現在、リィンが暇で唸っている頃と同時期。
ドレスローザの国内は混乱に陥っていた。
突如幾つもの記憶が戻り、玩具にされていた人たちの存在を思い出した。
それだけでも、混乱は避けられなかったが追い打ちをかけるように、空から糸が降り注いだ。
島を囲うように張り巡らされた、巨大な檻。鳥かごと呼ばれるドフラミンゴ
「電伝虫が繋がらない!」
「助けてくれぇーー!」
さらに悪いことに、異変はそれだけでは終わらなかった。意思とは無関係に体が動き出す者が現れ始めたのだ。
泣きながら剣を振るう者。
抵抗しようとしながら、仲間に向かって拳を振り下ろす者。涙を流しながら国の真実──ドフラミンゴに王家が操られていたと気づく者も多い。
怒りが国を支配し、国民は殺意をドフラミンゴに抱く。
〝
それは、本人の意思を無視して体を操る、極めて凶悪な技だ。
人は糸の先で揺れるだけの、操り人形のように。
ドフラミンゴと敵対するに当たって数の暴力など無に帰す。どうしたら良いものかと悩みは尽きない。
そこで、かの大将は仰りました。
「糸、切っちゃえばいいじゃん?」と。
「──ぶちまけろ!!!!」
──バシャァン!
海兵たちの構えた銃口から、弾丸ではなく大量の水が噴き出した。
「撃て! 撒け!」
「我々がこの国の要だ!」
「誰ひとり、傷つけさせるな!」
向けられた銃口の先にいるのは、敵ではない。
操られた国民たちだった。
あたりは水浸し──いや、海水浸しだった。
「はーい、こっち海水プール用意してます!プールに無理矢理ぶち込んで」
「海水鉄砲部隊!前へ!」
統率の取れた海兵たちは、巨大なタンクを背負い、容赦なく海水を撒き散らす。
逃げる者は追い、時には二人がかりで押さえ込み、海水の塊へと叩き込む。頭から足先までもうビッシャビシャである。
「海水しゃぶしゃぶじゃーー!」
「オルァ!」
びしょ濡れになった国民の体から、糸の支配が解けていく。
「あ、操られていたのに……海兵に撃たれた瞬間……呪いが解けたみたいだ…!」
「国民の皆さん!避難先はこちらです!誘導の指示に従ってください!」
そんな光景を見た将校、バスティーユ中将は感心した声をあげた。
「流石はベガパンク特注品。海水を放出する水鉄砲だらァ……」
視線の先では、海兵たちが一糸乱れぬ動きで海水を撒き、操られた国民、そして海兵を救出している。
「しかもノズルを切り替えることでシャボンコーティングされた海水の弾にもなるらしいっす」
「能力者自体ではなく、能力者の技を無効化するための防衛攻撃……。どんなアホが考えりゃこんな手を思いつくんだ」
「──女狐大将です」
「……発言の撤回を」
「女狐大将発案って、説明書に書いてましたけど。バスティーユ中将覚えてなかったんですか?」
あとが怖いなぁ、とバスティーユは心の中で頭を抱えた。
そう、女狐がベガパンクに『海水出せる鉄砲作ってよ!』と言う依頼をしたのだ。
その結果、完成したのがこの兵器だ。
わずか一年の間に正式採用され、海軍の装備体系に組み込まれ、今回のような大規模能力戦を想定した作戦の中核に据えられている。
「……海水を使った講習やら、ありったけの海水の積み込みやらが任務にあった時は驚いたが、まさかなァ、使うことになるとはなぁ」
「食糧の半分を食い潰してましたからね、海水」
メイナード中将がバスティーユと並んで感想を呟けば、まわりにいた海兵も同意の声をあげる。
「一体、どこまで読んでたんですか、海軍大将女狐は……」
「俺らにも分からん」
「分かんねぇなぁ……」
海軍は三つの策を授けられていた。
1.避難場所と避難誘導
配置された
これは情報が漏れるのを避ける為だった。
2.海水鉄砲
パラサイトで暴れる国民や海兵を支配から溶かすために用いられた。1年前から本格的に海軍で利用されており、今回も大量に持ち込まれている、というか武器は今回これのみの持ち込みだ。
3.海水プール
鉄砲で散布するだけでは海水の消費量が多いため、今回は各所に海水のため池のようなものが設置されている。力技で放り込めるものは積極的にそこに放り込んで支配を絶っている。
