「──もしもし!?」
『あ、繋がった。リィン!?無事だよな!?俺らどうなってんのかまじで分かんなくてさ』
「事情はサボとローさんからきくすて!まだ後始末沢山残るすてる!サボ、シーナ、テゾーロ、こいつらに聞くすてくださいです!」
かかってきた電伝虫を切って、私は王宮から急いで距離を離した。海楼石でぐるぐる巻きにした精神ショックの多いドフィさんに関しては、海軍がすぐに回収に来るだろう。
後片付けでやるべき事は主に四つ。
・リク王家への謝罪と説得
・海軍への復興撤収指示
・七武海対処
・海賊としての離脱
大雑把に言うとね。
ドフィさんへの追撃に関しては既にキャッキャウフフと作戦会議して手筈も整えているので、ドレスローザで急ぎしなければならないことは以上だ。
その中でも急務と言えば、今回蚊帳の外に落ちていたリク王家だろう。
ヴィオラ王女に関しては一部手を借りたとは言え……作戦の全容に関しても知らなかったはずだ。
当事者ではなく関わらせなかったからこそ、何が起こっているのかきちんと説明をしなければならない。
「ええっと、王家の避難場所……」
コロシアムの傍。
海軍大将藤虎が守っている一番堅い避難場所だ。
私は無人の家に入り込み、さっさと女狐の衣装に着替えた。
私は今回、リク王家を一切巻き込まない形の戦にした。残存しているリク王家の血族は三名。ヴィオラ王女、レベッカ王女、リク王。その内2名がコロシアムに潜伏していることは容易に調べられたので、起点であるおもちゃの解放から護衛と称して戦わないように取り囲んでいた。
その説得役としてビビ様も動かしたのだけど。
「だから、居るよねぇ……」
リク王達は国民に囲まれている。
その傍にはロビンさんとビビ様もいた。
ゾロさんは鷹の目対策で遊ばせているから、後ほど
あーあ、胃が痛い。
後始末の報告書を作成する苦労を考えるととんでもなく胃が痛い。
アラバスタの時とは違い、王政が切り替わっている。要するに乗っ取り成功国なのだから、後始末はアラバスタの比じゃないだろう。もちろん、海軍も責められる。
なんせ王下七武海ですからねぇ!
「この国には貴方しかいないんです!」
「もう暴力にはうんざりだ!」
「待て、リク家の思想はいざとなれば脆いもの──それが今回証明されたのだ」
「滅んでも構いません!」
「〝戦わない王〟として戦争を拒んで欲しい!」
「それで国が滅んだ時は我々もそれでいい!」
国民がリク王に玉座に戻って平和な国にして欲しいと訴えているのを聞き、リク王はタジタジだ。
戦う王と名高いエリザベロー王が旧友との再会に喜んでいる。
「女狐大将」
「藤虎」
私が駆けつけるのと同時くらいにイッショウさんが海兵を連れて戻って来た。
「お待ちしておりやした、この場の最高責任者は女狐大将……。あっしらは何もしていやせん」
「ご苦労さま」
私はコツコツと足音を鳴らし、リク王家に近づいた。
「……っ!」
ロビンさんが目を見開き私の姿を見る。
視線を集めておくから、今のうちに逃げ出して欲しいんだけどなぁ。その気持ちを込めて小さく微笑むと、ロビンさんは『中身がリィンだ』と理解したのか、ビビ様の手を引いて人混みに紛れた。
逃げることにおいてはロビンさんを特に心配していない。私のサポートもあるしね。
「貴女は……?」
海軍を引き連れてやってきた私の姿を見て、リク王とレベッカ王女は首を傾げる。
