2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第58話 トラブル回避はお手の物?

「ほうき!」

「船!」

 

 朝から言い争いの声が船着場で発生する。

 

「だからー!ほうきが速いです!そしてお金を使う事無いです!」

「馬鹿か!あんなモンに2度と乗れるか!船一択だ!」

「スピード緩めるですからー!」

「ハッ!信用ならねェな…!」

 

 キッドとリィンが第七支部に行く方法で言い争ってる。

 キッドは腕を引っ張って船の方へ、リィンは箒を片手に海岸に向かって引っ張り合い状態。腕がもげそうだ。

 

「チッ、面倒くせェなァ!」

 

 キッドはリィンの腰あたりを掴まみ、俵担ぎ状態にした。

 

「2人な」

「離せぇえええ!」

 

 呆気に取られていたチケット配布の係員にベリーを渡すとスタスタと騒ぐガキンチョを無視して船内に入っていった。

 

 

「(ついて来なくて良かったのに)」

 

 

 今更後悔しても後の祭りだ。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ほれ、水」

「ありが、とう、です……」

 

 船酔いで瀕死状態になってるリィンに水を届けるとキッドはため息を吐いた。

 

「どんだけ酔いやすいんだよ」

「うるさいです……うっぷ…」

 

「あァ、ほら無茶して喋んな。俺に吐いたらぶん殴るからな」

 体調不良者にこの扱いは何とも解せぬものがある。

 

「能力者で良かったなァ…つーかお前陸からもう出んな」

 

「(酷い扱いだけど心配してくれてるのかな……?)」

 

「ったく、拾ってやったのが俺で感謝しろよォ?」

 

 正直な話1ミリも感謝したくなかった。

 リィンだって馬鹿ではない、方角を教えさえしてくれれば後は自分でどうにかなったのだから。キッドはリィンにとってお荷物以外何物でも無い。

 

「(災厄ッ……)」

 

 未来で再びこの災厄に見舞われる事の無いように願った。つまるところもう二度と会いたくない。

 

 

 キッドは体調不良のリィンを横目で確認しながら海を眺めて居た。

 遠くに何隻が船が見える。

 

 何が大航海時代だ、海は今日もこんなにも平和────。

 

 

──ドォンッ…!

 

 

 1隻の船が自分たちの乗る客船に突っ込んできたのが確認できる。

 船が傾く、悪酔いする。バランスを崩してリィンは転倒しかけた。

 

「っと、大丈夫か?」

 

 キッドがいち早く転倒に気付き抱き抱える様に庇ってくれなければ。

 

「大丈夫……じゃ、な……うっ…」

 

 

「…! 屑が…っ!」

 

 キッドの視線の先には刃物を持った人間が数人。如何にも(わる)ですという雰囲気を醸し出していた。

 

「はいどーも、そこの兄妹かな〜?海賊でーす金目のもんはさっさとお兄さん達に寄付してね〜」

 

 海賊と言った男達はニタニタと笑いながら近付いてくる。

 キッドはリィンを背中に庇った。いくらなんでも戦闘は出来ないだろうとふんで。もし出来たとしても今の船酔い状態なら動けないだろうと思い。

 

「……船に旗が無かったが?」

「あ?ンなもん客船襲う時にわざわざ付けるわけねーだろ!馬鹿かよ!」

 

 ギャハハ、と笑い出す男達を見てキッドは怒りを覚えた。

 

「掲げる旗もねェ…略奪しか脳のねェ奴らが海賊名乗んじゃねェよォォ!」

 

 拳を握りしめ無謀にも獲物なしで飛びかかった。

 

「(キッドさんは…弱くない……)」

 

 リィンは見聞色程正確では無いが自分だっていつも人外かと思えるくらい強い人を見ている。相手がどれくらいの強さかどうかくらい筋肉の付き方などで分かる。

 

 …赤髪海賊団のルウさん程不思議な(脂肪なのに動ける)体をしている人は見た事ないが。

 

 

「オラァ!」

 

 油断していた海賊に殴る蹴るの暴行を加えるキッド。

 少しの時間経過しか無いが仲間であろう男達と野次馬である客船の人間が甲板での喧嘩を目撃していた。

 

 

「ヒッ!」

「オイ、まだこんなモンじゃねェだろ海賊」

「わ、悪かった!悪かったから許してくれ!」

「悪ィな…俺はいい人じゃねェんだ、…っ!」

 

「死ねェ!」

 

 背後から刀を持った海賊がキッドに襲いかかる。

 

「ホーーー、ムランッ!」

 

 それを阻止したのはリィンだ。

 刀を野球ボールに見立て箒をバット代わりにして打った。狙い通り、刀はいきなりの予想しない衝撃に手から離れ海に落ちた。

 

「え…」

 

