Sword Art Online Re:βoot   作:mimitab_

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11.

2024年、4月。

アインクラッド 第20層 フィールド

 

「シュート!右だ!」

タクが鋭く指示を飛ばすと、少年は片手直剣を青く光らせ斬撃性のソードスキルを放つ。しかし合わせるタイミングがズレ、敵である大型のカマキリのようなモンスターには当たらない。

「気にすんな。終わったらすぐに退がる!」

タクに言われて慌てながら後ろに引くと、後方から飛び出したムニがカマキリの首を一刀両断した。

 

「ボヤッとすんな。戦闘中だぞ。次行け次!」

ムニの剣技にホレボレしながら一息吐いたシュートにタクが指示を飛ばす。

「カマキリBに重め3連撃のソードスキル!」

「は、はい!」

「遅。タイミング合ってない。退がれ!ヒートがスタンさせたら、もう1回やれ!」

ヒートの剣技によって麻痺して動きが止まったカマキリにシュートは慎重にソードスキルを放つ。するとカマキリは姿をポリゴンに変え砕け散った。

 

「ナイス!次だ!カマキリC。アイスがカマを弾いたらお前がスイッチしてソードスキル無しでトドメを刺せ!」

「りょ、了解」

 

 

 

Sword Art Online RE:Generation

第11話「ちびっこ戦士の奮闘」

 

 

 

アインクラッド 第50層 アルゲート

ギルドホーム

 

シュートの為の、タクによる午前中の特訓を終えた『β』の一行はホームに帰ってきていた。

「疲れちゃった?」

食卓のテーブルに突っ伏すシュートにニカがお茶を差し出しながら優しく声をかけた。

「タク兄が鬼教官すぎ~」

「え?なんて?」

すかさず後ろからタクが軽く膝蹴りをかます。

「いたいよ」

尻を押さえ大袈裟に痛がるシュート。それを見て、みんなに笑いが広がる。

 

小さな少年はすぐにギルドに馴染んだ。みんなにとっては弟が出来たような感覚であり、シュートにとっては兄と姉が出来たような感覚であった。そしてそれを誰よりも喜んだのがハルである。これで身長が一番低いのは自分ではない。これで低身長をネタにからかわれることはないと思った。だが、甘かった。逆に14歳であるハルと11歳のシュートが同じくらいの身長だということで、タクに「ちびっこ」と称され一括りにされてしまったのである。戦闘でも組まされることが多く、タクに「ちびっこ共、行け」とか言われる始末である。

 

シュートの特訓は下層から順番に行われた。なんせ今まで第1層から出たことがなかったのだ。ゆっくりとこなしながら、シュートが今のところ通用するフロアは第20層から第30層までとされており、その間も攻略は進み、今のところ第59層までが解放されている。『β』は57層の解放時、攻略戦に参加した後、シュートの育成の為に前線から引いていた。

シュート自身、最前線の攻略に挑みたい気持ちは強かった。しかしメンバーの強さを目の当たりにし自分ではまだ無理だとも感じていた。タクにそのことを告げると彼は笑いながら「その気持ちだけ大切にしとけ」と言った。

ギルドに入れて欲しいと頼んだ時、ハルは自分たちは攻略組ではないと言ったものの、シュートから見て『β』は猛者揃いだった。そんなメンバーに憧れを抱きつつ自分の可能性を大いに感じるのであった。

 

 

夜。

オヤジの飯を食べながらメンバー全員が食卓を囲む。

「食べながらでいいから聞いてね。明日第35層のクエストやりに行くよ。えとクエスト名は『桜の木の下で』難易度は高くないんだけど、場所が場所だから注意が必要かな。でもシューには場数踏んでもらいたいし。みんな宜しくね」

「場所が場所?」

ハルの言葉にシュートが不思議そうな顔をした。

「35層っていうと『迷いの森』か」

タクが口の中の食べ物を飲み込んで言う。

 

