2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第78話 嘘つきと泥棒の始まり始まり

「(おかしい)」

 

 この屋敷の主であるカヤと1人の執事が消えた屋敷では手のひらで眼鏡を上げる癖のある男が気付いてしまった。

 

 カヤお嬢様が居ない事に。

 

「(何故だ…、昼間のウソップくんの話はお嬢様を含め誰1人信じていなかった…。なのになぜ消えた…!)」

 

 カヤを見つけなければ自分の計画した暗殺計画はご破綻、この気に消すつもりだった自分(C.クロ)とクロネコ海賊団も消せなくなってしまう。

 

「(一体誰が……ッ!)」

 

 どの道探さなければならない。

 使用人全員が消える2日後で無いとタイミングが悪いというのに。

 

「(選択肢を全て失う様な奇妙な感覚…、どうやら相当出来る様だな、向こうの詰み手は───)」

 

 どうにも嫌な汗が止まらない。

 このまま現状維持などしていたら取り返しのつかない事になるだろう。

 

「おや、クラハドールさん?おやすみですか?」

「いえ、月を見ながら少し散歩でもしてみようかと……ついでに()を浴びたい気分なので」

「この時期は少し暑いですからねェ…おやすみなさいませ」

「………えぇ…」

 

 腹が煮えくり返りそうな程怒っている筈なのに、頭が冷えている。

 男は〝猫の手〟という愛用の武器を肩に下げると北の坂道に向かって音もなく歩いていった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ルフィ達3人はリィン達2人とはまた違った意味で苦戦していた。

 

「ちくしょう……やるな麦わら」

「くっ…お前こそ!」

 

「苦戦した台詞吐いてるけどお互い寝ただけだからな、お前ら」

 

 クロネコ海賊団のジャンゴの手によってルフィジャンゴの2人は寝てしまっていたのだった。

 

 

 お互いマヌケ故の結果だろう。ウソップは怒りたいのか呆れたいのか泣きたいのか分からなくなった。自分の意思に協力してくれるのは感謝してるが自分は頼る相手を間違えたのかもしれない、と。

 

「おい恐らく常識人ゾロくんや」

「恐らくも何もこのアホに比べりゃ俺だって充分すぎるほど常識人だ」

「俺たちでこの人数を相手して、ルフィの手網を握れると思うか、俺超逃げたいんで逃げてもいいか?」

「アホか」

 

 ゾロは一呼吸置いて自分の後方に居るウソップを見た。

 その手には刀が握られており一応敵を斬り伏せていく。

 

「テメェは何のために戦ってると思ってんだ…俺1人でも充分だが、手伝え」

「うるせーよ!お前そんな化け物じみた戦闘力持ってんなら手柄はくれてやるからソロプレイしててくれ!」

「もう一つ。ルフィの手網は恐らく誰にも握れねェ……………でなけりゃ苦労はしない」

「〝鉛星〟!──全部の元凶はクラハドールだ。くそぅ…!」

 

 このマイペースな船長と化け物をまともに相手するのを早々に諦めたウソップは鉛玉を物陰から撃っていく事にした。きっとクラハドールもこいつらが倒してくれるだろうと期待して。

 

「(震えが止まらねェ……!)」

 

 会話により解れた緊張も完璧に、とはいかず足を叩きながら必死に恐怖を押し殺した。

 村の人間が海賊を見るのが初めて?ならばこのウソップたる男も初めてだ。

 

「(とにかく、少しでもいいから敵を倒す…!)」

 

 しかし彼の凄い所、震えながらも未だ撃ち漏らした敵が居ないのだ。

 それは敵が自分に近寄る事を恐れるが故の産物か天性の才能か分からないが、少なくともルフィもゾロもウソップも無傷。 ラスボス(クラハドール)との戦いまでに敵戦力を潰したいのは山々だった。

 

「ゾロ!ウソップ!」

 

 ルフィがパンパンと服を叩くと拳を固め忠告する。

 

「──下がってろ!」

 

 シュッ…、空気を切る様な音が聞こえる。ゾロは何やら巻き込まれそうな気がして慌ててウソップの所まで下がった。

 

「〝ゴムゴムの乱射銃(ガトリング)〟!」

 

 手が増えた!?ってか伸びた!?