「おい船酔い女!テメェなんで大人しくしてられねェ!」

「こっちにも事情が存在するです!黙って背中預けるしてです!」

 

 よくよく考えればこれは海軍支部に向かう船。ひょっとしたら海兵の1人や2人乗っていてもおかしくは無い。

 キッドがさっさと戦闘態勢に入ったせいで出遅れているという可能性もあるんだ。

 

「(このまま傍観すれば立場がバレた時に責められる……!首が、首が…!)」

 

 自分の親が政府にどれだけ影響力のある人間だと分かってしまった以上。そして自分が不本意にせよ中枢の情報を掴んでしまった以上。海軍を辞めれば物理的に首が飛ぶことは間違いない…。

 

「足引っ張んなよ!怪我しても助けちゃやんねェからな!」

「笑止!それはこっちのセリフです!私の師達の意味不明さに比べればこんな海賊……あ、胃が…胃が痛く……」

「良くわかんねェがドンマイッ!」

 

 リィンは血反吐を吐きそうな訓練を思い出して胃を勝手に痛める。

 その姿になんだか知らないが同情したキッドだった。

 

 

 

 ──30分後──

 

 

 

「ゼィ…ゼィ…」

「ゲホッ……はァ…はァ…」

 

「なんつーか…しつこかったな」

「生命力がゴキブリと同類ぞ………」

 

 息を切らした2人が倒れた海賊達の中心で背中合わせに座り込んでいる。

 

 

 わぁ!と歓声が沸き起こる。

 いくら倒れたと言えども海賊がいる所には来たくないのか離れた所で客員が口々にお礼を言っている。

 

「ウゼェ……」

「ハ、ハハハ……」

「お前なんで能力使わなかったんだ…?」

「ヘェ?そりゃ人がいっぱい故に…」

「ふーん…」

 

 すると2人に近付く人影が一つ。

 

「……誰だテメェ」

「こんにちは、自分はこの先の第七支部の大佐でございます」

 

 キッドはイラッとした。

 

「遅いお出ましじゃねェか?」

「それは謝罪します。……ところでお礼がしたいので是非支部にお立ち寄り頂きたいと願います」

「オイ、ガキ…どうするつもりだ?」

 

 コツンと肘でリィンをつつくとリィンは口を開いた。

 

「リィンです!『お父さんにラーメンを届けに来た』です!」

 

 表情が一変した。

 

「……。おやそうでしたか!リィンよく来ましたね、お友達と一緒にお父さんの仕事場に来てくれるかい?」

「もちろんです!」

 

 正直、キッドは会話についていけなかった。

 

「は?お、おいガキ、こいつが会う予定だった父親か?」

「…はいです!」

「将校って大佐かよ……!つーかラーメンってなんだラーメンって!お前そんな物何も持ってねェだろ!」

「ラーメンは私の面倒見てくれてる髭のおじさんが持たせてくれた伝言の事ですー!」

「紛らわしい!」

 

 

 なんだかリィンと会って振り回されっぱなしだと思った。

 

 

 ==========

 

 

 

 ──南の海(サウスブルー)第七支部──

 

「遠い所からよく来てくれましたね」

「お父さんに会う為なら、大丈夫ですた!それに加えキッドさんが助けてくれたです!」

「そうですか!キッドくんありがとうございました」

「は、はァ………」

 

 ニコニコと表面上は父と娘の会話をするリィンと、この支部長であるテッド大佐。

 

「お父さん!おじさんからのお使いで来たです!お手紙あるですか?」

「あぁ、内緒の赤いお手紙の事ですね?」

「はい!04444のお手紙です!」

「…っ!そうでしたね、ちょっと待っててください」

 

 リィンが他人に分からない様にMC(マリンコード)を出せば表情が一瞬固まった。

 しかしすぐに表情を元の笑みに戻すと机に向かって行く。

 

「(流石、人の流通が多い第七支部の大佐……優秀な人を使ってるんだな…)」

 

「な、04444!?」

 

 その代わりにテッドの右に待機していた男が反応した。

 

「(部下は躾がなってないな……)」

 

「どうしたです?将校さん」

「っ、な、何でもありません……気の所為でした……リィンさん。どうぞ私の事など気にせずお父様とお話下さい」

 

 敢えて将校と呼ぶことによってMC(マリンコード)を知っているのが将校だと言う事を伝え、本物だから黙ってろ、と雰囲気を醸し出していた。どうやらきちんと伝わった様でリィンはこっそりため息をつく。

 

「リィン、ほら、これがおじさんへのお手紙だよ」

「わァおっきいねェ…!ラーメンの伝言はね。偶には帰るして店のお手伝い、って言うしてたです!」

「ハハハ…ちょっとそれは難しそうだな……。どうだ、久しぶりの父さんだ。少し話をしようじゃないか」

「はいです!」

 

