2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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略して雑用です((


第56話 世界規模荷物情報配達雑務用員

 

 

 『ワンピースぅ?あるわけないだろそんな物!』

 『夢見すぎてんだよ!下民の癖に!』

 『ギャハハハハッ!』

 

「クソッタレが……夢も見ねェ様な腑抜(ふぬ)け共に、俺の夢を笑われてたまるかよ…!」

 

 一人の青年が拳を握りしめる。

 握った拳にはべトリとする赤黒く生ぬるい液体が付着していた。

 

「ゔ……っ、ゴホッゴホッ…!」

 

 足元に倒れているのは血を吐く人間が多数。その様子はどう考えても喧嘩をしたであろう打撲痕などが目立つ。──否、喧嘩では無く一方的な暴力かもしれない。

 何故なら立ち尽くす男には怪我の一つもないからだ。

 

「ゆるじ…て、ぐ……っぁあ!」

「ッるせーな…! この俺に喧嘩を売ったんだろ…っ!?」

 

 喧嘩っ早い男は更に苛立ち、地面に倒れ込む男を踏みつけた。

 このまま殺してしまえば腹の立つ事も無い。何発殴れば息絶えるだろうか。

 

 男はその拳を振り上げると──。

 

 

「お取り込み中失礼するです。南の海(サウスブルー)第七支部がどの方角かご存知です?」

 

 

 ──どこからとも無く現れた異質な女が混入した。

 

「どちら様ですか?」

「ただの美少女ですっ!」

 

 当然無視を決め込んだ。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ──時を遡る事十数時間前──

 

 

 

「…───もしもし」

 

 北の海(ノースブルー)にて感情指導(自己保身)をしていた少女が海の上で突然なり始めた電伝虫に苛立ちながらも受話器を取った。

 

 

『何でそんなに機嫌が悪そうなんだ』

「無事に帰ること可能な事態に喜びと、厄介事が現れるであろう電伝虫に絶望と、感情を教える事が大変に疲労と、想像以上に寒い…───だけです故」

『……思っていたより文句があるじゃないか』

 

 電伝虫から呆れた声が聞こえてくる。

 

『リィン、仕事だ』

 

 嫌です、と言いたくなった言葉を飲み込んだ。

 

「…せめて私が所有している永久指針(エターナルポース)の所を所望です」

 

 その代わりに出てきた言葉はなんとも難しい注文で、電伝虫の奥で少女の上司のセンゴクがため息をついたのが分かってしまう。

 

『場所は南の海(サウスブルー)第七支部、通称S(エス)-7(セブン)。そこの支部を治めるテッド大佐から書類を受け取って欲しい。MC(マリンコード)は使え、門兵とテッド大佐への合言葉は「お父さんにラーメンを届けに来た」だからな』

「何故ラーメン……。しかし南の海(サウスブルー)……遠いです。私を今どこだと」

『近くにリゾートがある。そこで少しゆっくりしても構わないから我慢してくれ』

「分かってるです…その書類はどれほど大事です?」

『お前の存在くらいには』

「…………うわお……………」

 

 己の海軍での機密な立場と出生=書類の貴重さにプレッシャーを感じて、胃が痛くなると上司は更に追い討ちをかけてくる。

 

『どこか街か人に聞いて場所は探せ』

 

──ガチャ…

 

 電伝虫が切られた事に寄って逃げ道も塞がれた。

 

「コミュ症辛い…、くすん」

 

 コンパスを片手に進路を南へ変えた。目指すは適当な島の適当な性格の人。

 

 

 

 

 

 

 

 ──現在──

 

 

 

 戯言に無視を決め込んだ男は、決して視線を合わせずに耳だけ動かした。

 

「(なんだコイツ……)」

「赤髪さん。ご存知です?」

 

 しかも自分に問いかけて来る、という。

 分からない、分からないがとても面倒くさそうな気はした。

 

