2度目の人生はワンピースで   作:恋音

78 / 278
東の海編
第71話 冒険の夜明け


 あの日から10年。

 この場所で麦わら帽子を受け取り、返すと誓い、もう10年の月日が流れた。

 

 麦わら帽子を被った少年は小舟に乗って村の人達を見回した。

 

「しししっ、いってくるな!」

「無事に帰ってくるのよルフィ」

 

 ルフィ──そう呼ばれた少年はまだ見ぬ海の向こうに期待を込め、出航した。

 

「見てろよシャンクス…!俺は海賊になるんだ!」

 

 先に海を出た兄妹、彼らに再び海で出会える事を祈って。

 

 

「やー…」

 

 ドテッ、と小舟に座り上を見ると太陽が顔に当たった。麦わら帽子で隠れて見えなかった左目の下に付いた傷が照らされる。

 

「今日は船出日よりだな〜」

 

 呑気な言葉が出た。

 カモメが悠々と空を泳ぎ、雲は大きく膨らむ。

 パンみたいだと思ってしまった、食欲は偉大なのだから。

 

 

 

 

 

 

 ルフィが出航した港の側の店に数人の人影、今日この日までルフィ達を放任主義ながらも育ててくれた山賊だった。

 

「やーっと行ったかい、清々するね」

「でもでもお頭〜、涙目じゃ二ーですか?」

「うるさいよバカタレ!」

 

 背の低い男がお頭のダダンにツッコめば拳が頭に返ってくる。痛みで目に涙を溜めながらも仲間達と笑い、先行く素直になれないお頭の後ろをついて、アジトに戻るのだった。

 

 彼らは今頃海の上にいる子供の事を思い浮かべた、うるさいのがいなくなるが少し寂しいと思いながら。

 

 

 

 

「海賊王に、俺はなる!!」

 

 その誓いは誰にも聞こえなかったが、誰もが知っている誓いだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ふんふんふふーんふんふふーん」

 

 おっす!オラリィン!

 やっと海軍本部を抜ける事が出来たのがルフィの出航予定日、いやー、間に合ってよかった。

 

 高すぎたら視界的に自分が死ぬのでガサガサと森の木々を避けながら低空飛行する。しばらく来ていなかったけどコルボ山の地形は何となく覚えていてもう少しで懐かしい山賊のアジトが見えてくるはず。

 

 

 最近海軍本部はスモさんが東の海(イーストブルー)のローグタウンに行ってしまったし七武海皆忙しそうで嬉しい事に暇だったんだよね。スモさんが居なくなったのは本当に悲しい。今度会いに行こう絶対。

 

 

 

──プルプルプルプル…

 

 頭に乗った電伝虫が誰かからの連絡をキャッチした。

 今度は誰だ。

 

「もしもし」

『……………リィン、海軍辞めたって本当か』

「あら、クロさん。誠の事実ですぞ」

『俺の所に来る気になったか?』

「クロさんちなみにそのセリフ本日6回目」

 

 ちなみに1番はドフィさんで2番がミホさん、3番海賊女帝に4番ジンさんで5番がくまさんだ。

 ジンさんやミホさんには驚いたけど断ったよ。条件に合わないし。海賊女帝に至っては命の危機しか感じられないから全力で拒否させていただいた。

 

 

 『私、本日海兵辞めるです!』って雑用部屋の人達に言ったらガチで泣かれた。私ったらモテモテ……。はぁ…。

 

 

『お前が海軍本部に来てもう10年か』

「長いですねー」

 

 話に集中しそうだから仕方なく箒を降りる。徒歩かー、後もう少しだし頑張ろう。

 

『将校に付く前で良かったな。そもそも能力者は入隊10年でどこか将校にならなきゃならなかった筈だ』

「うげ、何ですその束縛法」

 

 ここに来て衝撃の事実。

 昔『海賊王の子供がいるかもしれないから気を付けとけよ』的なのを総帥に言われた日黄猿であるリノさんに言われた『後もう少し』ってのはこの事だったのかな。

 

 余談だけど私がまだ海軍本部に属している事を知ってるのはセンゴクさんと大将中将さんとスモさんヒナさんくらいだ。後は王様とか以外知らないと思う。……必然的に七武海の中で唯一世界会議(レヴェリー)に参加出来るドフィさんは知ってるんだけどね、正体。

 

『…? 今森か?』

「はい、里帰りです〜」

『……襲われないように気を付けろよ』

「妙なるフラグ建設禁止」

 

