2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第36話 七武海なら7を守れ

 

「リィンちゃんこっちの掃除もよろしく!」

「了承願い承りますたー!!」

 

 雑用を始めてはや1週間、2ヶ月絶対安静を無視してリィンは動いていた。

 

「(じっとしてるのは性にあわないんだよね。働かざる者食うべからずって思想なのかな。それとも社畜精神……やだなぁ、それはそれで)」

「お疲れ様リィンちゃん」

「えっと…」

「リックだよ」

「リュックさんでごぞりましたですますか! お疲れ様です!」

 

 ですます、を使えば敬語になると思っているリィンは特徴の無い兵に挨拶をした。失礼なヤツである。

 

 

 特徴が無いと覚えられないというのは周囲にとっくに知れ渡り、今では幼いながらも頑張っている子供として上手く周囲に馴染んでいた。仕事をこなすが子供っぽさを忘れずに接していればうまくいく、と思って行動したリィン。

 

「へぇ…いつ見ても仕事をしているのね、ヒナ感心」

「ヒナさん!」

 

 そんな中何人か友人と呼べる人物ができた。

 リィンの知り合いの中で見分けのつく友人の1人、自分より上の立場である少佐だが、ヒナ本人曰く『友達でいい』らしい。最初は恐れ(おのの)いたもののすぐに慣れて友人として接する様になった。

 

「リィン貴女何をやらかしたの?」

「ほへ?」

「ボルサリーノ大将がお呼びよ……」

 

 その名に聞き覚えはあるが呼ばれる覚えはない。

 

「本気でごじょりましょーじょか…」

「本気よ」

 

 ヒナの真剣な眼差しにリィンはがくんと落胆した。平和よ戻ってこい、と。

 

 

 

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「おーかしちぶかい?」

 

 リィンは先ほど言われた言葉を繰り返した。

 

「そうだよ〜…その七武海の奴らが来るからちょっとだけ顔見せたらどうだい〜?」

 

 飄々とした態度を崩さないボルサリーノにリィンは失礼にならない程度に睨み質問をした。

 

「…………本音ぞは」

「茶を出す雑用が七武海相手など出来ないと逃げ出した」

 

 なるほど、子供ならどれほど怖くても無知故にうまく立ち回れる可能性があると、そして無礼を働いても子供だから、と逃げられる……。それで私が選ばれたわけか。

 

「後もう少しで来るから急ぐよぉ〜」

 

 のびのびとした口調で急かす大将。

 

「え、と、ボルザンザルクさん!」

「………まさかと思うがあっしの事を言ってるのかい?」

「げ、言語不得意、謝罪」

 

「……この際愛称でも良いから間違えないでよぉ〜?ボルサリーノ、だからねぇ〜」

「ボルザン…リリン…ド……?」

「それわざとじゃないよね……?」

 

 空気が凍った。あれ、この人ピカピカ光る能力者じゃなかったっけ、と思ったリィンは冷や汗をかいた。

 

「(マズイ、このペッポコスキルを何とかしなければ……!)」

 

 リィンは心から危機を感じた。

 

「あっしの名前は長いからねぇ…〝ボルサリーノ〟からなんか適当に文字取りなさいよぉ」

 

「え、と……なればリノ大将」

「なんで敢えてそこを取ったのか気になる所だけど…まぁいいんじゃないかねぇ〜…リノさんでいいよ〜」

 

 リィンワールドに迷い込んだボルサリーノは苦虫を飲み込んだような顔をしたが子供の戯言だと思って流した。まさか年単位で呼ばれ続けるとは、彼も思っていなかった。

 

「リノさん! あ、七武海たる人物は全員いらしてなるぞりですか?」

「いや、6人中5人だけだよ…」

「七……武海、7人…、6人中…5…?」

「一つ空席だよ〜」

 

 ボルサリーノは口を開き、世に名を連ねる者共を教えた。

 

 鷹の目のミホーク、砂人間サー・クロコダイル、海賊女帝ボア・ハンコック、暴君バーソロミュー・くま、悪魔の片腕グラッジ、吸血鬼フリッツ・へイヴ。

 

