Sword Art Online Re:βoot   作:mimitab_

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Sword Art Online Re:Generation
1.


2023年、11月。

アインクラッド 第37層 フィールド

 

8人の男女の前に立ちはだかるのは4体のコボルトオーク。体長2メートル弱の人型モンスターで皮膚は緑色と黄土色を混ぜたような色をしており、顔はゾンビのように爛れている。頭と胴を守る無骨な鎧を装備しており、手には血と錆がまんべんなくこびりついた汚らしいマチェーテを持っていた。

 

「きったねぇな、ホントに」

8人の中、1人の男が刀身から柄まで自分の身長以上ある大剣を肩に担ぎながら顔をしかめて不快そうに吐き捨てる。

「ねぇ、むーちゃん。私あの武器欲しい」

男の隣に立つ、短い髪を赤く染めた女が目を煌かせて言う。

「え?マジで?あれ欲しいの?」

「うん。だってカッコいいじゃん」

「お前の美的センス疑うわ。あんなん研磨石50個あったって足りないレベルだぜ?」

 

「はいはい2人共。お喋りはそんぐらいで」

8人の中で1番真ん中にいた少年が片手直剣を背の鞘から抜いて声をかける。

「無理だろ。口の塞ぎ方知らないからな」

少年の左に立つ1番長身の男が笑いながら言う。

「ま、やるべきことはやってくれるでしょ」

少年の右に立つ黒い装備で身を包んだ女が背負っていた槍を手に優雅に振り回しながら微笑む。

「ぬわっ、ノース!槍を振り回すな!危ねぇだろ!」

女の右に立っていた男が咄嗟に曲刀で自分の身体を防御しながら後ろに数歩下がる。

そんな仲間の姿を見て、誰にも分からない小さな笑みを浮かべた女は静かに腰にかけた細剣を鞘から抜き、もう1人の女は心配そうな面持ちで醜悪なモンスターを見る。

 

「そんじゃ、やりますか」

曲刀の男が号令を出す。

「事前に決めた2組で、1体ずつ蹴散らすぞ」

 

「ムニ、ヒート!コボルトオークA」

「アイス、シグ!B」

「ハル、ニカ!C」

「ノース!俺とDやるぞ」

「了解!!」

 

8人がいっせいに駆け出した。

 

 

 

Sword Art Online RE:Generation

第1話「日常」

 

 

 

「ヒート!俺から行くぞ」

「おっけ~」

刀身をオレンジ色に輝かせて強烈なソードスキルをコボルトオークに当ててから男はすぐに身を引く。その後ろからアイコンタクトも合図もなしに片手棍を髪の色と同じ真っ赤に輝かせた女が突っ込み強力な打撃を放った。間髪いれずに男が再度斬り込み、その後も女が敵に一瞬の隙も与えず棍で叩き潰す。

2人の相性が良すぎるからこそ成せる技。それは敵に攻撃をさせる時間を一切作らせない。お互いのソードスキル後の硬直時間も上手く考慮しながらテンポよく身体を入れ替わる、お手本のようなスイッチによる連携技。

 

「むーちゃん、やっぱりこの武器欲しい」

「まだ言ってたのかよ。やめろって」

「え~」

「こんな汚ぇ武器持った奴と俺はコンビ組みたくない」

「じゃ、諦める」

戦闘中だと言うのに、2人は喋ることをやめない。それだけの余裕さがあった。決して敵を侮っているわけではない。ただ、この2人で戦闘が出来るという『遊び』を純粋に楽しんでいるだけである。

 

 

「アイちゃん、好きにやっちゃって。僕は後ろで見てるから」

「はい」

長身の男が悪びれることもなく怠惰に声をかえるのに対して女は静かに応えた。姿勢を低くし、細剣を突き刺すように構える。

「いきます」

「よろしく~」

男の陽気な声を聞いて彼女は思い切り地面を蹴り瞬時に敵の懐に潜り込むと、高速の刺突を繰り出した。無数に刺された傷跡が刻まれたコボルトオークは彼女の素早さに混乱し咆哮しながら、刃こぼれしたマチェーテを振り回すが、女は姿勢を更に低くし立ち居地を数センチずらすだけで回避。モンスターの得物の軌道を見極めながら激しい刺突を放つ。

 

