「ゔ……ぎもぢわるき………」
絶賛船酔い中のリィンです。
「リィンちゃん大丈夫かい?休息所に着いたよ?」
ドーパンさんが背中を擦りながら心配してくれる。それに心から感謝した。
「ありがとう……ごじょりま…す……」
「礼儀が良くておじさんちょっと感動してるよ………」
横目に見たドーパンの目に涙が光った。見なかったふりをしよう。きっと、多分、いや絶対ジジがここに着いた途端どこか行ったからとしか思えない。
「それにしても暑いですね大佐…あ、リィンちゃん大丈夫?水いる?」
「不要……ぞりりん…」
ここに来るまでに色んな海兵さんや雑用さんが時折気にかけてくれる。珍しさもあるんだろうけど…それでも嬉しいね。ジジは気にもしないのになんて優しいんだ。
「暑い………」
額にじわりとまとわりつく汗を拭う。
ここは
エース、ルフィ、サボ!ごめん!先に
「さてお嬢さん。きちんとした治療を受けに行け」
「せ、船医、さ、ん?」
後ろから声をかけられて振り返ると私の寝床を提供してくれる船医さんの怖い顔。
「そのあまりにも酷い背中の傷……港の医者に見せて来い。ドーパン、任せたぞ」
船医さんがキレかかってる。そ、そんなに酷かったんですか?背中。
知ってる?ドーパンさん一応大佐らしいですよ?…………医者とか特定の役職ついてる人は地位は無くても立場と力は大きいんだろうな。
「リィンちゃん行きましょうか」
「はいです……」
差し出された手を握って町に入った。経験した事無い子供扱いだ…。私、泣いてない。
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「そこまで珍しい奴じゃないけど、無いんだけど!致死量の毒が付着した切り傷……何故これを放置していたんだ!」
「本当に申し訳ございませんです…」
解せぬ…………。
「一体どうしてこんな背中になった!」
「いだだだだだだ!!も、申し訳ございませんです!か、海賊にぞスパーンいかれてですます!」
「海賊…?一体誰に?」
「えっと、リンゴジャム海賊……?」
ドーパンさんが首を傾げるので答えるが、リンゴだったかブルーベリーだったか、ジャム海賊団は無名だったようでドーパンさんは「怖かったですね」と言うだけだった。
怖かった、怖かったのか?大きな刃物を向けられるなんて経験したこと無いし。怖い……?
いや、違う。怖いんじゃなくてびっくりしたんだ。恐怖心はそんなに無かったはずだ。
エースやサボやルフィ、頼りになるお兄ちゃんが居たからかな…。
私本当に3人が大好きになっちゃってるんだな、しみじみと感じるよ。
「この傷は残るよ……女の子なのに可哀想に……」
「構わぬ件、私のくんせいぞ!」
「勲章、ね。物は言いようだけど──」
「──いだだだだだだだだだ!!」
「死んでもおかしくない傷なんだからもう二度と開かすな!」
「ぅ、はい!」
包帯グルグル巻きにされて固定される。巻いてる最中傷が
「よし、これで治療完了…本当は入院でもさせてゆっくり休ませたいんだがあんたら海軍だろ?少なくとも2ヶ月は絶対安静、分かったな?」
「は、はい!」
ドーパンさんがお医者さんの気迫に押されて敬礼した。お医者さんって強いな…。
「リィンちゃん…、必要物資を積み込まないといけないから半日時間を潰しててくれないかな?」
厄介者ですか私は。
「お詫びにお小遣いあげるから」
ドーパンさんが袋にお金を入れて渡してくれる。
あ、せっかくここに来たんだから見て回っておいでって事か。私が海軍に入ると言った以上兵士と同じ様な扱いにしないといけないけど私はまだ子供だから考慮してくれたってわけですか。優しい!ドーパンさんが優しすぎる!
「ありがとうごじょります!」
「うむ!元気でよろしい!傷が開かない程度に市場調査に行ってくれたまえ!」
「
「うん、承りました?いや、分かりましたの方が正しいかな」
気にするでない。
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半日自由行動…、だけど。
知らない土地で子供1人がする事なんてたかが知れてる。
「いかがいたそう…」
「ねぇねぇ、あなた1人?」
「ほへ?」
後ろから声がかかって振り返ると綺麗な空色の髪を馬の尻尾の様に跳ねさせながら女の子が首を傾げた。
「は、はいです……」
「この国の子じゃないよね?旅人?」
「肯定…」
「良かったら一緒に砂砂団に来ない?一緒に遊ぼうよ!」
砂砂団?