 ここで会話を止めればあまりにも不自然。少なくともテッドは何年も娘と会ってない事になる。少しは久しぶりの再会を楽しまなければ怪しまれ、もしこの場に裏切り者がいる場合リィンが何かしらターゲットになる可能性があるから。それは何としてでも避けたかった。

 テッドは大将と情報の安全を

 リィンは自分の安全を

 

「おじさんは元気ですか?」

「髭のおじさんはとても元気です!いつも隣に住む犬の帽子のおじさんに怒鳴り散らすするですよ『物を壊すなー!』と」

「ハハハ、元気そうで何よりです。リィンは最近どうですか?」

「大変ですた…。赤いおじさんに怒られそうになったり青いおじさんに絡まれたり……」

「モテモテですねェ…」

「こんな事でモテるは嫌です」

 

 はぁーー、と深いため息をついたのを見て、少し可哀想だと感じたテッドはお菓子をすすめた。もちろんリィンは食いつく。

 

「お父さん流石です…私が甘い物好きを覚えていたですね」

「そりゃあ愛娘(まなむすめ)の事ですから」

 

 キッドが横でイライラし始めたのを確認したリィンは視線をキッドに変えた。

 

「キッドさんキッドさん、お菓子が美味しいですよ?」

「そりゃ良かったな」

 

「そういえばリィン。キッドくんはどこで知り合ったのかな?一人で来るとおじさんから連絡があったのだが…」

「──初めましてお義父さん娘さんを俺に下さい」

「ぶふうっ!」

 

 キッドの奇襲に思わず吹いた。

 

「何言ってくれてるですキッドさん!?(ボソッ)」

「仕返しに決まってんだろ糞ガキ(ボソッ)」

 

 きっと泊まる所でからかった(セクハラした)仕返しに違いない。

 

「(頭痛くなってきた………)」

 

「もちろんどうぞどうぞ」

「お父さんの裏切り者ー!」

 

「でもその代わり、キッドくんを海軍にくれませんか?」

「「は/へ?」」

 

 腕を組み替えるとテッドはハッキリ言った。

 

「その強さは逸材です。是非とも海軍の力になって欲しいと思っています」

 

「ヘェ…?海賊を海軍に誘うのか?」

 

──ガチャッ!

 

 ピリッと空気が変わると周囲に居た海兵が銃を構えた。

 

「……殺りてェようだな」

「(マズイマズイマズイマズイ……!何を抜かしてくれてんだよこのアホが…!つーかそんな戯言一つで即座に反応出来るここの海兵怖い!)」

 

 ふといいアイディアがリィンに舞い降りた。

 

──パンッ!

 

 その場で手を叩くと視線が一気にリィンに集中した。

 

「合格です」

 

 

 何言ってんだコイツみたいな視線が集中する。

 

「(うおーー…心臓バクバクする)──戯言(ざれごと)一つでも反応出来るならば父を任せれるです。父をこれからよろしくお願いします海兵さん。それでは」

 

 キッドを無理やり立たせ引っ張る様に外に出る。

 

 

 

 

 

 部屋に残されたテッドは深くため息を吐いた。

 

「(大将直々にお出ましとは聞いてないですよセンゴクさん……、こちらの胃袋潰す気ですか……にしても、あの少女が大将か……。船での戦闘に戦いなれしている様子は見られたがそれでもやはり自分の方が強い……、いや、怪しまれない為に力をセーブしたのか?そこまで計算出来る子供がいるとは……恐ろしい)」

 

 実際普通に船酔いで満足に動けなかっただけなのだがその場で訂正する人間は誰1人としていなかった。

 

 S(エス)-7(セブン)では娘に愛される大佐として印象深い話が広がったと言う。

 ……この噂が消えない限りテッド大佐に嫁は来ないだろう、アーメン。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あ、危な…かた……」

「おい糞ガキ。手ェ離せ」

「あ、ごめんぞ……です」

 

 リィンは腕を解放すると箒を取り出した。

 

「思ったんだがお前それどこから取り出して…」

「これ!帰りの船代!私帰るです!」

「はァ!?え、おい!」

 

 赤い封筒をアイテムボックスにしまうと急いで飛び立った。

 

「(リゾート地でゆっくりしたいけど……これ以上、これ以上トラブルにあってたまるかーーー!)」

「(っ、ガキの金なんて使えるかよ!)」

 

 

 もう二度と合わない様に祈るリィンと今度あったら虐めてやると誓ったキッド。運命の女神はどちらに微笑むのか。

 

 

 災厄吸収のリィンの願いが叶う事など奇跡に等しいが。

 

 




言葉、リィンさん勉強中なので読みやすくなってればいいな……。

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