「あーーー」
あれから約半年後。
そう、半年経った。
「にゃん……でじゃ…」
目が覚めてガックリと肩を落とした。
何故なら──。
「まひょ…つかえにゃ…」
口に出してみても現実は変わらないどころか思いっきり現実が突きつけられる気がするけど。
──リィンさん、実は魔法が上手く使えてません。
使うって意識すると体の血の巡りが変わってるのを自覚するんだけどドバーッて力を出そうとすると意識が途切れる。
どうにもこうにもならない…多分使えてるんだと思うんだけど!半年間ずっとチャレンジし続けて半年間ずっと成功しない!
うわー…私ってば才能の無駄遣い…。
「しっぱいにょ、しゃいのーだけどにゃ!」
そうそう、あれからこんな感じだけどきちんと喋れる(?)様になったんだぜー!進歩だろー!
「リー、朝飯」
「しょくす!」
「食すじゃなくて食べる」
「た…たぶ!」
「た、べ、る!」
「た、び、う!」
何故かおかしな発言になって、エースとサボに毎回直されるけど。
「たびゅー!」
「たべる!!」
上手くいかないものだ。
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「リーの成長は著し過ぎやしないか?あたしの経験ではこんなにコミュニケーション取れるガキは見たこと無いね」
ダダンさんが食べながら隣でぶつくさ言う。
皆さん聞きました!?コミュニケーション取れてるって!嬉しい限り!
涙の訓練──主にブツブツ言ってるせいで周りから変な目で見られる所──の甲斐があったってもんだよ。
努力って素晴らしい。
滅多にやりたく無いけどね!
「そりゃリーは俺の妹だからな!」
へへーんと胸を張るエース。図体が小さいからか可愛いな、ちくしょう。
「サボ…きょーはてめぇらなにごとしゅる?」
「ぶふっ!…ゴホッゲホッ!」
米が舞った。空を。
あれ?なんか変なこと言ったっけ?
「リー……いや、俺たちが悪かった。相手を呼ぶ時〝お前〟とか〝てめぇ〟とか呼んでた俺たちが。いいかリー。てめぇらじゃなくて2人とかにぃに…とかにしなさい」
「サボ……あんたどさくさに紛れて洗脳するんじゃ無いよ…」
「兄馬鹿ばかりで二ーか」
口の中に入ってしまったご飯を片付けて反復してみる。
「ふ…ぁい」
「ふた…」
「にぃに。」
エースが私の「2人」らしき発言を直そうとする言葉を遮る様にサボが声を被せて来た。
にぃに?それが常識か?
「サボ…じょーしき?」
「ん?あぁ常識だ。だから俺たち2人の事は〝にぃに〟って呼ぶんだぞ?」
サボが言うなら間違いないか。何だかんだと言って2人は世話をしてくれたから信頼してる。
我が身第一自己保身マンだけど。
「にーに」
「うん。偉い偉い」
サボが頭を優しく撫でる。
余談だけどエースはガシガシ撫でるから頭ぐわんぐわんするけどサボの撫で方は何だかくすぐったい。
微笑ましい目で見ていてやろうではないか。年上の余裕ってやつ…だといいな。
なんせ前世の記憶は無いのだから自分の精神年齢が幾つか知らない。
もう気にしない事に決めた。
日本自体は覚えてるのに不思議なものだ。
そして私では無く周りからの目線が微笑ましい目で見ていてやろうという意識の気がするのはきっと私の気の所為だ。
「きょーはなにごとしゅる?」
「何をするのか、だけどな」
「なにをしゅるのかだけどぬぁ?」
「だーー!!違う違う!何をするの?だ!」
「なにをしゅるのだ!」
「もう…それでいい」
エースに諦めた目を向けられた。クスン。リィン、大声で泣いちゃうぞ。
しかしまぁ、改めて実感させられるけど言葉の壁って大きいな。早く喋れるようになりたい。
「今日は俺とエースは中心街に行ってワニ皮を売ってくるよ。森じゃ無いからリーはお留守番出来る?」
森じゃないからお留守番って私の中の常識ではおかしいよな。普通逆だよ逆。
「るすびゃん!」
でも留守番ってなんて素敵な響きなんだろう。
森でトコトコ歩くのもいいけど手加減なしのこの2人の速度について行けるわけも無く時々迷って食われそうになって死ぬ気で戻って来ること5回。
まぁお陰で体力と筋力は付いたと思うけど、味わいたくないね!血の味なんて!
「る、す、ば、ん」
「る、ひゅ、ば、んー」
「す!」
「す!」
「はいもう1回」
「るすびゃん!」
「ば!」
「ぶぁ!」
「る、す、ば、ん」
「る、す、びょーん」
「なんで伸ばした………」
言葉って難しいね!!
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実はまだ入れる物がないから入れてないんだけどアイテムボックス的なのは成功したんだな!小枝で挑戦してみたらこれが上手くいってすっごい嬉しかったぁ。
私は今この暇の状態を何をして過ごしているかと言うとダダンさんに新聞を読んでもらっているのです。
迷惑かけてるだろうけど本人は別に嫌そうにも無いしまぁいいだろうということで気にしないでいる。
「……──…──で─…──」
何やら難しい言葉が続き過ぎて私の頭がオーバーヒートするのが先で1部丸々読みきれた(ダダンが)事が無いのだ。
「リー、もうギブアップかい?」
「あい…」
「情けないねぇ」
「めんじょくない…」
「面目ないじゃ二ーのか?」
「めんぼくちゃい…」
「原型はいったいどこに消えたん…だ」
きっと胃袋の中です。
ダダン一家とは比較的良好な関係を築けていると思う!
