海のレストラン〝バラティエ〟
ファンキーな見た目に態度の悪い接客。だけども質は超一流。
従業員は全て男。
そして船のコック長はかつて
「うん、うまい」
そんな情報はとりあえずガン無視して私は目の前のご飯を口に頬張った。やばいなこれ美味すぎるなこれ。
「……ハムスターかよ」
隣では頬袋を作ったルフィが美味い美味いと何度も繰り返して食器の山を作っていく。
お金、足りるかな。まァ多少はあるし資金調達もローグタウンで考えてる所あるからまだ大丈夫だけど。あ、うま。
「ふふ、そんなに急いで食べなくてもご飯は逃げないわよ?」
「隣に暴食魔が存在するですが?」
「お金はまだあるから心配しない!」
ルフィの反対、私の隣に座ったお金の魔人ナミさんがニコニコと隣でじっと見てくるのが気になりますが。
「あ…」
ピラフを食べて小さく「これ好き」と呟くとナミさんがガタッと立ち上がった。
「このピラフ作った人誰!?」
「やめるです恥ずかしいぞ!?」
慌てて止めるも手遅れ。周りの他のお客さんが迷惑そうに顔を顰めた。ナミさんは常識人と信じてたのに。
「んはぁ〜〜い♡ お呼びでございましょうか」
シュバッと現れた黄色い髪の人物がナミさんの手を取る。目がハートになってる様な気がするけど多分私の思い違いだろう、リアルで怖いわ。
「この船の副料理長 あなたのナイト、サンジです」
道理で美味いわけだ。副料理長の名は伊達じゃ無いな。
サンジさんか…、おやつ食べたくなってくる名前だな。
今何時?サンジ!
ハハッ、それならイチジとかニジとか居てそうで──ん?
「3?」
「ねェこのピラフの作り方教えてくれない?」
「もちろん喜んでマドモアゼ──ぶフッ!」
なぜナミさんが突然ピラフを作りたいと言い出したのかとりあえず出来れば一生考えない事にして。
サンジさんがいきなり飛んだ。
「アホナス…仕事をしろ!」
「いってェなクソジジイ!」
片足が義足のお爺さんがサンジさんを蹴り飛ばしたんだと思う。
親子だと信じてる。むしろ親子だと言って。
「ち…なんでも無きです」
『父親ですか?』って聞こうと思ったけど止めた。これで違うとか言われたら私のSAN値が削られる。
「その人は?」
「この船のクソオーナーですよ」
「……父親?」
「……………こんなクソジジイが父親とは思いたくない、です」
あぁ…、私の心がゴリゴリ言ってる。やめて嘘って言ってください。
ていうか嫌な予感が止められない…。名前は偽名ですよね!
イチジとかニジとかサンジとかヨンジとか。
どっかの国土を持たない国の王子様と連想するんだけど…。
よっし、違うところを探すんだ。
探しちゃ逃げられないとか野生の勘が言ってるけど探さないと気が済まない。
まずレイジュ様が言ってた亡命したサンジ様の特徴と比べて見なければ。
その1、黄色の髪…──うん、黄色いよね。
その2、姉弟共通のぐる眉…──回ってるね。
その3、亡命した海は…──うん、
その4、料理を作るのが好き…───副料理長!
だめだ、共通点を認識して胃が痛くなるだけで終わる。
え、ほんとにどうしよう。
私はガン無視してもいいの?これはいいの?
なんか家出した理由が『兄弟イジメ』と『料理人になるため』だったっけ?
どうやら感情を少し学んで優しく改心?したご姉弟はきっと問題無いと思うよ?時々訪問してるけど『サンジ生きてるかなー』とか『楽しい事ないかなー』とか仰ってましたよ。
その楽しい事に訓練とか戦闘とか含まれる辺りは昔と変わらず異常性MAXだけど。
あァ…もう嫌だ。国の名のつく全てが嫌だ…。
「おいリィン大丈夫か?」
「ウソップさん………私気絶許可願い」
「気絶してもいいか、って事か?オイオイ何でだよ。あのサンジとか言うコックが好みだったのか?」
「あ、全く」
「おい」
ウソップさん(癒し要因)にすがれば恐ろしい事を言いやがった。
思わずと言った様子でサンジさんがツッコム。
「こちらのお嬢さんもまた随分可愛らしい方だ」
「そりゃどーも……あ、サンジさんの料理大好きです」
「お褒めにお預かり恐悦至極にございますプリンセス」
手を取ってそっとキスをするけどどうしよう、
泣きそう。
「でも、私が1番好きなる料理人は別人です…」
だから関わらないでください。
「……………ヘェ」
やばい…口に出してた……。サンジさんから殺気に似たような気配を感じる。
「是非とも会って見てェ…」
なるほど、王族(仮)だろうと料理人は料理人って事か。めんどくさい!
