「──リー!」
その声は、いつも私の感情を大きく動かす。
私が海賊になったのは、何度も言うかもしれないけどルフィが1番弱くて泣き虫で心配だったからだ。当時のルフィは私よりも年下に見えていた。
「ルフィ……っ!」
でももう、私は心配していない。
私はルフィの事を、とんでもないくらい、世界で一番、信じている。
打算や使い勝手や、私の行動に動かされるだけではない。
この男は──勝手に海賊王になってしまう。
……そんなの、ずるいじゃん。
私だって、この男の人生に大きな影響を与えたいし、この男を語るうえで欠かせない人物になりたい。
だから私は私の為だけに勝手にルフィを海賊王に仕立て上げる。ルフィと私、どちらが先にルフィを海賊王にするか。その勝負を私が勝手に始めた。
でもとりあえずこの鳥丸焼きにするのは私の仕事なのでよろしくお願いします。
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ドフラミンゴは未だに困惑の最中にいた。
「麦わら!? 一体どこから……」
「リー、助けに来たぞ」
「サボ!」
突如王宮の壁から出てきた麦わらのルフィ。それから火拳のエース。革命軍参謀総長サボ。
すべからくリィンの兄だ。把握していないわけが無い。
先程までコロシアムにいた二人の兄と、シュガーを戦闘不能にした兄が、まるでなんの邪魔も無かったかのような速度でドフラミンゴの元までやってきた。
その答えはすぐに分かる。
「やだも〜〜!男子のエッチ〜!見ないでよっ!」
革命軍西軍の軍隊長、モーリー。
地面が粘土のようにぐにゃりと『押し出されている』のだ。そこから巨大な体躯がにゅるりと姿を現した。
破壊ではない。あくまでも粘土遊びをするようになんてことなくやってくる。
能力の詳細は分からないが、王宮の真下からでも誰でも侵入できる経路を──この男が、いや、リィンの采配が作ったのだろう。
革命軍が本気でドフラミンゴを仕留めにかかって来ている。
参謀総長だけではなく、軍隊長までが揃って動いているこの状況で、支配者としてのドフラミンゴの脳裏に、久しく感じていなかった冷たい予感が落ちた。
「リィン……っ!革命軍の記憶を消すことで、王宮への抜け道も隠してやがったな!?」
サボの存在もモーリーの存在もドフラミンゴの頭から消えていた。
リィンと繋がりのある革命軍は主に三人。船長の父親であるドラゴン、今は亡き七武海くま。そして、最大の協力者になりうる存在がサボだ。
頂上戦争の時に確定したその繋がりは耳を疑ったが、警戒度を何段階か上げた。はずだったのに。
「リーを、返せ」
「──クロちゃん」
「〝
ルフィが飛びかかるより先に、ドフラミンゴはクロコダイルを動かした。
砂嵐が王宮内を覆い、視界を奪う。その一瞬の隙に、クロコダイルが確保していたリィンを受け取った。
これ以上、こいつを好きにさせてはならない。
だけども、殺せばこいつに敗北を許したことになる。それだけは腹が立って仕方ない。勝ち逃げなどはさせたくない。
「ドフラミンゴ!」
同じルートを辿ったのか、ローまでもが現れた。
最早蟻山の様に王宮へ至る所から侵入経路があるのだとドフラミンゴは確信した。
「フッフッフッ、なるほどなるほど……。王宮に閉じ込めて居たって、意味はねぇって事か……」
ドフラミンゴは糸で宙にぶら下がり、ローに告げた。
「なぁロー。久しぶりに会った俺に挨拶も無しか」
「挨拶がわりに技ならくれてやる……!」
「──鳥かごを、使わざるを得ないな」
「……っ!鳥かごを!?」
ローが驚く声をあげる中、ドフラミンゴは小脇に抱えたリィンを見た。
「(くっそ……読めねぇな……)」
