「おお、起きたか」
目を覚ませば目の前にジンベエザメの魚人。
どうやら夢オチじゃなかった。
「おはようござりますジンさん…お茶ですか」
「まだ寝惚けておるんかお前さんは……」
いえ、おめめパッチリです。ただ現実逃避したいだけですから気にしないで下さい。
オトヒメ様に向けられた銃を庇った私は完璧気絶した、そして目が覚めたら目の前に七武海のジンベエさんがいる。そして奥にはシャンクスさんやクマさんやヤソップさんやルウさん。後残りのクルー諸々。
全体的な人数から見るに全員じゃないみたいだけど。
「ここは?」
「竜宮城じゃよ」
どうやら私は浦島太郎になった模様。
「まだ老けたく無いぞ」
「…? お前突然突拍子も無い事言い出すなよ、理解に苦しむ」
「そのまま苦しめもじゃもじゃ」
「口悪いぞリィン!」
ズキリと痛む左手には意識しないようにしてヤソップさんをからかう。正直意識したら痛みで死ぬ、めっちゃ痛い。いや痛くない、痛くないから気にするな、痛くない痛くない。あれ?そこまで痛くない?いや、やっぱ痛い。
「にしてもリィンとジンベエ知り合いだったの…」
「うむ、良くお茶を入れてくれるんじゃよ」
「てっきり関わりないと思ってたけど案外あるもんだなァ……」
「それはこっちのセリフじゃのォ、何故四皇と関わりがあったんじゃ?」
「ん?二年前くらいに拠点にしてた村にひょっこりこいつが現れたんだよ」
まるで私が放浪しているかのように言うのは止めてくれ。
「お茶くみなァ…まるで雑用だな」
「…? リィンは雑用じゃろう?」
「へ?大将じゃねェのか?」
今トップシークレットが放たれた。
本物の悪魔は実は優しそうな外見をしているのかもしれない。
「面白い冗談を言うもんじゃなァ…」
あ、察した。ジンさんって結構現実逃避多めな人だ。うんうん、そういえばグラッジさんが死んだとかのお話の時最初疑いの目を向けてたもんね。
「いやいや冗談じゃ…」
「冗談に決定ぞ〜!シャンクスさんはお茶目ぞな〜!あはは〜!」
「わざとらしっ」
うるさい老け顔。
「そうじゃな〜!全くいい歳の癖に少しは落ち着きというものを持たんか……」
「持てー!持てー!」
「ハッハッハッハー………────本当に冗談じゃろうな?」
「ほ、本当ぞ?第一こんな子供大将にするのならばそれなりに利点が無ければ出来ぬぞ。更には弱点となりうるのに出来るわけ無きぞ、です」
「ふむ、それもそうじゃな」
マジトーンに変わったからちょっとびっくりしたけどジンさんは納得した様に頷いた。セーフ。
『何故入れてくれないのです!』
すると扉の外から声が聞こえた。
『おどきなさい!彼女は私を庇ってくれたのですよ!?』
『然しオトヒメ様!あの人間は海賊です!もし何か有ったらどうするんですか!ジンベエ親分が尋問してくれているんですから少々お待ちください!』
『尋問!?そんな事をすれば人間と魚人の溝は深まるばかりです!早くおどきなさい!』
『ですが…──!』
『ならワシも入るんじゃもん。構わぬか?』
『ね、ネプチューン王!?わ、分かりました……』
思わずジンさんに視線を向けた。
「……ジンさん私尋問中?」
「……………………なんか、すまぬの」
ジンさんは私の言葉を聞くと視線を逸らした。
ジンさんに尋問する気が無いのは見てわかるしそもそも尋問しなくても私が海軍の雑用だってことは知ってるから意味無いよね。うん。
さっき
「入るんじゃもん」
扉を開けて入ってきたのは大きい人魚。ネプチューン王、って…扉の前で言ってたよね?まさかとは思うが国王?王妃も王妃なら国王も国王か。似たもの夫婦なんだな。
普通素性の知れない者がたくさん居る部屋に入ってこないから。
「おおジンベエ、久しぶりじゃもん」
「国王様、お元気そうで何よりです」
「ジンベエ…七武海に入ってくれてありがとう……国の事考えてくれてたのよね……」
「いやいや、儂は儂の尊敬する人の尻拭いを喜んでやっておるだけじゃわい!それに七武海になって嬉しい事に友人も出来た事じゃしのぉ」
嬉しそうに国王と王妃と会話する七武海。やだ、この海に不敬罪とかないの?絶対あるよね?