とにかく私の中の混乱と意味のわからない苛立ちをどこかにぶつけたい!
「おいそこのコック!」
私達の席とは離れた場所で男がサンジさんに向かって叫んだ。
このお方を誰と心得る、かの有名国ジェルマ王国の王位継承者サンジ様(仮)だぞ。
「この虫はなんだ?この店はこんなものを客に提供するって言うのか?」
スープを指差してニヤニヤする客だがサンジさんの対応は慣れたもの。『すいません、虫には詳しくないもので…』って、種類を聞かれたわけじゃない。
「あれってさっきの船の人よね」
「やだやだ海軍も堕ちたわね……」
隣のテーブルでヒソヒソと話してるおば様達からいい情報を聞いた。
「失礼しますです、おねーさん、あの人知ってるですか?」
「え、えぇ…。確か彼自身がフルボディ大尉と言っていたと……」
「ありがとうござります…」
混乱しながらも答えてくれた人にお礼を言ってゆっくり足を進める。
王族(仮)相手に無礼を働かないか心配で?身内の恥だから説教をしに?偽善行動?いやいや……
──
ただ、これだけだった。
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フルボディ大尉は運が悪いとしか言い様が無かった。
デートに誘った日に突然上からの命令でシロップ村という田舎に行かないと行けなくなったし、そこで催眠術にハマってしまうし、これでやっと帰れる──と思えばボロボロで餓死寸前の海賊に襲われるし散々だった。
やっと彼女の都合が良いタイミングで休暇が取れたので有名なバラティエに予約をして軍艦で来て見ればどうだ。
堂々と海賊旗を掲げる船が停泊している。
更には注文していた筈のワインは違うし赤っ恥もいい所だった。
ㅤ気分は最悪だった。
「すいません…虫には詳しくないもので」
虫を入れてクレームをしても意味の無いばかり。
「俺を舐めるなよ…こんな店俺の権限ですぐに消すことだって出来るんだぞ…ッ!」
「ねェ、海兵さん」
その時は信じていた。
これ以上最悪な事にはなるまいと。
「…ん?どうしたんだ小娘」
彼女の手前『子供にも優しい男』の仮面を被り返事をした子供が、自分と同等以上の怒りと悪運の持ち主なのに気付かなかった。
「おにーさん、フルボディ大尉さんですよね?」
「あァそうだが?」
「プリンセス…? どうして…」
「今日はお仕事じゃなくて綺麗なおねーさんとデートですか?」
「あァ、美しいだろ?」
不自然だが名誉挽回の為に彼女を褒める。何故そんな事を聞くのか、その疑問すら浮かばずに素直に答えたのがいけなかった。
「ならおにーさんこの船消すこと不可能ですね!」
ニコー、と笑う少女に寒気を覚える。
「何故だ?俺は大尉。こんな船はスグに消すことが出来る地位にいる。意味わかるか?」
「そうです…大尉という地位は、ですね」
すぅ…と表情が消える。
少女は一つ指を出した。
「まずその1、営業妨害」
「は?」
「威力業務妨害。そして
「何を言って…」
「それに、何らかの形であれども食事を提供する店及び人物に対しての阻害は固く禁じるされている筈ですよ」
海賊には関係ない、市民にもその対応は緩いが、海兵となると話が違う。
あくまでもこの船にいる人間は市民。例え生意気な店員であろうと守るべき市民に危害を加える事は一切許可されていないのだ。
それを思い出し顔を青くする。
こんな事が本部に知れれば減給所の話ではない、降格問題だ。ヘタをすれば首が飛ぶかもしれない。
「その2、軍艦の個人的利用」
「……ッ」
「それはどんな権限を持つするしても…ダメですよね?」
目の前の少女が考えている事が私はわからないがとにかく相手をするのは拙いと考える。
「(まァ、海軍の英雄様は個人で使ってるけど……)」
考えている事はわからない。
「それがどうした…海軍に連絡でもするか?」
「まさか!」
パッと笑顔に戻ったのに、フルボディの顔は険しいままだ。
海軍に連絡はしない?ならば何故そんな事を言い出した?この少女は一体何者で何を知っている?