少なくとも、七武海の地位を失わないよう外部に情報が漏れるのだけは阻止しなければならない。リィンと言う海軍大将がいる時点でどうかとは思うが。
ドフラミンゴは鳥かごを徐々に展開していく。宙に糸が飛び、島全体を覆うように
「鳥かごってなんだトラ男!」
「皆殺しをするための檻だ、発動しきる前に、ドフラミンゴを仕留める!妹屋……!」
「ローさモゴッ」
ドフラミンゴは咄嗟にリィンの口を塞いだ。何もさせてはならない。何も喋らせてはならない。一挙一動、視線ひとつ。
リィンを高く見ているからこそドフラミンゴは少しの動きでもさせるつもりは無かった。
「……おい、なんだあの化け物は」
そして宙に飛び上がったからこそ、ドフラミンゴの視界にはひとつの化け物が見えた。
ドレスローザの王宮のすぐそばで、瓦礫や土が巨大な生物の形を模していた。たった一つの巨大な塊は人の形をしており、大きく拳を振り上げて王宮目掛けて殴りかかろうとしていた。
「鳥野郎!ダグラス・バレットだ!あいつが動き始めた!」
クロコダイルの警告が飛ぶ。
「本当に……どうやって操作してんだよあの暴れ馬を……っ!」
どうしてこちらに都合が悪いように人を動かせるんだと、叫び出してしまいたかった。
ギリリ、と捻り出すような悲鳴が体内から聞こえてくる。
「ピーカ!邪魔者共を追い出してダグラス・バレットを止めろ!」
「力不足だ、俺も出る」
「頼んだぜクロちゃん」
ドフラミンゴの部下、ドンキホーテファミリーの最高幹部の一人、ピーカはイシイシの実の能力者である。
「ドフィ……、相性が悪い……」
岩と石を身体に馴染ませるピーカは、陸地でこそ本領を発揮する。地形ごと動かす圧倒的な支配力、巨大な断崖を作り上げる変形能力、さらには自らを山のような巨兵へと変貌させられる。
巨兵となった彼をまともに止められる者など、通常なら存在しない。
しかし──この場には例外が二名。
オシオシの実のモーリーは石や岩、地面を押しのける事が出来る。
ガシャガシャの実のダグラスは触れた無機物を合体させることが出来る。
両名共にピーカの、さらに上を行く能力だった。
「リィンちゃんだけは連れて行かせない……。全軍、麦わら共をこちらに寄せるな」
ドフラミンゴにとって最悪の道筋はリィンが再度指揮を取り始め、更なる手を重ねさせることだ。
それだけは、この国を滅ぼしてでも避けなければならない。
「リー!!!」
「ルフィ、避けろ!」
ピーカーはまず侵入者達の対処を行うことにした。すくうように外敵を外に放り投げる、だけでよい。
僅かながらの抵抗があり、特にモーリーを振り落とすのには苦労したが、ダグラス・バレットから致命的な一撃を受けた頃にはリィンの兄が全員王宮の外に追い出せた。
そして同時期。
鳥かごが、完成した。
「鳥かごを、二重に仕掛けるか」
外側と内側から同時に鳥かご使えば、それなりに負担はあるが間違いなく王宮に近寄らせる事は出来なくなる。
問題は他の七武海やファミリーが巻き込まれることだ。奇しくも、様々な対策で様々な箇所に幹部をやっている。
「チッ、使えねぇか…」
ドフラミンゴは仲間を切り捨てるほどの無情な男ではなかった。
ならば次の手だ。
ふと、ドフラミンゴを見上げているリィンの視線に気付いた。
「今、おふざけに付き合ってられねぇからな」
「ずっと思うしていたのですけど」
空を飛べる二人の、風を感じるその場所。
「その悪趣味なジャケット。堕ちて、折れて、血に染った翼の代わりとても、言うつもりで──」
「なぁリィン。堕ちて、折れて、血に染まった。お前は一体誰なんだ?」
風を受けてヒラヒラと視界の邪魔になるのは桃色だけではない。
片や元天竜人。片や元海軍大将。