「まあ!お嬢さん…怪我の具合は?」
オトヒメ様がこちらに近寄って私の両手を握る。
「大丈夫ぞです…えっと傷の
「安心してくれオトヒメさん。悪運強い事にこいつは掠っただけだよ」
「…ホントに………良かった……………」
私が今現在どういう怪我なのか分からないからちらっとシャンクスさんに目を向けたらきちんと察してくれた。
そしてシャンクスさんの言葉にホッと安堵するオトヒメ様を見て私は思った。なんていい人だ。
いや、前世の常識からすると怪我したら心配するのが当たり前でしたけど、この世界に来てから心配どころかまだまだ甘いわ、と怪我を追加してくる様な人間が傍に 居すぎたせいで何故か感動する。
本当にこの人が無事で良かった。
非常識人は死んで常識人が生き残ればいいと思う。
「リィンさん…よね?貴女の勇敢さに私は…いえ、私
「たち?」
「えぇ…。これでも私はこの国の王妃、そして地上への移住の為の要でもあり支え……自意識過剰かしら?…でもそれは事実なのよね、人は…誰しも前を向けないから。私が先へゆく背中になって守らなければならないの…この国の人を。
もしもわたしがあの時死んでしまったら、しらほしは
オトヒメ様はポツリポツリと言葉をこぼした。国王のネプチューン様がそっと肩を抱く。
「でも、貴女が私を守ってくれたから!……この国は救われたわ、色々な意味で。ありがとうリィンさん……、これでこの国の人々は人間見る目がきっと変わる。人間を怨む方もいるかもしれない、でもその中でもあなたという人間が救いになってくれたから」
もう1度オトヒメ様は私の目を見て笑顔で言った。〝ありがとう〟と。
「…………私 自分本位な人間 …です。ただ、王族に恩を売ろうとしたのみぞです…───」
「……」
「──故に、気にするな!です!
オトヒメ様が私の事で気に病む必要など皆無等しきです!」
「…! ふふ、貴女は…とても優しいのですね」
確かにオトヒメ様は魚人島にとって必要不可欠な人間だろう。そして私は自分勝手に動いてしまっただけ。どうあれそれは変わらないし結果的に恩を売るようになってしまっただけだよ。
オトヒメ様が気に病む必要なんて全く無い。むしろ一瞬でも生贄として捧げてやろうかて思ったこっちが謝りたい!
というかこの人は自分の価値っていうものをちゃんと理解してるんだな。自意識過剰とかそんなんじゃ無くて、正しく自分を理解出来る人間が正しく人を引っ張っていける。
「儂からも礼を言わせて欲しいんじゃもん。感謝する…ありがとう」
「私の如き雑魚で一般人にお礼など勿体なきです!」
いや、正直な話王族にありがとうありがとう言われても胃がキリキリする以外何ものでもないからな!?
「そんな事言わないで、貴女は私達魚人島の救世主なんだから」
あの…話、
「いやいやそれなればシャンクスさんの方が」
「いや、俺は最終的に守りきれなかったからな…、お手柄だぞリィン」
「………」
「なんでリィンはお頭の事親の
「さァ…………」
四皇じゃなければ、四皇じゃなければ軍艦引き連れて総攻撃仕掛けてた…!
「リィンさん、良ければ私の娘や息子と仲良くしてくださらない?」
嫌です。
とも言えるわけが無い。
「も、ちろん…」
何と言っても王族、しかも王妃様というやんごとなき立場の方からの提案は断る方が無礼というものだ。
ヘヘッ、と自分でもわかる引き
上手くないよ畜生!
ほら見て、証拠に赤髪海賊(ルウさん除く)メンバーが私の心境に気付いて苦笑い浮かべてるから。
「私の可愛い子供たちは王子と王女ですからなかなかお友達が出来ませんの……」
知ってるよ、色々利用されたりと面倒臭いからね!
ん?砂の国のビビ様?あれは人類の例外だ。
「だからなんの見返りも考えずに私を庇ってくれた貴女ならきっといいお友達になれると思うの!」
見返り、は思い浮かんで無かったけど今思い浮かんだな。王族のツテ。
子供だからと油断しちゃダメですよ〜?王族様〜?
「は、はぁ……」
「────あの、お父様、お母様…」
扉の陰からぴょこりと淡いピンクの髪をしたおっきい人魚の子供が現れた。
後ろには3人の人魚も連なっている。
「どうしたんじゃもん?しらほし」
「リィンさん紹介するわね!この子達が私の可愛い天使達!」
「あ、お母様!ご無事で何よりです…私っ、お母様が撃たれたら、私っ…ふぇえええんっ!」
「し、しらほし泣くな!ほらアッカマンーボ!」
突然泣き出したしらほし姫様?をあやす人魚。いやー…まさかもくそも無いと思いますが王子様?王族大集合ですか畜生。
「悲しくなきですよ〜?あなた様のお母様はきちんと心の臓が活動中ぞです〜」
「あ、あなた様は…あの、お、おお母様も守っていただき、あり…あ、あの、ありが…とう、ございました……」
プルプルと震えながら目に涙を溜めてお礼を言うしらほし姫様。参ったなぁ、不敬罪ですか?これって泣かせちゃったから不敬罪ですか?もう胃が痛い、そもそも王族との会話に私がベッドの上にいてもいいの?
