ドンキホーテ・ロシナンテ。
ドンキホーテ・ドフラミンゴの実弟であり、海兵であり、元天竜人だ。と言っても、天竜人として過ごした経験はほぼ居らず、兄を止めることを目的として生きてきた。
頼る先もなく、どう生きていけばいいのかも分からない、そんな規模の大きい迷子をしていた頃出会ったのは『お兄さん』だった。
名前も知らない。
年齢も知らない。
誕生日も、出身も、好みも、全部知らない。
でも天竜人だと隠さなければならない時に、『ドンキホーテ・ロシナンテ』だと分かってから喜んだ人間が唯一の人だった。
「マリンコード01746」
「──ドンキホーテファミリー船長、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。お前がこの先生み出す惨劇を止めるため潜入していた」
女狐という名前はまだ海軍には出てきてない。産まれていないか、まだ昇格していないのか、男海兵、女海兵問わず調べていた。
姿形も見えない未来の大将を追いかけ、いつの間にやら出世していた。
「俺は海兵だ」
でも、誇りを持っていた。
「嘘をついて悪かった。お前に、嫌われたくなかったもんで」
その言葉はローに向けたものであり、そしてなんだかんだ言ってドフラミンゴにも宛てていた。この男は唯一の血縁だ。心の片隅で、大人になっても仲良く肩を組んで笑い合える未来がどこかで存在していれば良かったのに、と。考えた。
それは現実にはならない。もう分かっている。
だからせめてローだけはこの男の呪縛に捕らわれれ無いで生きて欲しい。出来れば、自分のことを覚えていて、歳をとってしわくちゃになるまで、生きて欲しい。
オペオペの実をたべた子供がどういう末路を辿るのか、ドフラミンゴに言わせることでローは正しくこの男の狂気を理解しただろう。
「──なぜ俺の邪魔をする!コラソン!!なぜ俺が実の家族を2度も殺さなきゃならないんだ!」
「お前に俺は撃てねぇよ……」
倒れていたら嫌なところに当たってしまう。
だから踏ん張って立ち上がった。
「もうほっといてやれ!あいつは自由だ!!!」
ドフラミンゴなら心臓を狙う。その確信はあった。
死ねない、まだ死ねない。
ローが本当の意味で自由になるまで、お前が道を踏み外して、消えてしまわないと確信できるまで。
俺は家族が大事だ。
お前も、
俺が一時だけでも『お兄さん』が、友が『ロシオヤ』と読んでくれた人が居たあの瞬間、独りじゃないって安心したように。
俺たちは家族を求めてる。
狙ってこい、心臓には防弾のベストを仕込んでいる。頭を狙われれば死ぬが、心臓なら生き残れる。
──ドォン!ドン!ドン!ドン!ドォン!
五発の死が撃ち込まれる。
賭けには──勝った。
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子供の海兵がドレスローザの王宮から振り落ちてきた。
フリッツ・ヘイヴの変装をしていたのにも関わらず、あっという間に見抜かれた観察眼。たらりと背中から汗が落ちる。
「で、貴方は誰ですぞ?」
「何を…」
「あぁ、答えはハイかイイエで懇願するぞです──元海兵でドフィさんの弟さん?」
なんやかんやあってその子供が女狐だということが分かった。
女狐。
その名前を初めて聞いて心の底から救われる人間は、居ないだろう。
── 足元チョロチョロするサイズの超可愛〜い女の子は、だぁいじにしろよ
「(そういう、ことかよ!!)」
子供の頃の『お兄さん』の見た目は自分の想像の範疇外にいた。でもその容赦の無さや『女狐』という単語だけで無理矢理納得させた。
彼女はいつ『お兄さん』になる?