迷いの森は、第35層北部に広がる森林地帯である。名前の通り、立ち並ぶ森は基盤目状に数百のエリアに分割され、1つのエリアに1分いると東西南北の連結がランダムに変更されてしまうという仕組みであるため、気の抜けない場所であった。

 

「タクとニカさんはマップ読み込んでおいてね。まぁ言わなくても2人はやってくれるだろうけど。シグ君は各種ポーション、結晶を人数分集めておくこと。はい、一応僕からの報告は終わり。久々のクエストだ。みんな、楽しもうね!」

 

 

翌日。

アインクラッド 第35層 迷いの森 入口

 

「緊張してる?」

ニカがシュートに尋ねた。

「うん。ニカ姉は?」

「私も」

2人はクスクス笑う。

「フラグたて終わったよ。クエスト名は変わらず『桜の木の下で』目標はこの森にある桜の木を見つけること」

「・・・無理じゃね?」

ハルの言葉を聞いてムニが無数に生い茂る木々を見つめながらげんなりとして言った。

「えとね、桜の木は最深部にあるんだ。だからまずは中心に向かおう。じゃ、タク。戦闘指示の方やっちゃって」

「はい、任されました。昨日マップ見ながら思ったんだけど、頼むから独断行動はするなよ?迷子になったら洒落にならねぇ。シグ、各種ポーション、結晶をみんなに分配。もし迷子になったら転移結晶使ってホームに帰ってくれ。こっちからも無理に捜すことはしないから。隊形の説明するぞ。先頭にムニ、ヒート、ノース。中盤はちびっこ2人とニカ。しんがりはアイス、シグ、俺で行く。ニカ、お前は戦闘支援の他にタイムキーパーと方位探知をやってくれ。最深部にはボスがいるが、まぁ、ボスの説明は着いてからでいいだろう」

タクの指示に全員が頷いた。

「じゃ、行くぞ。ピクニックだな」

 

 

「ノース、AとBの攻撃受け止める!ちびっこ共、AとBをやれ!ムニ、ヒート、C!アイス、D!シグ、アイスの支援!俺はEに行く!アイス、終わったらこっち来い!」

自身の戦闘中でも前方、後方の両サイドに指示を出し続けるタク。目が8個はあるのではと思うぐらいに視野が広かった。

「シュー、ソードスキル使っていいからね?僕がフォローするから」

ハルが隣を走るシュートに言った。

 

狭い森の中で縦横無尽に駆け回るメンバー。ムニ、ヒート、アイスはオブジェクトである木を上手く使い、細い枝でさえも彼らの足場になる。特にアイスの戦い方は非常にイヤらしい。派手な一撃で決めきるのではなく、一突きいれれば場所を変え今度は背後から一突き、更に場所を変え頭上から一突きとジワジワと敵のHPバーを減らしていく。

 

「シュー、左方から行って。僕は右から同時に行く」

「分かった」

ノースが器用に2体の敵の攻撃を槍で受け止める。そしてハルとシュートが両サイドから同じタイミングで斬り込んだ。更にダメ押しとばかりにノースが両方の敵にスタンを放つ。数秒間の麻痺を喰らい硬直状態になった2体を再度ちびっこ2人が斬り裂く。

 

「むーちゃん、後よろしく」

短剣で敵の利き腕を斬り落としたのを確認したヒートは自分の後ろにいるであろう相棒に後を託す。

「任せろ」

ムニが両手剣で豪快に胴体を両断する。

 

「アイちゃん、そいつはもういいからタクの方行ってやって」

シグが銃のマガジンに新しく開発した弾丸を装填し終えて言った。アイスは頷いてタクと対峙するモンスターの背後に周る。アイスになぶられていた敵は彼女を追おうとするがシグがそれを許さない。

