2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第41話 ハードルは越えるものでなくくぐるもの

 

「で、あの時の雑用ちゃんと青雉さんが…何の用でここに来た?」

 

 偉大なる航路(グランドライン)を小舟で渡るという不本意極まりない偉業(いぎょう)を成し遂げた私は王下七武海のグラッジさんと睨み合っていた。

 

「王下七武海、悪魔の片腕 グラッジ。海兵殺し、の、容疑によりて、七武海ぞ称号剥奪及び討伐に参りますです」

「…ヘェ、そこにいる青雉さんがァ?」

「否定、私が」

 

 やりたくないけど、とてつもなく。

 

 そう言えばグラッジさんは度肝を抜かれた表情をしてフリーズすると大声で笑い始めた。

 

「ギャッハッハッハ!おいおい嬢ちゃん…海賊舐めてんのか?」

 

 声を大にして言おう。

 私じゃなくて本部が絶対舐めてる!初めて(level1)の討伐が七武海(level99)ってそりゃ無いですよ!

 

「生憎、と、私ぞは、大将女狐……覚悟を済ませるが最良……」

 

 そう言うと周りの空気がピリッと変わった。

 

「テメェが……は、海軍も頭どうかしてる……お前みたいなガキに俺が負けたら海賊やめてやるよ」

 

 確かにどうかしてるよね。分かる。

 

「こちらは剥奪と討伐にこちらにぞ向かいしたぞ?………負けて海賊やめるは普通ぞり、言語不自由?私となる者より不自由?」

 

 とりあえず反論してみた。負ける=七武海剥奪と討伐→つまりは海賊やめないといけない事になるじゃないですか……。あ、バカの子なのかな…。

 

「………あ゛?」

「そして、青雉のクザンさんに勝利する自信を所持しておるぞか?」

 

 そして問題はこれだよ。私は弱いけど、少なくとも不正無しでのし上がった現役の大将に七武海が敵うのか?それなら四皇にでもなってろよ。

 

「……んっ、とにテメェは腹の立つ存在だなァ……!」

 

 そう言って我慢の限界とばかりに立ち上がる七武海。本気は出さないでくれると有難いです死んでしまいます。

 

「バーカバーカ」

 

 私の語彙力に限界が現れた。

 

 あーーー! 怖いよー! もうここから海に向かってダイブして泳いで逃げちゃおうかなっ…、ダメだ泳いで偉大なる航路渡るとか絶対死ぬ。そんなの出来る人なんか絶対いない。

 

 私がこの場から生き残る道は、

 1、討伐(七武海なんか怖くない!)

 2、説得(お願いクザンさん変わって)

 3、雲隠れ(死んだ事にして消えちゃおう)

 

 あれ……どの道も死亡確率高くね?

 

「よし、お前死んどけ」

 

 あ、この人逆上させやすい。

 

「……」

 私は選択肢1を選んだ。どうせ逃げたって海賊王のクルーの血筋って事で殺されちゃう確率しか無いんだからこうなったら「私使えますよだから権力下さいね」アピールするしかないじゃ無い!

 

 もうこの場にいる事で戦闘嫌々言うのはあまりにも勿体無い!

 

 本当なら事務処理的な能力で発言力手に入れてツテを作るつもりだったのに。くすん。

 

「食らえ…っ!〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

 

──バキィンッ

──ドゴォォンッ!

 

「………………ウワァオ」

 

「ちょっとちょっとリィンちゃん…油断しないでくれよ…」

 

 水が爆発した。

 正直に言うと舐めてました。クザンさんが真正面に氷で壁を作ってくれなかったら体無事じゃ無かったと思う。

 

「周りは片付けといてあげるから集中しな」

「…………っ、……………はい……」

 

 周りだけじゃなくて七武海の方も片付けてくれるとすごーく助かるんですけど。

 

「なんで落胆してるのよ、何、雑魚も自分が片付けたかった? ちょっと流石にお兄さんにも仕事回してくれないと困るよ」

「…」

 

 いつも仕事サボって私が捕獲してるのを忘れてるのかこの人は。

 泣くぞ? 泣いていいか?

 

「もういっちょ、〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

「空気ぞ読めぇええええ!!」

 

 全力で横に跳んで水の塊を避ける。

 

──ボゴォォンッ!

 

 チートだよ!能力なんてチートだ!ルフィみたいにボロボロの残念(ゴムゴム)能力だったら良いのに!

