こっそり暖かな朝日が差し込む海岸、そこには一つの墓があった。
墓の下には誰も眠っていない。だがそこは確かにナミとノジコの母──ベルメールが眠っていた。
そこに人影が3人。
「ナミ」
呼び掛けられた声に振り返ればナミは顔を綻ばせた。
「ノジコ、ゲンさん」
家族、そう呼ぶに相応しい2人がナミの元へやって来たのだ。
「どーお?アーロン一味から解放された感想は」
「感想?…なんだか現実味が無くて」
苦笑いを浮かべて答えるとオレンジの髪が風になびいた。その髪は朝日を浴びキラキラと輝く。
「それは確かに…」
ノジコは同意するとナミの隣に腰を下ろした。
「ナミ、今までありがとね。村のために頑張ってくれて」
「……ううん、いいの。ベルメールさんが死んじゃった事でアーロンを凄く怨んだけど…不思議な縁で結ばれて、私はリィン達と海賊になれた」
「あの金髪の」
「そう!」
ブレない妹の様子に若干引きながらそっと目を閉じて亡き母を思い浮かべる。
「ナミが海賊になるって、ベルメールさん止めなかったかな……」
「さァ?止められても私は言う事聞かないもん」
「そうね、あんたならそうだわ」
「海兵の子供が海賊になるとは思っても見なかったなぁ…」
ナミ達が眺める墓に酒をかけるとゲンゾウはしみじみと呟いた。その声色からは優しさが感じ取れる。
「ナミ…お前は自由だ。海賊になるのも止めはしない」
不安が無いと言えば嘘にはなるが自分で決めた道を進むナミのために言葉を続けた。ゆっくり、聞きやすいように、最悪の可能性──死をも見据えて。
「だがな、笑顔だけは失わないでくれ」
例え夢のために命を落としても、何かの犠牲が出たとしても、世界中を敵に回す事になるとしても。
後悔のない道を。
そう願いを込めて。
「うん」
たった一言、その返事で満足したのかゲンゾウは穏やかな笑みを浮かべた。
「もう自分の為に生きていいんだ……。幸せになりなさい…」
安心する後押しもあり、ナミは迷っていた心を決めることになる。
「(───リィンともっと
今ここに存在してはいけない何かが生まれた。
──ゾクッ
「(なんだろう…私の野生の勘が『ナミさんから全力で逃げろ』と言ってる気がする……一体何が起こった…!)」
指名手配の恐怖にも勝る何かを察知した
「(とりあえずそっと距離を置こう、手遅れな気がするけど)」
確実に手遅れだ。
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『言いたい事は分かっているな?』
「申しわけござりませぬ!」
戦いの傷も癒えぬ内に…というか元々そんなに怪我は無いんだけどなるべく早めに出航する事になった。
なんとなーく、潜入中にはしまっている電伝虫をなんとなーく取り出した瞬間。仏の皮を被った閻魔大王から呼び出し。
情報が渡るのが早すぎるんだよちくしょう。
『
「理解可能です!ですが船長が仲間にしたいと申した方が脅されそちらに入るた故にこのような結果になりますた!」
『それを止めるなりなんなりするのがお前の仕事だろう!』
当たらずも遠からずだと思う!
「リー!」
「うぎゃぁぁあ!?」
見張り台で電伝虫を使っていたのにルフィがいきなり顔を出した。
『……』
「な、何事ですか?」
「おう、ちょっと船出すらしいからよ。手伝えるか?」
「無理です」
「そっか!まァいいや、海のコック探すからそっちやってくれよ!」
「……え。待つして私が探すですか!?」
「出航するぞーーー!」
混乱した私を放置して着々と出航準備が整えられていく。
『……。まァ、モンキー・D・ルフィの事も含めお説教はこれくらいにしておこう』
「……ガープ中将今度は何したですか」
呆れ声、と言うより同情が混じった声。なんとなく何かがあった事を察した。私的にはラッキーだけどルフィのフルネームを知られてた事以上にジジがセンゴクさんに何をやらかしたのか気になった。
『軍艦一つ』
「お疲れ様です」
たった一言、その返事で察した。
また壊されたな………。
下では人を避けながら船に乗り移ったナミさんがお財布(大量)を地面に落とし笑顔で「いってきます!」と叫んでいた。
「ねェセンゴクさん」
『なんだ?』
「9、いや十数年以上前に本部にいたらしき〝ベルメール〟という名の女性海兵はご存知ですか?」
『ベルメール?ベルメール少佐の事か?』
ざっとだけど食事中にナミさんに(一方的に)説明された過去。
驚いたことにナミさんの義理のお母さんは海兵だった様で、ゲンゾウさんという人曰く本部に所属していたと。
ひょっとしたらと思ったが知ってたのか。
『よく世話係というかストッパーとしてロシナンテと組ませていたから覚えている』
……ローさんを逃がしたドフィさんの弟か。
「人生どこでどう繋がるしているか不明ですな………」
『その不明の代表格が何を言う』
「………凄まじき因縁ですな」
『本当にな……お前だけは敵に回したくない』