「おいおい、お前の相手は僕だって」

シグが引き金を引くと、音速の速さで放たれた弾丸は敵のコメカミにヒットすると火薬量を多めに追加されたそれは派手に弾け爆発する。

「うん。悪くないな」

爆発しポリゴンに変わる敵の姿を見てシグは満足そうに微笑んだ。

 

「ナイス挟み撃ちだ」

敵の背後から細剣を突き刺すアイスを見やってタクが言う。

「この陣形のまま行くぞ。ソードスキルなしで斬り刻む」

敵に攻撃させる暇も隙も与えず、前と後ろからタクとアイスが剣を振り抜いていく。

 

 

「ニカ。時間は?」

全員が戦闘を終えタクはニカに確認をする。

「3分休憩しましょう。エリアが変わっても方位探知スキルがあるので大丈夫です」

「おっけぃ」

全員が各々の位置で草むらに座り込む中、タクとアイスだけは立ったまま索敵スキルを使って辺りを警戒した。

「どう?調子は」

ハルがシュートに尋ねる。

「楽しいよ!」

息を弾ませながらシュートが答えるとハルは満足そうに笑った。

 

ふと、シュートは近くの木の裏にトレジャーボックスはあることに気がついた。

「あ、宝箱。俺が先だよ」

シュートが駆け出す。その言葉にみんなが反応し顔を向ける。

「シュート!待て!」

タクが叫ぶがシュートはお宝を開けることに夢中で聞こえていない。そして何の躊躇いもなく箱をタップした。途端に森の中に鳴り響く甲高い警告を表すアラーム音。呆然と立ち尽くすシュートの目の前にブラックホールのようなグラフィックが浮かび上がった。

「ワームホール!?」

ハルが咄嗟にシュートの腕を掴み引き離そうとするが、シュートの身体はそのブラックホールに飲み込まれ始めていた。

「おい!」

タクが駆け寄ろうとするがアイスの方が早かった。彼女もシュートの腕を掴むが引き込む力が思いのほか強い。引力に飲まれ3人の姿は消え去った。それを途方にくれたように見つめる残されたメンバー。

「敵だ!」

ふいにシグが叫ぶ。鳴り響いていたアラーム音が止まると木と木の間から巨大な身体を揺らしながら棍棒を片手にダラリとぶら下げたゴリラのようなモンスターが8体現れた。

「ドランクエイプか。仕方ねぇ。行くぞ」

タクが刀を構えながら号令をかける。

 

ドランクエイプ。

上層では珍しくもないが、このモンスターは中層にして常に5体以上の集団で現れ、スイッチを主体に組織だった攻撃をしてくる。更に体力が減った奴は後ろに下がり体力を満タンに回復させてから前に出てくる厄介で面倒臭いモンスターであった。

 

「今は集中しろ。シグとニカ以外前線に出るぞ。ムニ、ヒートで1体ずつ。俺とノースで1体ずつだ。後ろに下がって回復されても無理に追うな。奴らの群れの中まで入ったらフォローは出来ない。確実に死ぬぞ!シグ、後方から戦闘支援。ニカ、俺らの体力はお前に預ける。これはトラップイベントだから逃げることは出来なさそうだ。いなくなった3人と合流する為にも気合いれていくぞ」

タクの言葉に全員が咆哮した。

 

 

ワームホール。

フェイクの宝箱に隠されているトラップの1つで一般的には広範囲のダンジョンや森の、やや不自然な位置に設置されていることが多い。初めて存在が確認されたのは第55層の迷宮区。まさか中層であるこの森に存在するとは思わなかった。これに飲み込まれると、同エリアのランダムな位置に飛ばされてしまう。

 

ハル、アイス、シュートはどこからともなく吐き出され草むらに折り重なるようにして転がった。すぐにハルとアイスは起き上がって現状を確認、把握するがシュートはまだ呆然と座り込んだままだった。

