「………………はぁ」
「何ため息吐いてんだ糞ガキ」
「アラバスタ到着そうそう
「………お前今すっごく失礼な物言いをしなかったか?」
目の前にいらっしゃるオールバックの髪型に葉巻、流石に本部で何度も顔を合わせてりゃ誰かの判別くらいつく。
王下七武海 砂人間 サー・ロリコダイル先輩だ。
ここ最近拠点の一つとしてアラバスタに居るらしい。どこから私がこの国に来てると情報を得た。
「鳥野郎が言ってた情報は確かの様だな……」
貴様か
「ん?どうしたリィン、そんな死んだ目をしやがって。わざわざ俺が出迎えてやったと言うのに……」
やっぱり絶対七武海って仲良しだよね!?何でそんなしょうもない事で連絡取り合うの!?
「テメエは七武海の……!」
スモさんが警戒心MAXと言った様子でクロさんと睨み合う。クロさんはこれまた面白いといった様子で
──ボフンッ
スモさんの身体が煙に変わったのを見てクロさんが対抗して身体を砂に変える。
どんだけ攻撃くらってもダメージ無いんだから、もちろん武装色使えば意味が無いけど能力を消す事が出来ないんだし。
あれ?今何が起こった?煙?
「……」
もう1度見てみても煙に変化は無い。
「煙ぃぃぃい!?」
スモさんいつの間に悪夢の実食べたの!?あれ!?私の友情ってこんなんだったっけ!?私も人の事言えないけど隠し事はダメだよ!?
「え、い、いい、いつの、ま、スモさん!?」
「あ?コレをいつ手に入れたか?テメェが放浪してる時だ」
「心当たりが多すぎて……」
スモさんが私を無視してクロさんと対峙する。
「海軍本部で
ピキリとクロさんの額に青筋が浮かぶ。あ、スモさんも知ってたんだ。
「人を変態みたいに扱いやがって……!」
「………え?」
「リィン!その意外そうな顔をやめろっ!」
今日もツッコミが冴えてますね旦那ァ。
いや、正直クロさんはヤソップさんに負けず劣らず打てば響くから私の中でからかいがいのある人物ナンバーワンに輝いているよ。いずれ額も輝くだろうけど、抜け毛で。
「クロさん、私の顔を解放願い」
「何となく腹が立った」
「そっくりですね!
何でそんな雰囲気だけで苛立てるのか私には理解出来ないや。掴まれてる顔面が潰れない内に解放してくれて助かったけど。
「これから本部に戻るのか?」
「実はジェルマ王国に飛ぶ必要が存在して……」
「ジェルマっつーと
「肯定」
「……チッ」
王様直々のご命令だ。なるべく早めに行く方がいいだろう。
あれ、今思いついたけど行方不明になってもいいかな?
「…はぁ、ダメだろな…」
海賊王の子供探す為に色んな妊婦さんや子供をこっそり殺していった程なんだから。私が逃げられるはず無い。子供1人では生きていけるのにあまりにも無茶すぎる。
「…?」
「じゃあクロさん、私はこれにて」
「お、…う?
