2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第65話 告白祭り

 

 その男は、幼い頃『愛』を知らなかった。

 

 

 

 自分が『鬼の子』だからと他人と壁を作って、自分の殻に閉じこもった。

 

 

「はァ………」

 

 海楼石の錠が付いた手で自分の髪をくしゃりと握る。

 

 

 『いい名前だな!俺と結婚して子供作ってくれねェか!?』

 

 

「(ガキ相手に何言ってんだ…、俺は鬼の子で、あいつは俺の嫌いな海兵で……)」

 

 ただ自分の勘 これといった理由も無いけど。ただ傍に居た…そんな気がして。感覚だけで口に出した。

 

「(変態か)」

 

 後悔と呆れが混じったため息をもう1度吐く。折角の宴だと言うのに瓶を片手に海を眺めながら酒を飲む。

 

「(…あ、この酒………似てる)」

 

 ふと思い出した4人で交わした盃、あの時の酒の味は忘れられない。そばに居たのはルフィしか居ないけれど、この酒の味は辛くて辛くて幼い頃の自分には1杯が限界だったのを覚えてる。

 

「今じゃ瓶一つ楽々飲めちまうんだな……」

 

 一人呟いた言葉は誰にも聞かれる事無く波の音にかき消される──

 

「エース?」

 

 ──筈だった。

 

「女海兵…」

「隣座る許可願い」

「ハハッ、ンなのわざわざ許可取るのかよ」

 

 ポンポンと隣を叩けばおずおずと座る。

 

「お酒、1口頂戴」

「ん?ほら」

「……。っ、辛っ!…あー、やはり酒は飲む不可能……」

 

 独り言なのかブツブツ言いながら瓶を返すと海兵帽を深くかぶり直した。

 

「酒…飲めねェのか?」

「海兵の少女が飲むこと可能と?」

「……無理だろな」

 

──ガチャン

 

 ふと手についた違和感が無くなる。視線を落とせば錠が外れて海から解放されていた。

 

「え、鍵は……」

「ピッキング」

 

 針金片手に歯を見せて笑う姿が自分の弟のルフィに似ていていつもルフィを撫でていた様にぐちゃぐちゃともみくちゃに撫でる。

 

「なァ、リィン」

「……?」

「もしもさ、海賊王に子供がいたら()()はどうする?」

 

 海兵にじゃなくて個人に聞きたい。

 ずっと昔から探していた答えを。

 

「………手をとる」

 

「は?」

 

 返ってきた言葉は突拍子も無い言葉で理解が出来ず聞き返してしまった。

 

「どういう……」

「私!……ある海賊の娘です。海賊王の子供という子と同じく」

「…!」

 

 自分の方は見ずに海だけを見て語る姿を見る。

 

「(海賊の娘……?)」

 

「怖いです、いつ処刑されるか不明で。そのせいで厄介な人間に目をつけるされ、原因をぶち殺すしたくなる程に」

「お、おう…穏便にな」

「アハハ……。とにかく、私は手をとるして言う『大丈夫、私がいる』と」

 

 やっと自分の方を見て笑った。

 

「『生きる許可も意味も私が与える』って」

 

 手に暖かい温もりが伝わる。

 じんわりとした温もりが心地よくて、理解した。

 

「……生きてて、良い……のか?」

 

 声が震える。

 視界がぼやける。

 握りしめる手に力が加わる。

 

「当たり前」

 

 誰かに必要とされたかった。

 生きる意味が欲しかった。

 自分の存在を認めて欲しかった。

 

「おふくろの…、命を、食らってでも……生きてていいのか…ッ!?」

「それは──」

 

 ぺしっ、と額に便箋(びんせん)らしきものが当てられる。

 

「──本人に聞くしろ」

 

 慌てて受け取るとリィンは金色の髪を月で照らしながら降りていった。

 

「本人に聞けって……死んでんのにどうやって…──」

 

『愛する子供へ』

 

 便箋の表にそう書いてあって心臓がうるさく騒ぐ。

 

「(なんだこれ……)」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 私の愛する子供へ

 

 この手紙が届く時、あなたは何歳でしょうか。まだ子供?好きな人はいるの?それとも誰かの親になったかしら?もしかしたらおじさんかもしれないわね

 