「…その赤髪ってのヤメロ。四皇の名じゃねェか」

「あァ…………ショタンクスさん…」

「は?ショ、タンク…ス?」

 

 少し頭が足りてないんだろう、と思うだけで関わる気などさらさら無かった。

 

「で、ご存知です?」

「知らねェ……」

「そうです…、残念。じゃあ赤毛さん人通りの多い島をごぞ───」

 

「毛から離れろ!俺はユースタス・キッドだ!」

 

 キッドという男は頭をガシガシとかきながら怒鳴った。

 

「キッドさん、こんにちは。私リィンです」

「あーはいはい……チッ…めんどくせェ」

「酷い!そういう事は普通本人が居ない時に言うが正しきですよ!?」

 

 心底めんどくさいのかキッドは殴る気も失せた人間を放り投げるとスタスタと潮の香りがする方向へ歩いていく。

 

「え、ちょ…!」

 

 慌てて駆け出した少女は放り投げられた人間は無視する。どっちも酷かった。

 一応仮にも海軍所属している人間が無視をしていいのか。

 

「キッドさーん…おーい。無視は悲しいですよー?」

「バテリラ」

「ほへ?」

「そこがこっから近いリゾートだって言ってんだよ……糞ガキ」

 

 不機嫌そうに答えればついでにと方向を指さす。正直さっさと居なくなって欲しいのが本音だった。

 

「ありがとうございますです!」

 リィンが(きびす)を返しその方向に向かって行こうとした時、船の方向とはまた違うのを考えもう1度口を開いた。

 

「…チッ……、テメェはさっきの見て何も思わねェのかよ」

「へ?あの人達の事です?」

「そうだよ…!」

 

 自然と眉間にシワがよる。

 あの血塗れになった奴らは男の自分の海賊王になるという夢をバカにされ叶う筈ないと笑った、キッドにとって最高に相性の悪い相手だったのだから。しかし、その存在を無視されるのは正直思ってもみなかった事なので純粋に気になった。

 

「私に関係ぞ無いので」

 

 気にするんじゃ無かったと思えるくらいどうでもいい回答だった。

 

「どう考えるしてもあの人達モブです。故に、無視です。知らぬ存ぜぬ、これ大事。スルースキルはパワーアップ」

 

 目の前にボロボロの人間が転がっていようと表情変えずにスルーできるスキルを持ってるのは彼女くらいだと思う。

 

「っ……、なら、テメェは……」

 

 キッドは1歩ずつ距離を詰めてリィンの背にある岩に片手をついた。自分と岩の間にリィンがいる。

 いつでもぶん殴れるように、逃げられないように。

 

「……テメェは俺が海賊王になると言ったら笑うか?」

 

 双方の表情が動いた。

 

 キッドは眉間のシワはそのままに、リィンの目から見ると泣くのを我慢している子供の様に見えた。

 リィンは目を見開いた、キッドの目から見ると思わずビックリしている様に見えた。

 

「笑えない……です」

 

 リィンはすぐに表情を真顔に戻すとハッキリと言い放った。

 

「………そうか」

 

 ポツリと呟けば距離を置いた。

 

「(こいつは…他の奴らとは違ェのか……?)」

 

 彼は思ったよりずっと真っ直ぐ(バカ)なのかもしれない。

 

 

 リィンは笑っているが心の中で怯えていた。

 

「(笑えない…本気で笑えないよ海賊王とか…!)」

 

 本気で笑えなかった。海賊王の息子で更には海賊王を目指している子供()が身近に居たリィンとしては馬鹿にする云々(うんぬん)の前に「何でこんなあほぅばっかり…」とマジトーンで小言を言うくらいに呆れ果てていた。

 

 確かに偉大なる航路(グランドライン)を航海していけばひとつなぎの大秘宝(ワンピース)とやらも手に入るかもしれない。実際リィンはこの歳で偉大なる航路(グランドライン)を渡り飛んでいるのだから。

 