「………海賊にならない上に不安掻き立てる言葉は使用禁止です」
心と胃が痛くなった。
==========
「やぁ海軍大将殿」
「あの…一応最重要機密事項なので出来れば」
「あぁすまないリィン殿でいいか?」
なるほど、確かに噂通り〝国土を持たない国〟だ。と、感心する。
「王様に呼ばれるの感激です…それでも?」
「こちらとしては問題ない」
玉座などでは無くまず訓練場の案内されジェルマ国王様と挨拶を交わす。内心呼び方に恐れ慄いていると突然喧騒がリィンの耳に入った。
リィンより5か6か歳上の13くらいだろうか、と考える。
「紹介、といってもアレらは訓練してるから気付くか分からないが…我が子だ」
向かって右で体格のいい大人と戦闘している赤い髪でぐるぐる眉毛が長男のイチジ。続いて青い髪がニジで緑髪がヨンジでピンクの髪の子供が3人より3歳歳上の長女レイジュだ、と紹介された。
「(覚えやすい!今まで出会った中で1番覚えやすい!)」
めんどくさい名前が多いこの世界で少し感動を覚えた。
「(1,2,4…3が無いな……)」
呑気な事を考えていられる位には余裕が出てきたんだろう。荒療治が効いたと本人は知らない。
「お父様…その子は?」
ピンクの髪、レイジュが3人よりいち早く父とそして子供の存在に気付いて声をかけると兄弟達も訓練を中止する。
「は、初めましてリィンと申すです。言葉が苦手故、拙いと思うですがご容赦くださいです…」
兵士としての礼をしてみせれば国王であるジャッジは満足したのか口を開いた。
「色々と話すといい、歳も近い。これからの時代、お互い大切になっていくだろう……。分かったな?」
「「「「はいっ!」」」」
4人が元気に声を揃えるとリィンは笑った。
「(よく教育されてるなァ………ハハハ…)」
ただの苦笑いというやつだった。
「リィン…来て、私はレイジュ。お話をしましょう?」
「は、はいです…」
ふわりと微笑む少女はアラバスタの王女とは違う大人びた雰囲気を感じた。
「え、えへへ…」
つられて笑う。
少女趣味の人が見たらきっと鼻を抑えていただろう。
しかし少女趣味で無く同年代としてリィンを見る少年の心の中は自分達の姉以外の異性の存在に少々どころかかなり動揺していた。
「あ、お、おおい!」
ヨンジが続き、ニジがそれを追いかけると長男のイチジは頭をかきながらゆっくり歩いて近寄った。
「リィン、あなたはどこから来たの?」
「
「そうなの…私達はまだ1人で旅をしたり出来ないから羨ましいわ」
レイジュが笑う。まるで新しい姉妹が出来たかのように。
「それで、誰と婚約するの?」
「婚約!?」
「「「…は!?」」」
レイジュを除く4人が驚きの声を上げた。その様子を見てレイジュは首を傾げた。
「…? 違うの…?」
どうやら王族の女の子というのは頭が天然で出来ているのかもしれない。どこかの人魚の王女しかりどこかの砂の王女しかり。
「違うです…!普通にお呼び出しされたです」
「あら…残念ね…。ねェ3人とも?」
「それは無い」
「そ、そんなわけが無いだろう!」
「そっちがその気なら王族になるか?」
3者3様だが、目に見えてあきらかに肩を落としてる様にしか見えない。
「(ちゃんと愛は知っているのに……)」
姉は弟の様子を見てこっそりため息をついた。彼らは喜怒哀楽の哀が抜け落ちている。
「レイジュ様…?どうしたです?」
「……リィン聞いて。ずっと、誰かに聞いて欲しかった事があるの」
レイジュは口喧嘩をし始めた三兄弟を観察するように座るとリィンを隣に座る様指示する。
そしてずっと言いたかった事を口にした。本来こうすぐに話すことはダメだと思ったが年下で自分の父の紹介ということで気が緩んだのだろう。
「私達は生まれてからずっと兵器なの」
「へい、き?」
「えェそう……───」
血統因子の改造の影響で感情が欠けている事や自らの父の厳しい訓練内容。そしてもう1人の死んだ出来損ないで優しい王子、サンジ。ジェルマ66と呼ばれる軍隊、母親のソラの決死の判断と行動。子供を想う心。
