大将赤犬ことサカズキ。
徹底的な正義を掲げ、海賊は絶対悪。
そんな彼にも1人、心を許す海賊が居た。
——大丈夫だって少年!
子供の頃に出会った人を思い返す。リィンを見てどことなく既視感を覚えるのは、やはり血縁関係だからだろう。
この大海賊時代を作り上げた海賊王ゴールド・ロジャーのロジャー海賊団結成初期から居た古参メンバーの1人が、サカズキにとっての恩人であった。
「リィン、か……」
リィンが2,3ヶ月程前に海軍に入った。偶然その場に居合わせたのは幸運だっただろう。
なんせ自分のルーツを作り出した恩人の、娘。海軍に入るきっかけをくれた者だ。
後ほど海賊だと知って仰天したし、絶対捕まえると誓ったが。
だからこそ、リィンを身近に置ける地位に上がってきた事を幸運だと思ったのだ。今更ながら生きる理由の一つが作り出された。
「…っ……あ……」
「…───…………─」
「(あれは…雑用か……?)」
物思いに
「……よな…──の…」
「……に…──…よ」
何かある。長年の勘によりそう睨んだサカズキは耳を澄ませる。
「──…あのリィンって奴………─」
先程まで頭に浮かべていたカナエの娘の話だ。
嫌な予感に襲われ、雑用の会話に集中する。
「…──あいつ同じ雑用の癖に生意気だよな」
「あぁ…俺らより後に入隊した癖にお偉いさん方に何度も呼ばれて……」
「だよなー。ムカつく…」
ただの嫉妬か。情けないと思うのと同時にやはり仕方の無い事だとも思える。
ここまで目をつけられたのも英雄ガープに連れてこられ、そしてあの剣帝フェヒターを師に持ち、その上奴の愛刀である3代鬼徹を譲り受け、更には王下七武海の1部に気に入られ、親の影響で大将まで一気に上り詰めた。
人に恵まれすぎた幸運とも言える。
リィン本人は悪運としか思って無いが、そんなことサカズキが知る由もない。
イタズラをするかもしれない程度の嫉妬ならば問題は無いだろう。そう思いその場を立ち去ろうとした時、サカズキの耳に衝撃的な言葉が入った。
「───今回は何を盛ったんだ?」
──盛った……?
耳を疑った。思わず足を止める。
「聞いて驚け…トリカブトに含まれるアコニチンだ………。取引先の海賊から買い取ったんだ」
アコニチンは量を誤ると死に至る程の毒性を持っている……。もっと強い毒も勿論あるが人に使って良いものでは無い。
「(取引先の海賊…?)」
そして海賊を悪として正義を掲げてきたサカズキにとって、海賊と関わり、しかも悪意のある関わりを持っていることが許せなかった。しかも相手は子供だ。
自分は少なくとも恩人であるカナエにも刃を向けた。それ程にまで海賊と言う物を敵として認識していたのだったのだ。
彼が行動を起こすには充分過ぎる程の理由だった。
「───その話詳しく聞かせてくれんかのォ…雑用共」
雑用の2人は怒りを含ませた声にビクリと肩を揺らせば声の主を見る。
「だ、誰だ……」
「儂が分からんとは……随分とふざけちょる奴がおるもんじゃ………」
「お、おい!こいつ…───この人大将赤犬だ!」
雑用の2人の声は震え、顔は青い顔を通り越して真っ白い。次第に声のみでなく全身が震えだした。
「アコニチンをどうした……」
「な、何のことでしょう…!!」
無駄な問答は不要とばかりに殺意が、殺気が漏れる。
「言わんかァァァッ!」
──ボコボコッ…!
しらばっくれる2人に痺れを切らし右腕からマグマの能力が発動された。その熱気に思わず雑用の海兵は腰を抜かすと声を裏返し震わせながら質問に答えた。
「め、飯に盛りました!」
「……………そうかい、なら──貴様らの様な海兵に興味は無いわい」
──ジュッ!
「ギィヤァァァァァアア!!!」
「ひっ…!」
肉の焦げた音、一人マグマによってこの世から存在を失った。
「ご、ごめんなさいごめんなさい……!た、たす、助け…っ!」
「消え失せろ…!」
「ぎゃあぁあああああ!!」
──バタバタッ!