そこまで実力を認めて…とか思わない。ずっと前から私は特殊過ぎる縁が絡みついてるのは知ってるし不本意であれ意図的であれその縁は年を重ねる事にますます太く複雑に絡みつくから。
「こうしなければ生きて居られぬですよ」
『……。』
「知らぬまま、を許さぬ出生。ならば権力者を味方につけ力の味方をすれば良いのみ──私は自分の出生がどうにかならぬ限り正義という闇に身を隠すだけです」
『はァ……これがたった14の小娘が語るのだから頭が痛い』
何度でも確かめた。自分のこれからを、過去を、繋がりを。
生まれが重要視される世界なら、生まれ以上の名前を持てばいいだけの話。
『四皇の知り合い』『国の救世主』『海軍本部の雑用』『謎の大将』『七武海のお気に入り』『スパイ』『
政治を前にすれば人間1人ちっぽけな物だから。
「センゴクさん」
『なんだ?』
「後悔は沢山あります」
無駄な事実を知った事。フェヒ爺の刀を見せた事。そもそもの話…堕天使が災厄吸収なんて物を付けることになってしまった事。
「でもですね」
海風が鼻につく。頬を撫でる。髪を踊らせる。
「楽しいです」
この世界に生まれ、引き取られ、兄を持ち、恐怖を知り、師を持ち、死を知り、無力を知り、価値を知り、出会い、終わりを告げ、笑い、怒り、温もりを感じ、幸せを感じ。
世界を知った。
コルボ山で一生を過ごすと決めた時には思わなかった。
例えそれが一時的な幸せだろうと。
「
心の底から、大切な人を守りたい。
「そう思える様になりました」
私の正義は、ずっと心を写してた。
自分を守りたい──失いたくない──
自分の命が惜しい──離れたくない──
「だから、そんな機会をくれたセンゴクさんに感謝してるです」
『ハハッ、何を…一体どんな変化だ?』
苦笑混じりの声が電伝虫から聞こえる。
「んー……。やはり家族ですかね」
私がこれまで触れてきた家族はどれも歪な形をしていた。
ナミさんやノジコさん、ゲンゾウさん。彼女達が墓の前で話す暖かな風景見て。羨ましいと思った。
でもそれ以上に素敵だ、なんて。
「私にとって、母と父は
『顔も合わせた事が無いだろうからな』
「私にとって父はセンゴクさんですよ」
大将になって沢山の仕事をする事になったり人と知り合ったのも、心配してくれたのも、全部、全部センゴクさんからだ。
「感謝してるです」
ルフィがシャンクスさんに、
エースが白ひげさんに、
サボがドラゴンさんに、恩を感じるのなら。
私はセンゴクさんに。
『………そうか』
だから。
だから伝えたい。
「大目に見て下さい!!」
『シリアスを返せ大馬鹿者!』
──ガチャッ!
「解せぬわァ……」
感謝して罵られるとは理不尽だ。
「リィン、話終わったの?」
「はいです!」
「なんだか随時スッキリした顔してんな」
「まァルフィを隠す必要性を感じぬようになりますたから重荷が降りた感じですね」
「なんだよそれ…」
「リー!」
ぐるんっと体がゴムで包まれる。
「海のコック仲間にするぞ!」
今はこの船で楽しもう。
───いずれ降りるその時まで。
「分かりますたよ、ルフィ」
「頼りにしてるからな!」
「……可愛い!大好き!愛すてるぞ!」
「俺も愛してるぞ!」
麦わら帽子を被った笑顔の似合う大好きな兄と共に。
「そこー、ラブラブしないー」
「………ウチの船長は天然人たらしの才能があるかもしれねェな」
「リィン私は!?私はァ!?」
頼りになる仲間と。未だ見ぬ仲間と。
友と。家族の様な人達と。
「怖い」
「ん?」
「失うが、怖いぞ」
大事な物を作ったが為に生まれる恐怖と。
私が大将だって、この人たちが知ればどうなるだろうか。
私が自分の為なら他人を蹴落とせると、大事な
「大丈夫だ!──俺が代わりに守るから!」
他人を信じるなんて不確かな事はしたくない。
「リー…安心しろ!お前が、皆が俺を助けてくれる代わりに。俺がお前らの全部を守ってやる」
根拠の無い自信が1番嫌いで。
──それは絶対無理
「うん」
なのにそう思わせてくれるから。
「一緒に守って。助ける」
安心する。
──パサッ
何かが落ちる音がした。
「あ…手配書」
「誰の?」
「………………ルフィとリィンの」
「「「何!?」」」
慌ててウソップさんからひったくると思わず目を見張る。
カメラ目線で笑顔のルフィの姿。
よーし、これはいい。いや良くない。
ちょっと思わぬ金額にホワホワした頭が一瞬にして冷えたけどとりあえずまぁいいいいだろう。
初頭手配書で1000万を越えるか!そこまで危険視するかモンキー一家を!
夜、黒いマントとフードを纏った怪しげな姿。
「……なんでだ─────ッッ!!」
拝啓 インペルダウンで生きているかどうか分からないお母様。
──やっぱりこの世界って糞だと思います。
胃が痛いです、助けて。
あ、シリアスと思いました?残念実は内容はとっても薄っぺらいです。
大事な伏線か?改心か?
と思わせておいて実際ほぼほぼ何も変わりません。
手配書配布、頑張れっ!(スッキリ)