お兄さんは髪は黒く、それなりに身長はあった。
ようやく、ようやく巡り会えた小さな手掛かり。会うには物理的に時間がかかる。
「なぁ、俺を手駒にしてみるか?」
「…………はい?」
「だから、手駒!」
やることはひとつ、この縁を逃さないことだ。
「ドフィから逃げてきたのなら、足も無いんだろう?保護者がいた方が色々便利だろうし、所持金も無いんじゃ無いか?」
「えっと、所持金の方はあるですけど足が…あぁ……私の箒真っ二つ…………!」
絶望した女の子の様子に、ロシナンテは首を傾げていた。
「なんで掃除道具?」
「これ、私の足ですぞりんちょ!あっ、それより逃亡実行せねば!では俺ぞ見るすた事は秘密ということで今度こそおさらばなるです」
「だから待てって、ちょ。海兵ならマリンフォードだな!?こっちこっち!」
ロシナンテは無理矢理リィンを引っ掴んで船に乗せていた。図らずも誘拐をしたのだ。しかもドフラミンゴも誘拐していたと後で判明した時頭を頭を抱えることになる。
「はい、じゃあ改めまして俺はロシナンテ。ドフィの弟です。で、おに……女狐はなんて言ったっけ?」
「リィンです」
「リィン、そっかそっか。……それにしても、リィンは、どういう子なんだ?出身は?家名は?」
お兄さんに聞けなかったことを矢継ぎ早しに問いかけていた。
リィンは内心『ははーん、流石は私の魅力』と調子を乗っていたのだが、現七武海の血縁であり、裏切り者という情報を事前に聞いていた事もあり、取り入るべきだと考えていた。
「
「……Dじゃん」
「Dぞり!せっかくならAとかXとかの方がかっこよく無きですか?」
「うわぁ〜〜!わ、分かるかも〜〜」
「時に、ロシュナンテさんは」
「言いにくければロシーでもいいよ。もしくはなっちゃん」
「ロシーさんはドフィさんのこと嫌いです?」
「……。」
ロシナンテはなっちゃんと呼ばれなかった事に少しショックを受けた。まぁ、自分より年上ならともかく、年下の女の子が大の大人の事をちゃん付けでは呼びたがらないか、と納得させた。
だが、という事は、だ。
これからリィンという少女がお兄さんになるまでの何年間かにロシナンテは『名前を聞くだけで笑顔で安心できる』『なっちゃんと気軽な名前で呼んでくれる』大事な人間になれる可能性が高いということだ。
「ロシーさん?」
「あ、あー、えっと、兄上の事嫌いかだったっけ?嫌い……と言うにはちょっと複雑だな。好きだからこそ落ちぶれて欲しくないと言うか、インペルダウンに入るような真似をして欲しくなくて、俺は止めようとしてたんだ。嫌いという感情は程々にあるけど」
「私、今回で初めて会うしますたけど。なんというか……寂しんぼちゃんの印象強烈どっこいしょですぞりんちょね」
「ブハ!!!!!」
寂しんぼちゃんと来たか。それはそれは、すごく──よく見えている。
独りが嫌いで、寂しんぼちゃんで、信じたい人間なのだ。独裁者ぶってるのに、本当は同じ食卓を囲って和気あいあいと団欒をしたい男だ。
プライドは高く気難しい男だが……ロシナンテが会えなかった数年間の間にすっかり懐に入れた人間に依存した男になってしまった。
「家族が欲しかったんだろうなぁ……。俺にはとうていその役目を果たせなかったから」
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マリンフォードまでリィンを送ったロシナンテは、各地を転々としていた。ドフラミンゴのやり口を外側から探っていたのだ。
潜入捜査をしていた海兵として、変装や仕事上のスキルはあった。
それから一年後。
「ロシーさん!」
「リィン!」
「──ドフラミンゴ、失脚同盟!組むしましょ!!!」
「…………なんて???」
リィンがギルド・テゾーロという男を連れ、そんな提案をしてきたのだ。
「資金源としてテゾーロとタナカさんがカジノの経営をすて、それで裏で私とロシーさんが情報を集める。私は海軍の情報網ぞ利用すて、ロシーさんはカジノ内で!ほら、ロシーさん音系の能力でしょ?ある程度行くが可能の能力!ね!表の顔は世界的なカジノ施設!その実態で情報を集める!」
「すっごいテンション……何があったんだ?」
「
「本当に何?」
