2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第40話 青雉の発見

 

  海軍はここの所起こる〝海兵殺し〟の事件に悩まされていた。

 

 様々な所、と言っても主に偉大なる航路(グランドライン)の中だが海兵の死体が見るも無惨(むざん)な姿で発見される。首と胴体が綺麗に斬られていた。犯人も手段も目的も分からない、現状は最悪だった。

 ───ただし、それは昨日までの話。

 

 

 

 犯人が判明し、討伐せよとの命令が下った。

 

 

 

 よりにもよって、

 

「リィンちゃん…確か船酔い凄いんだっけ…」

「う……ぎもぢわるい……クザンさ、舵、舵取っ……うぇええ……」

 

 大将青雉と大将女狐(めぎつね)の2人に。

 

 

 

 

 最近ようやく海軍全体に4人目の大将の名前が広まり始め、噂されている。『海賊女帝にも負けぬ絶世の美女』だとか『妖艶(ようえん)な美女』だとか。…………正体が偉大なる航路(グランドライン)後半の海(新世界)を小舟で航海しゲロ酔いしてるただの雑魚(ガキ)とは誰も思わないだろう。ここまで噂と正反対だと期待に胸を膨らませる海兵に同情してしまう。

 クザンは親に似て残念な噂が流れる奴だと思った。

 

「グラッジは確か能力者だったよなぁ…面倒くせェな………」

 

 今回の事件の犯人は王下七武海の1人、悪魔の片腕 グラッジ。

 

 海兵殺しの犯人が政府が保護してる七武海の1人とは政府にとって面目丸潰れだろう。

 

「リィンちゃん、酔ってるとこ悪いけどその横の袋に入ってる錠を……あー……2つ、いや3つ出して持ってきてくんねェ?」

「………………はい……」

 

 酔ってる自分を動かすか、と思いながらも小舟の室内に入りゴソゴソと漁るリィン。その後ろ姿を見送ったクザンは二日前の会話を思い出した。

 

 

 

 

『奴にはリィンに対処してもらう』

『…っ!?お、おいおいマジかよ……無茶じゃ…』

『大将として力をつける為に実戦経験も必要だろう……。あくまでもクザン、おまえはフォローに尽くせ』

『いや、そりゃしますけど……』

『まぁそう嫌そうな顔をするな。どこからどこまでが今のリィンに出来るのかの実験も兼ねている』

 

 思い出される会話。実験とは言い得て妙だと思った。

 

『そして分かってると思うが、捕縛より抹殺を選べ。政府の駒である七武海が海兵殺しをしているなど知られれば面目丸潰れ、と言うわけだ。』

偉大なる航路(グランドライン)に海難事故は付き物ってか? はぁ…グラッジも可哀想な事に……』

『…………本当に可哀想と思ってる人間はそんな死んだ目をしてはおらん』

『あらら…』

 

 

 

 センゴクさんは一体何を考えているのか…、彼女は、まぁ自分もだが能力者。しかもまだまだ子供だ。

 ミズミズの実の能力者という能力者にとって厄介な人物のグラッジとは相性が悪過ぎる。

 

「(氷人間の俺なら何とか能力に引けを取らないけど……)」

 

 リィンの能力が何なのか不明であり、確実に把握している能力は風のみ。

 水に対抗できるのか不安だった。

 

「クザンさん…こちらで……よろし、きです?」

「ああ、ありがとさ……──」

 

 絶句。

 小首を傾けるリィンが持ってきた錠はほとんどが海楼石の錠。

 

「どうしましたですか?」

 

 つまり能力者は素手で触れないという事だった。なぜ触れるのかという疑問にクザンは面倒くさがりながらも把握しておかねばと危機感を抱く。

 

「……あー…、それサイズ合わせたいからリィンちゃんちょっと付けてくんねェ?」

「あ、ハイ…」

 

 リィンはクザンの言葉に何一つ疑う事無く左手に錠をはめた。

 

「私には一粒程大き────」 

 

──ガッ

 

「リィン…お前能力者じゃねェのか……っ!?」

 

 クザンは思わずリィンの手首を掴み詰め寄った。ガラン、と音を立てて残りの手錠が落ちる。

 

「……っ」

 

 リィンの言葉を聞くまでも無く、青白くなった表情が答えを物語っていた。

 能力者じゃ無い、と。

 