人攫いだけど優しい人なんだなーと思ってる。暴力振るわれた事も無いし、呼べば来てくれるし、嫌そうな顔はするけどエースとサボがいない間はこうやって見てくれてる。
放任主義の方が好きだけど放任過ぎるとさすがに死ぬから助かってる。
「かいぐ、とはなにゅ?」
「かいぐ?」
「かいぎゅん?」
「あぁ、海軍か」
海軍とは前世の知識と似たり寄ったりの所で海の面積と島が多いこの世界では海賊を主とする犯罪者を捕まえてるそうだ。
警察と同じかな。よぉし、犯罪者になんかならないぞ。
あれ?エースとサボって何貯めてたっけ。
〝海賊〟貯金?
……気にしない方向で行ってみようでは無いか。どうせ将来は別の道を(多分)進んでいく筈だ。決して(私の)死亡フラグでは無いと信じてる。
「リーは大人しくて助かるよ…ガープの阿呆の孫だって聞いた時は鳥肌たったけどねえ」
「がぁーぷ?」
「あぁ、あんたの爺さんだよ。ジジイ」
「じじー?」
「そうそう」
ガープって人…どっかで聞いたことあるような…無いような……。
「あ…」
あの人だ。私をここに連れてきた人だ。確かダダンさんが呼んでた気がする。
そう言えばあの人海兵にさせたがってたよな。
痛いのはやだなー。しんどいのもやだなー。めんどくさいのもやだなー。
もう働きたくねえ。危険な目に会いたくねぇ!……立派なニートの完成であった。
「どうした?」
「なにごともそんざいしにゃーよ」
「……何も無いよ、じゃないか?」
「それでしゅた」
「なんでこの子は簡単な言葉は喋れないのに小難しい変な言い回しだけ覚えてるんだい…………」
そんな心から呆れた声を出さないでよ。ため息も禁止だ。
「がくもんにおーどーなひ…」
「なんか意味が違うんじゃないのか?」
あれ?
学問に王道なしって学ぶ道は一つだけじゃなくて沢山あるって意味じゃなかったっけ。
【学問に王道なし:
いずれかのことを知って、知識を得るためには、基礎から一つずつ学び、積み重ねて 努力しなければならない。たとえ、王様であっても、簡単に知識を得る方法などは、ないという教え】
うーん、違ったかな…?まぁいいか。
「ただいま………」
「…た、だいま…」
「おきゃ…………にょぉお!?!?」
エースとサボの声が聞こえてそっちを向くと全体的に傷だらけだった。
「にょ!?」
「あ、アンタら2人どこに行ってたんだぃ!?」
「ちょっとな…」
「別に関係無いだろ……」
サボが愛想笑いで誤魔化すけどエースは見るからに不機嫌で何かあったことは丸わかりだ。
「えーす…」
心配になって思わずクイッと袖を引っ張ってみる。
「っ、どっか行け!」
ばんっ、とその手を振り払われ私の軽い身体は簡単に転がってしまう。
リィン選手、見事な一回転です。
「おいエース!」
「…あ………───っ!!」
私を見て凄く辛そうな顔をした後すぐに駆け出してしまった。夕飯までには帰ってきてねー…って、そんな雰囲気じゃないか。
「リー…ごめんな、エースに悪気はないんだ…分かってやってくれないかな…」
「んむ!」
大丈夫、と言うように親指を立ててドヤ顔してみたら何故か呆れられた目で見られた。解せぬ。
「ダダン、今日は俺たち外に居るよ。外に野牛置いておいたからそれ食べてくれ」
「あんた達は─」
「エースがあの調子だから心配なんだ」
そう言うと有無を言わさずエースの後を追って外に出た。
「………」
仲間外れだ。随分な疎外感。
ずるいぞ
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その日の夜、海賊貯金の付近の洞穴で二人の少年が月を眺めながら話していた。
その表情に喜びの笑みは全くない。
「エース…お前リーに」
「分かってる…」
エースはとても悲しそうに目を伏せた。その顔には後悔が見て取れる。
「なぁ…サボ、俺、生きてていいのかな……」
ポツリと呟かれた歳に似合わない言葉。
サボは昼に起こった出来事を思い出した。
海賊王の息子、エースは隠されたその事実に苦しめられている。
支えれるのは自分だけだ。
「当たり前だろ」
サボは迷わずそう言った。
エースは〝そうか〟と、ただ一言だけ呟くと切れた糸人形の様にパタリと倒れた。
サボは思わず慌てたがスースーと寝息が聞こえるとホッと安堵のため息をついて再び月を眺めた。
「親って…何なんだろうな……」
長く暗い夜は静かに2人の声を飲み込んでいった。
リィンの喋り方が独特なので地の文で補足したりしています。成長毎にマイルドになっていきますが、全話通して基本不思議語を話します。