 今私のお腹にいる私の愛する子供

 

 

 まずあなたの名前からお話しましょうか

 

 あなたの名前は私の愛する人が、つまりあなたのお父さんが付けてくれました

 誰にも負けない1番の子になって欲しいと願いを込めて。男の子だったら、トランプの名を。女の子だったら、他の国の言葉を

 貴方のお父さんの大切にしている、貴方の名前です。素敵でしょう?気に入ってくれてるかしら

 

 自分はセンスが無いからと仲間の力を借りてたらしいわ

 

 

 あなたのお父さんは偉大な人です

 

 私と彼の出会いはとても良いと言えるではありませんでした。お互い印象最悪、口喧嘩は多い、意見の衝突ばかり

 私は航海士として乗ったけれど『行くな』が効かない死にたがりでほんっっとに馬鹿

 でも真っ直ぐで皆の心を掴んで離さない。ずっと心に残るの

 彼は不思議な人だった。昔を知る人はヘタレだって言ってたわ

 

 彼が夢を叶えて命がもうすぐ終わると分かって、彼が自首すると言った時…とても悲しかった

 でも彼らしいから、私は止めたけど……私が先に折れた

 

 

 ねェ聞いて。私と彼の愛する子供

 

 あなたは私達の事で悩み苦しみ辛い思いをするかもしれない

 でも一人でもいいから大切な人や仲間を、私達の事なんか気にしない人を作って、愛を持って、自由になって。誰よりも自由な人間に

 

 

 

 幸せに 生きて

 

 

 愛しているわ

 

  ポートガス・D・ルージュ

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 思わず手紙を握りしめた。

 

 隣に人影は無い。だから1人だけど、弱くて脆い自分を晒せた。

 

「いる……大事な家族が…ッ、オヤジもダダンも…クソジジイも…兄妹も…!白ひげ海賊団でちゃんと生きてる…ッ、おふくろ……ありがとうございます……!」

 

 暫く涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「ガラにも無く綺麗事言ったぞ……」

 

 自分のイタさ加減に羞恥心が生まれてくる。つらっ。

 

「お嬢、どこ行ってたんだ?迷子か?」

 

 この船には唯一、黒髪の着物を着た女の人がお酒を片手にやって来た。

 

「エースの所、錠を外すた!です!」

「あれ?青雉が予備は無いって言ってたのを聞いたんだが……」

「ピッキング」

「お嬢は鍵要らずか。便利だな」

 

 頭を撫でられて思わず目を閉じる。

 女の人なのにカッコイイとかずるいと思う。イケメンだとか美人だとかの判別は分からないけど性格イケメンは羨ましい。

 

「イゾウさん、サッチさんは?」

「お前……サッチはやめておけよ?あれは獣だ獣」

「目に見えた獣より隠れんぼした獣の方が危うき」

「…………よく分かってるな」

 

 斜めを向いて呟くイゾウさんはどうやら納得する所がある様だ。

 

「優しさを疑うしろ、外面に騙すされるな」

「お嬢の将来にホッとしたらいいのかその歳でそれに気付いた事に同情すればいいのか……」

 

「リィンちゃんとイゾウどうしたよそんな所で宴に似合わない雰囲気出しちゃってさ」

「おー!サッチさん!」

「おォ、(サッチ)

「おい待てイゾウ。リィンちゃんに何か吹き込んでは無いだろうな」

「吹き込む要素が無かったから安心してくれ」

 

 その場に現れたサッチさんに向かって突撃すると抱き上げられた。

 

「結婚すて下さい」

「お断りします」

 

 渾身のプロポーズが振られてしまった。

 

「お嬢、どうしてサッチだ?ほら…エ、エースとかマルコとかオヤジとか色々いるだろ」

 

 結婚相手の選択肢に四皇が交じるとか怖い。

 

「サッチさんの料理が好み故に」

「やっべえ俺ちょっと揺らぎそうになった、落ち着け俺、相手は幼女だ」

「あー…料理人には嬉しい言葉だろうな。お嬢、ロリコンには気ィ付けろよ」

「手遅れ」

「そうか手遅れか………手遅れ!?」

 

