2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第332話 チェックメイト

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 ローは息切れする中一人階段を登っていた。

 

 敵の姿は気味が悪いほど居らず、自分の足音と息遣いだけがこだまする。外では糸が張り巡らされ、叫び声が飛び交い、瓦礫と血と怒号が混ざり合っているはずなのに。

 王宮に向かうローの周りだけは静かだった。

 

 

 一度、ローやルフィ達は辿り着いていた。

 王宮のドフラミンゴの元まで。

 

 しかし宿敵と顔を突き合わせたのもつかの間。彼らはピーカの手により王宮の外へと落とされた。

 

 せっかく仕留めるタイミングが出来たというのにふざけんなよという気持ちでいっぱいだ。

 

 

 王宮の足元では不思議なことが起きた。

 麦わら三兄弟はドフラミンゴの方向ではなく市街地へと向かったからだ。指示は革命軍のサボ。

 

『じゃあトラ男、俺たちあっち行くから、頑張れよ』

 

 兄弟の言うことだからと従う奴らも奴らだが、サボ張本人も何を考えているのか分からない。

 

 ……だが。

 

「……。多分。いや、どうだか」

 

 ローは己に割り振られた『指示』を思い出し──そして一回転半ひねりをかけた上で水浸しにして乾かしたような考えを浮かべた。

 

 うん、無いな。いやいや流石に。

 

 脳裏に浮かんだ予想を1回とりあえずぶん投げて捨てた。

 

「……ふぅ」

 

 

 挨拶もそこそこに、麦わら三兄弟と別れたローはシーナに導かれたまま王宮の隠し通路へと向かった。

 

 王宮の隠し通路はどういった繋がりなのか王家の人間に教えてもらったとの事。

 

 

『ロー、俺の道案内はここまでだ』

 

 シーナはやらなければならないことがあるようで、別れる手筈だった。

 仮面に隠れた大男がローを見下ろすのを見て、ローは気になっていたことを問いかけた。

 

『ピエロ屋。1つ、聞かせろ』

『ん?なんでも答えてやるよ』

『あんたの正体』

 

 ビタッ。

 シーナは面白いほどに固まった。

 

 いけ好かないと思っていた男が困っているのは中々に気分が良かったが、このままでは埒が明かないのだろうと考えたローは質問を変えた。

 

『あんたは、何の為にドフラミンゴを狙っている?なんの恨みがあるんだ?』

 

 簡単に言ってしまえば動機。

 

 ローにとっての動機は復讐だ。

 恩人を殺された恨みを今もまだ大事に抱え込んでいる。ずっとずっと燻ったままの後悔と恨みを、今まで大事に育ててきた復讐心を。

 

 リィンの動機もローにとっては理解の範疇だ。しかしシーナと言う男に関しては知っていることが少ない。

 だと言うのに作戦の中核にいるのだから、ローにとっては不安要素で不確定要素だ。

 

 だから少しでも人となりを知りたかった。己の中に納得できる理由が欲しかった。

 

『俺は、復讐では無い。どちらかと言うと義務感で、使命感だ』

 

 ……どちらかと言うと慈愛にも似ている雰囲気をローは察知した。

 

『ドフィは破壊の申し子みたいな男だ。俺はあいつを止めなければならない。それが──』

 

 そこまで言って、シーナは首を横に振った。

 

『ごめんなロー、俺たちに巻き込んでしまって。お前は本当に優しい……──いや、止そう。今は感傷に浸っているタイミングじゃあ無いな』 

 

 ローの胸の深いところで懐かしさが浮かんだ。

 声だけでは分からない。

 

 人は声から忘れてしまうから。

 

 その仮面の下にどんな表情が浮かんでいて、こいつは一体誰なのか。ローは探りたい衝動に襲われた。

 

『……あんた、どこかで俺と会ったことがあるのか?』

『夢の中☆』

『バラす』

『やだー!物騒!いやん!ローくんのえっちぃ!』

 

 衝動は一瞬で塵屑と化した。会ってないことを心から祈ろう。

 

 

 

「ほんとに何なんだあいつは……」

 

 今のところ妹屋より分からない。ローはそんな苛立ちを抱えて階段を登っていく。

 

 何故能力を使って簡単に上まで上がらないのか。

 何故体力切れ間近なのか。

 

 お膳立てされたように敵の居ない道をローは進む。

 

「あと少し、あと、少し……!」

 

 終わる。

 

 悪夢が終わる。

 

 

 

 

──愛してるぜ!

 

 悪夢みたいな下手くそな笑顔がローの原動力だ。

 

 

 

「──ドフラミンゴッ!!!」

 

 扉を開けたローの目に入ってきた光景はわりと最悪とも言えるべき状況だった。

 

 外壁が崩れた王宮、ドフラミンゴが金でぐるぐるになったリィンを抱えていた。なんでだ。

 だがリィンを救い出せるのは現状ローしかいない。

 

 敵影はドフラミンゴ以外無し。

 

「ロー…。諦めの悪いやつだ」

 

 ドフラミンゴの視線がローへ向く。積もる話もあるだろう。しかしそれは無力化してからだ。

 

「(ローの能力には予備動作が必要だ)」

 

 だからドフラミンゴはずっと警戒している。ローの〝ROOM〟がくる瞬間を。

 

 

 

『ローさん、私が合図を出した時──』

 

 ローとリィンの視線が絡み合った。

 パチリと迷いのない、意思の強い黒い瞳がローに訴えかける。

 助けを求める目では──ない。

 

 

──ドォン!!!ドォン!ドォン!