「マジか。一体何者なんだよ」

「……」

 

 まるで叱られた子犬の様に小さくなるリィンの横目に見ながらクザンは考えた。

 

「(クソ…こんなの上に見つかったら普通に人体実験の的だぞ…!?)」

 

 ただでさえ話は出ているのだ。『毒物及び劇物の抗体実験』という物が。

 

「私…は、悪魔の実ぞ、食した記憶は皆無です……。でも、何故(なにゆえ)か、おかしな力を使用可能……」

 

 ポツリと(こぼ)した言葉にクザンはため息で返事をした。

 

「しかしながら、私は思考…──思う、です。コレが発見されれば、悪目立ちし、身の危険が多くなる。世界政府にとって脅威(きょうい)。いくら海軍とは言えども、消される可能性も考慮(こうりょ)済みぞです……。故に、内密にしておりますです」

「……そりゃそうだろうな…、政府の奴らはそういう事に厳しいからな……」

 

 他人から同じ様な意見を聞き不安になったのだろう。リィンは苦虫を潰した様な顔に変わる。

 

「…………」

 

「一つ可能性を考えると…覇気だな」

「……?覇気?」

「知らねェか?…説明めんどくせェな……」

「いや、ご存知ぞ、です。使用は出来ませぬが………」

 

「ああ、それなら話は早ェ。アレって元々人間に潜在能力を引き出して使うんだけど、まあそれの1種なんじゃねェの?多分」

「命名、不思議色の覇気」

「…………。思ったけどリィンちゃんって思ったよりセンス無いよな」

「しょ、衝撃的な新事実!認めるなかれです!」

 

 相変わらずの不思議語をブツブツと愚痴に使う。

 あれ、絶対使いづらくねェか?

 そう思うが口に出さずに考えた。

 

「(上に報告すべきか…?せめてセンゴクさんくらいには…、まあいいや、面倒な事この上ない。多分そうなれば被害被るのはこっちも同じ、と)」

 

 どうせ自分は〝ダラけきった正義〟を掲げてるんだ。どうでもいいだろう。

 

「…! そういやリィンちゃんは何の正義を掲げてんだ?」

 

 ふと気になって1人百面相をしてる少女に声をかけた。話題を変えるためにも丁度いい。

 

 悪を敵とするサカズキの〝徹底的な正義〟

 比較的柔軟性があるボルサリーノの〝どっちつかずの正義〟

 そして自分の〝ダラけきった正義〟

 

「私の、正義?」

「うん…まあ無けりゃ良いけど」

 

「………………〝守り抜く正義〟」

 

 また随分3人の大将と違った正義を掲げているものだ。

 

「元より、海軍は海賊討伐より市民保護に重点を置く仕事と思考…思うです。忘れぬように、掲げるです」

「……!ヘェー…」

 

 クザンは納得した。確かにそれもそうだ。

 物事の本質を捉える事が出来るのも才能かねェ。この子は本当に海兵に向いた性格をしている。

 

「(ってのは建前で本当は、自分>(越えられない壁)>兄>>知り合い>市民>海賊>屑 の順番で守ると思ってるだけだけどね。自ら死地に向かってたまるか!)」

 

 彼女は気づかない。他者を犠牲にしてでも自分が生き残ろうと言う精神で 自分=屑の方程式が成り立っている事を。

 

「ま、リィンちゃんの力の事は言わないでいてあげるから安心しなさいよ」

 

「は、はい!………、……ゔ…ぎもぢわ…る……」

「え、ちょ、吐くなら外!海に吐いてよ!?」

「うぇえええ………」

 

 

「守り抜く正義、か……」

 

 クザンは独り言の様に呟いた。

 

「俺の昼寝のサボりは守ってくれねェってわけですか?」

 

 昼寝を邪魔される恨みを少し込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、あそこに奴らがいるよ…気を引き締めな、グラッジと対峙(たいじ)するのはリィンちゃんなんだからよ。頑張れ女狐ちゃん」

「……………、…え?」

 

 

 守り抜く正義、早くも崩壊の危機であった。

 

 

 

 




悪魔の片腕 グラッジ
濃い茶色の髪色に赤の釣り目 年齢は不明 決定的(リィンが見分けをつけれる)特徴は片腕。マジで。生えてこないかな。詳細は未来で。

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