「シュー、どっか怪我してないかい?」

索敵スキルを使い辺りを見渡しながらハルが言った。

「だ、大丈夫だと思う・・・なに今の・・・」

「トラップだ。こっちにモンスターが出ていないということは、タクの方に出てるのかな。アイス、何か変わったところは?」

「生物反応なしです」

「よし」

ハルは頷いてウィンドウを開きマップを確認する。

「ダメだ。タクたちの場所がマーキングされてないや。1人だったら転移して脱出するところだけど3人だったら、あるいは」

 

この時点でシュートは自分も戦力の1人として数えられていることに驚いた。今しがたトラップに引っかかるという重大なミスを引き起こしたばかりだというのに。

「シュー。勿論君も頭数に入ってるよ。仲間なんだから当然でしょ」

シュートのそんな顔に気付いたハルが当たり前のように言った。

「でも・・・」

「じゃあ、君だけ脱出するかい?僕らを置き去りにするのは許さないよ」

口調は厳しいが表情は穏やかだった。

「それともトラップに引っかかったこと怒られたいの?そんなの後でも出来る。今は前だけを見るよ」

「あれ、なんでしょうか?」

突然、ハルの言葉を遮りアイスが深く生い茂る森の一点を指差して言った。

「え?どれ?」

指差した一点だけ、辺りの木々がピンク色に染まり輝いている。

3人は用心しながら、その光源を目指して進むと急に開けた場所に出た。大きな広場だ。そして、その中心に見事なまでに巨大な桜の木が生えていた。

「すっげぇ!」

シュートが感動し思わず声をあげる。

 

「僕の判断ミスかな?」

「いえ、見つけてしまった私に責任があるでしょう」

自虐的に苦笑いをするハルにアイスが素直に自分の非を認めるかのような口調で答えた。シュートは不思議そうな顔をして2人を見る。

「どうしたの?」

「いや、こんな広い場所でしょ?ここで戦えと言わんばかりの・・・」

ハルがため息を吐きながら言うがシュートにはまだ分かっていない。

「それに、シューも聞こえるでしょ?この音」

遠くから腹に響く鳴き声が。地面が微かに揺れ始める。

「え、え・・・」

狼狽えるシュート。

「やっちまいました。ごめんなさい」

アイスが細剣を構えながら言った。

「いやアイスさんのせいじゃないでしょ」

ハルも片手直剣を背の鞘から抜く。

「シュー、武器構えて。くるよ」

地響きは最早凄まじく3人の身体を揺らす。そして闇が広がる木々の間から巨大なモンスターが木をかき分けながら現れた。

 

体長6メートルぐらいの虎が鎧を纏い、2本足で歩行している。手には大振りの両手斧。虎はギラギラした双眸で広場の入口に佇む3人を見つめた。

「大きいねぇ」

ハルが虎を見上げながらシミジミと感想を述べる。

「そ、そんな余裕ぶらないでよ」

シュートが顔を青くしながら言った。

「タクには一応メッセージ送っといた。ピンチですハートって。だから増援が来ることを信じていくよ。シュート行ける?いや、行ってもらうからね」

「う、うん」

「戦闘中は、あいつのHPを減らすことは考えなくていい。増援が来た時に僕らが死んでなければいいんだ。だから無理に突っ込む必要はない。分かった?」

ハルが2人に声をかけた。

「長時間の接近戦は禁止。アイスさんは出来るだけヘイト値を稼いで。よし、行こう!」

3人が各々別の方向に走り出す。戦闘開始だ。

 

 

ドランクエイプとの戦闘は熾烈を極めていた。HPが残り少ない味方を庇うようにしてHP満タンの敵が前に出てくる。

「ふざけんなぁ!」

ムニが前に出てきたエイプを両手剣で斬りつける。更に後ろからヒートが追撃。そしてムニが追撃。更にヒートが追撃。その繰り返しである。ダメージは然程もらっていないがキリがない。それでも、この連鎖攻撃で2体のエイプをポリゴンに変えていた。