 

 所々でそんな声が聞こえ、ゾロは思わず叫んだ。

 

「最初から真面目にやれ!」

 

 この場でこの現象を理解しているのはルフィを除き、ゾロ1人。

 

「お、おい、アレなんだ!?」

 

 指をさしながら説明を求めるウソップにゾロは頭をかきながらも彼の持つ悪魔の実の能力に付いて簡単に説いた。

 

「化け物の船長はもっと化け物か…、どーりで崖から落ちてもピンピンしてる訳だ」

 

 クラハドールの作戦を盗み聞きしていた時、ルフィは十数メートルの高さから落ちてもいつの間にかケロッと復活していたのだ。ゴム人間と分かり納得する、人間辞めてるな、と。

 

「ちなみにリィンも悪魔の実の能力者らしい」

「あいつは何人間なんだ?」

「俺は分からねェ、本人に聞け」

 

 ただ空は飛んでたな、と付け足せば思わず遠い目をした。

 

「(流石に同情してしまうぜクラハドール………。うん、どんまい)」

 

 ウソップ1人ならともかく偶然にもルフィ達4人がいるこのタイミングで計画がバレてしまったクラハドール、運が悪いとしか言いようが無い。

 

「よ〜しっ!ゾロ、ウソップ、これ終わったけどどうすりゃいいんだ?」

 

 船長代理もルフィ相手では風の前の塵に同じ。早々に着いた決着を見てウソップは思わず深く息を吐き出す。

 

「リィンの奴に指示を仰げりゃいいがあいつら船内にいるからな…。とりあえずここで待っときゃいいだろ」

「こいつら牛耳ってんのはリィンか…」

 

「まだ、暴れたりねェ!ちょっとリーに聞いてくる!」

 

 ズンズンと船内に入っていく後ろ姿を見ながら2人は腰を下ろした。

 

 

 近づく気配は未だ気付かない。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──クロネコ海賊船船内──

 

 

「お二人共お願いします!」

 

 海賊Aがクロネコ海賊団船の番人、ニャーバンブラザーズと呼ばれるシャムとブチにその場を譲る。

 

「(……いい歳した大人が猫耳って恥ずかしく無いのかな…)」

 

 ポリシーなのかもしれないが正直言ってクソダサい、リィンは雑魚海賊やニャーバン兄弟(ブラザーズ)を見て思った。

 いわゆる一種の現実逃避だ。

 

「(しかも構え方、構えが猫…、恥ずかしい!絶対恥ずかしい!)」

 

「鼠が入り込んで何をしてたのかな〜?」

 

「かニャー?…ん゛んッ、関係の無い事ぞ!」

 

 目が合えば鳴いた。

 

「……。えっと、リ、リィン…?」

「…………」

 

 思考が猫に変わっていた為漏らしてしまったリィンは気まずい雰囲気に耐えられずナミの後ろに隠れた。痛恨のミスだ。

 

「(相手は女2人、しかもまだ子供。()()()()必要は無いな)──ブチ!」

「おおともよ!船内だから威力半減、〝キャット・ザ・フンジャッタ〟!」

 

 騙し討ちや相手の武器を盗むのを得意とする策略家であるシャムと、パワーやジャンプ力を生かした戦いを得意とする武闘家であるブチのコンビが2人をおそう。

 

「きゃあッ!」

 

 戦闘面に関してはナミより経験の上なリィンが服を引っ張り場所を移動させると2人の居た場所にヘコミが出来る。

 

「(相手は全力が出せないからこの程度…、大丈夫、この程度、この程度……でもやっぱり怖!)」

 

 流石に世界最高峰(王下七武海)と比べれば赤子同然だが怖いものは怖い。ナミを盾にしながら必死に策を練る。

 

「あ、ありがとうリィン…、ほら!さっさとやっちゃいなさい!」

「 無 理 」

「諦めるの早いっての!」

 

 慌てるナミと様子を伺うニャーバン兄弟(ブラザーズ)に1割の意識を裂き、残りの9割で数人の海賊相手に一瞬で片を付ける結果を考え出す。

 

「お、お姉ちゃん…リー、怖い、です…(巨体の方に攻撃を任せるという事は油断している証拠、なら、もっと油断させて…)」

 

