私はローさんにひとつだけお願いごとをしていた。
『私とドフィさんの体、入れ替えてね☆』
──そう。たったこれだけ。
このためだけに回りくどい作戦を使ってドフィさん以外の人材の足止めを行った。
だけど。
「フッフッフッフッ……」
入れ替わってしまえばこちらのものだ。
ひとしきり腹の底から笑ったあと、私はドフィさんの体を使って地面に倒れ伏した『私』を見下ろして、笑顔を浮かべた。
「俺を止めたくても、出来ねぇだろ?
睡眠不足で胃痛で血糖値爆上げしている私の体はさぞかし辛かろう。
「お前がご丁寧に海楼石まで使ってんだからなぁ?」
実際は海楼石では無力化出来ないので、物理的に体調を崩さないと余計なことされそうでしてね。はい。
「ドフラミンゴ…ッ!? いや、いやちが、ドフラミンゴじゃないが、え、えぇ……ドフラミンゴにしか見えねぇ……」
「ロー、ちょっと黙って転がってろ」
悪魔の実の能力というのは不思議なもので、私はイトイトの実の能力を使いローさんの口と体に糸を巻き付けた。
体から何かしらが出ているというか、角栓を抜いているような感覚。
まぁ感想は後にしよう。
私はドフィさんが先程空中に映像を投影した電伝虫を発見した。
「んんんーーーっ!!!???!!??」
『私』の唸り声をBGMに私は自分を写し始めた。
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「──諸君。遊びは終わりだ」
ローの視界にはドフラミンゴにしか見えない男と、リィンらしくない少女が居た。
己の能力でリィンとドフラミンゴを入れ替えたというのは自覚しているが、それでももしかしたら間違えて入れ替えそびれたのでは無いが、と懸念が浮かぶほど。
男はドフラミンゴのままであった。
「本当に……ふざけている。麦わらもローも、火拳も革命軍も、海軍も七武海も四皇も。俺の邪魔ばかりする。お前たちは俺を怒らせすぎた」
一挙一動全てに覇王色の気配を感じて、中身がリィンのはずなのにリィンでは無いと間違えた確信をしてしまう。
「フッフッフッ……あぁ我が愛すべきドレスローザよ。今これより、俺は殺戮を開始する。何、お前たちの居なくなった真っ赤な土地でまた一から始めれば良いだけの事。この場の支配者である俺こそが正義で、お前たちは口封じとして死ねばいい。例外は認めねぇ。俺の家族以外の、全て」
ドフラミンゴの言う『家族』はドンキホーテ・ファミリーのことではない。
その単語が示すのは幹部。ドフラミンゴが心を許したもの達のみ。
「懸賞金も面倒だ。誰1人ここから逃がさず殺してしまう。お前たちは残された時間を、醜く、汚く、泣きわめき、悲鳴を上げろ。リク王の時の様に……!」
『ドフラミンゴ』はいつも通りの笑い声を放った。だんだんと大きくなっていき、口を開けて笑う頃には『リィン』ですらドン引きの表情を浮かべていた。
「まず手始めに殺すのは、この男」
電伝虫が急に己に向けられたことにローは驚く。
驚く。
そして向けられた『ドフラミンゴ』の視線に、無意識の内に顔が強ばった。肩が震える。
「なんでも良かったんだ、この世界を──ぶち壊せさえすれば。ローぉ、お前は俺に似ていた。幼いお前が自爆覚悟で俺の元に来た時は歓喜で震えたさ。俺の過去がそのまま現れたみたいで、お前のことをおとうとのように思い成長を見守ってきたというのに……」
「っ、ほざけ…!お前は自分の弟ですら殺してしまう、人でなしだろうが!」
「弟……あぁ、そんなやつも、居たか?」
「ドフラミ──っっ!?」
「おっと。最期の言葉を聞きたいがばかりに糸を外してしまった」
ローの口に再び糸が這わされた。
怒りで頭が真っ白になりそうだったが、電伝虫の画角から外れた瞬間思い出す。
「(あっ、これは妹屋だったか……え、本当に妹屋か?妹屋の体は……あ、ドフラミンゴが入っている。『俺でもこんなこと言わねぇぞ』って顔をしている)」
頭が混乱している。
自分でやったことなのに、自分でやったことなのに!
「俺は悲しくて悲しくて心が引き裂かれそうだが──俺の物にならないのであれば、殺してしまおう。さぁロー、痛くないようにしてやるからな」
そして『ドフラミンゴ』が手を伸ばした時のことだった。
突如ドフラミンゴの体から刃が生えた。
肺の位置。服を破いて飛び出たその刃は、明らかに致命傷とも言うべきものだろう。
傷口からじわじわと血液が溢れ出ていた。
「──そうはさせない」
ドフラミンゴでも無い、リィンでもない。ファミリーですらない声がローの耳に入り込んだ。
「ゴフッ……!だ、れだ……!」
口から血を出す『ドフラミンゴ』が背後を振り返ると、そこには一人の見しらぬ男がいた。
短く刈り上げた金髪と3m程の体躯。左手には銃を持っており、男は銃口をドフラミンゴに向けた。無表情に近い顔だったが、目は優しそうな垂れ目でヘーゼル色をしていた。
「ドフラミンゴ」
「ゲホッ、ゲフッ……はぁ……はぁ…」
「俺はお前を止めに来た。お前がこの先生み出す惨劇と、過去を、救うために」
正体不明の男は、地面に倒れ込むドフラミンゴを見下ろしている。冷たい表情で見下ろされた『ドフラミンゴ』は、何かを思い出したかのように顔を上げた。
「お前、お前は、まさか…っ!」
「──過去、お前は家族を殺した。弟のみならず、幼いお前は両親まで。心優しい父と母だったのにも関わらず、悪魔のようなお前は破壊の限りを尽くした」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ!なぜお前がいる!なぜお前が生きている!」
「俺はこの時のために、地獄から蘇ったぞドフラミンゴ。お前を──弟を止めるために」
「兄上!!!!」
ローはその言葉に仰天した。
どことなく見覚えのある顔で、雰囲気はともかく誰かに似ていると思っていたからだ。
「(まさか、ドフラミンゴの兄がこんな所で来るとは。まずいんじゃないか、中身は妹屋で……)」
そう思ってローは『リィン』を見た。
「──??????????????」
なにそれ知らん。
そんな面してる『リィン』が居た。
何も理解できませんと言わんばかりの表情でこのやり取りを見るしか出来ない『リィン』。
「(知らないのか?)」
「(いや知らん、全く知らん、兄って誰だ?俺長男だが?)」
視線だけでローに訴えかける『リィン』の姿を見て、ローは静かに目を閉じ、崩れた天井から見える青空を仰いだ。
「(これも妹屋の策略ってわけか〜〜〜〜〜〜)」
架空の人物を作り上げるな。
その設定、要るか???