二人の境遇は似ている。世界を支配できる地位から転落し、今や互いに海賊だ。
まぁ、傍から見ればの話だが。
「俺は天竜人だった。今でも、マリージョアの秘密を握っている。でもリィンちゃんには、その脅しは効かない。なんせ興味が無いからな」
「はい」
「でも……リィンちゃんは俺に興味がある」
「は…」
急に核心に触れたのかリィンの息が小さく飲まれた。それはリィンにとっても心から出た図星の息だ。
「なぁリィンちゃん、お前の目的は俺を殺すことじゃない。可哀想になぁ、殺そうとするローは味方に裏切られている。お前は、俺を殺すのではなく、まだ利用価値があるものとして見てる」
「そ、れは」
「俺もだよリィンちゃん。今お前を殺さないのは、それでもお前に利用価値があるからだ。俺はお前としたいことがあるからだ。フッフッフッフッ……最悪だよリィンちゃん。いや、
海軍大将ではなく、既に堕ちきった海賊としてドフラミンゴは語りかけた。
「俺は……初めてなんだよ……。リィンちゃん達みたいな」
ドフラミンゴの言葉は、ひとつのきらめきでかき消された。
「──イッツ ショータイム」
王宮の奥から噴き上がるように、黄金の塊がリィンの身体へとまとわりつき、一瞬で彼女を連れ去る。
「っ!」
「はぁ!?」
ドフラミンゴは反射的に糸を伸ばすが、指先は虚空を切るだけだった。リィンを──奪われてしまった。
「希望が絶望に変わる瞬間、これこそがまさにエンターテイメンツ。……Mr.ドンキホーテ、面白いものを見させて貰ったよ」
「てめぇ……、ギルド・テゾーロ!」
世界の20%の通貨を掌握するとも言われている黄金帝。もしくは新世界の怪物。
そう呼ばれる男が、気味の悪い笑顔で立っており、黄金でぐるぐる巻きにしたリィンを足元にころがしていた。
「私とリィンとの繋がりがある事は既にご存知だったでしょうに……」
「どこに居やがった。この城に、てめぇが侵入したらならすぐに分かる!」
厳重な警備と、ピーカーが城を体にしたことで侵入者を一人残らず把握して追い出した。
だと言うのに、なぜこの男はここにいる。
「おや、不思議なことを仰る。ここにはあるじゃないですか……巨大な、黄金が」
── 簡単な話だ。……ベラミー、という名前を貸しただけの海賊がある日空島から黄金に輝く柱を持って帰った
──……空島に?
──あぁ。約3000トン。その柱は額にすれば30兆はくだらねぇ。もちろん一気に流通に出せば額は崩れるがな
意訳:随分杜撰な管理ですね。
ピキッ……。
ドフラミンゴの頬の血管が浮き、笑みが歪む。
「……フッフッフッ、ギルド・テゾーロ。リィンちゃんを返してもらおうか」
叩きのめす準備は出来た。テゾーロ相手ならば、多少怪我は負うだろうがリィンを取り返せる。
「──はいどうぞ」
「…………うん?」
あまりに素直に返されたので、ドフラミンゴはめちゃくちゃ固まってしまった。
「は……?」
「身動きを完全に取れないようにしましたから、どうぞ?」
「……何を企んでいる?」
ドフラミンゴは普通にぶん投げられたリィンを受け取ってしまった。流石にちょっと頭追いつかない。
「私は、そこで無様に唸り声を上げているリィンよりもリィンの兄の方が嫌いなのですよ。ぜひリィンの家族を、殺してくださいませ」
「……おいおいおいおい、どういうことだ」
「ーーーっ!!、!ん゛ーっ!」
ビタンビタンと暴れ回ろうとするもほんとうに身動き取れが取れないらしい。海楼石だけ綺麗に避けて包み込む黄金は、リィンにとってだいぶ重たいらしい。
「じゃ!私は逃げますね!ぶち殺されてはたまらないので!☆」
ドフラミンゴに、か。
リィンに、か。
それは分からないがガチで脱兎のごとく逃げ出した。なんなんだあいつは。