2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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センゴク寄りの第三者目線


第37話 仏の葛藤

 

 海軍を統べる元帥、センゴクは日頃から胃を痛めていた。

 

(カナエ)の娘か…………」

 

 胃の痛みに関して頭の片隅に置き、じわりと滲む汗を拭えず目の前にいる5人の人間をじっと見る。

 

 ────五老星、国際統治機関、世界政府の最高権力をもつ男達だ。

 

 最高権力と言ってももっと上は居る、世界貴族と称される天竜人、そしてとある人物がいい例だ。

 

「…処遇(しょぐう)をどうしましょうか」

 

 話題は戦神と呼ばれるシラヌイ・カナエの娘、リィンの事である。ただの海賊の子であれば意見を仰がなくても良いのだが『海賊王に深く関わった者は死刑』という法がある。リィンは直接関わってはいないが、古参カナエの子だとすると話は違う。

 

 ここで処罰、等と言われては自分の面目が潰れる。入隊を許可した身なのだから。しかしカナエは世界政府にとって敵。

 

 果たして結果がどう出るか……。

 

 固唾を飲んで結論が出るのを待つ中、五老星の1人が口を開いた。

 

「高い地位を与えてはどうだ?」

「…………………は?」

 

 思わず立場も忘れ、間抜けた声を出した。

 

「そうだな、いっその事大将の地位に付かせるのがいいんじゃないか」

「なるほど〝権力〟か。納得した」

「だが、実力が伴わない子供だ。公言するのは全く良くない」

「実力がきちんと付くまで秘密裏に進めてはどうだ…………?」

「……理にかなっているな、舐められる事も無く、海賊に影にある膨大(ぼうだい)な力をそそのかす事で牽制(けんせい)にもなりうる」

 

 何やら話がトントン拍子に進んでいく気がする。思わずセンゴクは声を荒らげた。

 

「か、海賊の、カナエの娘ですよ!?」

 

 こんなの自分で考えを改めろと言うも同然だ。いや、実際改めて欲しい。

 

「センゴク……だからこそ、だ」

「だ、だからこそ……?」

 

 長い白髪の髪と髭を蓄えた五老星の一人がニヤリと笑った。威圧感を感じる。

 

「利用価値がある。それに、敵ならば容赦なく殺していたところだが自分からこちら側に付くというのだ。なら、最大限守れ………これは命令だ」

 

 五老星全員が何故か嬉しそうに笑った。

 

「(一体(カナエ)は五老星に何をしたんだ……っ!!)」

 

 謎の多い女は未だに謎だらけだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

──コンコン…

 

「お呼び出しで、ございますですか?」

 

 海軍本部に似合わない幼い声が扉の前で発生した。センゴクは目的の人物が来た、と一言声をかけた。

 

「入れ」

「失礼、ぞ致しますです」

 

 ここに来た時から変わらぬ妙な喋り方で入ってきたのは先ほどまで胃を痛めつけながら五老星に報告した子供、リィンだ。

 

「五老星からの判断だ……リィン、お前を海軍本部大将の任に付かせる事とする」

「………ひょ…?」

 

 こいつ今なんと言った、と言いたげに視線を向けて来る。目は口ほどに物を言うとはこの事、正直な話センゴク自身も混乱しているのだ。前代未聞、まだ5つ程の少女を海軍本部の最高戦力に数えられる地位につかせるのだから。

 

「えー、えぇ? えっ?」

 

 その反応は正しい。センゴクはキリリと痛む胃を抑えて強めにもう一度言った。

 

「海軍大将に、なれ」

「……か、かしこまるまりますた」

「かしこまりました、だからな…」

 

 心配だった。とても。

 

「表向きには雑用として変わらず動いて欲しい、名ばかりの大将だ」

 

 そう言えばリィンは心無しかほっとした表情を見せた。

 

「(プレッシャーと思う事がある、という事は大将という地位がどれほど責任重大かと分かっている、という事か……なるほど、普通の子供より頭は回るようで何よりだ)」

「ありがとうごじゃります」

 

 ホッ、と息を吐いたリィンを見て、センゴクは少し安心した。

 

「海軍中将には知られても構わない、が。他はあまり知られるな…いつどこに海賊のスパイがいるか分からん」

「然しながら、私の如く子供申せばただの戯言(ざれごと)ぞです」

「MC 04444 、このコードを海軍将校には伝えておこう。それが大将のMCだ。──このコードを言えば大将としての権限と権力が使える、ただしなるべく使わない方向で済ませろ」

 

「(不吉────)」

 

 リィンが数字の羅列(られつ)を聞き、思った。でも、これなら影で恐れられる存在になれるかもしれない、と。

 

「大将就任によってある程度伝えなければならない事がある」

「……、…はい!」

「まず、雑用として会議に参加する事」

 

 雑用として、つまり先月七武海と顔を合わせた様に茶くみ係として自然に居てもらう事だ。この子の注ぐお茶は上手い、となれば居ても不自然に見えないだろう。もし居るのがバレていたとしても子供だから内容も覚えてない理解出来ない筈だ。本人も、周りの普通の海兵も。