「こんにちは、リク王家の皆様」
「なんだ、女狐大将じゃないか!ここにまで顔を出すとは思ってもなかったぞ」
「エリザベロー王……」
ワハハ、と豪快に笑いながらエリザベロー王は私を抱き上げようと手を出した。
ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか。
今子供扱いされるのは困ります困ります。本当に困ります。
本当に後でにしてもらえると助かります。
スッと避けるとムッとされた。
「貴女が、あの女狐大将か」
リク王にも噂話は届いていたのか私は少し困りながらも頷いた。どんな噂なんだろ…。悪評もあるから困るなぁ。
私は少し間を置いて、リク王に向き直った。
「──貴方に、責任を取られては困る」
リク王家はあくまでも被害者だ。
「……天夜叉を七武海の制度で玉座に君臨させたのは、あくまでも世界政府」
ここ大事ですよ、海軍じゃないですよ、政治は世界政府ですからね〜〜〜〜。
ほんとにここだけ覚えて帰ってくださいね。まぁ帰るのは私たちの方なんですけども。
「リク王家には再びこの地を治めていただきたい。これは海軍本部からの発言と取っていただいて構わない」
命令や指示に聞こえる言葉に周りの国民は無責任だと怒りの声を上げた。
「今更海軍が何の用だ!」
「都合がいいんじゃないか!?」
「そりゃ、国王はリク王になって欲しいけど、今まであんたらは俺たちを助けてくれなかったじゃないか!」
私はその罵倒を受け止める。
そうなんですよ、今まで放置してたんですよ。
もっと言ってくれたっていいですよ、全部世界政府への悪口になるだけなんで。
でもまぁ。
……ドフィさんって温厚だったんだなぁって、今となっては思うよ。
そりゃ10年間おもちゃにされて労働されたりゴミにされたおもちゃは多かったし、一人一人の10年を奪ったのは大きいよ。すっごく大きい。子供は分別の着く歳にもなり、この国を乗っ取る時はいくつもの血が流れただろう。
でも死体が少ない。
より一層残酷な節はあるけれど、人間に辛さを自覚させなかった。忘れさせていた。おもちゃも抑圧されていたとはいえ命令を強制的に聞かなければならないから痛みで支配する必要もなかった。
飢えることも無く、表面上は穏やかに暮らせていた。その暮らしを甘受していたんでしょ。
人質をとったり強さで抑圧していたり、屈辱を味わうことは無かった。おもちゃはちょっと例外ね。でもおもちゃでさえやっぱり恵まれていたとは思うよ。
……ま、私という個人の感想なんだけどね!
海軍としては許してはならないよ。だからあくまでも誰にも言うことがない感想。
「……っ、っ!あ、あぁ……」
ヴィオラ王女がボロボロと涙を流している。
私は正座をして、リク王の前に座った。
さぁしかとご覧頂こう。
全員がこの後の行動を予見して動揺の波が広がる。
「──世界政府に代わり、王家国民の皆様に謝罪をさせていただきます。この度は、大変申し訳ございませんでした」
見よ、これが16年間してきた土下座だ。
「め、女狐大将!?」
「女狐さん!!???」
今回はアラバスタの時とは違う。
起こってしまった上に10年間も見逃していた。
それは政府側の大失態だ。
七武海となることを断れなかったのは、政府の都合。この国の罪のない人々には無関係。
それに土下座なんてタダですからね!