「質問ですが…、フルボディ大尉は自分より上の方の顔ぞ全て覚えているですか?」
「………もちろんだ」
虚偽の申告をする。
確かに覚えている事は覚えている。自分の担当する支部の近くにいる上官や地位の人間はもちろん、本部に居る方も数人。
だが全てでは──無い。
「仮に、大尉の頭が良く、本部でも支部でもすべての方の顔を覚えるしてるとするです」
クルクルと周りながらまるで演説をするように、友人に話しかける様に楽しげな声で語るのだから奇妙。
どうしても嫌な雰囲気で逃げ出したいがそんな情けない事などプライドもへったくれも無い。
「──でも、確実に1人知らぬですよね?」
──ゾクッ…
笑顔が怖いなど初めての感覚。
「何を言って………」
「知らぬはずです…」
フルボディは気付く。
「(
まるで料理される魚の気分だ。
決して自分は優位に立てない…一方的な処刑。
「もしもその人間がここにいるなら──どうするですか?大尉程度の地位…どうとでも無きに等しきですよ?」
確実に1人知らない。
1番謎が多い海兵を思い浮かべる。
「(何故こんな子供が知っている!?関係者なのか!?子供や部下だとでも言うのか!?)」
────大将女狐
未知であるからこそ恐怖は倍増する。
「や…やめろ……」
「はて、耳ぞ遠くなりますたね」
「やめろ……」
「ふむ…。表面上のみ見られぬ無能に、果たして未来ぞ存在するかどうか……」
「やめてくれ!!黙れ!」
「……『守る』名を持つする人物が。『守る』対象の市民を傷付くさせる海兵を…どうすると思うです?」
間違い無い言葉だった。
女狐は『守り抜く正義』を掲げる少し変わった大将。
殺られる。確実に自分の人生が終わる。
目の前の少女は手で拳銃の形を作り、自らの頭に突きつけた。
「ばぁー…んッ」
「ひッ!」
大尉が大将に敵うはずも無い。
喉の奥から乾いた悲鳴を小さくあげるとフルボディは椅子から転げ落ちた。
「消えるしろ。不愉快」
フルボディは一目散に船へと駆け込んだ。
残ったスープの波紋に金髪の少女の顔が揺れる。
==========
「ま、ハッタリですけど」
張り詰めた空気を四散させる様に明るく言えば周囲はポカンとした。
いや〜、スッキリした!
「プリンセス…一体何をしましたか?」
「海兵に効く脅しをしたですよ」
自分の地位を大仰に出すとサンジさんにひょっとしたら警戒されるかもしれないのでこうするほか無かったが、これはこれでまた面白いではないか。
私は人の笑顔も好きだがそれと同様に嫌がる顔や悔しそうにする顔が実に大好きだ!おちょくったりする時の顔の歪み具合などホントに大爆笑!
………こんなんだからフェヒ爺に性格歪んでる親子って言われるんだな…。
「お客様!なんてことをしてくれるんだ!」
「はぁ…」
「お金を払ってくれるお客様を追い払うなど言語道断!どうしてくれる!」
「良いですか店員さん」
慌ててホールに入ってきたコックさんに諭すように伝える。
「相手の名前の階級と仕事場は分かるしてるです……んなモン請求してしまえば簡単です」
「……。あァそうか」
「ついでに色を付けるして請求するなれば彼の財布からお金ぞがっぽり消え失せそちらの懐に収まるですよ?」
「それもそうだな。ありがとさん!」
それで納得していいのかコックよ。まァ楽だから良いけど。
「さすが元海兵ね」
何故かサンジさんと共に席に戻る、するとナミさんが呟いた。
「なァ…ッ海兵!?初耳だぞ!?」
「そう、元女海兵。ベルメールさんと同じなの」
自分の様に自慢されると居心地が悪いです。
「まァ…本部の雑用だったのみです」
「いいのかよ海賊になって」
「良きです良きです」
むしろ公認です、とは言えないけど。
王族相手に下手な事は出来ないけど自分より確実に格下相手にはどうとでも対応可能だからな。
しかもこちらは大将という立場であったとしても『海賊(しかも手配書あり)』
法など通用しない無法者なんだよお坊ちゃん。
「お前ほど敵に回して恐ろしいと思う相手はいないかもな…」