「俺の名前は、ドフラサンゴ」
「(ネーミングセンス)」
「お前の双子の兄だ。思い出したかドフラミンゴ」
「何故、お前がここに!」
「……俺は武器商人としてここに潜り込んでいた」
「くっ、くそ」
「それだけではない。お前の悪逆非道の数々、全て調べ尽くした」
無駄にクオリティの高い無駄な演技を辞めろ『ドフラミンゴ』。ローは思わず死んだ目になった。
「調べているうちに衝撃的な真実に気付いたよ。ドフラミンゴ、お前──幼児趣味があるようだな」
「な……っ!?ち、違う!俺はただ、目をかけているだけだ、将来有望な者に!」
「ん゛ーーーっ!??!!?」
本物のドフラミンゴもさすがに看過できないと唸っている。
──が、『ドフラミンゴ』達はノリノリで仕掛け続けた。
「そこに居る元海軍雑用の少女。お前、5歳ほどの少女を海軍本部から誘拐してドレスローザまで持ち帰ったそうだな?」
「そっ、それは」
「(盛りすぎだろ)」
ローは流石に同情して『リィン』の方を見た。ら、視線を逸らされた。まるで図星ですみたいに。
「(えっ)」
「終いには無理やり連絡先を交換し、毎日毎日電伝虫を掛けたそうだな?」
「(ドフラミンゴ……?)」
「海軍で出世していく少女の進路を勝手に歪め、海賊に引き抜こうとあの手この手で
もののついでに色々罪を押し付けてやろうという気概の元作成された『ドフラミンゴ断罪放送☆』は、ドレスローザ全域へ放送されている。
そのため、城下はザワザワと混乱しているのだが。敵味方問わず。
しかし王宮に居るものたちには伝わらないため、終わりを迎えるまで邪魔なくこのままなのだ。
「他にも、それこそそこに居るローだって。わずか10歳の子供をお前は右腕にしようと育成し始めた。他にもファミリーには子供たちがいる。ほんっっっっっとうに、気持ち悪いな」
「んなっ!お、お前に何が分かる!!!」
「分かりたくもない。……他にも、お前は最悪の過ちを犯した」
ドフラサンゴと名乗った男は、銃口を向けたまま冷たく言い放った。
「とある島で、麻薬に犯され他にも様々な投薬痕がある子供達を発見した。誰も彼も10歳前後の幼い子供たち。──海難事故と処理し、お前が誘拐したんだろう?」
「っ!」
あぁ、パンクハザードの事か。
えっ、じゃあほんとに幼児趣味が……?
ローの頭はパンク寸前だった。パンクハザードだけに。ガハハ。
「まだお前の罪はいくつもある。それからお前…………カイドウに体を売っていたな」
「ん゛っっ!!??んんんんんーーーー!!!???」
んな訳あるかいという心の叫びがローの隣から聞こえてきて、流石に同情せざるを得なかった。冤罪は流石にちょっと。
「それにお前、自分の分身体を能力で作って変態行為をするのが趣味だったり、自分の服を能力で作成して露出を楽しんだりと…………恥を知れ!」
「んんんんんんっーー!!!!!ん゛っ!!?」
「だ、黙れ!黙れ黙れ!そんな事してない!全てお前の捏造だ!証拠もないにも関わらず、てめぇは言うに事欠いて変態だと言うのかぁ!?」
『ドフラミンゴ』は怒りの声を上げた。
それは図星をつかれておるような声だった為、本当に捏造でも真実味を帯びてしまう。
「──証拠なら、いくらでもある」
「は…………」
「子供達の顔は隠させてもらったが、誘拐された子供の写真。それから子供が海難事故にあった近海のデータ。それに何より……」
ドフラサンゴが懐から取り出した写真は、わざわざご丁寧に電伝虫に向けて見せた。
「────っ」
その写真を見たローは思わず強ばった。
「お前が自分の分身と愛し合っている写真だ」
「??????????」
ドフラミンゴと思わしき男と、同じ体格の男が、こう、服を脱ぎかけて乱れたような格好をしていたのた。
「(………………真実?)」
「お前はここで──終わりだ!ドフラミンゴ!」
本当に社会的に終わったドフラミンゴは、リィンの姿をしたまま血を吐いた。胃痛持ちの体に精神負担は厳禁である。
※監督:リィン
※主演:名無しのピエロ
※撮影協力:ベンサム