 自覚なしロリコンがクロコダイルさんでもう色々アウトなロリコンがドフラミンゴさんだと思ってる。恋愛感情だとか本人達が持ってる持ってないは無視にして第三者から見るともう手遅れだろ。

 

「そういやエースどこいったんだよい?」

「よォマルコー!」

 

 サッチさんが器用に私を抱えながらマルコさんの肩に手を回す。

 

「エースになんか用があるのか?」

「2番隊隊長の事について相談がな」

「え?は?あいつ2番隊隊長になんの??」

「オヤジと前に話してたけど今日決めたんだよい」

 

 驚くサッチさんを軽く流すとさっきまで私がいた所からエースが降りてきた。と言うか就任についてマルコさん何も言ってないのに察せれるサッチさん便利。

 

「あれ?錠が外れてる」

「お嬢がピッキングで外したんだとよ」

「…………便利だな」

 

 サッチさんまで同じ事を言うとは。

 

「エース!」

 

 マルコさんが手を振って名前を呼ぶとエースはこっちに向かってやって来た。あー、ちょっと目元が()れてるな……。手紙渡すタイミング間違えただろうか。

 

「マルコ……」

 

 エースがいきなりマルコさんに抱きついた。

 

 

 え……?我が兄にそんな趣味があったの?

 

「!?」

 

「イゾウ……」

 

 マルコさんに抱きついたかと思ったらイゾウさんに抱きついた。

 

 待って怖い。一体手紙に何が書いてあったわけですか。

 

「サッチ……」

 

 今度はサッチさんに抱きつこうとしたからサッチさんに抱えられてる私はさっさと避難した。あ…「ぐぇ…」サッチさん苦しそう。

 

「リィン……」

「私!?」

 

 今度は私に来たかと思うと抱きつくんじゃ無くて手を握って来た。

 

「知ってたのか?」

「………」

 

 拾った人、つまり私宛の手紙には多分ルージュさんの名前が載ってたから多分エースに渡した手紙にも名前が載ってたんだと思う。

 ……、海賊王の子供の事か。

 

「うん」

 

 頷くとエースはキッと表情を変えた。

 

「もし。さっき言った子供が俺でも、意見は変わるか?」

「変わる事は無い」

 

 お互い立ってると当たり前だけどエースの方が背が高いから見上げる形になるからちょっと怖い。

 

「俺、白ひげ海賊団に入って良かった。お前が、来てくれて良かった」

 

 うん、私白ひげ海賊団に入ってないけどそれは関係無いのかな?

 

「……あの、えー、す?」

「俺お前の子が欲しい」

 

 私の中で何かが切れた。

 

「……………………………………何故(なにゆえ)

「おふくろはクソ親父と幸せだったんだろうなって手紙見て思ったんだ、命懸けて俺を産んでくれて。ちょっとだけどクソ親父が羨ましくなった」

 

 どーにもシリアスそうな真剣な顔で語ってるけど。要はそれでその生贄(いけにえ)に私が選ばれてしまったと?

 

「…………ほォー」

「だから孕んでくれ!」

 

 私さ、もうそろそろ爆発してもいいですか?お前が話してる相手何歳だと思ってる?

 あれだよ、学生服来た人がランドセル背負った少女に孕めってどこの犯罪者だ。あ、海賊って犯罪者か。

 

「言うはしないと決めるた…………」

「ん?」

「…………エース、1度サカズキさんに胸突くされて死ね!もう1度生まれ変わって来るしろ!」

「…ッな!」

 

 冷めた目で見てやるとエースは肩をビクッと震わせた。

 

「お前は」

 

 足をかけて転がす。

 

「誰を」

 

 地面に押し付ける。

 

「相手にすると?」

 

 足で顔の横の甲板を踏みつける。

 

 

「そりゃ、海軍大将で………」

「否定」

 

 はっきり言ってやると目がブワッと見開かれる。

 

「…………そのように薄情とは思う無かった」

「え?は?」

 

 

「リィンちゃん?エース?ど、どうし…」

「サッチさん黙る」

「はい!」

 

 

 やってられるか。やってられるか。

 サボならまだ許す。まだ許せた。1度目だから。

 2度目だぞ!?なんで私を忘れてる!?

