毒の霧を晴らしても、ルフィは毒という脅威に蝕まれたまま。
「ルフィ…!」
駆け寄って体を支えると触れた所からグン、と何か異物が流れ込んでくる。
ん、流石にこの程度の毒如きで私はやられん。政府の人体実験でさえ耐えきった私の毒に対する耐性はハッキリ言って学者もビックリだった。
……軽い調子で言ってるけど実際そこまで重要な事じゃなかったんだ。シーザーという科学者は『なんで効かないんだァ!?』とか驚いてたしね。最後は如何に毒を効かせ殺すかというお前実験関係ねーだろレベルにまで突入してた。
「リー…ッ、よし!大丈夫だ!」
「ん!それでこそルフィぞ!」
仕方ないから下っ端くんは私がやろう。今更シャボンディ諸島に辿り着けなかった下っ端雑魚くんに負けるわけが無い。
使える武器は刀と拳と箒。ミホさんの前だから風。
「っ、わ!」
ゾワッとしてしゃがんだら頭上を何かが通り抜けた。
「…チッ、外したか」
し、下っ端くんんんん!?
「な、な、ななな!?」
「俺は〝鬼人〟…クリーク海賊団の戦闘総隊長」
「雑魚じゃなきとですか!?」
堕天使よ、私が調子に乗ったからこれか。ちょっとそこに直れ。
「うぎゃぁぁぁ!」
ブンブンブンブン鋼鉄ついたトンファーを振り回さないでほしい!
「ミ、ミミミ!ミホさんパスぅぅー!」
「……断る」
「意地悪!」
答えなかった事への報復か!?器が小さいぞこんのド畜生!
──ドカッ
「レディに手を上げる奴は男じゃねェな」
下っ端くん(偽)を蹴り飛ばしたサンジ様。
……出てくんな引っ込んで下さい!
不味い、この場で一番出てきちゃいけない奴が出てきた…。亡命してようが王族に怪我させたら…ッセンゴクさん怖い!つーか政府が怖い!
「頼むぞ!何も言うせず倒れるしてです!」
「素直に従う奴はいないと思うが」
「んのぉおおおーー!」
パンッ、と手を叩いて箒を取り出す。何らかのモーションがフェイクになってくれれば良いけど。
「なっ…!?」
「私とて悪魔の実の能力者!一撃で絶対沈むさせる…!」
箒にぶら下がり飛ぶ力を使って普通より3倍程高くジャンプする。
「喰らうしろ!重力と速さの総合結晶!」
──ドゴォッ!!
「速さつまるところ力!」
ギンは床をぶち破って海に落ちた。
「怖い!」
泣く!
「ヘヘッ、これでおしまいだ!〝ゴムゴムのバズーカ〟!」
火傷を負いながらもルフィも決着がついたみたいで空中でクリークを撃破していた。
「手間取りすぎだ、それと刀を使わなかった事は不服だ。もっと早くケリを付けるべきだ」
「…甘い物好きだがミホさんが辛辣で辛き」
私にこれ以上を求めるな。
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あの後ミホさんはすぐに帰っていった。
ウソップさんがゾロさんを担いでメリー号にしまい込んで今は療養中。素人が応急処置で縫って包帯巻いただけだから
きっとスモさんの管轄では治療は望めないだろ。
ウソップさんは治療後武器の開発に勤しんでるみたいだ。何、あの人働き者?楽できるわー、任せた雑用くん。
ナミさんは漁ってきたお宝を帳簿につけている。『これで可愛い服を買うのよ!』って言ってたからローグタウンで買うのかもしれない、副音声で『リィンもね』って言われてる気がしたから全力で逃げよう。着飾るの嫌いじゃないが獲物を狙うナミさんの目が最近本気で怖い。
クリーク海賊団は全部縛り上げて廃船の1部に積み込んだ。私達が出航した後に海軍を呼んでくれるらしいから対応としては最善だと信じてる。……多分来るのは場所的にフルボディなんじゃないだろうか。手柄にされるのは不服だ。
それで問題のルフィとサンジ様だが…随分頭が痛くなった。
『あ…、ル、ルフィ。……ッ俺をお前の船に乗せてくれ』
お前様の心境に何があったんだコラ。
サンジ様じゃ無かったら助走つけてでもぶん殴ってたね。お前最初めちゃくちゃ否定的だっただろ!って。
つまり今はお別れの最中。
船長決定と本人の意思という言質(どう見ても悪案だった)のせいで一船員の私が逆らえる訳ない。
………辛い。
「はァ……」
人の別れだとかに興味無いのでキッチンで書類作成に勤しみます。
報告書にちょっとした遊び心を。題して『ドキドキ☆狙われたレストラン〜守れ食事と平穏〜』
……ふざけましたよエェ。ですが今この場はキッチン(2回目)いつ人が来るのか分からないのだから覗かれても巫山戯てるとしか見えぬよう!書き崩す必要があるのですよ…。決して!絶対!八つ当たりなんてことはありません!
