「リノさん……、到着致すぞです」
遠慮がちに部屋にやって来たリィンはサカズキと並び海軍本部最高戦力となる大将黄猿、ボルサリーノに声をかけた。
「ん〜、随分早かったねェ〜…」
「リノさん書類お仕事ぞお疲れ様です。真面目で最良ぞろろんです」
リィンが眉の形を変える。恐らく真面目と正反対の彼女の祖父とクザンが脱走するのを何度も止めようとしているからだろう、と推測された。
「あーうん、まあ普通だからね……」
ボルサリーノはポンとリィンの頭に手を乗せる。今の大将の面子に苦労をかけされる仲同士、自然と互いの苦労は知っていた。
衝突するサカズキとクザンの間に入るのはいつもこの2人のうちどちらかだ。
「リノさぁぁん……」
何故か目を潤ませる。
「(これはあっしが頑張らないといけなくなるアレでしょうが……)」
同情したらしっぺ返しがやって来た。
「(このまま私の海軍本部将校逃亡者追跡係引き継いでくれないかな……)」
ここに来てもうすぐ1年、リィンは
それをボルサリーノが知らないはずは無い。
「とりあえず今は目先の事に集中するかねェ〜…」
船の揺れが止まった。目的地に辿り着いたんだろう。
リィンは箒から降りボルサリーノの斜め後ろにたった。箒に乗っていた理由は船酔いが酷いから。船だと酔うが箒だと酔わないのである。
「海峡のジンベエの七武海加入と引き換えにアーロンの釈放…ねェ……」
ジンベエとアーロンは天竜人の奴隷解放を成したタイヨウの海賊団のフィッシャー・タイガーの弟分。
「何故アローンぞ人物の釈放ぞ認める不可能ぞりん…です……」
「アーロンね。でもそれもそうだよねェ〜…、加入だけ認めりゃ良いのに政府も何を考えているのやら…」
加入はまだしも何故釈放まで認める必要があるのか。
「魚人……」
「怖いかい〜?」
「こ、肯定。どのような人物か不明故魚人の海賊は不安多大に存在するぞです」
──コンコンッ
「大将!インペルダウン内部には誰が同行しましょうか!」
「ん〜、そうだねぇ。リィンちゃんだけ連れていくよォ、一つの社会見学っつー事で」
「は…、はっ!」
「私のみ………?」
動揺する海兵と不安げにボルサリーノを見上げるリィン。
「何かあっても対処出来るでしょ〜?最悪
「はい………」
==========
「大将黄猿殿!我がインペルダウンへようこそ…!あァ間違えました。〝我が〟って野心出ちゃった。私は
「(ああ、こういう人扱いやすそうで好きだな……)」
インペルダウン副署長ハンニャバル。
彼が出迎えてくれた事に少しの疑問を覚える。
「(監獄署長は…?)」
「それではアーロンの前に署長の元へ案内スマッシュ!」
「署長は…トイレかい〜?」
「そうです!」
「…?」
不思議そうに首を傾げるリィンにボルサリーノが丁寧に説明した。
「ここの署長はドクドクの実の能力者。毒の影響で1日約10時間はトイレに
なるほど、とリィンは署長に同情した。あまりにも悪魔の実の性質が悪意ありすぎる。
「実質ここのぞ
「私この子供大好きになりました」
ハンニャバルがあっさりとリィンの手中に落ちた。
「副署長、署長が出てきました」
「サディちゃんご苦労様」
「おお、ようこそいらっしゃいました。しかしアーロンの釈放ですか……はァ……何故奴を野に放たなければ……」
「署長ストップ!あんたのため息は毒ガスだから!……ウグッ!」
署長のマゼランが現れるとこれから行う事が不満の様でため息を吐いた。そしてそれは毒ガス。
自然系であるボルサリーノと毒に耐性のあるリィン以外は苦しみ始めた。
「あー……、お身体大丈夫、ですか?」
「ごふっ…私の命は……もう終わりマッシュ……お嬢さん……、お元、気、で………ガクッ…」
「ぎゃー、ハンニャーンブルさーーーーん」
息も絶え絶えにハンニャバルが頭を垂れるとリィンが慌てて近寄った。完璧棒読みだ。
「「「(茶番………)」」」
「あれ?急に身体が楽に……」
ハンニャバルがいきなり楽になった身体を不思議に思い何度も自分の手を見た。
「どうしたんだい〜?」
「あ、いえ!なんでもありません!ささ、アーロンの元へ署長の私が案内を……あ、間違えちゃった、私まだ副署長でしたね!」