 今回はボア・ハンコック以外のメンバーが集合しているらしい。

 

「(あれ、おかしいな…名前を聞くだけで胃がキリキリしてきた……ってかくまさんって実在するんだ…ごめんねクマさん!)」

 

 到着してすらいないのに逃げ出す術を探し出す処刑者(リィン)執行者(ボルサリーノ)によって断頭台(せいち)へ連れ出された。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 室内は異様な雰囲気に包まれていた。

 

「……」

 

 七武海の中でも優等生、クロコダイルと呼ばれる男はひとり静かに周りを観察していた。

 

「へぇ、珍しい奴らがいるんじゃねェか……!」

 

 そう呟いたグラッジは七武海の内の2人に目を向けていた。

 

「それは自分の事を言っているのか……?」

「テメェら以外に誰がいるってんだよ」

 

 その言葉に反応したのはへイヴ。敵対心を(あら)わにしてグラッジが絡むもその様子は興味の無い物を見る目だった。

 

「今日は曇だ。太陽がない…………」

「吸血鬼、は大変……かーー!弱っちィなァテメェは…同じ七武海として情けねェ」

 

 やれやれとわざとらしく発言しながらイキる。一筋縄ではいかない七武海。平穏に会話をすること自体が不可能である。

 

「そういう台詞は、己が強くなって言うものだな……弱き者よ」

「ミホークゥ、テメェ舐めてんのか? 非能力者だからって言っても俺の能力は人間に効くぞ…?」

 

 行儀悪く机に足を置いて鷹のような鋭い目を向ければ同意する人間が1人。

 

「言い過ぎだ鷹の目……、だが、的を射ている」

 

 その男は聖書のような本を閉じ、少しも変わらぬ表情で呟いた。

 

「チッ、むさくるしい野郎ばっかじゃねェかよ…! 少しは女海兵連れてこ…───」

「──失礼ぞ致しです」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 女、しかも子供の声……。やっとこのつまらない集会に終わりが近づくのかと思った。

 

「ガキか」

 

 クロコダイルは小さく呟く。未来ある若者が大嫌いなこの男は世の中クソッタレだと言いたげな目を細めて能力を発動させた。砂に変化した体は人の原型を保たず、まるで隠れるように宙へ舞う。

 

 悪魔の実シリーズの中で最強と呼ばれる自然系(ロギア)の能力だった。

 

「お茶ぞお持ち参りましたです…、……よに、ん?」

 

 少女は机にお茶のセットを載せると五つ用意した湯のみと人数の数が合わないことに気付く。

 

「おい娘……」

 

 覇気を使える事の出来るへイヴが砂になって気配を消したクロコダイルのことを言おうとした。

 

「っりゃぁあ!!」

 

 しかしどうだろうか。その言葉を阻止するように少女がいきなり、手に持つ〝何か〟を下から上へ切り上げる様に払った。

 

「「「なっ…!」」」

 

 最早誰が驚愕の声を出したのか分からない。その瞬間に入ってきたセンゴクすらも驚いた表情を隠せずにいた。

 

 驚いた理由、それは気配を消した七武海(もさ)を特定した事でも少女がいきなり叫んだ事でも無い。

 

 その手に持つ突如現れた()()がその場にいる面子にはあまりにも覚えがありすぎたからだ。

 

 

「俺の存在を感じ取ったか。覇気、いや、野生の勘か」

 

 砂が突如人間に変わった。見上げると自分の2、3倍はある背丈の男が少女の前に立っていた。蹴られそうだ。

 

「え…え!?え…、ひ、人?んん!?」

 

 予期せぬ5人目の登場に雑用の少女が驚く。

 

「……………テメェは…っ!」

 

 怒気を孕ませた声。濃い茶色の髪が少女の視界に入り込む。

 

 少女…いや、リィンはその声の方向を向いた。

 

「お茶でする?」

「……は?」

 