 誰も虫けら相手に全力など出さない。ならば…、リィンはある物体をアイテムボックスから取り出した。

 勿論、相手に見つからない様にナミの後ろでだ。

 

 

「───お姉ちゃん…お姉ちゃん…お姉ちゃん…お姉ちゃん……」

 

 若干トリップしているナミの後ろで。

 

「くらえ!」

「ひぎゃあッ!」

 

 ブチの爪の生えた手から繰り出される攻撃をナミを盾にしながら必死に避け、タイミングを伺う。

 時に引っ張り、時に押し、時に転ばせ。

 

「お姉ちゃん…お姉ちゃん…うん、お姉ちゃんに任せて…リィン!」

 

 不安ではあるがナミが戦闘態勢に戻った、キッと睨みつけ棍棒を握りしめる。

 

「…ッ!」

 

 海賊達の視線や意識がナミに向いた瞬間、リィンのターンだ。

 

「(眠れ…!)」

 

 取り出した物体──エーテルを霧状にすると急いで風を生み出す。

 

「ぐ…!」

「なん…ッ、だ…」

「意識が…!」

 

 一瞬にして海賊達の意識が飛ぶのを確認するとほくそ笑む、ナミの後ろに隠れ怯えていた表情とは雲泥の差だ。

 

「ハーッハッハッハ!甘い、甘いわ!実力を思い知るしたか!ミホさんから逃げる為に用意すた物がここまで効くとは思う無かったがな!」

 

 ちなみにミホークはこの薬品が使われても剣圧で吹き飛ばしていた。

 その時は思わず泣いたものだ、としみじみ思う。滅べ平穏をぶち壊す七武海。

 

「ナミさん、(盾になってくれて)ありがとうございますた」

「気にしないで……!もっと頼りにしていいのよ!さァ!お姉ちゃんの胸に飛び込んで来なさい!」

 

 ウェルカム、と両手を広げるナミ。

 

 戦闘前後のナミの態度の変化に気付かない程鈍いわけではない、ただ事実に蓋をして更に固定して偉大なる航路(グランドライン)にぶん投げた。

 

「さァ!金品を回収し得てルフィぞ元へ!」

 

 その豊満な胸に飛び込むくらいなら筋肉質のルフィやゾロに飛び込む方が無駄な絶望を味わう事が無いと判断したリィンはさっさとUターンする。

 

 

 

 

 

「……。」

 

──ペタン…

 

 手を己の胸に当てても感じられない弾力にそっと目を閉じる。

 

「(爆ぜろメロン)」

 

 目尻に光る何かが流れた。

 

 

 ==========

 

 

 

──キィンッ!

 

 金属がぶつかる音。

 

 手に付けられた猫の手と3本の刀が鍔迫り合いをする。

 

「まさか計画を一から十まで全て潰してくれるとはな…!」

「ハッ、怨むならテメェのそのお粗末な脳みそを怨め」

 

 ひと心地ついたゾロとウソップを襲ったのは怒髪衝天したクラハドールことC(キャプテン).クロ。

 腹を少々斬り裂かれたがすぐさま応戦しこの状態を作り出した。

 

「うおらァ!」

「遅い!」

 

──ギィンッ…!

 

 力に関してはゾロが上だがスピードに関してはクロの方が1枚上手、かろうじて防いでいるだけで一向に攻撃を当てられない。

 

「(クソッ、こんな奴に苦戦してる程度なのかよ…俺は!)」

 

 剣の頂点を目指す男にして見れば屈辱な事この上ないだろう。

 

「(速ェ…!)」

 

 ウソップから見れば凄いことに変わりない。

 村を守る為なのにただ傍観しているだけの自分が歯痒く、拳を握りしめた。

 

「(狙撃は援護の花道…!ここで助けないで何が狙撃手だ!)──ゾロ!そいつの動きを止めてくれ!」

「…! ……分かった!」

 

 少し迷ったが頷き刀を構え直す。

 

「止める、だと?この速さに付いていけぬお前が出来るとでも思ってるのか…!〝杓死〟!」

 

 クロはダランと脱力したと思えば先ほどのスピードとは違いならないレベルの速さで動き回り出した。

 

「(追い付かねェ…!)」

 