なお、海水の運搬には藤虎の力が大きかった。もし藤虎がいなければ、リィンが各所を回って海水の補充をしなければならなかっただろう。
「まず、ドフラミンゴの能力について……気持ち悪いほど詳細な情報が無きゃ動けんかっただろうなぁ」
「ストーカー……」
「やめい」
海軍の一応最高戦力に変態的なレッテルをはるな。バスティーユは呟いた海兵の頭を叩いた。
「ま、うちらの大将は七武海に好かれる割に七武海嫌いですからね。とことん嫌がることをするでしょうよ」
どうせ月組なので叱られても懲りないし罰則を受けることにはならないのだろうが。
「執念深いというか、恨み辛みが溜まっているというか……」
「アホ、さっさとパラサイト対策に走り回れ」
「行ってきます!」
海兵が駆け出していく背中を見送りながら、バスティーユは小さく呟いた。
「どこまで見とるんだら……」
この国の混乱は、もう収束に向かっている。
ただし、そうは問屋が卸さない。
「〝メロメロメロウ〟」
海賊女帝が牙を成して来たのだ。コロシアム辺りで暴れているという報告はあったが、本陣に至るまでやられたということは、道中の海兵はパラサイトよりもボア・ハンコックに為す術なくやられている可能性が高い。
「くっ、七武海……!そもそもなぜお互いの縄張りにいる!?」
メイナード中将が文句を口に出す。
そこらかしこからその美貌に魅了され石にされた姿が見えてしまう。最悪だ。
「海賊女帝ボア・ハンコック!海兵相手に敵対をすると…どうなるか知らんぞ♡♡♡♡」
姿が見えた途端メイナードでさえ語尾にラブを滲ませた。
「妾の不快になる……お主が悪い」
「俺が悪いです……♡」
石になるのも時間の問題だ。バスティーユでさえ警戒したその時。
「ふっ…っお主もまだまだですねメイナード中将」
途端、そこに現れる海兵Aと海兵B。
月組でもなければ将校でもないモブ中もモブの海兵はドヤ顔でカッコつけた。
「やい海賊!俺たちが中将に変わって相手だ!」
ハンコックは不快感を顔に滲ませた。
「邪魔じゃ。〝メロメロメロウ〟」
「効かん!」
「な──」
たしかに海兵達はハンコックを見たし、ハンコックの美貌は立っているだけでも人を虜にする。
その上技まで確実に当たった。
何故、という疑問が場を支配した。
「教えてやろう海賊女帝ボア・ハンコック!」
「くっ……なぜじゃ!?なぜ効かぬ!?」
「俺達は──リィンちゃんファンクラブだ!」(ドン!)
空白が場を支配する。
「黒髪で背が高くておっぱいがでかくて美しいお前が俺たちFCを魅了するだと!?──片腹痛いわ!!!」
「いや頭が痛いわ」
メイナードは思わずといった様子で口を出した。
ふるふるとハンコックは震える。
口元に手を当てた彼女は、驚きに染まっていた。
「くっ、妾が美しいばかりに!リィンのようなロリ的な魅力に頭をやられてしもうた男共を魅了出来ぬじゃと!?」
「(報告あげとこう)」
「あーっはっはっはっ!俺は月組にもなれなかった哀れな海兵だがな!リィンちゃんを心の底から愛してる!」
「金髪で背が低くてツルペタでキュートな頑張り屋の女の子になってから出直して来やがれ!」
「妾が対極なばかりに……!」
「……海軍、なんか面白いことしてんなー」
「ルフィ、目を合わせるな。関わるなよ」
「リー、俺はお前が怖いよ」
通りかかりの三兄弟はドン引きしていた。
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さてさてその三兄弟はとある二人と合流した。
「そこの兄貴共、こっちだ。ここから東方向に行け。ですよね?」
「え、えぇ。ディアマンテが東方向に移動していますから」
「お前っ、テゾーロ!と、誰だ?」
テゾーロが相も変わらずキラキラと黄金を身に纏う。その横に見覚えのない女性がいた。
「彼女はヴィオラ様。この国の王女だ」
「王女ってことはビビと同じ立場の人、ってことか?」
「そう、偉いなルフィ」
「俺ルフィ、よろしくな」
「えぇよろしく。貴方がレベッカを守ってくれたことは見ていたわ。叔母としてお礼をさせて欲しい、本当にありがとう……」