「いい、ハンニャバル。私が案内しよう」
「ガーーーン……」
「ケホッ……」
騒ぎ出すインペルダウン職員を前方に捉えながら咳き込んだリィンは先ほど起こった現実に頭を悩ませていた。
「(堕天使ぃぃぃ…!災厄吸収能力ってまさか他人の毒まで吸収するのかぁぁぁぁ!?)」
完璧に。グン、と何かが流れ込んできた。手のひらから異物が侵入してきたのだ。
「(………参ったなァ)」
吸収する=自分を犠牲にして助ける
の方程式が成り立ってしまった今、ものすごく迷惑な能力となった。
「ハンニャルバンさん…、もし冥王などの海賊ぞ現れた場合どの監獄にぞ収容するされるですか?」
「そこら辺の大物はlevel6になりマッシュね……それがどうしました?」
「あの、level6の囚人リストの様なる物は存在致すかです…」
「…?ありマッシュ…」
リィンは後ろからこっそりとハンニャバルに声をかける。ハンニャバルは疑問に思いながらもリストを手渡した。
「ありがとうごじゃりますハンニャンコバルルンさん」
「いやいや、なんてこと無いですよ」
2人は雑談混じりに自分の上司を追うように下へと向かった。
「(……戦神の名前は確か シラヌイ・カナエ。おかしい…4、5年くらい前に収容された人間リストの中に名前はあるのに横線マークで消されてる。まさか死んだ?)」
一人疑問を残しながら。
「level6────」
地下6階にある無間地獄。
政府にとって不都合な事件で揉み消された人間や終身囚や死刑囚が無限の退屈を味わう場所だ。
ここにアーロンがいる。
ボルサリーノやリィンは気を引き締め面会した。
「あんたがアーロンかい?」
「それがどうした…、下等種族…………っ!」
敵対心を隠すこと無く睨みつけるサメの魚人アーロン。そこから放出される鋭い本物の殺気。
「釈放だよ……ほら、出てきなよォ」
「チッ……」
不服そうだがその言葉に従い檻から出てきた。
「(ふーん…この殺気に怯まない、か。果たして鈍いだけか、それともセンゴクさんの言ってた鬼徹の持ち主──剣帝に鍛えられて慣れたか)」
横目に見たリィンについてボルサリーノが真面目に考えている中。
「(常識的に有り得ん色をしてるよな…)」
リィンは斜め上の思考回路をしていた。ただ鈍いだけかもしれない。
アーロンをじっと見つめるリィン。それに気付いたアーロンがニヤリと口元を歪ませた。
「こんな所に子供がいるとはなァ…」
「……私とて立派な海兵ぞ」
雑用として来てはいるが地位は最高戦力。流石にムッとしたリィンはにらみ返した。
「こんな子供に海軍に入らせるとはテメェの親はなんつー躾をしてんだろうなぁ」
「……親の顔は知らぬ、兄のみぞ。残念ですたね」
「じゃあテメェのおにいちゃまはさぞかしアホみてェだなァ…?シャーッハッハッハッ!」
解放時から気分が良い。高笑いをしたアーロンだったが、底冷えするような冷たい声が聞こえた。
「……おい、魚野郎」
ビリッと肌が震える。
「…っ!!」
リィンの箒の柄がアーロンの喉元に突き付けられていた。一瞬の出来事で人より身体能力の高いアーロンでも反応する事は出来ず、呆然としているだけだった。
「海にぞ出現し、人様に迷惑ぞぶっかける様なれば…私が飛んで行くからな……っ!?」
グッと更に箒を押し付けている。
「(ったく、本当に末恐ろしい子だねェ。こうまで頭も働き体も動けると逆に薄気味悪い)……はいはいストップ。ま、そういう事よォアーロン」
仮にも釈放する魚人、危害が加えられない内にボルサリーノが止めた。ただリィン本人に危害を加える気が無いのはボルサリーノもその場にいる人間全てが勘づいていたが。
「……ごめんなさいです」
「(何危ない事してんの私ィ!!)」
「(ふぅん…海賊が許せないと取るべきかねェ……)」
ただヘタレが後悔しているのを根っからの海兵向きの性格、とボルサリーノに誤解されたリィンは今後を期待され自分のハードルが高まって首を絞めると知らない。自業自得だった。
今回はアーロンの釈放のお話です。自然系に毒は効くのか効かないのか。それは私には分かりませんので適当です!ごめんね!!!(大声)