 姿が消える程のスピード。ただ本人は何を斬っているのか分からないので地面に倒れた味方や船にも傷を作っていく。勿論ゾロにも。

 

「…クッ!」

 

 己の身一つで守るのでは無く3本の刀で守っているので薄皮数枚斬れる程度だがそれ以上にプライドに傷が付く。

 

「(気配を捉えろ……瞬間移動してるわけじゃねェんだ…、心を鎮めて、気配を探れ…!)」

 

 ゾロは深呼吸を繰り返し目を閉じた。

 

 こんな所(最弱と言われる海)こんな奴(隠退した海賊)に負けてやるつもりは──一切無い!

 

「そこだ!」

 

──ギュインッ!

 

 近づく気配に向かって刀を振るえば確かな手応え、再び猫の手と刀が交じりあった。

 

「やれ!ウソップ!」

「必殺!〝火薬星〟!!!」

 

 ウソップの放った玉がボウンッ!と派手な音を発し爆発した。

 

「…ッ!」

 

 予想外の攻撃にクロはダメージを受ける。

 その隙を見逃す程、ゾロも甘くは無い。

 

「〝虎──狩り〟!」

 

 ついにクロは決定的なダメージをその身に受け、甲板に倒れた。

 

「はァ…、ッ、ブランク3年のこいつに苦戦するとは……」

「お膳立てされて命中…ハハッ、何が援護だ。ダメだな、俺は」

 

 純粋に勝利を喜べず2人は苦い顔をしたその時、呑気な声が耳に入る。

 

「あーーーー!悪執事!俺がぶん殴りたかったのに!」

「いや…ルフィがこちらに来るが悪いぞ…」

「フフフッ、お宝と現金大量大量ッ!」

 

 どうやら暴走ルフィとリィン達が合流したようだ。怪我が無い事を確認して張り詰めた空気が四散する。

 

「俺の獲物〜…うう〜…」

 

 早速甲板の敵の亡骸(まだ死んでない)を漁りに行ったナミとクロを見て苦い顔をするリィンと暴れ足りず拗ねくるルフィ。

 

 そんな5人を島の上からこっそり見守る人間がいた。

 

 

 

 

「クラハドール…ッ」

「お嬢様…」

「カヤさん……」

 

 カヤとメリーと3人の子供達だ。

 

「本当に…彼は海賊なの…?」

 

 彼女にとって3年間の記憶は偽りと思えず、ポロポロとただ涙を流し続けていた。

 

「ウッ…ッ!…!…ゔ……ッ、ふ…!」

 

 

 

 

「ウソップさんこの人なんという名前ですたっけ?」

「んァ?えーっと、確か()()だったか?」

 

「そう…クロ…クロさんと申すか……」

 

 何となくリィンの胃が小さく悲鳴をあげる。

 

「(オールバックにクロとか何、イジメ?死ぬの?胃が痛いよ?泣いていい?)」

 

 その瞬間ピクリとクロの体が動いた。

 

「ッ、の…私が……負け、るなど!有り得ない!負けてない…!」

「うわぁぁあ!まだ生きてる!?!?」

 

 ゆっくりだが起き上がり、目の前にいたウソップは思わず尻餅を付く。どうやらクロは無意識の状態で未だに戦おうとしているらしい。

 

「負け、無い…!計画が…!一体何、の為に!3年も、あの小娘に…ヘコヘコしたと…ッ!思ってるんだぁぁああ!」

 

──キュポンッ

 

 緊迫した雰囲気に似合わ無い音がリィンから発せられた。

 その手に持つのは油。

 

 そこらから何やってんだと言いたい視線が飛ぶが本人は知らぬ顔。頭の中では某3分で出来る料理BGMが流れていた。

 

「じょ、う、は、つ〜〜!」

 

 ブワッと油特有と臭いが広がればリィンは数歩ずつウソップを連れて下がっていく。

 

「ウソップさん、火薬、ボーンっと」

「は?え?火薬?……えっと、か、〝火薬星〟……!」

 

 

 

 

 

 

 きっちりしたオールバックがアフロになっていた、と(のち)にウソップは語った。

 

 




原作と違う展開。
姉はいるけど妹がいないナミの変化。
哀れクラハドールの髪の毛。

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