「さーて、もっと無様な蜂の巣状態になってもらおっか」

女の後方で口笛を吹きながら彼女の戦闘を見ていた長身の男は腰につけていた右側と左側に付けられたホルスターから2丁の拳銃を取り出し両手に1丁ずつ持ちながら構える。

「年下の女の子に戦わせて、僕は安全圏で射的。うーん、らくちんらくちん」

男の放った弾丸は細かな螺旋を描きコボルトオークの利き手に着弾。更に数発数ミリもずれない精密な射撃により、同じ箇所に撃ち込み、その腕を弾き飛ばす。武器を腕ごと失ったコボルトオークの汚く濁った瞳に映るは至近距離から突き出された細剣の切っ先。その鋭く光る剣先が眼球を抉り刈る。

「ナ~イス、バイオレンス」

後方から男が間延びした声をかける。

 

 

「槍には慣れたのか?」

横ぶりに薙ぎ払い、曲刀の刃を確実にコボルトオークの胴体に当てながら男が聞く。

「うん。結構いい感じ。片手直剣よりも使いやすいです」

男と前線が入れ替えた女が槍の切っ先を赤く光らせて鋭い4連激の突きを放つ。

「長物は使い手を選ぶけど、お前には相性が良かったみたいだな。よかったよかった」

「タクさんのアドバイスのお陰ですよ。ありがと」

「お、素直だね」

「失礼な。私はいつだって素直でしょ?」

 

槍や薙刀といった両手剣の派生系と言われる武器の特徴は一言で簡単に済ませるなら、デカくて重い上に扱いづらい。一撃一撃が強力ではあるが、モーションが大振りになりやすく相手に当てるのが難しいとされ、短剣や片手直剣よりも技量、熟練度、鍛錬量が必要だとされている。どんな武器もソードスキルというシステムスキルを使った後には硬直時間が発生するが、両手持ち武器は大抵それが長めに設定されている為、失敗した時のリスクが大きい。

しかし、上手く使いこなせることが出来れば、攻撃と守備の2つを同時に行うことが可能であり、前衛でも後衛でも威力が発揮出来る頼りになる武器である。

 

「まぁ、俺としても両手持ちが増えてくれて嬉しいよ」

曲刀を巧みに操る男が言う。

「タクさんは昔からそれだよね」

「昔剣道やってたしな。こういう剣の方が使いやすい」

男が振るう曲刀は戦闘が始まってから、まだ一度も刀身を光らせてはいない。システムで補助されるソードスキルに頼らなくとも、与えるダメージが大きな両手剣は当てるだけで強力だ。

「本当はもう1人ぐらい重量系使える奴がいるとバランス取れるんだけどな」

「うーん。パワー値足りないし武器変える気もないので私はパス。それより、ちゃっちゃと終わらせちゃおうよ」

「うし、ラストアタックはお前にやるぞ、ノース」

コボルトオークが持つマチェーテが青く光り基本的な片手直剣のソードスキルを放ってくる。それを上手くかわし、男は曲刀を紅色に光らせマチェーテの柄に重い一撃を振り下ろすと、汚らしく刃こぼれしたマチェーテの刀身は皹が入り根元からバキリと折れ地面に落ち、その破片をポリゴンへと変える。

武器を失い戸惑うコボルトオークの喉元に鋭く槍を突き刺し、そのまま横に薙ぎ払うと、醜いモンスターはその姿を消えた武器と同様に身体をポリゴンに変えて消滅した。

「いいね」

曲刀を持つ男が親指を立てた。

「それよりも、タクさん今の・・・」

「アームブラストってやつだ」

「噂には聞いてたけど、武器破壊なんて初めて見た!凄い!」

2人はハイタッチをして、今の戦闘を振り返る。

 

 

「ニカさん、焦らなくていいからね。確実に一撃ずつ当てていこう」

「は、はい!」

口では返事出来ても実際に行動に起こすのは難しい。ニカと呼ばれた女は実質かなり焦っていた。短剣を握る右手が震える。いや、右手だけではない。全身の震えが止まらないのだ。

コボルトオークが、その醜悪な顔面で女を威嚇する。ドス黒く濁った瞳に睨まれ足が竦む。ムリだ。ダメだ。動けない。動けたとしても、剣を必死に突き出しても剣先は全く当たらない。それが連続すれば当然焦りの度合いも上がっていく。心拍数が上がっていく。呼吸も乱れていく。立つこともままならない。ダメだ。本当にダメだ。どうして私みたいな弱虫が今の今まで生きてこられたのか不思議でしょうがない。