対するタクちノースのコンビも同じようにスイッチを繰り返し、3体目のエイプをポリゴンに変える。

「次いくぞ、次!」

タクの身体から闘志が溢れ出る。先程ハルからメッセージが届いた。

「何が『ピンチですハート』だ!?」

タクは焦っているわけでも怒っているわけでもない。ただ戦闘により分泌された大量のアドレナリンが身体中を駆け巡る。

「ノース、奴の棍棒は俺が受け止める!前に出ろ!シグ、てめぇハンドガンに拘りすぎだ!たまには活躍しろ!」

口調は乱暴だが、間違いなく戦闘を楽しんでいた。タクとは長い付き合いだが、彼が楽しむ姿は久方ぶりに見るシグだった。

「燃えすぎじゃない?」

シグはウィンドウを開きメイン武器を変更して新たに取り出したのはポンプアクション式のショットガンである『SPAS-12』連射性は劣り遠距離も弱いが、近距離射撃による弾の重み、破壊力、貫通力は銃の中でもトップクラスを誇る。

 

「ニカちゃん、僕も前に出るからね」

シグは隣に立つニカに声をかけタクの下に駆け出した。

メイン武器が銃のシグは滅多に前線に出ない。『β』は前線で戦えるメンバーが揃っているので、わざわざ自分がでなくてもいいだろうという考え方である。1人だけ銃であり他はみんな剣なので普通の連携は取れないし射線を一々気にしながら戦うのも面倒臭かった。

 

シグは走りながらショットガンのフォアエンドを前後にスライドさせる。散弾が基本であるが今回シグが使用するのは強力な破壊力と貫通力を1発1発に込めたスラッグ弾。助走をつけエイプの肩に飛び乗り、頭部に銃口を向けゼロ距離でトリガーを引いた。再度フォアエンドをスライドさせ、同じ箇所に弾丸を放つと肩から飛び降りる。頭部が黒コゲになり煙を上げ倒れ込むエイプに接近していたタクが刀を振り両断する。

「シグ、お前最高だ!」

タクがハイテンションで叫ぶ。

「いや、だから燃えすぎでしょ」

シグは呆れた顔をしながら、回復しようとしているエイプで向かって手榴弾を投降する。凄まじい爆発が巻き起こり、粉塵に紛れ込みながら倒れるエイプの懐に潜り込んだシグは腹部と頭部に1発ずる弾丸を食らわせポリゴンに変えた。

 

 

虎の動きは非常に機敏であった。身体が巨大な分、歩幅も大きい。ハル、アイス、シュートはお互い距離を取り戦っていた。しかし、ハルとアイスに比べ、シュートはあまり多く斬り込みに行けない。自分よりも遥かに大きなモンスターと戦うのは初めての経験だった。足がすきみ、身体の震えが止まらない。

「シュー。それでも構わない。無理だと思ったら近づくな。だけど足は止めるな。絶えず動き回るんだ」

ハルが虎の周りを駆け回りながら言った。情けないと感じながらもシュートの身体は正直だった。

「シュー。敵を常に見るんだ!そっち行くぞ!」

虎がいきなり進路を変え、シュートに向けて斧を振りかぶる。

「あ・・・あ・・・」

逃げなきゃいけないのは分かっている。それでも足が、足が全く動かない。

 

重い打撃音が鳴り響く。思わずシュートは目を閉じたが自分の身体に衝撃はいつまでたっても訪れない。恐る恐る目を開けると、シュートの前にハルとアイスがいた。ハルが虎の斧を盾で受け止め、アイスもまた虎の斧を細剣で受け止めている。

「くっ・・・押し返せないか!」

ハルが盾を持つ手に力を込めるがビクともしない。

「シュー。僕らが受け止めている間にそこから離れろ!早く!」

我にかえり退避するシュート。それを確認してハルとアイスが上手く斧を受け流し、その場から離れる。

 