「お…リィンちゃん」
「サンジさん?」
サンジ様がキッチンに入ってきた。そっかコックさんだもんね。
「あ…私自己紹介しますたっけ?」
「あー…別にいいよ、ナミさんが教えてくれた」
「……お疲れ様です」
労うと苦笑いが返ってきた。
多分ナミさんの本性に触れたんだと思う。
「いいって、そんなナミさんも美しいし」
「ブレぬですね」
うん、ご兄弟とそっくりですね。彼らも女の人には弱かったよ。……全て、では無かったけど。
「リィンちゃんは何を書いてるんだ?」
「ひむつでーす!」
言えません報告書だなんて。
「お別れは済みますた?」
「ん、終わったよ。もう出航するって」
「かしこまるまりますた!」
「ハハッ…!」
ぐしゃぐしゃと私の頭を撫で回すと調理台に立った。多分夕飯の準備だと信じてる。
「あ…そうだ」
何かを思い出したのか、ポケットに手を入れて袋を取り出した。
「リィンちゃんアーン」
「あー…?」
言われるがままに口を開けるとヒョイっと甘い何かが口の中に入ってきた。
「ほへなにへふ…?(これなにです?)」
「マカロン、美味いか?」
「うまし!」
マカロンを飲み込んでグッ、と親指を立てるとサンジ様は何が面白かったのかもう1度楽しそうに笑った。
「…?」
ま、楽しそうならいっか。美味かったし。もうけもうけ!
私は箒を取り出しながらキッチンを出た。
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『『生まれ』はどうしようも無いです。問題はそれにどう『立ち向かう』か』
サンジはキッチンで1人考え込んでいた。
「立ち向かう、か……」
彼の生まれは王族、どうしても抗えない運命。兵器として生まれた自分。
「(コックとして自由に…檻に囲まれた海じゃなくて自由な海を)」
『より『自分の望む最高の結果』に繋ぐ事が何より大事なのですよ」』
「(自分の望む最高の結果…オールブルーを見つける望み)」
命をかけてまで自分の命を繋ぎ止めてくれたゼフに恩を感じてないわけでは無い。むしろ恩しか感じてない。
だからこそサンジはバラティエを命懸けで守ると決めたのだから。
だが───
『お前が何を思って何に戸惑ってるのか分からないが』
『…は?』
『負ける気と死ぬ気が無いなら成長の為に海に出るのも一興』
『お、おい…何言って』
『自分の檻を勝手に作って閉じこもるだけでは成長などせん。弱き者よ…弱き者ならばそれなりに足掻け』
別れ際、鷹の目が告げて言った言葉には心当たりがあり過ぎた。
それと同時にドクリと自分が嫌う血が騒いだ。
「(負ける気も死ぬ気も無い…!)」
いっちょ、料理の腕を上げてゼフの肝を抜くのも良いだろう。
そして未だ見ぬライバルのコックに向けて修行を。(リィンが言っていた1番の料理人)
「魚以外の料理は限られる…船上では新鮮な食べ物も…人数と航海日数の計算も…健康管理や好みの把握…──思ったより力になりそうだ」
やってやろう、海賊のコック!