ウソップさん最高の褒め言葉をありがとう。
「嗚呼麗しきプリンセス!貴女のその強さに含まれた儚さ…俺が守りたい!」
「やめて下さい」
「サンジ君…だったわよね、貴方いいセンスしてるわ」
「うおおおお!俺は愛に生きる!」
どこをどうナミさんに認められたのか知らないが私を巻き込まないで下さい。
「んナミさんも最高に美しい!」
どっかのオーナーから蹴りが飛んでくる前に一旦黙った方がいいと思う。
「ハハッ儚げとか1番似合わないよな、お前。つーかしぶといだな。Gだ、G」
「誰が1匹いたら30匹はいると言うされる害虫だ」
「害虫っちゃあ害虫だけどどっちかと言うとゴリラだな」
「1度死の淵さまようしろ鼻」
ところで、私はそこまで愚かじゃない事は自称出来る。比較対象を麦わらの一味に限ればだけど。
サンジさんが果たして王族なのかどうかは未だに判明出来てないのだ。
つまり胃が痛い。
…………こうなったら判明してやる。どちらか分からない状態で放置しておくと取り扱いにくいことこの上ない。
まァ例え無礼を働いたとしても私個人の心のうちに秘めておけば『知りませんでした』って理由が使えるわけですよ。
『(亡命した)王子』に気付かないなら不敬罪もへったくれも無い!この世界でその屁理屈が通用するのか分からないけど決まりが緩いことを願う。まじで。
「ここまで前途多難とは………」
「ん?どうしたの?」
ボソリと呟いた独り言だったが、目敏いナミさんに拾われた。答えないといけないか。
「これから
「……コックを探してるのかテメェら」
「おう!海賊だけどな!」
ルフィがサンジさんに元気よく答える。
個人的にサンジさんはNOでお願いします。
「そーだサンジ!お前俺の仲間になれよ!」
「ま…ッ!」
「……俺は無理だ。この船で恩を返さないとならねェ……諦めろ」
麗しのレディ達との航海は興味あるけど、とおちゃらけた態度でフォローを加える。
ホッとしたような残念だったような…。
「…恩?」
「ん?あァ…昔クソジジイと遭難してな、色々合ったんだよ」
「あの!サンジさんいくつですか!」
「へ?」
いきなり逆ナンの様に聞き出した私に質問の意図が分からないとばかりに首をかしげた。
「成人してるのかな、と思うしたのみです……いくつです?」
「あー…19ですよプリンセス」
指を折って数えると絶望的な言葉を投げかけられた。
今年イチジ様達19になったばかりなんですよね…。此の前誕生日呼ばれたくらいだから。
ちなみに今彼らは
「……………誕生日は3月2日です?」
「…!? ど、どうしてそれを…?」
はい確定ーー!ヴィンスモーク・サンジ様で決定ー!あー!泣きそう!
「女の勘…──というのは嘘で、実は噂話を聞くが好きなのです。
「もはやそれを知るとかストー…グフッ!」
私を
と言うか亡命したなら誕生日くらい偽ろうよ!名前も外見も年齢も偽ってみろよ!頼むから!
「リー?」
表情は変えてない筈なのにルフィが心配そうに顔を覗いて来た。野生の勘かな。
「どうかし──」
「た、大変です!我々海軍が捕らえていた
──バァンッ…!
船の入り口から飛び込んできた海兵は、慌てて要件を伝えようとするも、言葉の途中で銃声音と共に赤い血を撒きながら倒れた。
うん、汚点を隠すよりも先に安全をとったその行動は褒めよう。
だがな、恐らくフルボディお前はだめだ。海賊捕まえた段階で寄り道するな、真っ直ぐ牢屋に向かいやがれコノヤローバカヤロー。
「…ッ!」
「に、逃げろ…!」
ザワッと動揺した後、我に返った誰かの呟き声が確に聞こえた。
「もうずっと食べてない……残飯でもいい、飯を恵んでくれ……ッ!」
これ以上災厄を持ち込んでくんなと思いっきり殴り飛ばしたいが、拳銃持ってる時点で私は正面切りません。錯乱されたら怖いことこの上ない。
「本気でこれ以上災厄は要りません」
数十分後、これがフラグだと理解する。
悟りました。察しました。直接聞かないリィンは空気の読めるいい子です。
評価等お願いしまーす!