海軍大将の土下座ひとつで今後の印象や交渉がちょっとでも有利に運ぶならさせていただきますよ。
ちなみにこれは放送とかはしていない。放送しようかと思ったんだけど、謝罪ってそうじゃないじゃん。全世界にアピールするもんじゃなくて、ドレスローザにするべきじゃん。
「顔を、顔を上げて……」
グイッと私の顔を無理矢理持ち上げたのはヴィオラ王女だった。
彼女はこちらがギョッとするほど涙を流していた。
「貴女からの謝罪は受け取れない……」
「えっ」
そ、それは困る。
私が内心の悲鳴をあげていると、ヴィオラ王女は優しく子供に笑うような表情を浮かべた。
「感謝こそすれ、恨むわけがない…っ!本当に、本当にありがとう…………!」
==========
ヴィオラは全てを見ていた。
あくまでも見るだけである。
見ていることしか、許されなかった。
「ヴィオラ!」
「お父様!」
鳥籠が空で場を支配する中、ヴィオラは父であるリク・ドルドの元へ駆けつけた。
「ヴィオラ、ヴィオラ、無事で良かった……!」
「お父様……っ!」
「すまない、再会を喜びたいのだが、何がどうなっているのか分からず」
そばにはビビとロビンがいる。そのことに気付いたヴィオラはぺこりと頭を下げた。
「貴女達はサンジさんやシーナさんのお仲間の」
「シーナとは仲間では無いけれど……。そこまで知っているのね?」
「えぇ。もしかして何か指示が?」
「私たちは貴女達が大人しくするための説得、をお願いされていたわ。いざとなれば力づくで。それがトンタッタ族からのお願いごと」
なるほど、とヴィオラは頷く。
ここで王家の血が絶えるのはまずい。そのための説得なのだろう。
「ヴィオラ…………彼女たちは信用してもいいんだな?」
「えぇ」
リク王は蚊帳の外であったため、情報が全く分からない。
その点ヴィオラはシーナが何年も前からドレスローザにこっそり出入りしトンタッタ族と協力を結び、──そしてこちらの悪魔の実を把握してコンタクトを取ってきた。
それは置き手紙という簡単な方法。
中々ヴィオラからの返事は出せなかったが、ヴィオラは計画の一端を知っていた。
『──俺たちはドフラミンゴを蹴落とすための同盟だ。内部からの協力が欲しい。時が来たらヴィオラ王女には麦わらの一味に指示を出して欲しい』
だからシーナと呼ばれるピエロはヴィオラにとって味方だった。
麦わらの一味も味方だった。
シーナとリィンが繋がっていることもヴィオラには分かっていた。
「終わっ、た」
国が崩壊し、人々は消えていく鳥籠の糸を見て歓喜の声をあげる。
人質に取られていたリィンが無事王宮から逃げ出したのを見守っていた。
そしてヴィオラはその少女が白い衣装に着替えるところまで見ていた。
「(何の服?何を企んでいるの?)」
ヴィオラは──女狐を知らなかった。
だからリィンの着た服がなんなのか分からなかった。
「あなたが──女狐大将だったの」
女狐とは、海軍本部の最高戦力──海軍大将。
その力は強大で、新聞で名前をよく見る。しかしドレスローザに現れることはなく、遠い有名人だ。
だからヴィオラは、その白装束が女狐大将だと知った時。
全てが救われた。
「10年も、前から」
10年前、ヴィオラはリィンに出会っていた。ドフラミンゴに誘拐されてやってきた女の子。
その時は可哀想な女の子で、何がドフラミンゴの目に付いたのか分からなかった。
2年前、海賊としてその手配書を見た時、海賊になったのだと理解した。
そしてシーナが協力者に『麦わらの一味』の名前を出した時、その女の子も協力者なのだと知った。
「海軍は、10年も、前から、私たちを救おうと……!」
でも、その女の子は今ここで海軍大将だということが分かった。
海軍大将は10年も前からこの国を救おうと動いていたのだとわかった。
海軍を動かし、シーナと動き、麦わらの一味として上陸し、人質になりながらも、この国を救って見せた。
「今更なものですか……!」
それに気付いた時、涙が溢れて止まらなかった。
「ありがとう、ありがとう……!この国を、私たちを助けてくれて…、本当にありがとう……っ!」
ヴィオラは縋るように抱きついた。
自分より圧倒的に年下の女の子だと言うことはわかっている。でも、彼女だ。
彼女が中心になってこの国を救ったんだ。
「…………遅くなりました」
「うわぁああぁぁんっ!」
ヴィオラしか知らないこの国の救済の真実。
「ありがとうっ、ありがとう……っ!」
==========
「うぇええん!ありがとう〜〜〜っ!」
すみません、ちょっと助けてもらっていいですか?エリザベロー王でもリク王でもイッショウさんでもいいので助けてください。
そんな感謝されるほどの善人じゃないので、肯定的解釈されると胃が痛いです。