2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第42話 正義と悪が行方不明

 

 七武海とは何割かの収穫を政府に納める代わりに海賊からの略奪を許された公認の海賊だ。

 彼等は政府と協力体制にあるものも、定期招集に応じないメンバーが多い。むしろ来る者の方が珍しいもので正直3人来ただけでも奇跡に等しい。

 

 

「本当に七武海はどうなっておるんじゃ……」

「テメェも物好きだな…海峡のジンベエ」

「そういうお前さんこそどうなんじゃ。クロコダイル」

「ハッ、違いねェな」

 

 七武海の縄張りの把握を目的とした定期招集に応じたのは今回も砂人間サー・クロコダイルと新しく七武海入りをした海峡のジンベエの2人だった。

 

「それにしても悪魔の片腕グラッジが海難事故、か。どーせ政府が揉み消したんだろうよ」

「否定しかねるのォ…」

 

 ジンベエが賛同すると気分を良くしたのかクロコダイルが薄ら笑いを浮かべた。

 

──コンコン

 

「お、お邪魔ぞ致するぞです」

 

 扉を開け、お茶を持ってきたのは見慣れた雑用──リィンだ。

 

「おお、リィン。1杯お代わり頼めるか?」

「よォリィン、どうだ?海賊になる決心はついたか?」

「お前さんはまだ言いよるか……」

「ジンさんどーぞです。クロノダイルさんは滅べ」

「ク ロ コ ダ イ ル 、だ」

 

 やる事を早々に終わらせた七武海の2人はこの少女との会話を楽しんでいた。

 最近は余った時間等を雑談として利用している。まあ対立して険悪な状態になるよりは幾分かマシだろう。

 

「そうだ雑用お前知ってるか?」

 

 クロコダイルがお茶を受け取ると同時に話し始めるとリィンは首を傾げた。

 

「何事ぞ?」

「──グラッジが死んだのは知ってるか?」

 

「……!」

 

 リィンの顔が一瞬にして変わった事を見て確信した。何かを知っていると。

 

 クロコダイルはエゴイストかつ現実主義者の策略家であった。故に、周囲の変化等に敏感だ。

 

「…………成程な」

 

 クロコダイルは答え合わせをするように口を開いた。

 

「お前の知ってる奴が殺したのか」

 

 抹殺の線が強くなった。

 

「く、クロキダイルさん葉巻とは美味(びみ)?」

「おい、露骨に話を変えるな、そういうのは連想ゲームみてェに微妙に変えていくモンだろうが」

「ふむふむ、具体的にどのように?」

「ん?あー…例には出せねェな、その会話の流れにもよるからなァ…」

「無理矢理強制的に変更は可能?」

「弱点を突けば可能だろうな」

 

「成程、納得。この様に会話の内容ぞ変更するのか」

 

 あ、と気付けばリィンは窓。

 

「ぐへへへへ!ジジとクザンさんのお陰様で脱出経路等は把握済みぞ!アデューお2人様!」

 

 何処からか取り出した箒を片手に飛び出そうとした時。

 

「50点。逃走するなら変な言葉使ってねェでさっさと逃げるべきだったな」

 

 砂人間となったクロコダイルがきちんとリィンの腰を掴んでいた。

 

「うぎゃあ!化物!」

「テメェもその化物と同類になれる実を食ってんだろうが。ほら、知ってる事さっさと吐け」

「わ、私ぞ雑用たる任務が存在する為故に!おさらばごめん!」

「さっさと吐けばいい事だろうがよ」

 

 ズルズルと引きずられながらクロコダイルの膝の間に座らされる。

 万全な警備だなこんちくしょう。

 

 リィンがそう怨みに染まっているとジンベエは呆れた表情を見せた。

 

「親猫と子猫ではあるまいし……」

 

 ただじゃれてるとしか思えなかった。

 

「で、どうなんだ?何を知ってるんだ?一体誰が殺した?」

「黙秘」

「ミイラにするぞ?」

「そういえばクロノダイルさんの右手は水分吸収可能であった、怖っ」

「よく覚えてんな」

「知らぬより知るが最良…、クロイダイルさんは他に何の力が使用可──」

「──で?誰が殺した?」

 

 普段仏頂面をしてるクロコダイルが気持ち悪いくらい爽やかな笑顔になった所でリィンは察した。

 

「(限界か………)」

「リィン…?」

 

 観念したのかリィンは口を開いた。

 

 

「私、ぞ……」

「「……は?」」

 

 七武海の声が揃った。

 クロコダイルは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、ジンベエは理解しきれないのか「何言ってんだコイツ」みたいな表情を浮かべている。

 

「嘘じゃねェだろうな」

「ま、誠…ぞ……」

 

 殺した数日は吐き気が酷く、食べた物を全て戻していた。

 更に数日経つと自分良く生き残ったな、と恐怖を覚えた。

 1週間も経つとあー助かったと安堵した。

 

 流石に殺すのは躊躇(ためら)われるし未だに怖い為人に向けて(魔法)を使う事は不可能だがトラウマになる事は無かった様だ。

 

「…………マジかよ」

 

 しかし最も危惧(きぐ)していた事が起こってしまった。手を下したのが自分だということがバレた。テンパっていた彼女には白状する以外の選択肢が浮かばなかったのだ。アドリブに弱かった。

 

「…………上の命令か?」

「肯定」

 

 クロコダイルは馬鹿では無い。むしろ七武海の中で一番の聡明さを持っている。

 この会話でリィンが何かしらの力を持ち、それを任されたという事は察せられた。だがそれ以上に思う所があった。

 

「……政府は…海軍は一体何を考えてやがんだ…っ!」

「クロ、さん?」

「こいつは……まだ5の糞ガキだぞ…!?」

 

 純粋な怒り。

 

「…? 空気中の水分が減っておるな」

 

 ジンベエがふと気付き呟いた。

 水分を減らす、つまり水を吸収する事が出来るのはただ1人。

 

「クロさん…? 怒って…?」

「当たり前だろ。俺が七武海でなければ、俺の計画が無ければ……センゴクをぶち殺したいくらいにな…っ!」

「…っ」

 

 本物の殺気に当てられ、リィンはビクリと肩を震わせた。

 

「……まさかこんな子供にそんな重い業を背負わせるとは、な……」

「……………辛かっただろ」

「(あれーー、正義と悪ってなんだっけー……)」

 

 うっかり七武海の方に入ろうかなとか思ってしまったリィンだった。

 

 

「わしゃてっきりそういった事は裏で動くと噂される女狐がやると思っとったわい…」

「あァ確かにな…。流石にこのガキが女狐って訳じゃねェだろうし…お前女狐について何か知ってねェのか?」

「(しまったぁぁぁあ!(雑用)じゃなくて(大将)にしておけば良かったぁぁぁあ!私のアホー!!!)何事も」

「………………わかったよ」

 

 今更ながら痛恨過ぎる判断ミスをした。後悔したって時は戻らない。

 

  人はそれを後の祭りと言う。




七武海のこの2人は比較的常識人だと思っています。→(訂正)全然常識人じゃなかったんやで。

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