「ほら!こっち!」
「わっ…!」
ぐいっと手を引っ張られたと思ったらその女の子は走り出した。
「私ビビ!6歳だよ!あなたは?」
「リ、リィン4歳ぞ!」
「リィンちゃんか!素敵な名前だね!」
インドア派に喋りながら走るのは難しいということを実感させられた。
箒乗りたい。
ここの所船内で力の訓練が出来ないから箒を単独で浮かせる訓練をひたすら繰り返しているんだ。だいぶ上達したんじゃないかな?
ただいきなりノックも無しにジジが入ってきた時はびっくりして『風で操り掃除中!』って誤魔化したけど、風で誤魔化せない相手と状況が来たらどうしよう。
いくら風を操れてもわざわざ箒を使う事に疑問を持たないジジを見るとルフィのおじいちゃんだなって血をしみじみと感じる。ルフィのお父さんもあんな感じなのかな。改めて考えるとモンキー家怖い。不安でたまらない。
「リーダー!!」
「ビビ!……って、そいつは?」
「リィンちゃんだよ!お友達なの!」
「おう!そうか!初めまして、俺はこの砂砂団のリーダー、コーザだ!よろしくな!」
ちっちゃい子の縁に入り込む術って驚かされる。いつの間にか知り合いが出来てる…でもごめんね、多分顔の見分けつかないや。
「……コーダ!」
「コーザ、だ!」
「………リーダー、こんにちは」
「こいつ絶対諦めたな…」
人の名前は発音と記憶がしにくいんです。諦めて、私も諦めるから。
適当に1通り自己紹介を終えたら私は首を傾げた。
「一つ、気になる事ぞお聞きしても宜しいか?」
「んー?どうしたの?」
さっきっからずっと気になっていたのですが。
「そちら物陰に隠れていらっしゃる人物どちら?」
柱の影を指すと気配が歪んだ。
ふっふっふ、獣と追いかけっこをする子供の常識舐めるなよ?前世では考えられない常識だぞ?
ちなみにこの世界の常識でもありませんでした。砂砂団の反応見たら悟ったね。
「バレちゃしょうがねェ……」
柱の影に隠れてるのは砂砂団を名乗る彼らの保護者…───
「ビビ王女を渡して貰おうか……」
───って、期待していたんですけど違ったね!うん!ドンマイ!
「っ、人攫い!?砂砂団、ビビを守れ!」
「「「「「おう!」」」」」
一気にビビちゃんの周りに子供が集まる。背にかばうよう、人攫いと思われる男14人と対峙した。
大人の人呼ぼうよ……、ねェ。
「ま、待ってよリーダー!今度は私も戦う!」
「うるせェ!ビビはさっさとチャカさんかペルさんを呼んでこい!」
あれ?さっきこの大人の人達ビビちゃんの事なんて言った?
〝ビビ王女〟?
「王女ー!?」
「あ、うん。そうなの」
王女ってあれですよね、要はこの国の王様の娘さんってことですよね!?なんでそんなとんでもない位のお人がこんな港町で遊んでいるの!?兵士はー!?
「停止!あ、えっと、待つがいいぞ!テメェら達!」
このままだと自分まで危険だと判断した私は事が起きる前に急いで砂砂団の子供たちの前に出た。
「あぁ?」
「こ、この場で騒ぎを起こすつまり良くない!えっと、この町にぞ海軍到着し、必要物資の
「ゆちゃく?」
「か、確保!必要物資の確保!」
1人の大男が前に出てきて私を睨んだ。
「証拠は?」
「わ、私ぞ!海軍将校中将モンキー・D・ガープ並びにしょうしょーボガートさん及び大佐ドーパミンさん到着を目の当たりにし、共に降りた!」
「なら……お嬢ちゃんは海軍の人質になりうる、という訳だな?」
「そ、そちらは否定………一介の兵士故に人質所望致さぬ…」
「まあどうでもいいさ。海軍の話が本当だとすると答えは簡単。見つかる前に誘拐すればいいんだからよ…っ!」
その男が飛びかかって来る。って、ちょっと、話聞いてるぅ!?今暴れたら牢屋行きですよ!?
チクって捕まえてもらうつもりだったけど!
「っ、でぇい!」
伸ばされた手を掴んで背負い投げ。
熊相手に背負い投げって言われた時は本気でフェヒ爺を殺しそうになったけどフェヒ爺みたいにバランスを崩されないように組手されるよりはずっと背負い投げが決まる!
──ドンッ!
「カハッ……!」
「あれ?想像より
いや、もっとKOするまで攻撃入れないと逃げきれないかと思ったけど…楽勝なの?
え、君たちそんな強さで人攫いしてるの?まだエースの方がスピードあるよ?まだルフィの方が予想外の動きするよ?フェヒ爺の方が厄介だぞ?