『うまし!』
あの笑顔を思い出してふと思う。
「(…………うん、餌付けしてみるか。)」
感覚的には愛玩動物だ。
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バラティエでは先ほど別れを告げた男達がぐずぐず涙を流しながらホールに座っていた。
「……お前らいつまで泣いてんだ、さっさと仕事に戻れ」
「うおおおおん!寂しいよぉおおお!」
「あいつが…あいつが自らこの船を離れるだなんて…!くぅぅ…っ!」
「はァ…こりゃ店仕舞いだな」
ゼフはため息を吐いて店の中を見して、まともに動けるのは自分しか居ないと悟った。だから海軍への連絡はゼフがする事にした。
弟の様に可愛がっていたサンジが抜けた穴は店的にも精神的にも大きいのかもしれない。
『……はい、こちら海軍です。何かありましたか』
「あァ…海賊がウチの店ェ襲ってきたんだ。場所はサンバス海域、レストランバラティエだ」
『状況は』
「丁度居合わせた別の海賊に助けられたから
不思議な結び方で、とは言わなかったが1度見ただけでは一体どういう結びをしてるのか分からなかった。ただ関節は痛いだろう。
『わ、分かりました!』
「おう、それとよ…フルボディ大尉っつークソガキが食い逃げしたんでね…修繕費含めて要求させてもらうからな」
『な…ッ!フ、フルボディ大尉が!?いつか何らかのトラブルは持ってくると思いましたが畏まりました!』
海軍内での評価はそれなりに低い様でひとまず安心した。
──ガチャ…
電伝虫を切って、後は待つばかり…。この調子じゃ客も寄り付かないだろうから踏んだり蹴ったりだ。
「ちなみに、請求書に不思議な5桁の数字を書き込むする事で請求額は莫大に上がると思うですよ」
「不思議な5桁の数字だァ?」
「はい、04444を使うなれば海軍関連では非常に優遇処置されると思うですから」
「ほおー…04444ね」
「そうですそうです」
「ん?」
ゼフは首を傾げた。
聞いたことある声に自然と答えてしまったが店に女は置かない主義。女の声が聞こえるわけない。
「「「「あ!」」」」
「どうも」
裏から入ってきた姿に思わず目を見開いた。周りのコックだって涙を引っ込ませ驚いた顔をしている。
「……おい嬢ちゃん…。なんでここにいるんだ?」
「単独行動です」
「確か悪魔の実の能力者だって自分で言ってたな……」
どんな能力か知らないがまァ納得した。
「ところであの数字は?」
「さァ?バレると拙いので教えるませぬぞ………まさか、恩人の弱点を探ろうなどとは思わぬですよね〜!」
ニコニコと笑われてどこからか引き攣った様な声が聞こえた。仕方ない…ちょっと迫力があった。
「私、親切な恩人ですので一つ忠告ぞしようと思いますてね」
親切な恩人は口に出さない。そして脅したりなんかしない(アレは絶対脅しだろう)
「サンジ様の事についてです」
なぜ様を付けるのか、と言う疑問を口にしようと思ったが全員少女の真剣な表情に思わず口を噤んだ。
「その数字を伝えたのもそれに関係する故ですよ──私は振り回すされたくないもので」
「……一体、どういう事だ」
全員の心を代表してゼフが聞く。
「サンジ様の正体の根源は、間違い無くあなた方の邪魔をするです、きっと」
「だからどういう事だ!」
「…サンジ様は王族です」
思わず日付を確認した。エイプリールフールとは違う様だな。
「………お嬢ちゃん、きっと疲れてるんだ。お菓子居るか?甘い物は癒されるぞ?」
「その余計な優しさを渡すくらいなれば胃に優しさを下され」
絞り出された言葉に事態は飲み込めないものの嘘を言ってるつもりは無いことが分かった。
少女は眉間を揉むと一呼吸置いて続きを話し始める。
「ジェルマ王国ヴィンスモーク家第3男王位継承者ヴィンスモーク・サンジ様。細かく話すと巻き込むれるのでこれはあくまで私の推測です、と言う事に」
「だが確信は持ってるんだろう?」
呟かれた疑問に答えたのは表情。その笑顔が肯定を示していた。
「つまり…彼の立場や価値を狙う以上ここは人質となる…………」
現実とかけ離れた言葉にゴクリと唾を飲んだ。
しかし次に紡ぎ出された言葉と少女の表情は明るいものだった。
「なーーんてね!やだもー!絵本を辿ったのみですよー!だって私はいくらでも冗談が言う事可能な
それじゃあお邪魔しました!と元気な声で店を去った時には店内は異様な雰囲気に包まれていた。
冗談ですめば冗談で終わる。その為の布石を残してくれたんだ。
「あァ…冗談だな」
知らない事は巨大な力に対する最大の逃亡手段。知って力にする事は膨大な力に対する最大の防御。
その逃亡手段を残してくれたんだ。
「感謝しよう…」
その心遣いに。
これを伝えることに寄ってリィンは自分への欠点を考えていた。
もしも狙われたのなら、もしも大将だとバレたのなら、関係がバレたら、責められるのはリィン。だがバレなければ守秘義務を破る事になる。
「(ルフィや正体を知ってる人。どうバレることになるのか分からないから
政府に消されることになれば逃亡生活、…などと言う可能性は視野に入れている。
そのための一つとして布石を打ったのだ。
「所詮この世は私優先」
「私の安全が他人の安全を凌駕して何が悪い」
今日も今日とて