ゾロ、ロビン、そしてビビは街の中を駆け抜けていた。
「私がハナハナの能力で囚われていた玩具……いえ、人々にメッセージを送り」
「俺が敵を叩き切り」
「私がこの国の本当に王様とトンタッタ族のお姫様を説得する、と」
「はいれす!」
ビビの肩にはトンタッタ族の兵長レオが居る。
レオは仲間からの信頼も厚いが、トンタッタ族特有の騙されやすさを持っていた。
そして余談だがヌイヌイの実の能力者で、ありとあらゆるものを糸で縫い付けることができる。本人にその自覚はなく奇術と称している。
「問題が一つだけあるのれすが」
「何、レオさん?」
「リク王とマンシェリー姫は全くの逆方向にいるということれす!」
それは困る。
足だって無限ではなく、限度がある。
聞けばリク王は普段コロシアムで身分を隠しており、今はおそらくその付近に居るだろうとの事だ。
対するマンシェリー姫はなんと王宮に囚われているとのこと。
「マンシェリー姫はどうして王宮に……」
「それは姫の能力を買われ、ドフラミンゴに利用されているかられす」
姫はチユチユの実という、治癒能力に特化した能力者だった。その説明を聞いた彼らは、如何にもドフラミンゴの好きそうな能力だと考えた。
「──ので、マンシェリー姫は後回しにするれす!」
「えっ、いいの!?」
ビビの驚きの声もそのはず。
恩があるとはいえ、あくまでも他国の国王と、同じ国の姫君であれば優先すべきものは後者だろう。
「いいのれす。姫様はまだ比較的安全な状況にあります。って、ピエロの大人間が言っていたのれす!」
「あぁ。シーナさんが……」
一体どういう状況でどう言いくるめていたのだろうか。
少なくとも命に危険は無いはずだ。わざわざ有用な能力者、しかもトンタッタ族という騙しやすい種族。
「(ドフラミンゴからすれば使い勝手もいいし、危険な目に遭う可能性は低い、わね)」
ロビンの思考の中ではたしかに優先度がつけられた。
しかしそれはある程度闇に理解があり、物事の取捨選択ができるロビンだからこそだ。
怪我を負ったり怖い目に遭うことは避けられないだろうと、静かに視線を落とした。
「大丈夫れす、ピエロの大人間が言う事は、ねちっこいくらい考え込んだ作戦の上で言っているのれすから」
「うーん、否定できないかも」
たしかにシーナってねちっこいし、飄々としているからこそ読めなくて、色々してやられた。
グランテゾーロでの苦い思い出がある三人はちょっと否定の言葉はでなくて苦い顔をした。
「シーナさんなら、何かしてるかも……」
「そもそも今の状況が不透明で、どうなっているのかわからない以上……。私たちは指示通り手のひらの上で踊るしか無いのよ、この状況を作り出した悪い子のね」
他の人たちの動きは分からない。ただ、一つ確かなことは『サボを思い出した』という事。
コアラやハックといった革命軍を手引きしたサボの記憶が蘇り、ロビンの脳内にもサボの存在が蘇った。
それが偶然か意図的かまではロビンに読めないものの、玩具の呪いは解け、ドフラミンゴが誰も出られないように手を打ち、そして。
「──鷹の目……!」
「……参ったな。ロロノア・ゾロ。俺は今、お前の相手をしている暇は無いんだが」
道の先に鷹の目ジュラキュール・ミホークが居た。
「(そして、何より分かっていること。全部、きっと全部リィンの手の中にあるということ)」
「そうかよ──!!!」
ゾロ斬撃が飛ぶ。
応戦せざるを得ないミホークは苦い顔をした。
ドフラミンゴに任された仕事は『赤髪対策』だ。
リィンの手の内は七武海であればほとんど読める。リィンならば四皇を使ってくるし、赤髪なら尚更使い勝手がいいだろう。
ミホークはだからこそ待機していた。
それに赤髪の娘という情報が加わったのだから尚更だ。
「ピエロの大人間が言うには──」
ミホークの待機場所はコロシアムのそば。
なぜならコロシアム方向に赤髪の現在位置があるからだ。
そしてコロシアムにはビビとロビン、そしてその護衛も兼ねて『ゾロ』が居る。
この島の中で唯一ミホークと対等に渡り合えるゾロが。
そしてミホークは全力を出し切れず、余力を残している状態。彼の本命はこの後にやってくるはずだからだ。
・来たる赤髪
・弟子のロロノア・ゾロ
片方ずつならミホークは全力を出し切れた。または両方共に来るのであれば、それもそれで全力を出した。
しかしいつ襲い来るか分からない強敵が控える中での弟子との戦い。ミホークにとってやりにくいことこの上ない。
先にゾロを全力で叩き潰して休息を取れば良いのでは、とミホークの脳裏に過ぎったが。
それが出来ない理由があった。
「ロロノア、話をしよう。俺たちがここで争うのは無意味だ」
「断る!」
「な……っ」
『ミポリンお前には』
『なんだ、ミポリンに用か?』
『あぁ、お前には俺の鳥籠の弱点を伝えておく』
『──外側からの、斬撃に弱い』
内からは強いが外から弱い。
警戒すべき剣士は世間的に数える程しかいない。ゾロもその中のひとりだ。
ミホークはその警戒者の赤髪のシャンクスを何より任された。
「ビビ、ゾロは置いていきましょう」
「えぇ、ゾロさん、任せたわ!」
「へへっ、こんな早くあんたとの再戦の機会が回ってくるとはな……!」
心配0、信頼100。
ゾロはその言葉を受けてニヤリと笑った。
「(テゾーロとシーナは、明言されてはないけどリィンの手下、よね)」
この島にテゾーロが居るかは分からないものの、シーナは確実にいる。
そしてロビンはほぼ正解に近い答えを導き出していた。
トンタッタ族はよくシーナの名前を口に出す。
シーナの裏にいるのは誰だろうかと、想像して、いちばん可能性が高い存在は自分たちの仲間だ。
「(多分、この国の出来事はシーナとテゾーロとリィンが企んでいる。ドンキホーテファミリーを逆に指名手配に追い込んだテゾーロ、私たちやトンタッタ族という味方の行く先を指示するシーナ。そして、海軍を利用できるリィン)」
確実にこの三名の暗躍無くしてこの反乱は上手く行かなかっただろうし、行ったとしてももっと苦労して怪我もしていただろう。
「(怖い……)」
何度もいうが、ロビンは全部見えていない。
見えていないけれど偶然やラッキーが仕組まれているとしか思えない。
ここでゾロとミホークが出会い、ミホークが本調子ではないことも。
「(敵じゃなくて、敵にならなくて本当に良かった。あの子が私たちに牙を向いてこなくて)」
情に弱い所があるが。仲間であってもリィンにとって都合が悪ければ不幸な事故に遭う気がする。
ロビンはそんなこと考えながら、『リィンの都合のいい存在になろう』と打算的な事を決めた。