「となるとロシーさんは偽名ぞ必要ですよねえ」
「俺イエスともはいとも言ってないのに勝手に巻き込まれることが決まってる!」
「え、手駒は????」
「手駒です…………」
「うっへっへっへっ!さぁお願いするですよ!わたしの、身の安全のために!あっ、私戦神の娘故に、身は危険です、よろしく」
「「もっとはよ言え!!!!」」
「見て!ドフィさんの髪の毛ムシってきた!」
「何してんの????」
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、ビブルカードにしようと思うたのじゃ」
「それは便利なんだけどばっちいから早く捨てなさい。あとドフィが持ってないと意味ないから」
「シーナシーナシーナ!聞くすて!!ローさん!ローさん居たです!フレバンスに!」
「は……?ローの地元じゃん……?なんで?」
「それから
「あー、ローがウチと交流するのはちとまずいか?オーナーはどう思う?」
「激しく同意ぞり。あっ、あと私の兄のエースが手配書&七武海勧誘がありますて。イスカ少尉の報告書見てびっくり仰天…………」
「シーナ、私海賊になるです。もう少ししたら」
「おめでとうございます〜。で、今度はなんて罠?」
「罠じゃなき!!!潜入!……というか本懐ぞり」
「アハハ!ま、いつでもこっち来てくださいね。オーナー」
「資金に困るすたらここのカジノでバカ稼ぎするです」
「そいつぁ困る……」
「──
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「あのさ、センゴクさん」
ドレスローザ崩壊直後の夜。
ドフラミンゴにネタバレという名の追い討ちをしかけたロシナンテは、育ての親であるセンゴクと時間を取ることができた。
センゴクが崩壊直後にドレスローザにやって来れたのはリィンからの情報のせいなのだが、……いま思えば、すぐに発たなければならないロシナンテのこの時間を確保するためでもあるだろう。
「俺、今すげー幸せ」
「そうかぁ……!それは、良かった」
「嘘ついてごめんなさい。ミニオン島にはどうしても行かなきゃならなかったんだ。……任務で離れた半年間はローの病院を巡ってた」
「ロシナン……」
「シーナ」
シーナは下手くそな、心からの笑顔を浮かべていた。
「リィンに名付けて貰ったんですよ、俺、シーナって言うんです」
「……そうか、シーナ。リィンにしてはいいセンスだ」
「名無しのピエロから取ったんですけど」
「前言撤回しよう、センスが本当に悪い」
「分かります」
クルクルと女狐の仮面で遊んでいるシーナは少し黙ったあと、センゴクの目を見た。
「俺、あの人が幻のエースだって知ってます」
「……!」
「センゴクさんが俺を拾ってくれた日、俺はあの人に捨てられた。……まぁ正確に言うと眠りについた、でしたっけ?」
当時は捨てられたと思ってしまったが、よくよく考えれば時間転移だということは幼いながらも理解した。未来から来た人間なのだ、そりゃもちろん、未来に戻る。
「だから今生きているし、生きながらえてる。こうやってドフィを見るも無惨聞くも無惨な状態にこれからワックワクでするんですけど」
「おい、タチが悪いぞ。ちょっとリィンの影響を受けすぎやしないか」
「アハハ!それは、すげー良いな。そうなんですよ、俺はリィンの兄であり、親であり、弟であり、息子であり、友であり、家族なんです。いっぱい影響受けて、そんでもって幸せな毎日を過ごしてます。大変ですけどね」
似てると言われるのは、本当に心から嬉しいものだ。
「あの時お兄さんが繋いでくれた命が、今の俺になって、リィンへと繋がっていく。センゴクさん、俺の事忘れないでくれてありがとうございます」
「……私はな、シーナ。お前のこともリィンの事も、大事な子供だと思っているよ。親代わりなんて簡単な言葉では無い」
センゴクは溢れ出る涙を拭う事も出来ず、ただ肩に手を置いてがしりと掴んだ。
「──生きててよかった、本当に、生きててくれて。ありがとうな、ロシナンテ」
「センゴクさん……っ!」
「俺女狐のいる海軍だけは絶対やりたくないから、そこだけはよろしく。俺扱き使われる未来しか見えないからさ」
「だろうな。本当にそうだと思う」