 会議に参加するのは決まって中将以上、信頼のおける人間を主に置いている。

 

 中で何者かバレてしまっても問題はあるまい。

 

 

「なるほど……、説得されしたです」

 

「…」

 

 恐らく納得したと言いたかったのだろうが、コミュニケーションが苦手なのもまた利点になるやもしれん。

 

「少しは重要問題を把握可能と予測……」

「……!理解出来るのか、この事に対して…」

「はいぞです。会議とぞ、しかも上の方集合するとは重要な案件が多き、ご安心、私ぞ口を割る事はあれど理解する前に向こうが諦め入るぞ」

「口を割ることはせめて否定してくれ……」

「理解のできぬ言語を使用するが故に、大丈夫ぞです」

「理解の、出来ぬ言葉……?」

『んー、まあ、日本語使えばきっと理解出来ないでしょ…、んん、我ながらグッドアイディア!こっちの言葉はすぐに理解出来なかったんだもん(※日本語)』

「……なるほど、適当に言葉を作りそれが自分の当たり前の言葉とする、か……いい案だな…」

 

 リィンは適当に作っているわけじゃないがセンゴクは納得した。

 

「後は…CP(サイファーポール)の事だ」

「さいふぁいあーぽーる?」

「サファイアでは無い、サイファーだ。これは世界政府の諜報機関(ちょうほうきかん)で一般的には1〜8の組織が世界8ヶ所に存在する」

 

 センゴクはここで言葉を止めた。まだ子供、これ以上先は言わなくていいだろう。嘘はついてはいない。

 一般的には、その言葉に隠されたCP9とCP-0の存在は。

 

諜報機関(ちょうほうきかん)、には大将の存在はほのめかす事予測ですか?」

「伝えておく、ただしコードのみだ。あくまでもこれは海軍本部での裏だからな…」

 

 センゴクは多少大人びた子供に対して、餌を撒いていた。

 

「……そちらは一般的要素皆無の諜報機関(ちょうほうきかん)にも…?」

「……ほう、気付くか」

 

 鋭い目を向けるリィン、これは当てずっぽうなどでも予想でも無く確信。

 

「(こんな簡単な罠、大人でも気付けない者は確かに居る。そういった経験を踏ませれば『言葉遊び』が出来るかもしれんな)」

「知らねば安心やも知れませんですが、知らぬままでこの立場、あまりにも危機ぞです」

 

 もしこの場に誰が居ようと思わずため息をついたセンゴクを責める事は1人も居ないだろう。これから口を開く話題はドロドロとした醜い正義だ。

 流石に子供の純粋さはもう少しあって欲しかった。

 

「CP-0、サイファーポール〝イージス〟ゼロ。世界最強の諜報機関(ちょうほうきかん)で世界政府である天竜人の直属の組織と──」

 

 こちらは天竜人の為の組織とも言える。だが問題はこちらだ。

 

CP9(シーピーナイン)、サイファーポールNo.9。世界政府直下暗躍(あんやく)諜報機関(ちょうほうきかん)が存在する。司法の塔エニエス・ロビーに拠点を置いて非協力的な一般市民への殺しを許可されている部隊だ……」

「殺しの許可…!? いや、然しながら納得。一般的でない理由としては充分過ぎるぞです…」

「………世界政府は光だけでは無いのだ…」

 

 案の定リィンは驚きの声をあげた。

 幻滅(げんめつ)してしまっただろうか。海軍に希望を持って入隊してくれた彼女にとって、それらを守る立場にいなければならない事が辛いだろうか。

 

「当たり前ぞり……です。光があれば闇があるのは必然、正義だけで物事ぞ丸々ぷっくりおさむる事など不可能に等しき、です。認識を誤りなど致しませんぞです故」

「まァ他の組織と変わらない。コードのみだ。……しかし驚いた、そこまで言える事が出来るとは………、少し安心した。大将としての雑用としてこれから励んでくれ…」

「……はい!」

 

 もうこれ以上は言えない、背負うにはあまりに重すぎる。1回りも2回りも幼い彼女には。だが、少なくとも大人に紛れる事の出来る少女なのだろう。

 

「ところでどうして全身切り傷だらけなんだ…?」

「ミホさんにぞ訓練(いじめ)られましたぞです…」

 

 鷹の目か…。奴が力をこの子に付けてくれるなら武力面では一安心だ。

 

「まぁ、今回はこれだけだ。もう少しで正式発表がある。それまで大将であろうと口を開くな」

「分かるました。あと……利用はしてもよろしきですよね?」

「……。では、仕事に戻れ」

「はーい!」

 

 リィンが返事をすると扉が閉まった。

 

「……利用、なぁ?」

 

 選択肢を誤ったかもしれない、だがあの聡明(そうめい)な少女に海軍の、世界政府の、世界の中枢で変えていって欲しいと願った。

 

「なかなか面白そうだ。ふむ」

 

 無言は肯定とはよく言ったものだとセンゴクは密かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(トップシークレットが聞けたのは幸いだけど秘密を知りすぎたーとかって殺されないかな……)」

 

 リィンはセンゴクの心など知らず人知れず頭と胃を痛め後悔した。胃薬を欲っしながら


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