「強いですね」

アイスがハルの隣に立って呟いた。

「うん。中層とは思えないね。フロアボス並みだよ」

「提案なのですが、シュート君は脱出させた方がいいかと」

「そう思う?」

「はい」

ハルはアイスの顔を見る。無表情ではあるが、長い付き合いだからこそ彼女の気持ちが分かる。明らかに心配していた。思えば、シュートがワームホールのトラップに引っかかった時もアイスの反応は誰よりも早かった。アイスなりに常に気を配っていたのだろう。もし飲み込まれたのがハルとシュートだけだったら、ここまで戦闘を続けることは出来なかっただろう。

「分かった。伝えてくるよ。暫く引きつけてくれるかい?」

「はい」

 

ハルは腰を抜かしたままヘタり込むシュートの傍に行って言う。

「シュー。こいつ予想以上に強すぎる。僕らで何とかするから君は先に帰るんだ」

「え?」

「足手纏いとかそういう理由じゃない。単純にレベルが違いすぎる。僕らは安全マージン充分にとってるけど君はギリギリだ。転移結晶で50層のホームまで飛んでくれ」

ハルは必死で述べる。

「ごめんなさい・・・」

「謝る必要も泣く必要もない。このクエストをチョイスしたのは僕だ。僕に責任がある」

ハルの断固たる決意にシュートは背中を押された。

「転移結晶の使い方は分かるね?」

「うん。大丈夫」

シュートはそう言ってストレージから結晶を取り出した。

「僕らもすぐに帰るから」

「あ、ありがとう・・・。転移アルゲート!」

 

シュートが転移結晶を掲げて街の名前を叫んだ。本来ならシュートは光に包まれ告げた街に転送される。しかし何も起こらない。

「ま、まさか結晶無効化エリア?ここだけ?」

失念していた。考えが及ばなかった。しかも、このエリアだけ結晶が使えないという情報は今まで聞いたこともないし情報にも無かった。そしてハルはもう1つ忘れていたことがあった。それは今の状況。目下戦闘中であり、モンスターの存在は完全に頭の中から消えていた。

 

結晶無効化エリアで結晶を使用すること自体がトラップであったのだろう。使用したプレイヤーを識別するシステムが作動し、アイスと対峙していた虎はクルリと向きを変えてハルとシュートに迫った。

「な!?」

ハルが思わず左手に持つ盾で攻撃を防ごうとするが、完全に遅れた反応、不安定な姿勢によって虎が振りかざす斧は盾には当たらず、ハルの左腕を根元から掠め取った。ハルの身体は衝撃で吹き飛び、盾を持ったままのハルの左腕が身体から離れポリゴンに形を変えた。片腕を失ったハルのHPが著しく低下する。

転がって立ち上がることの出来ないハルに目掛けて虎が再度斧を振り下ろす。アイスが懸命に駆けるが遠すぎる。間に合わない。このままではハルが、死んでしまう。

 

 

―――死ぬ?

 

 

「それはダメだああああああああ!!」

シュートの身体の震えが止まった。足が動く。本能が働いた瞬間であった。

倒れるハルの位置から離れた場所に転がる盾を拾い、地に伏したハルの前に立ち巨大な斧の一撃をその盾で受け止めた。凄まじい衝撃だった。しかしここで負けるわけにはいかない。身体に鞭を打ち我武者羅に踏ん張った。

駆け寄って来たアイスが虎の背後から強力な突きによるソードスキルを放つと、盾にかかる力が弱まる。アイスに虎が向き直る。すかさずアイスは虎をハルとシュートから引き離した。

 

「ハル兄!」

シュートは自身のストレージからハイポーションを取り出しハルに飲ませた。

「・・・ありがと・・・」

息も絶え絶えになりながらハルはそれを飲み干す。片腕欠損ペナルティによりハルのHPは完全には回復しない。

「俺、ハル兄の盾になるから!俺、頑張るから!」

「・・・うん。一緒に行こう!」

先程まで戦意喪失していたシュートの姿はどこにも見当たらない。ハルは少年の瞳に燃え上がる炎のような煌きを見て、右手に剣を握る。

「シュー。行こうか」

「分かった!」

2人同時に虎に向けて駆け出した。

 