「(ひとつなぎの大悲報(ワンデッド)が沢山あるのになんで目指すの!?)」

 

 元よりこんな風に各地を飛び回る事など予想もつかなかった。いや、ついていたとしてもある訳が無いだろうとタカをくくっていた。うん、こちらは不可抗力だ。

 

 故に、自ら危険に飛び込むそのスタイルは全く共感が出来ず、笑えないのだ。

 

 やはり自分の周りは海賊王などの災厄がうごめいている。堕天使この野郎。

 

 

「キッドさん……?」

「支部まで送ってやる。ついて来い」

「え、嫌です」

 

「………は?」

 

 当然だとばかりに告げるとキッドは狼狽(うろた)える事しか出来なかった。迷ってるこどもに人が親切で送ってやると言われて断られる事例はそう多くは無いだろう。空気読まずな事から考えると他人が苦手というわけでは無いだろうに。

 

「あー…でも夜故にバテリラで1泊する事必要……?」

 

 

 ふと考えてみる。

 

「(私外泊は基本城だとか特殊な所で宿とかに泊まった事無いな………。六.七割は日帰りだし……。子供だけの入店って無理なんだろうか)」

 

 リィンの前世では確実にダメだ。家出娘だと思われて通報ものだ。

 この世界で通報しても繋がる先は 海軍という自分の所属している職場なのだが。

 

「…………。…やっぱり案内するしてです」

 

 控えめに〝キッドさんがいいなら〟と付け足すとキッドは林の中を歩いていく。

 

「船着場まではこっちの方が速い」

「……バテリラの方角はどちら?」

「…方角? さっき指さしただろ。そっちだ」

 

 再び指さす方向はキッドが向かう方向と逆。

 リィンは正直疲れたし宿で寝たかったのでため息を吐いた。

 

「…なんだよ」

「キッドさん、来てです」

 

 指をさした方向に向かってスタスタと歩き出すリィンを不思議に思う。

 海岸に向かって何をする気なのか。

 

「よっ、こいしょ」

 

 リィンは箒を取り出した。

 

「え…?」

 

 混乱する。それは混乱するに決まっている。何も持っていなかった彼女の手にいきなり箒が握られたのだから。

 

「乗って、です」

 

 あろう事かその箒に跨って後ろに乗れという。

 

「(あれか…?絵本とかにある魔法使いの真似か……?)」

 

 これだからガキは嫌いだ、有り得もしない出来事に夢見て、あほらしい。

 

「(でも、きっと俺も同じなんだろうな……)」

 

 有り得もしない伝説(海賊王やワンピース)に夢見ている自分。

 

「少しだけだぞ」

「少し…で可能かは距離とキッドさん次第です」

 

 意味のわからない事を言う。

 

「(俺次第…?)」

 

 疑問に思いながらも後ろに跨るキッドを確認すればリィンはゴーグルを装着した。

 

 風で目を傷めないように。

 

「う、ぉおっ!?」

「しっかり捕まるてです!」

 

 

 風を切る音が耳に入った。

 自分たちのいる島からグングン離れていく。

 

「いでぇ!っ、ちょ。テメェ少しスピード落とせ!おい!これテメェが操ってんだろ!?」

「え?なんと?」

「降ろせぇぇぇぇぇえ!」

 

 

 キッドは流石に予想出来無かった事態に、顔を真っ青にしたのだった。

 




初登場チューリッ…キッドさんです。
察しのいい人はこれから向かうリゾート地に原作で何があった所か分かりますよね!南の海バテリラですよ!
ちなみにリゾート地というのは原作で一切触れておりませんので私の想像上です!木を隠すのは森とか言いますしね!私の頭脳じゃこれが限界です!いやー!流石私!昔テストで学年最下位を取った経験が生かされていますねーーゴホッ、急に体調が……。

お騒がせしました。
これはアレです。深夜テンションというやつなんです。だって後書き書いてるの今3時だもん!夜の!

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