 

「チッ、ちょこまかと……」

「やーい!私の如く雑魚に当てられないとなると七武海ぞも名ばかりぞね!」

「……殺すっ」

 

 湾曲した刀の鞘を投げ捨てるとグラッジさんは飛ぶように跳躍した。

 

「ざーこざーこ!」

 

──ブォンッ!

 

 真横に斬撃が飛ぶ。

 

 え、斬撃って飛ぶもんなの?

 

 ちょっと、私をいじめてくる大剣豪さん。斬撃って飛ぶもんなの?

 

「………で、誰が雑魚だってェ…?」

 

 あ、判断ミスったかも。この人私の想像以上に実力者だ。そして前世の常識にとらわれすぎた。

 (あお)って冷静な判断力を失わさせる私のちんけな作戦がぁぁぁあ!

 

「〝水弾丸(ウォーターバレット)〟」

 

──スピュンッ

 

 スピード重視の攻撃なのか指先から凄まじい水圧の水が襲ってくる。

 

──ピュンッ ピュンッ ピュンッ!

 

 連続で。

 

「ほんばじょぉぉぉおお!」

 

 目で追えないから水に捕まらない様に全力で避けていく。もちろん、勘だ。

 

「チッ……〝水大砲(ウォーターキャノン)〟っ!」

「ぃ……よいしょお!」

 

──ドパァンッ

 

 グラッジさんが思わず目を見開いてこちらを見た。何とかいけた。

 

 ここで少し復習をしよう。

 私は水を操る事が出来る。

 

 だから

 

「弾いた……?」

 

「フンッ」

 

 ドヤ顔で見てやる。

 集中して飛んできた大きめの水の塊を四散させたのだ。

 

 やるだけやってみるもんだね。

 

「能力者か……厄介だなテメェ」

 

 ミズミズの実は確か自然系(ロギア)という厄介極まりない能力。

 体が水と同化する、という特徴がある。

 

「………っ!」

 

 操れるか?ミズミズの実の体を。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

「だぁぁあ! 出来ぬぅう!」

「オラァ! 喰らいやがれ! 〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

 

 集中してやってみるけど出来ない、とにかく回避行動に移った。

 すっごいどうでも良いけどなんで技名叫ぶんですかね。手の内バレるし何より恥ずかしく無いの?

 

「またちょこまかと……!」

 

 ミズを操れなかった…。でも水は操れる。

 

 違う所、と言えば能力者の身体の水か能力者が放った水か。

 人間などの有機物、と言うより生命体。それらは動かす事が不可能なのは変わりない。ならば〝ルフィ〟では無く〝ゴム〟として扱ってみれば動かせれるんじゃないかと思った事もあった。つい先程船に酔ってる時に。

 

 だが残念ながら結果としてグラッジさんの発生させた水は操れる事が出来なかった。グラッジさんが発生させ終わった水、なら操れる事が出来る。

 体についているかいないか、かな。

 

 何とも微妙な線引きだ。

 

 だがまぁとりあえず理由も分からずパニックになる事は無いだろう。判明するのが七武海との戦いで判明ってのも中々、いや、かなりハードだと思うけど…───って今戦闘の真っ最ちゅ…

 

「オラァァァ!〝水素爆弾(ハイドロボム)〟っ!」

「うぎゃうっ!」

 

 考え事をして油断してたら水の爆弾に当たり身体が数メートルほど吹き飛ぶ。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

「どうだ女狐…!能力者に水は効くだろぅ?」

 

 グラッジさんがニヤリと笑う。

 

 くそ、集中するの得意になってきたけど周りが見えないくらい集中するんじゃそれは完璧弱点じゃないか。

 

「そう、だ、ぞね」

 

 能力者に水が効くのは確かだ。海水同様の力を発揮するんだから。でも私には普通に爆発の威力の方に堪える。

 

「っ、」

 

 やばい足が痛い。むしろ打撲後が痛い。

 歩けない事も走れない事もないけど痛むな。

 

「…次だァ!喰らいやがれ!〝水弾(ウォーター…)──」

「させるかァァ!」

 

──ボンッ ボンッ!