2人の小さな子供に気付いた虎は後ろを向いたまま、長く強靭な尾を振り回す。ハルの左側にピッタリくっついたシュートは盾を両手で構え尾を受け止めると、ハルが失くした左腕の仕返しだと言わんばかりに尾を付け根から両断した。

バランス感覚を担う尾を失った虎は後ろに倒れ込む。それをチャンスだと睨んだ3人はところかまわず虎の身体に斬り込んだ。合流するまでの時間稼ぎをする戦い方ではない。この3人だけで倒してしまおうという気迫の表れであった。

虎が起き上がろうとするが、すかさずアイスが頭に飛び乗り、脳天に細剣を突き立てる。それでも虎のHPは全損しない。

「斬り続けるよ!」

「了解です」

「了解!!」

ハルの言葉に2人が呼応する。

 

最初に5本あった虎のHPバーは戦闘開始から1時間経とうとしている今、残り1本となっていた。そして残り1本を切ったところで急に虎が跳躍する。そして何の前触れもなく持っていた斧をアイスに向けて投げつけた。鈍く回転する斧を難なく回避した彼女を次に襲うのは4本脚になって地を駆け迫る虎の鋭く尖った牙。アイスを噛みちぎろうと大口を開ける。咄嗟に細剣で防御姿勢を取るが、虎はそのままアイスの細剣を噛み砕いた。細い刀身が柄の根元から粉々に砕け散る。

 

「アイスさん!」

カバーに入ろうとした片腕のハルは目を丸くした。剣を折られ破壊された彼女は戸惑うどころか更に闘志を燃やしていた。柄だけ残った剣を放り捨て、右手をオレンジ色に輝かせる。そして右腕を振りかぶり、低い位置まできていた虎の眉間に鋭い手刀を放った。体術スキルによるゼロ距離超近距離技『エンブレイサー』である。虎の身体は大きく仰け反り半回転しながら地面に叩きつけられた。

 

「か、かっけぇ!」

感嘆の声をあげるシュートにアイスが無表情のままピースサインを向けた。

「アイスさん、武器いる?これしかないけど」

ハルが自身のストレージから薙刀を取り出しアイスに渡した。受け取った狂戦士はそれを軽く振るい間合いや扱いやすさを確認する。普段から片手剣だけを使用するアイスしか見てないが、これはこれで様になっている。というよりも、これ程までに武器が似合う女性も珍しい。勿論褒め言葉である。

「ごめん。片手剣持ってないんだ。それ使えそう?」

「問題ないです」

「よし。残りのHPバーは1本ない。こうなったらもう3人でやっちゃおう。畳み掛けるよ。シュー、行けるかい?いや、行ってもらうからね!」

「大丈夫さ!」

シュートはハルの盾を左に持ち右手に握った片手直剣を握り直した。

 

虎は先程投げた斧を拾い戦闘体制に入っていた。3人は同時に駆け出す。

最初に斬りかかるのはアイス。虎の頭部目掛けて勢いをつけて跳び、空中で1回転しながらその遠心力を利用して虎の顔面を斬りつけた。

次に行くハルも勢いをつけて跳び、虎が持つ斧の刀身を足場にしてもう一度跳ぶ。そして剣に全体重を込めて虎の喉元に剣を突き刺し、すぐに退避する。

最後に追いついたシュートは虎の股下に入り込み、両足に3連撃ずつソードスキル無しの斬撃を放ち続ける。虎のHPバーは残り約半分。

「シュー。さっき1発貰ったろ?ポーション飲んで!アイスもだよ!」

「了解です」

「分かった」

2人の体力が回復する間に、ハルが虎の懐に潜り込み応戦する。片腕を失っているとは思えない動きであった。すぐにアイスとシュートが参戦する。しかし先程とは対照的に虎は上手く3人の攻撃を斧で受け流し受身の戦いをしてきており、中々体制を崩すことが出来ない。