「──ッ、一体何が……!」
叫び声を聞き監督と思われる海兵がやって来ると、その現状に思わず目を見開いた。
「大将!?雑用が一体何を……!」
「どうでも良い!子供で雑用のリィンの居場所は何処じゃ!」
「は?え、えっと、確か10分前に休憩で食堂に……」
「……っ!」
遅かったか…!間に合え、と願いながら走り食堂の方に向かった。
まだ食べてなければ間に合うかもしれない。
だが、現実はそう簡単では無かった。
「リィンは居るか!!!」
「は、はいぃぃいいっ!」
食堂の入口でサカズキは大声をあげて呼び出した。
反射的に返事をしたリィンを向けば食事には手をつけているではないか。
「(医務室に連れて行かんと…)──来い!」
「か、かしこまるまりましたです!」
急いで来ようとするもいきなり訪れた大将に動揺して人の波が出来た。このままでは辿り着くまで時間がかかる。
「(これだから雑用は…!)…っ、リィン!許可する!能力を使え!」
「……っ!はい!」
席に近い所にかけて合った箒を手に取ると跨り、人の上を飛んでサカズキの元にやって来た。
目をつけられる可能性を考えて能力を隠しておけ、という様に命令していたが今回は急を要する。
「なっ…!」
「…リィンちゃん!?」
辺りの雑用はより一層ザワザワと騒ぎ立てる。
「早うせい!」
「サ、サカズキさ、つか、掴まな…うぎゃあ!箒!箒落下!」
サカズキは箒が落ちたのも気にせずリィンを小脇に抱え急いで走った。
「サカズキさ、ん、何かご用でぇええっ!」
「舌噛みとう無ければちょっと黙っちょれ!」
「ぅはい!」
これ以上に無いくらい焦った。何故こんなにも焦る。
「…っ!」
──バァンッ
「こいつを診てくれんか!」
==========
「……異常無し……………?」
予想外過ぎる医師の判断にサカズキは素っ頓狂な声をあげた。
「ああ、確かにアコニチンの反応、それに加えて他の毒物の反応もあったが……身体に異常が無い」
「一体どういう事だ……」
医師は目を閉じてため息を吐いた。
「彼女に、毒が効かない」
なんとも奇妙な診断結果だ。サカズキは簡単に受け入れられる内容ではなかった。
「なんだと……?本当か…?」
「医師を疑うな…サカズキよ…。本当の事を言わんで何のためになる」
「……。リィン、心当たりはあるか」
──シャッ…
「あー、えっと、一応存在把握です。心ぞ当たり」
盗み聞きがバレていたと気まずい表情を浮かべながらリィンがカーテンを開けた。医師は毒物反応が出た試験管を置き、軽い様子で質問をした。
「ああリィンちゃん。身体の調子に不自由は無いかい?」
「皆無ぞです」
ちらりと壁に備え付けられた時計を目にした。
「あの、時間訪問故におさらば致して許可願いぞり」
「えっと…、時間だから行ってもいいかって事かな…?」
「それですた」
「構わないよ……。説明はこちらでするから頑張りなさい」
「はいぞです!」
ベットから降りるとリィンはその場にいる2人にペコリとお辞儀をし、パタパタと駆けて行った。
「………ここに来てすぐ、あの子は背中に大きな傷があったんだ…」
「傷がァ……?」
「刀傷だよ。そしてそこから致死量の毒が検出された」
「………それが、毒が効かなくなった理由と言うわけかい?」
「その可能性が高いだろう……。全く、無茶をする」
一度死に目に合う程の毒に蝕まれると抗体ができてその毒は効かなくなる、と医師は話す。
「サカズキィ〜、ここか〜?」
「なんじゃクザンか……おどれは仕事もせんで何遊び呆けちょる」
「おわっ、ひでぇな…顔合わせて早々ンな事言うわけ〜?はァ嫌われたモンだね〜…」
「要件はなんじゃい…」
「何、って…そりゃ雑用2名が死んだ理由とリィンちゃんを抱えて此処に来た理由でしょうよ、察してたんじゃないの…?」
クザンが片眉を上げるとサカズキはフンと鼻を鳴らした。
「リィンに毒が盛られた」
その一言だけで状況を察した。それ位出来なければ大将とも言えない。
武力面だけでなく頭を働かなければ最高戦力としてあまりにも力不足。
「ヘェ……」
返事に一言だけそう言えば周囲の温度が数度下がった。
「……執着は無いもんじゃと思っちょったわい」
「失礼な話じゃねェの? 判断は個人としてするとは言ったが、執着するしないは別でしょうよ。……後将来絶対いい女になる奴に期待しなくてどうするよ」
「……そうかい」
呆れた。相変わらずこいつはふざけておるとサカズキは思い睨みつける。クザンは何食わぬ顔をして後頭部をボリボリかいた。
「あれだけ健気に頑張っているんだ、評価するのが上として当たり前でしょ」
「結果が伴ってなければ評価は無しじゃと思っちょるがな」
「でも実際結果は出てるんじゃねェか?」
「何にせよ、流石カナエさんの娘といった所じゃわい……」
戦場を引っ掻き回す事に関しては神がかった才能を持っている女の娘だと、リィンに心の中を引っ掻き回されたサカズキはそう思った。
サカズキは親(の罪)=子(の罪)として考える人ならば叶夢(の恩)=リィン(に恩返し)と考えてもおかしくは無いかな、と思いました。その逆にクザンを、クザンは個人として判断をするタイプと勝手に考えました。苦情は受け付けません、多分。どうしてこんなに恩を感じているとかリィンに甘いとかはまだ内緒です。かなり未来でじゃないと判明されない……。
あまりにも叶夢さんが原作に関わりすぎているんじゃ無いかとお思いの貴方、大丈夫です。私も思っています。この謎も解決する、と思います。
まぁ、彼女じゃないんですけどね。