 

 足元の方に爆発を生み出して攻撃を阻止する。何の工夫もしてない小規模な爆発ならすぐに使える。

 

「チッ……爆発系の能…──って、なんで空飛べんだよ!」

 

 足代わりに箒に乗り上空を飛ぶと後ろに回った。

 

「行けぇっ!」

 

 箒から降りてそのままぶん投げる。

 

「なっ!」

 

 思い込みだよ思い込み、私は出来る。出来るのが当たり前、大丈夫私はきっと出来る、いや絶対出来る!

 

「っりゃあ!」

 

 箒に続いて走ると拳を握りしめ鳩尾に向かって殴りかかった。

 

「ぐっ…!───テメェ、武装色を…!」

 

 殴れた。実体を捕えれた。

 

 やったァ…。

 

「だがな…テメェの拳なんざ障害でも何でもねェんだよォォォォオ!」

 

──ボコッ!

 

「…っが、はっ!………っ」

 

 腹、腹痛っ、めちゃくちゃ本気で殴られまた吹き飛ばされた。武装色、で出来る黒い色は付いてなかったから覇気は使えないのかもしれないけど普通にめちゃくちゃ痛い。

 

 幼児虐待だよ…戦えない子供を戦える大人と対峙させる方針がもう分かんないよ…。うっかり政府に喧嘩売りそうで怖い。

 

「い……っつぅ……」

 

 現実逃避してもどうしようも無い。

 経験の差が、実力の差が激しい。

 

「っ!とりゃぁあ!」

 

 鬼徹を取り出し武装色を纏った。思い込み、思い込み。

 

───ブンッ

 

 実体を捉えた──ことは無かった。武装色が途切れてしまったんだ。

 

「は、雑魚は黙ってろ!」

「しまっ…!」

 

 振りかぶられたサーベルに絶望を感じたその時。

 

 

 

「お片付け完了」

 

 希望の声が聞こえた。

 

「そんで、リィンちゃん。これからどうすんのよ?」

「チッ、青雉……」

「因みに、俺は手伝わねェからな」

「……え…………」

 

 待って、今なんて?

 

「いいか、捕縛じゃ無い。そして俺たちは小舟でここにやって来た、牢屋が無い。────意味、分かるか?」

 

 つまり、殺す。

 

「…………」

 

 死という言葉が重みとして乗っかってくる。グラッジさんに親兄弟は?愛する人は?恩人は?師匠は?弟子は?

 そんな事考えると殺すだなんて到底出来っこない。

 

 

 

 この世界、ハードルは高いけど命の価値は低いんですか?

 

「殺されてたまるかよォ!〝水の剣(ウォーターソード)〟!

 テメェらも俺が殺した海兵みたいにしてやろうじゃねェか!」

 

 普通のサーベルだったのに水が高速で回転するようにまとわりつく。あれ、当たったら痛いどころじゃすまないよね。

 殺したくない。自己防衛か…罪悪感に押し潰されるのが嫌なのか。

 

 

 そうだ、分かった。私は自分が大事、自分の手を汚すのが嫌なんだ。

 

「………リィンちゃぁーん?聞こえてる?マズイよー…?」

 

 だから人に対して力を使えないんだ。ほんの些細な事でも人は死ぬって事を前から理解していたから。

 本能的に、少しの攻撃でも与えれなかった。いや、与えなかったんだ。

 

「テメェらまとめて死ね!」

陥没(かんぼつ)致せ……」

 

──ボコッ

 

 グラッジさんの真下の地面に穴が開き、思わぬ攻撃に抵抗する間も無く落ちた。

 

「なっ、うわっ!」

 

 殺したくない手を汚したくない。

 

 でも

 

「死にたくは無き」

 

 やっぱり自分が1番だから。

 

──ドバッ

 

 水が空気中から発生してグラッジさんが(はま)った穴に注がれる。

 

「能力者に水は効く……ぞりん?」

「テ、テメェ…………っ!」

 

 自分が生み出してない水は操れない、というのは悪魔の実大百科で確認している。

 

「グラッジさん、お疲れ様ですた」

 

 鬼徹くんを取り出す。

 

「腹立つんだよォ…テメェも…、()()もォォッ!」

 

 そしてそれをそのまま大きく掲げ振り下ろし─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の記憶はそこで途切れた。




えー、叶夢さん(リィンの母親)の事ですが、細かく突っ込まれるとネタバレが激しいのでご勘弁。

また、ネタバレになりますが叶夢さん達ロックス世代、というかロジャーかいぞの話も書く予定なので設定が地味に色々激しい理由も分かるはず、です。いつになるか分かりませんけど……。

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