 コルボ山タダでさえ猛獣多いのにこの人は。

 

「クロさん最近忙しい?」

『寂しいか』

「全く」

『……テメェ…!』

 

 ハッキリ言ったのに怒られた。いやハッキリ言うから怒るのか。

 

「ここ1年ほど会うして無きですよ?」

『お前も忙しかったらしいじゃねェか』

「……ドフィ(ストーカー)さん情報ですか」

 

 七武海嫌い。

 

 グチグチいいながら進んでいくと久しぶりに見るアジトが見えた。

 多少違いはあるが基本変わらない姿に懐かしさを覚える。

 

「クロさん私目的地到着故に切るです」

『……あァ。俺ァ今アラバスタに居るから暇があれば寄ってけ、ご馳走する』

「素敵愛すてる」

『………………お前本当に大丈夫か?』

「ご飯をくれる人は素敵です」

『究極に心配になるから知らない奴にほいほい付いて行くなよ』

 

 クロさんは心配症ですね。そんなに優しくて海賊稼業やっていけるんだろうか……。口に出したら絶対殺される。

 

「それではまた」

『あァ』

 

──がちゃ…

 

 電伝虫の受話器を本体に取り付けると電伝虫をアイテムボックスにしまう。()()()()()を深く被り、扉の前に立つと咳払いして声を大きく張り上げた。

 

「こちら海軍本部の大将である!ここで海賊王の息子を内密に育てる重罪を犯したという事実は裏付けられている!無駄な抵抗をやめ速やかに投降しろ!」

 

 私がそう言えばアジトの中でドタバタと慌てた声と足音が聞こえ、扉がそっと開いた。

 

「………あ、あたしらはガープの奴に言われて無理やり…!」

 

 自分より背の高い、記憶にある姿より老けた彼女を見て思わず笑みが零れる。

 あの頃と違う。

 

「………あんた、まさか……リー?」

 

 でも変わらない金髪を揺らしながら笑った。変わらないおかしな言葉で。

 

「ただいまご帰還ぞり、ダダン!」

「脅かすんじゃ無いよ糞ガキ!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「じゃあリーは本部で働いてたのか」

「うん!センゴクさんからの頼みで(世界各地)色々な場所へと配達すたぞ!」

「……海兵もやるじゃ二ーか、リーのおかしな言い方をここまで直せるとは」

 

「……。本日は大変とお日柄よく皆々様お元気な様子で安心いたすました」

 

 嫌味ったらしく(私が)王族に使うセリフを考えて喋れば、おおー!と感嘆の声が漏れた。私だって考えればちゃんと喋れるんだぞ!?ただ考えてない時に「ぞ」とかおかしな言葉が出てくるだけで…、慣れって怖い。

 ちなみに正しい喋り方だとは一言も言ってない。

 

「ったく、大将だなんて驚かすから寿命が1年減ったね」

 

 会話に参加しなかったダダンがむくれて呟く、私は即座に一つのカードを取り出して提示した。

 

 

『海兵証 リィン

 MC04444 階級 大将』

 

「本物ですが?」

 

「「「「「な、何ィィィ!?」」」」」

 

「ところでルフィは?」

 

 驚く声を無視して本題に入ると数拍置いてダダンが答えた。

 

「もう出たよ」

「何ィィ!?」

 

 どうやら今度は私が驚く番の様だ。

 

 ていうかいつの間に!?私海から飛んできたけど船の陰とか全く無かったよ!?どうして!?え、まさか反対側だった!?

 でもフーシャ村には港は一つしか無いし海に接してる面は一つしか無かったし…。なにあの子雲隠れの術とか使えるの?忍者かよ。

 

「止める無ければ…」

 

 奴が暴走する前に止めなければ。

 

 ルフィは10年前とても弱かった。弱いけど暴走癖があるんだよ!奴を一人にしてたまるか!