「いや、まあフェヒ爺以外とは組手ぞ致したこと皆無だが……」
「っ、マグレだ!かかれぇ!」
あ、気を付けてね。
──ズボッ
そこら辺の土地は
最初に倒れた1人と落とし穴にハマった人が6人。
残り半分って所か?いや、でも背負い投げしただけだからすぐに立ち上がるか。
油断大敵、油断大敵。自分に暗示をかけるように心の中で繰り返す。
私1人だけでも逃げたいけど…、今逃げたら海軍入れない気がする。
「ぐ、偶然だ!気を付けろ!行くぞ!」
どうでも良いけど人攫いがそんなに顔だしてたり叫んだりしていいもんなの?
「おりゃぁ!」
大振りに剣が振り下ろされる。いや、サーベル?ま、どっちでもいいや。
トン、と後ろに飛び回避する。砂砂団の子と距離が近くなるからこれ以上は下がれないか。
「…!」
そうか、今試せばいい。力が人に向かって使えるか使えないか!
相手を指さして場所を決める。目標補足するんだ。
「……」
「な、何をする気だ!全員気を付けろ!」
周りがザワザワとし始めた。
爆発を体に当てる様に。当てるんだよ。
私なら出来るから。大丈夫。
──ポスッ
「………………」
「「「「………」」」」
「────なんでじゃぁぁあああ!!!」
意味がわからない!!!なんだ、心配して声をかけてくれた人には攻撃出来るくせに害をなす人物には攻撃加えれないのか!
悪役!?私は根っからの悪役なの!?
「へ、へへ…ただの脅しかよ」
違うんです。脅しとか見掛け倒しとかするつもりは無かったんです。
とりあえず下がって回避──出来なかった!これ以上下がるとぶつかる。
「くっ…!」
鬼徹を取り出して受け流す。フェヒ爺曰く『自分よりも確実に力がある相手と対峙する時にはまともに受けると──折れるぞ』
何が折れるのか、フェヒ爺、教えてくれなくてもすごい分かったよ。骨でしょ、骨。あと心と鬼徹くん。
『受け流せ、相手の力を利用して受け流すんだ』
──キィンッ
「どこから……!」
『そしてそのまま…───』
『「──鳩尾に1発!」』
──ドッ!
「…リィン………ちゃん………」
「スゲェ……」
あと残りは6?7?
大人数相手にする時はどうするっけ…、確か『スピードを大事に足元を狙う』のと『人と人の中間に入り立ち回ると相手が事故を起こす確率が高くなる』だったかな。
あと他に───
「ウチの娘に何やっとんのじゃクソ共ぉおおおーーー!!」
なんか人っぽいのが飛んできた。
「げっ、て、撤退だ!!」
「待たんかゴルァぁあー!!!」
「パ、パパ!イガラムにペルも!?」
「ビビ様っ!ご無事でしたか!?」
え、誰。この3人誰。
「あ、君ですね、ビビ様をお守りいただきありがとうございます。私はアラバスタ王国守護神のペルと申します」
「あ、はぁ……」
守護神と言う位なら最初から王女様を見守ってたらどうなんでしょうか。
「砂砂団の方ですね?お礼をさせていただきます。あなたが時間を稼いでいてくれた事で助けが間に合いました」
私は砂砂団に入ってていいのか?
あと残念ながら時間を稼いでいたつもりは全く無いな。どうやら砂砂団の1人が呼びに行ったみたいだけど。
「ん………?パパ?娘…?ビビちゃん、いやビビ様王女…─────っ!国王!?」
「おや?ご存知無かったのですか?あちらでチンピラを脅してるお方は我らがアラバスタ王国の国王、ネフェルタリ・コブラ様になります」
「ネルネルネーリコブラ様……」
「ネフェルタリ、です」
「わ、私これにて御用存在致すのでサラバしますです!」
「え、ちょ、ま……っ!」
国なんかの厄介事に関わってたまるか!保護者来たんだから大丈夫だろう!
アデュー!もう二度と会うことがありませんように!
「で、リィンちゃん。キミはどうしてその歳で複数人の大人を相手できる程の力を持っていたのかな?」
ドーパンさんが見ていたという事を知ったのは船酔いが再来した時だった。
リィンの弱点の一つとして船にものすごい弱いという事です。全ての乗り物が苦手です。ただ、自分の意思で操作する箒は集中するので酔いません。
そしてごめんなさいアラバスタ王家の方々!!思いっきり名前間違えてました!頭の中では分かってたんですよ!?分かっていましたとも!!何故間違えた私はぁぁ!!(言い訳)