 

「………………皆にチクるぞ」

「へ?皆?」

「エースはー!5歳の頃ー!おねしょをすたー!」

「おい待てぇぇぇぇ!」

「エースはー!6歳の頃ー!怖くて眠る不可能とー!泣きていたー!」

「なんで知ってるぅぅぅ!ちょっと頼むから黙ってくれ!」

「ある時はー!虎に追われー!」

「お前ほんと黙れ!」

「ある時はー!フェヒ爺にコテンパンにやられるしたー!」

「なんでフェヒ爺知ってんだよ!?」

 

 まだ気付かないのかこのアホが。

 何が火拳だ、犬じゃ無くて鳥だろ鳥頭。

 

──ザクッ

 

 鬼徹を取り出して足と逆の甲板に突き刺す。

 

「……………この刀に、見覚え………あるぞりね?」

 

 

 

「………」

 

 私がそう言うとエースは面白いくらいに顔面蒼白になった。

 

「ま、さか………」

 

「サッチさーん、お腹空きたぞです」

「え、あれ…あの、エース放ったらかしで良いのか?」

「良いです。鳥頭は放ったらかしするです」

 

 私が大声を出したせいでいつの間にか周囲には他の隊長と思われる人が来ている。あ、カエルの王子様…たしかハルタさん?

 

「ちょ、マルコこれ一体どういう状況?」

「こっちもさっぱりだよい……」

 

 踵を返して食堂の方に向かおうとする。

 あーあ、エースの嫌いな海兵になった妹ってのは悪役かな。いや、悪役に抵抗は無いけど流石にキレる。白ひげさんとマルコさんの前で格好付けなければ良かった。

 

「…ッ、リー!」

「…!」

 

 背中に圧迫感と重量間が加わって普通の人より高い体温がじんわりと伝染する。

 

「悪かった…、俺、お前」

「……エース」

 

 声からちゃんと伝わってくる。

 

「久しぶり」

 

 振り返れば泣きそうな顔してるエースと目が合う。

 

「リーーーー!お前っ、ジジイに誘拐されたとかフェヒ爺が言って、まさか、女狐とか思ってなくて…ッ!馬鹿野郎、何で連絡一つ寄越さねェんだ!」

「……素直に忘却(ぼうきゃく)彼方(かなた)にぶん投げるぞ行動に移すた」

「言えたことじゃないけど忘れんな…!」

「ほ、本来なればエースは私の名前出す時にぞ察する事が可能ぞ!?何故!?私の何が悪きと!?私はリー以外にきちんと名前存在すてるぞ!?」

「変わりすぎてるお前が悪い!俺は悪くないだろ!普通、普通そう思うだろ!?」

「な、第一!自分の出生の一大事さ理解するしてる癖して隠す努力を何故せぬ!?私がセンゴクさんに掛け合うしなければここに乗り込むするは他の大将ぞ!?ルフィの父親の写真と引換に頑張るすた私を褒めるすて!?」

「あァ褒めてやる!褒めてやるけど叱ってやる!つーか兄に向かって手錠かけんなよ!鬼徹ぶっ刺すなよ!」

「ンだと!?」

「やんのか!?」

 

「お前ら落ち着けよい…ッ!」

 

 マルコさんにひっぺかざれて私はサッチさんに、エースはイゾウさんに捕まえられる。

 

「サッチさん離すて!私は武装のみで1度鈍器でエースを殴るという使命ぞ存在すてるぞりんちょー!」

「何言ってんのかわかんねェけどやめろ!」

 

「イゾウ離せ!放浪家出娘に1度教育をだな!」

「ロリコンも大概にしろよエース!」

 

 

「エースのぶわぁぁぁか!」

「リーのあぁぁぁほ!」

 

「ガキかよい……」

 

 

 

 その後正座で説明させられました。

 

 

 

 

 




シリアス?私がシリアスで終わらせれるとでも?

後半に行くに連れてリィンの口調が昔の口調に戻っていってるのは口調に意識を回す努力を忘れているからです。そうなると正確に意図を理解できるのはエースとサボ(幼少期)しか分からないでしょうね!

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