案件に直結する。
マリージョアの連中にまで「ドレスローザ王、軍事行動」と報告が上がれば──。七武海の称号どころか、王位も、国も吹き飛ぶ。
もちろんドフラミンゴも元天竜人であるため、世界政府を脅しかけることは出来るが。
「(相手が、海底の通行路というのもデカイな)」
ドレスローザは貿易国家だ。
裏取引でどれだけ稼ごうと、表向きの交易網が止まれば金は腐る。
国が国を敵に回すというのは、流通も信用も、全ての基盤を敵に回すのと同じだ。
国も海軍も、リィンは堕天使として動かせる範疇をゆうに超えている。指揮こそ取れないものの、その影響力はバカにできまい。潰し合わせなければ。
「あ、でも──」
追加の報告に、ドフラミンゴは口角を上げる。
「何か、探しているようだったけど。3、4人かな。あたしの姿を見て深海に戻って行ったよ」
デリンジャーを海岸側からの偵察に使っていたのは、彼が半魚人だからだ。海中に強いデリンジャーだからこそ、狙っていた通り『海からの出撃』に備えられる。
「フッフッフッ……なるほど、何かを探していたんだな?」
おそらくは、リィンだ。
リィンの指示ありきで動かなければならないのだろう。シーザーの言っていたように、作戦は『リィンが随時リアルタイムで変更していく』方針。
その指揮役を捕らえている今、対処が打てる。
「デリンジャー、お前は適度に海底にいるやつらをびびらせろ。闘魚と砲弾使って、威嚇しておけ。手は出すなよ、こちらが『お前らを警戒している』と知らしめ続けろ」
「キャハハ!了解!」
ひとつ、手段を潰す。
思っている以上の規模で、リィンの巻き込み癖が大きくなりすぎている。とんっでもなく厄介な相手だ。
「しかし、だ。俺たち七武海は、どれだけリィンちゃんの手を読めると思う?」
──答えは、ほぼ。
勝利を確信するには早いが、手の内は読めているのだから対策を打てる。
作戦が分かっていて負けるのは愚者だ。
盤面が見えないリィンに追加行動はできない。であれば後追いの対処でも充分に間に合う。
クロコダイルがリィンを逃がすような愚かな真似はしない。
すると、デリンジャーと入れ替わるようにベビー5が慌てて入り込んだ。
「──ジョーカー!シーザーが奪われた!」
「……。おいおいリィンちゃん、往生際が悪いぜ」
どこから、一体誰が。
次々と襲い来る情報で目眩がしそうだ。
「……だが。今更シーザーを連れていかれても、工場も『いい子ちゃん』達には破壊出来ない。カイドウを俺と敵対させるには、弱すぎる。シーザーを奪った麦わらの一味に、ヘイトが行く」
ということは、リィンちゃんの手ではなく、麦わらの一味かローの独断の可能性がある。
シーザーは手に渡った。
工場はまだ手の内だ。
「フッフッ……フッフッフッ……!」
笑い声が響く。
「俺がここまで焦る事になるとは、いつぶりだろうな……。──だが、だが!」
ベビー5はその楽しそうな姿を見て心底怯えた。
殺意も悪意も何も無い、ただの快楽だけで震えるほど恐ろしいのだ。
何が恐ろしいのか分からない。
けど、彼が恐ろしい。
──そして、そんな男の全力を受けてしまう親友に、同情した。
ドンキホーテがこの戦いに勝利し、七武海を続ける。
それで物語は終わるだろう。
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「いーーーやぁーーー!!ま、またこの船に戻っちまったよぉおおお!!!!!おおおーんー!ジョーカー、助けてくれぇええ!!」
「黙ってろてめぇ!」
サンジとカルーが船に戻ってきた。肩にシーザーを担ぎ。
ベン!と船に落としたサンジはシーザーを思いっきり蹴飛ばすが、水揚げされたばかりのようにビチビチと跳ねる。
「あれこれ色々喋りくさりやがったんだろうなどうせてめぇはよォ!おかげでリィンちゃんがドフラミンゴに捕まってるし」
「「ええ!?」」
その情報が初耳だったサニー号組は驚きの声をあげた。
「ど、どうしよ〜〜!た、助けに行った方がいいよな!?」
「リィンが捕まるだなんて……」
「俺はカルーと共に『とある場所に行け』という支指示しか貰ってない。お陰でシーザーをひっ捕まえることは出来たが、リィンちゃんは最悪な事にクロコダイルの膝の上」
「ゲーー!!!」
「ふむ、クロコダイルも居るのか……これは少々厄介な……」
「残念、クロコダイルだけじゃなくて。七武海全員だ」
「うわぁ、大変だねぇ。リィンってば、どういう運勢してるんだろ」
「ほ、ほんとに最悪じゃない……!」
焦る仲間たち。
彼らはシーザーを奪われた上にリィンを助けられていない。その失敗続きの負い目がある。
「──ヨホホホ!まぁ、大まか問題ないでしょう」
しかし、ブルックは朗らかに笑った。
「さ、我々は今すぐ出発しましょう」
ブルックの言葉に全員が首を傾げた。
どういうことだ?仲間を待たないのか?もしくは、仲間を助けに行かないのか?
それぞれが疑問を頭に浮かべている。
ブルックはそれを理解していた為、
「こちらの任務はシーザーをドフラミンゴに渡さないこと……」
「う、うん」
「──最終的に、ですけども!」
ブルックに、顔色を変えるための皮膚も、演技のための表情筋も無い。
「どういうことじゃ……?」
ジンベエの疑問は皆の心の内を代表する言葉だった。
「『1度シーザーを奪わせて、取り戻せたらすぐに船で離脱すること』がリィンさんのご依頼です」
さぁ、手のひらの上で踊りましょう。
指揮者の姿は見えずとも、音楽家の旋律は指揮棒の先にある。