 

「ハル、アイス、シュー!一旦退け!」

ふいに広場の入口から聞き慣れた声が響いた。

「ムニ、ヒート、ノース、シグ!前に出ろ」

4人の仲間が3人と入れ替わるようにして虎と対峙する。

「みんな!」

ハルが安堵したような表情を浮かべた。

「捜したぞ、この野郎」

荒っぽい口調とは裏腹に優しく微笑むタク。

「ありゃ、アイちゃん、武器どうしたの?」

「折られました。最悪です」

アイスの薙刀に気付いたヒートが尋ねた。

「ハル、お前片腕どうした?」

「斬られた。最悪」

ムニがハルの腕に気付く。

「まぁ、シューが僕のこと庇ってくれなかったら多分死んでたけど」

「マジかよ、やるじゃん!ちびっこ」

タクが嬉しそうに笑う。

 

「敵の守備力、敏捷力を幾つか下げましたよ~」

まるでお茶が入りましたよというような、ほんわかした口調で言うニカ。

「よっしゃ!お喋りもこんぐらいにしてやっちまうか!」

「当然!」

タクが刀を構えると同時にハル、アイス、シュートが駆け出す。

 

 

程なくして、虎のHPバーはゼロになり、その姿をポリゴンに変え四散した。

ハル、アイス、シュートにとっては2時間近く続いた長時間の戦闘が終わりを告げた。

 

 

「つ、疲れたー」

ハルとシュートが草むらに大の字になり寝転ぶ。

「まだクエストクリアじゃないぞ」

タクが言う。

「あ、そうだった」

「忘れるなよ」

「忘れてた」

みんなが笑い出す。

 

「えとね、クリアするには桜の木の下に近寄ること・・・」

『β』の9人が立派な大木の下に立つ。途端に優しくそよ風が吹き、枝を揺らす。花弁が舞った。

「綺麗だね」

「そうだな」

ヒートとムニが肩を寄せ合って言った。

もう一度、静かな風が吹いたかと思うと、9枚の光輝く花弁が1人1人の前に落ちてくるので、みんなが手でそれを受け止める。ハルが受け止めた1枚をタップすると『春の結晶』と表示が出た。

「春の結晶だってよ。何?お前の結晶?」

タクが笑う。

「や、ややこしいな。どうやら強化アイテムみたいだね。装備なら何にでも使えるのかも」

ハルが言う。

 

「にしても、いい所だな。花見がしたいぜ。弁当持ってくりゃ良かったな」

シグが言った。

「そうですね。ずっといたくなります」

ニカが相槌を打つ。

「私は嫌いです。剣が折られた場所ですしハルさんが腕を失った場所ですから」

アイスが悔しそうに言ったのを聞いて『β』のメンバーは笑いに包まれる。

 

「いや、僕の腕、もう復活したから」

クリア報酬を受け取った時に丁度ハルの左腕欠損ペナルティが解けていた。そのハルにシュートが近づき、預かっていた盾をハルに返す。

「ありがとね」

ハルが優しく微笑む。

「シュート。もとはと言えば、お前がトラップに引っかかったのがチーム分断の原因だぞ」

いきなりタクが吼えたのでシュートは小さい身体を更に小さくする。

「でも、その後は大活躍したらしいから、お咎めは無しでいいや。よくやった!言っただろ?足引っ張るのも手引っ張るのも構わないって」

タクは笑っている。シュートが見渡すと、全員が笑いながらシュートの方を見ていた。それを確認した小さな少年は愛嬌ある笑顔を浮かべ笑い返してみせた。

 

「しばらく、花見していこう」

ハルの提案に全員が頷き、桜の木の下に腰をおろした。

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