 リィン手に持っていた鬼徹を窓の外に投げた。躊躇(ちゅうちょ)無く、遠慮(えんりょ)なく。

 

「「「「(なんだこのガキ……)」」」」

 

 恐らくこの場にいる全員が思っただろう。

 

「あ、驚き桃の木山椒の木失礼致すぞりんです。邪魔故……」

「「「「(邪魔ってだけでアレを投げるのか)」」」」

 

 海兵と海賊の心が今、一つになった。

 

「(流石に目の前でアイテムボックス使うのはまずいか…)」

 

 もちろんリィンは投げ飛ばしたあと死角でアイテムボックスにしまい込んだ。遠く離れた所でもしまう事が出来るか一か八かの賭けだったがまあ失敗して落ちたとしても気にしないだろう。どうせいじめっ子か(フェヒター)らのプレゼントだ。

 一連の行動にもちろん理由はある。空気をぶち壊す為に、だ。そしてどこからどこまでがセーフなのか見極める必要もあった。

 

「そこの雑用……」

「はいぞ、何者でござりです?」

 

「……ジュラキュール・ミホーク」

 

「(なるほど、この人が鷹の目……、随分とまともそうな人だ…。身なりもしっかりしてるし、本当に海賊?)──どのようなる御用で?」

「時々打ち合いをしたい。名を教えよ」

「訂正!全くまともと正反対であった!!」

 

 ド畜生! と心の中で自分の第一印象をぶち壊した存在を殴り飛ばす。脳内でだ。現実でしたら死んでしまう。

 

「それよりあの刀、一体どこで?」

 

 淡々と要件だけを聞き出すミホークにリィンは項垂れながら答える。

 

「………………師より頂きて、故に…」

「なるほど、奴が師か…期待出来そうだ」

 

 どうやらこの男、会話が出来ないらしい。ペースを崩される。非常に不愉快だ。

 

「(フェヒ爺、キミは一体何をしたんだ)」

「……あ、…っの、クソ海賊が……っ!!」

 

 後ろ(センゴク)から凄まじい殺気が解き放たれており、正直ここにいるのしんどい。

 

「よォ雑用女、お前の将来が楽しみだな…」

 

 出会い頭で殺されかけたリィンは恨みも込めて睨みつける。傷の入った顔は愉快そうに笑っている。

 

「私ぞなる人物は1粒たりとも楽しみは皆無ぞです」

「クッ、ハッハッハ…ッ!!なんだその喋り方は…気に入った。海軍なぞやめて俺の所に来るか?」

 

「クロコダイル!ウチに入った雑用をからかう癖をやめんか!」

「からかっちゃいねェよ。俺ァこいつが欲しいな」

 

 若者嫌いは若者の悔しそうな顔が大好きである。リィンはそのやり取りを見てひとつの可能性に思い至った。

 

 

 

 

「……………………あ、納得ロリコン」

 

 自分のどこを見ても足でまといという印象しか貼られないのになぜ欲しがると考えていたらやっと結論が出た。なるほどそれなら仕方ない。

 ポン、とリィンは自分の手を叩いた。

 

「……そうか、サーはロリコンだったのか…」

「なるほど、的を射ている」

 

 へイヴが勘違いを起こせばその言葉に同調する様くまは呟く。

 

「誤解に決まってんだろ吸血鬼。あとテメエは何でもかんでも〝的を射ている〟って使えばいいと思ってんじゃねェぞ……」

 

「七武海とは仲良しですぞなーー……」

 

「誰がこいつらと……っ、殺すぞ!?」

「不服だ、認められないな」

「それは的を射ていない」

「ミイラにするぞ………?」

「………心から否定させてもらう。このような野蛮なヤツらと同類にされたくは無いのでな」

 

 全員から自分の思考を片っ端から否定されたリィンは頬を膨らませた。解せぬ。




悪魔の片腕 グラッジと、吸血鬼フリッツ・へイヴは私の想像上勝手に作り上げた人物です。
グラッジは短気でへイヴはマイペースな傍観者。

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