 

 

 その時、空に巨大な花火が打ち上がった。

 色とりどりの花火幅違いに色鮮やかで、真下に位置する王宮はその彩色を思う存分浴びていた。

 

 誰もが視線を上へ向ける。ドフラミンゴも例外ではなく、なにかの号令か合図か。

 

 

 

 ドフラミンゴの意識が一瞬上へ向いたその時。

 ローは技を発動した。

 

「〝シャンブルズ〟!!!」

 

 

 彼は、鳥かごが仕掛けられた瞬間からずっと、この国を手術室に収めていた。

 

「ここは、既に俺の〝ROOM〟の中だ」

 

 

 

『合図?』

『はい、大きな花火でも打ち上げるましょうか』

『で、合図で俺は何をすればいい?』

 

『得意でしょう?シャンブルズ』

 

 

 物と物を入れ替える技、シャンブルズ。人でも対象のその技は愛用していると言っても過言では無い。

 

 だが、今回ばかりはその勝手が少し違う。

 

 

「……ふ、ふふ、フッフッフッフッ」

 

 

 

 

 

『入れ替えてください』

『──私とドフィさんの体を』

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「〝シャンブルズ〟!!!」

 

 油断した。いや、油断はしていなかった。

 既に術中に居たことを気付けたかと言われれば否ではあるが、ドフラミンゴは全ての人間に警戒を置いていた。

 

 たとえどんな攻撃をされようと対象出来る自信があった。こちらには身動きが取れない人質もいた。

 いや、意図しては無かったのだが。

 

 

 

 ドフラミンゴはひとつの技を食らってしまった。

 

 

「っ!!!???」

 

 その瞬間、ドフラミンゴに倦怠感と眠気と吐き気と胃痛と脱力感という体調不良のフルコンボが襲いかかってきた。

 目が回ってグラグラとし、立つことすらままならないような痛みと筋力の無さ。それから重たい体。

 

 ガァン、と体に衝撃が加わり地面に倒れ伏したのだと分かる。

 

「(き、もちわりぃ)」

 

 腹の中がぐるぐると掻き回されるような不快感。

 

 そこでドフラミンゴは気付いた。

 目の前に自分がいることに。

 

 

「んーーー!!!???」

 

 自分はまるでチューニングをするように笑い声を出している。

 

 

「(なんっで、視界に入る金髪、体にまとわりつく黄金。これ、は、もしかしなくても、俺とリィンちゃん──入れ替わってる!!??)」

 

 ならこの体調不良はなんだ。海楼石より酷いぞ。

 

 

「あー……妹屋?」

「フッフッフッフッ、あぁ、妹屋ぞり」※ドフラミンゴボイス

「キッッッッッ」

 

「(いやキモッ……俺の体と声から『ぞり』って出てくるのキモすぎる)」

 

 聞くに絶えない。

 が、そんなことより体調不良が酷すぎてしんどい。特に眠気だ。気を抜いたら眠ってしまいそうなほど頭がぼやけて、気持ち悪い。寝不足から来る吐き気だ。

 

「(リィンちゃん、まさかずっとこの体調のまま……居たのか……っ!?)」

 

 嫌な予感がドフラミンゴに襲い来る。

 まさかとは思うが、この入れ替わりが計画的で、狙い通りなら。

 

 リィンは意図的に体調を崩し、入れ替わったドフラミンゴに何もさせないように耐えていたと。

 ドフラミンゴですら卒倒しそうな体調の中、普通の顔をしていたと。

 

 

「フッフッフッフッ、あー、ああー、あ〜!」

「『体を入れ替えろ』と言われた時は妹屋の体が危険な目に遭うと思っていたが、その様子だと自分の拘束に動けなくなっているようなものだな?」

 

 ドフラミンゴに充てられたローの言葉は真理を突いていた。いや、黄金の拘束は俺じゃないけどなあ!?ドフラミンゴは思っても口に出せない状況だ。

 

 

 じわりじわりとこの先の未来が読めかけて、ドフラミンゴは焦燥感に襲われ続ける。

 まさか、いや、そんなまさか。

 

 

「さぁローさん、とくとご覧あれ」

 

 ここが舞台の特等席だと言わんばかり。

 3mの体躯を、不器用ながらも比較的慣れた様子でリィンは手を広げた。

 

「悪逆非道の破壊の申し子。天夜叉ドンキホーテ・ドフィラムンゴの」

「ドフラミンゴ」

「どふ、ら、ミンゴの──フィナーレを」

 

 全然カッコつかなかったな。

 回る視界の中ドフラミンゴは思った。

 

 俺の体ですら舌回らないのかよと。

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