コボルトオークがマチェーテを振り上げた。

「ニカさん!」

腰が完全に抜けて座り込んでしまった女の前に立ちはだかり、左手に持つ盾でその鈍重な攻撃を受け止める少年。更にモンスターのガラ空きの懐に右手で持つ片手直剣の重い一撃を食らわせると、敵は大きく仰け反って後方に倒れた。

 

「大丈夫だよ」

倒れたモンスターを再度斬り、簡単に起き上がってこれなくしたところで少年が女に手を差し伸べた。

「あんなのジャガイモと一緒さ」

「ジャガイモ!?」

涙声混じりに女が返す。

「よく言うじゃん?ステージに立って緊張したら客を全員ジャガイモと思えって。僕学校ではそう習ったんだけど」

それとこれとは状況が全く違うと女は思う。

「あれはジャガイモ。ちょっとどころか、かなり形と見た目が悪いジャガイモ」

だから、それとこれとは違うと女は再度思う。

「ニカさんはこれからカレーを作りたい!ジャガイモはどうする?」

「切る」

条件反射で咄嗟に答えてしまった。

「そうさ。食べごろサイズに切らなきゃ食べれないもんね」

「でも、あのジャガイモ動きます」

発言しながら、どうして自分は戦場でこのような会話をしているのか我に返る。完全に少年のペースに乗せられていた。

「じゃあさ、ジャガイモ諦める?カレーの具は肉が主人公って言う人多いけどさ、僕は違うと思うんだよね。ジャガイモこそが主人公さ。あれがあるからカレーは美味い!」

もはや、意味が分からない。しかし不思議と震えは止まっていた。

 

女は少年をジッと見つめる。

こんな地獄みたいな世界で、彼は本気で冗談みたいなことを言っている。その子供らしい真っ直ぐで純粋な姿に女は惹かれた。

このギルドを守るリーダー、ハルという小さな少年の姿に。

 

 

 

ソードアートオンライン。

2022年、11月にサービス開始されたそれは、空想を現実にする架空世界。ヴァーチャルMMORPG。

そしてこの世界での死が現実での死に繋がる地獄のデスゲーム。

ゲームから解放される為には全100層からなるアインクラッド全フロアを制覇すること。

 

2023年11月現在。

第40層までが攻略組と呼ばれるハイレベルなトッププレイヤーたちによりクリアされていた。

 

 

 

アインクラッド 第32層 ヒュルゲンシュタイン

 

先の戦闘をした8人のギルドホームはこの街にある。主街区からは遠く離れた地にあり特に目立った観光名所があるわけでもなく、有名な鍛冶屋や道具屋、料理屋があるわけでもない。最前線の攻略を主とするギルドは勿論、誰もが通過点の街という考え方をしている為か、日中でも人通りは皆無に等しく拠点にしているプレイヤーもいない。そんな街の一角にひっそりと住む8人。自分たちにとって都合がよかった。それが、ここで暮らす理由である。

 

「いただきまーす」

夕食時、席に着いたメンバーの声が重なる。

食卓のテーブルには昔から世話になっているプレイヤーに作ってもらった数多くの料理の皿が並ぶ。こういった豪勢な一品を作り出すには調理スキルをある程度鍛えていなければいけない。剣を振り回すことが主な目的であるこのゲーム内で戦闘以外のスキルを上げるなんて酔狂だと思われていたが、ゲームでの死が現実での死に変わった時から、生活する為にこういったスキルは必要だと言われるようになった。

 

「うまい!これ全部オヤジさんが?」

メンバーで1番背の高い男、シグが肉を頬張りながら言う。

「そうだよ。この前食材を届けてくれたお礼だってさ。人数分プリンも作ってくれたよ」

サラダを皆の皿に取り分けながらノースが答えた。

「ありがたいねぇ」

「そういやノース!タクが武器破壊やったって?」

シグの向かいに座るムニが身を乗り出してノースに聞いた。

「あぁ。あれは凄かったよ。初めて見た」

「噂には聞いてたけどよお。そんなこと出来るんだな。いいな!俺もやりてぇ」

「タクさん帰ってきたら教えてもらえば?」

「そうする!」

「むーちゃん、ファイト!」

意気込むムニの隣でヒートが笑った。

 