 

「ルフィの目的地は!?」

「そんなの誰も分からないさ」

「そうですた!彼はそういう人ですた!」

 

 停止の言葉を無視し、休憩なしの連続飛行に泣きながら箒に飛び乗った。

 

 

「くたばるなヨー」

「誰だあんな汚い言葉使い教えたのは…って飛んでる!?」

 

 とりあえず権力という武器を最大限に使って『麦わら帽子を被った目の下に傷のある青年』の情報を集めよう。この近くの支部ってどこだったかな…。流石に海賊志望の人間が支部のある島に訪れる可能性は低いけど(わら)にでも(すが)る。

 と言うかルフィは常識に当てはめたらダメな存在だと思う。

 

「さらばぞダダン一家!また逢う日まで無病息災ヒャッホーで!」

「色々おかしい!」

 

 私はどうやら久しぶりに会えた人達のせいでテンションが上がってる様だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 同時刻、リィンの探し人である青年は早速問題を起こした後だった。

 

「ルフィさん、ルフィさん」

 

 ピンクの短い髪がルフィの視界に入る。

 

「どうしたんだコビー?」

「改めて、ありがとうございます。ルフィさんのおかげで勇気が出せましたから」

 

 短く返事をすれば小舟の上でコビーと呼ばれた少年がヘラっと笑い感謝を述べた。

 

 つい先ほどまでコビーは海賊の船に居た、2年ほど前に自らのドジで海賊船に誤って乗り込んでしまった事からずっと航海士兼雑用として。

 自分の夢である海兵になるということも諦めかけていたその時、渦に巻き込まれたという麦わら帽子を被った青年が自分の人生をひっくり返した。

 

「気にすんな!」

 

 そもそもルフィ自身は出航のすぐ後、大渦に巻き込まれ、樽で流された先で偶然助けただけに過ぎない。

 

「俺も助けてもらったしな」

 

 ししっ、と歯を見せて笑う姿にコビーは更に好感を高める。

 

 本当にこの人は自分にとってヒーローだ。

 

 ルフィも又、コビーに好感を持っていた。

 きちんと自分の夢を語り、本人が怖いと思った船長…ただのいかついおばさんだったが、喧嘩を売った。『──1番イカついクソばばあです!』

 その瞬間からルフィはコビーに対する認識を改めていたのだ。

 

 海賊王を目指す男と海軍大将を目指す男、敵対関係であるのに友人という不思議な関係を生み出したのは自由奔放なルフィだからこそ出来たのかもしれない。

 

「そう言えば今から行くとこどこだっけ?」

「シェルズタウンですよ、そこに海軍支部があるのでそこでお別れです」

「そっかー…頑張れよー?」

「はい!もちろんです!」

 

 コビーはふと思った事を口に出した。

 

「……ルフィさんもしかして弟さんか妹さんがいるんですか?」

「ん〜?いるぞ〜?よく分かったな!」

「なんとなく、そう思っただけです」

 

 頭をかきながら照れたように笑う。ルフィはそんなコビーを見ながら自分の兄妹を思い出した。

 

「妹だけじゃなくて兄ちゃんだっているさ。エースにな〜良く言われてたんだよ…『ルフィお前は兄ちゃんなんだろ!?泣き虫は卒業しろッ!』…って」

「ルフィさんが、泣き虫ィ…?」

 

 コビーが信じられないという目をしてルフィを見ればあっけらかんと言葉を続ける。

 

「まぁな!皆先に海に出たから俺も頑張らないとな〜…、元気にしてるかな〜」

「ルフィさんのご兄妹ならきっと元気で──」

 

 コビーは再び思考を巡らせる。

 さっきルフィさんは自分の兄の事をなんと言った?

 

 とても聞き覚えのある名前にブワッと目を見開く、震えながらもその名の正体を聞いた。

 

「ままままままさか…え、エースって白ひげの2番隊隊長の火拳のエースじゃ……」

「白ひげ…?火拳…?」

 

 残念な事にルフィは海に詳しく無い。新聞だって好んで見る事が無いのだから、白ひげや火拳の名前に覚えなど無かった。

 

「さァ?わかんねェや!」

 

 能天気、お気楽。そんな言葉がコビーの頭を掠めたが口に出さずグッと我慢した。

 

「……この人これから先、生きていけるんだろうか…」

 

 色んな意味で心配になった心優しき少年は代わりにこっそり呟く。

 

 どうかこれからルフィさんがいい仲間に出逢えます様に……。

 

 

 

 

 敵を応援する彼はどうも根っからこの性分なんだろう。

 




原作開始です。ここまで長かった!皆さんお付き合いありがとうございます…!
またこれからもよろしくお願いします!

アンケート結果(最終)
1位ロリコ…クロコダイル

しかしタグにもあるように恋愛要素は所詮薄味です。あまり甘々なのを期待しないでくださいませぇぇえー!
たくさんのご協力ありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。