ヴィオラは千里眼の持ち主だ。
だからこそルフィとエースがレベッカを守るために動いていたことを知っている。
それと同時に、最初に対ドフラミンゴ同盟で上陸したシーナの動きから。
「(本当に皆さんありがとう……)」
彼女はひとりでずっと見ていた。
「さ、ヴィオラ様。今は感謝よりすべきことがありますよ。戦況状況を教えてください」
「えぇ、貴方達が事前に私に
「初対面で色々巻き込んでしまってすみませんねぇ……」
テゾーロは内心、めっちゃ便利な能力だよな、と舌なめずりをした。
「ドフラミンゴに操られる国民は減少傾向にあります。それからルフィくんの船員は半分がこの国を離れ、リィンちゃん以外は全員無事です」
「リー……!」
「その、テゾーロさんの金属に固められていますけど」
その言葉を聞いた瞬間、ルフィとエースはギュンとテゾーロを睨みつけた。
「リーに何してんだおまえ!」
「そーだそーだ!」
エースの訴えに、テゾーロはやれやれと肩竦める。
「黒ひげの情報を与えたのに有効活用出来なかった貴方様に、こちらから与える情報はありません」
「お前らか!その時はありがとうございました!でもリーに何したかは教えろ」
とんだ真実にエースはギョッと驚いたけれども。それより優先的にいえばリィンだ。
「あー、エース、大丈夫。それは俺が保証する」
「サボ……でもオレこいつ、信用、ならない!」
「リィンはその状況がベストなんだ。ドフラミンゴの攻撃からも守られるし」
サボの言葉に文句の続きをとりさげ、エースは頭をかいた。
「ほんとに何が起こってんだか……」
「今、俺たちがやるべきなのはロー……
「海兵まで守らなきゃならねぇのか?」
「人員は一番大きいからな。……ドフラミンゴの
別名、利用。
人手が多いからこそ出来る人海戦術だ。
スリーマンセルを組んで寄生を跳ね除ける統率力はやはり有象無象の軍団には出来ない手だ。
サボは顎に手を当てる。
──全て、計画通りに動いていた。
結果も、敵側の動きも、全てが全て。リィンの予想通りに動いている。
「……ほんっと、怖いな」
人は誰しも、自分の理解が及ばない人間や価値観の違う人間の動きを予想することはできない。それこそ夫婦になるなど、長い年月を共に生きなければ。
特にドフラミンゴなどの頭脳労働派の海賊相手は難易度が高い。
『ドフィさんなれば、追い詰められた時に必ずこうする』
『ここで打つ手は2つ。開き直るか謝罪して騙すか。故に選択肢を狭めるため、騙しきれない要素を入れておきたいです』
『ドフィさんは七武海を使ってくる。2日の猶予を逆に与えましょう。そうすれば、確実に七武海が来るでしょう』
『エースを動かしてクロさん潰しをしようぞり。ついでにここで目撃者増やしてバレットの指名手配まで持って行くすれば良きですね』
『私なれば必ず四皇を動かす。そう思うはず。実際私が考えるのならばそうでしょう。だから──裏をかける。存在しない敵を相手に、怯えて備え、実力の半分も扱えなくさせる』
敵を知り己を知れば百戦危うからず。
ドフラミンゴの打つ手と、リィンの打つ手。両方を知り尽くしているからこそ、危うさのない作戦だ。
「あ、俺、やっさんの悪魔の実持ったままだった」
不意に、ルフィが呟いた。マントの裏から出てきたのはひとつの悪魔の実。
サボ以外は能力者であるため、間違っても食べてはならない。
「……。エース、ルフィ」
サボはひとつの提案をした。
「それ、俺が貰ってもいいか?」
リィンは別に母親に未練を持ち合わせていない。父親にすら親愛を抱いていない。
「俺はいいけど…」
「俺も、リーの為に取っただけだ!」
そしてリィンも悪魔の実の能力者。
と、サボは思っている。
実際のリィンは非能力者だが、わざわざ弱点を増やすような真似をリィンはしないのだ。そして、未練を持ち合わせていないという考察もあっていた。
「──俺が、チュウチュウの実の能力者になる」
狙われる前に、奪われる前に。
がぶりと悪魔の実を齧った。
2025年お世話になりました。今年はいっぱい書いたな。次は年明け2週目くらいに更新します。