「あの」

シグの隣に座るアイスが彼に話しかける。

「どうした?」

「今日の戦闘で薬草ドロップしたんですけど、いります?」

「なんてやつ?」

「えと、ヨモギハーブってやつです」

アイスが自身のストレージを確認しながら言う。

「あげとけあげとけ。よく分からん葉っぱはシグが使ってくれるって」

ムニが言った。

「一応、貰っておこうか」

「では送ります。23本」

「そんなに!?」

大量に送られてきたアイテムでストレージの整理を余儀なくされるシグ。

 

「前から疑問だったのですが、シグさんはどうして葉っぱコレクターなんですか?」

アイスの隣で上品に肉をナイフで一口サイズに切って食べていたニカが聞く。その言葉にシグとアイス以外の全員が、それを聞いちゃダメだと言うが、もう遅い。

「ニカちゃん!よく聞いてくれたねぇ」

「へ?」

張り切るシグをよそに、ニカを除く皆が「始まったよ」だの「地雷を踏んだな」だのと溜め息を吐いた。

「僕はね、夢があるのよ。βテスト時代からの夢が!」

「はぁ、なんですか?」

「いいね!その期待の眼差し、非常にいいね!」

シグはいきなり立ち上がり、ニカに向けて親指をたてる。

「僕はね、煙草を作るのが夢なのさ!」

「た、煙草?」

「おぅ!」

 

「この人、βテストの時、攻略そっちのけで煙草精製に熱出してたらしいよ」

サラダを分け終えたノースがまた大きな溜め息を吐きながら呆れたように言った。

「同じβテスターの身からすると、戦闘楽しまなかったなんて考えられないぜ。ヒート、アルクスパイス取って」

ムニが隣に座るヒートに頼みながら言う。

「アルクスパイス?この魚、充分ピリッとしてるけど」

「俺は辛いの好きなの」

「むーちゃんの味覚センスわけ分からん」

胡椒のような赤い粉末が入った小瓶を手に取り、渡すヒート。

「でもサービス開始してから1年!未だに満足いく煙草が出来ないんだよ!ねぇ、ニカちゃん!分かる?この気持ち」

「はぁ、分かりません」

詰め寄るシグに即答のニカ。

「いい感じの葉っぱが見つからないんだよねぇ。だからさ、ニカちゃんもいらない葉っぱあったら頂戴ね」

「わ、わかりました」

「ニカ、シグの部屋には入らないようにね。物凄く臭いから。煙いし」

ノースが言う。

「1回爆発したことあったよな」

アルクスパイスをこれでもかとふりかけた魚を満足そうに食べながらムニが言う。

「安全圏だからホームは燃えなかったし部屋の中にいたアンタも無傷で無事だったから良かったけど」

ノースがその時を思い出しながら困ったように言う。

「タクちゃんがブチ切れ寸前だったよねぇ」

ヒートがニヤニヤしながら言った。

「いや、あれはキレてたな」

ムニが訂正した。

「ハルちゃんが凄くなだめてたよねぇ。可愛かった~」

ヒートが笑う。

「シグ。あんたが何を作ろうと勝手だけど、ハルに心配かけたら駄目だからな。次やったらブン殴るよ」

「う。分かってるよ」

釘をさすノースの迫力に押され、シグが俯きながら頷いた。

 

 

6人が騒がしく食卓を囲む中、ハルはホームの外。街の外れにある転移門の前にある石垣に座っていた。ギルドのストレージ管理をしながら暇を潰していると、転移門が輝き1人の男が険しい表情を浮かべながら現れる。男はハルの姿を見つけると一瞬驚いたものの、すぐに頬を緩めて微笑んだ。

「ずっと待ってたのか?」

「うん」

ハルは答えて、その男。ギルド副リーダーのタクを下から見上げ、彼が喋りだすのを待った。

 

「そんな顔すんな。大丈夫だったよ」

タクは優しく笑ってハルの頭をクシャっと撫でた。

「よかった」

それに満面の笑みで応えるハル。

「帰るか」

「ご飯あるよ」

「オヤジさん作ってくれたんだろ?食べる食べる」

「じゃ、ウチに帰ろう」

「あぁ」

 

何気なしにハルは星が無数に広がる夜空を見上げた。作り物の、0と1で出来たグラフィックだと分かっていても、それは実に美しい。

 

 

アインクラッド。

それは空想を現実にした架空世界。

そんな偽物の世界で僕たちは本物の人生を噛み締め、必死になって生きている。

 

 

今日が終わる。そして明日が始まる。

同じ日など二度とない。だが変わらない日常を求めて旅をすると、僕は決めた。




*後々本編で書きますが、原作と違い初っ端から銃器登場です。
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