全て──サンジを逃がした事も含め語った。
「(…胃が、胃がぁぁぁ…!)」
表情に出さずに胃を痛める事が出来た成長は日頃胃痛が絶えないからだろう。
……成長をこんなところで感じたくは無かったが。
「2人して何話してるんだ?」
イチジがリィンの目の前に座り2人を見た。
「私達ヴィンスモーク姉兄弟のお話よ」
「………話したのか?」
「えぇ…」
「それで?お前はどう思ったんだ?」
イチジはサングラスの奥でリィン1人を見た。
2人は予想した。『可哀想』だとか『酷い』など、言われる事を。馴れていると言えば嘘になる、だって自分達以外の子供に会ったことが無いのだから。
いつの間にか喧嘩をしていたニジとヨンジもイチジの後ろに立ち聞いていた。
「……羨ましい………です」
「…羨ましい?」
「はい、私、自分が1番大事です。
だから、自分を、大切な物や守るべき任務の時、敵に〝可哀想〟とか心配をすれば危なくなるのは私です……だから羨ましい。哀の悲しみが無いのは──大事な人が死んでも、無駄に悲しむなくて済むのは」
少しだけ、唇を噛み締めた。
色んな記憶が蘇る。──サボの、自分の兄の太陽の様な笑顔を。──初めて手にかけたグラッジの怨んだ顔を。
こんな気持ちになるくらいなら、喜怒哀楽なんて欲しく無かった。
失った物に囚われすぎるこの感情が、心から要らなかった。
「おれは、お前が羨ましい」
ニジがイチジを押しのけて座った。
「あれだけサンジを虐めても悲しまない自分が、悲しいという感情がどういうものなのか知らない自分が、モヤモヤした」
「……もやもや?」
「目の前が夜に変わったみたいに。何故か怒りは湧いてくるのに…悲しいという事が分からないんだ…教えてくれ、命とはなんだ?」
「……儚い物?失ったら後悔する物…?」
「後悔……分からないな。後悔とは、なんだ?」
「……ん〜…自分の体が、足りない様な気持ちになる、です」
首をかしげながら答えるリィンを見て今度はヨンジが言葉を紡いだ。
「足りない……それは、分かる気がする。体がうまく動かせないような……」
「…、皆さん。感情が無いのでは無く、感情に疎いのでは?」
「「「「…え?」」」」
「だって、哀は無くても愛はあるですよね?」
レイジュを除いて、3人が顔を見合わせると何故か納得した顔になり、コクリと頷く。ならもしかしたらあるんじゃないか、全ての感情が。
「ソラ様が飲んだその改造を阻止する激薬、1人にだけ効くとは思えぬです。だって四つ子だからです。きっと、なんらかの影響を与えてると思うたです……」
ただの憶測に過ぎない。果たして本当に感情に疎いのか分からない。でも感情は表裏一体だから、きっとあると信じた。何故なら──
「(あれ?喜怒哀楽の哀が無ければ無礼働いても恩赦とか情に流されるとか無いのでは無いですかね?)」
──人間冷静になってみれば思考回路はびっくりするほど変わるものである。
「(喜怒哀楽万歳、哀によって私は生かされてる。万歳!)」
羨ましいという気持ちはさらさら無くなった。早急に喜怒哀楽全てフル活用して欲しい。
「……リィン、私たちに感情を教えてくれ」
「へ?」
「……頼む」
イチジが、王子が頭を下げた。
「え、や、ま、まって、です。頭を、あ、あげ、上げて」
「私にも好き嫌いはある。好みの女を目の前にしたら妃に欲しいと想う感情くらいは」
「は、はぁ…」
「だから、サンジが死んだ時、嫌だった。虐める対象が無くなったからかもしれない、でもそれが本当か分からないんだ…──私は、きっと、サンジが、弟達が好きだから。血を分けた兄弟だから」
きっと彼らは完璧な人間じゃない、でも人間らしいところはある。
「承知したです、友として、力になりたいです」
少しでもいい、哀しみは分からなくても自分を必要と思う感情だけでも手に入れてくれれば自分の生存確認は上がるんじゃ無いかと期待して、リィンは勝手に友達枠に入り込んだ。
お前が先に友情を学べ。