「きちんとお礼ぞ申すが可能で偉いですね〜…勿体なきお言葉、私もこの通り無事にありますからお気になさらずです」
「あの、お名前は…」
「申し遅れごめんなさいです。リィンと申しますぞです」
「リィン様ですね…私しらほしと言います」
「しらほし姫様、ご無礼お許し下さいぞりです」
するとキョトンとした顔をしてこっちを見てきた。なんだ、私の顔がそんなにおかしいか。
「リィン様はどうしてその様な口調なのでございますか?」
「「ぶフッ!」」
「シャンクスさんヤソップさん笑うなぞー!!」
私が横で見ている海賊に向けて怒鳴るとオトヒメ様まで参戦した。
「確かに普通と違った話し方をするのね……ふふっ可愛らしいわ」
思わぬ援護射撃に私は〝は、はぁ…〟とテンパる事しか出来なかった。何かもう精神的に限界超えてるよね。この喋り方不敬罪ですか。
「まぁ…!照れていられるのかしら?本当に可愛らしい救世主ですのね」
「と、ところでしらほし姫様は
「いえ、リィン様にご挨拶がしたかったので来ました…あの、ごごめいわく、で、でしたか…っ!」
「まさか!その様な事はございませんぞ!私如き人物に興味を持っていただけるとは、ありがとうござります」
私が営業スマイルを貼り付けてしらほし姫様の言葉を否定する。こういう時私日本人で良かったって思っちゃうよね。不敬罪じゃないよね?私さっきっからずっと不敬罪の事気にしてるな。
「あ、あの!」
いつも通り頭の中で脱線事故を起こしているとしらほし姫様が大きな声を出した。
「はい?」
「わ、私と…」
「しらほし姫様と?」
「あの……その……ふっ、う、ぇ……」
「落ち着きが大事ぞ。私は待ちますからゆっくりで無事なのでしらほし姫様のペースでお話ぞ下さい」
「リィン様…………。っ、…あの!わ、私と───」
「はい…?」
目に涙をいっぱい溜め込んだしらほし姫様が一生懸命と言った様子で叫んだ。
「───わ、私とお友達になってくれませんか…っ?」
答えは決まってる───盛大に嫌だ。
「あの。私、人間様はずっと怖いとどこかで思っていました!
で、でもリィン様は全然怖くなくて…優しくて、泣いてしまう私を責めること無くおしゃべりしてくださいました…で、ですから、お、お友達になり…たいと……思って…だ、ダメですか…?」
王族とお友達、なんて不敬罪で訴えられそうだし海軍本部に知られたら私の立場が危ない。絶対怒られる。
嫌だ、嫌だよ。
だって考えてみて。仏と言われるセンゴクさんが青筋立てて怒る姿を、サカズキさんが面倒を起こしたと熱いマグマ人間なのに周囲も凍る様な冷たい目で見る姿を。
「や、やっぱりダメですよね…ご、ごめんなさい」
「そ、そんな事無きです!お友達嬉しきな!わ、わーい!」
でも絶対これ断ると面倒臭い。王族の頼み事面倒臭い。断れない頼み事程面倒臭いものは無い。
「ほ、ホントでございますか!?嬉しいです!お父様お母様!私お友達が出来ました!」
「まぁ!リィンさんなら勿論大歓迎よ!」
そうすると空気になっていた王子がしらほし姫様の隣に来た。
「リィンさん。是非私とも友になって欲しい。長男のフカボシだ、ダメだろうか?」
「おれ達もー!リィンと友達になりたいラシドー!」
「いいか?なぁなぁいいよな!」
「も、もちろんー…」
わー、お友達たくさん出来たー…やったぜー………。
「どんまい」と言いたげに手を合わせてる赤髪海賊団の姿がやけに気になった。
魚人島後半のお話です。
犯人は原作と変わらず『人間』、ホーディがそれを言うシーンは省きましたが原作とほぼほぼ変わりないと思って下さい。そしてオトヒメ様が殺されるという混乱は避けたのでしらほし姫様はバンダー・デッケンに触れられるというイベントが回避されました。
魚人島編でどう変わっていくか、輪郭程度しか決まってませんが末永くお待ちください。
そしてこの後非常識人魚王族に1週間捕まってしまったリィンでした。