Sword Art Online Re:βoot   作:mimitab_

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14.

2024年、5月。

アインクラッド 第50層 アルゲート ギルドホーム

 

「すげぇな」

第61層解放の為の攻略会議に参加しホームに帰ってきたハルとタクの報告にメンバー全員が反応した。

「ユニークスキル、神聖剣か」

それは『血盟騎士団』の団長であるヒースクリフが最近会得したエクストラスキルの更に上位となるスキル。会得条件は不明で情報屋をもってしても未確認の為、団長一人しか習得していないものである。

「負けてらんねぇな」

ムニが腕まくりをしながら力強く言った。

 

 

 

Sword Art Online RE:Generation

第14話「紅の頂点」

 

 

 

SAOがサービス開始されてから一年以上が経った今、多くのエクストラスキルと呼ばれるものが情報屋を通して一般に公開されていた。『β』ではタクが使用する刀、アイスが使用するエストックや体術もこれに該当する。会得条件も明らかにされており、熟練度やイベントクエストをこなせば誰にでも習得できる。

しかし、その上位に当たるユニークスキルは全くの別物である。会得条件は不明。何がトリガーになるのかも分からない。運も関係していると言われている。そんなスキルが存在することを知ったアインクラッドに住む剣士たちは、未知なるスキル会得の為に奮起することとなる。

 

そんな中『血盟騎士団』を中心に新たなる攻略が始まろうとしていた。第60層迷宮区のボス部屋の前にプレイヤーたちが集まる。ハル、タク、ムニ、ヒート、アイスの五人も黙って開戦を待っていた。

緊張する攻略組の面持ちの前に、最近副団長に就任したアスナと、誰もが知る男ヒースクリフが立った。

ハイレベルな剣士たちで構成された最強ギルド『血盟騎士団』は常に攻略の最前線で戦い続けてきた猛者たち。その頂点に長く君臨する男こそが団長のヒースクリフ。SAO最強プレイヤーと崇められ、誰よりも尊敬の眼差しで見られてきた男である。

「諸君。今宵は第60層フロアボス討伐に参加してくれたことを心から感謝する」

凛とした声が響く。その言葉一つ一つでプレイヤーたちの士気が上がる力を持っていた。

「今回のボスは『ナラカ ザ パニッシャー』偵察隊の情報によればHPは700万程。刀を持った武士の姿をしていると聞いた。防御力攻撃力共にバランスが取れたボスであろう。ボスが生み出す全ての攻撃は私を含めた騎士団の重装兵が請け合おう。私たちが攻撃を食い止める間、諸君は横ないし背後から攻撃を加えてほしい。持久戦になるだろうが勝つのは我々だ。何故なら、私たちには背負っているものがある。我々攻略組はアインクラッド全プレイヤーの希望である。そのことを忘れぬよう、自身の心に刻み込め!では、行くぞ!」

ヒースクリフの力強い言葉を受けたプレイヤーたちが歓声をあげ、武器を高々と掲げる。騎士団のメンバーがボス部屋の扉を開けた。

 

プレイヤーが次々となだれ込むと、広いボス部屋の壁に設置された松明に紅い焰が灯っていく。広場の奥で胡座をかいて座っていた武士の鎧を身につけたボスが脇にある刀を手にし、ゆっくりと立ち上がった。全長六メートル程のボスはゆったりとした動きで眼下にいる人間を見下ろす。兜の下にあるあるべき顔はなく、真っ暗闇に包まれ表情を確認することは出来ない。そして、これまたゆっくりとしたモーションで刀を構えた。

 

「戦闘開始!」

ヒースクリフが片手直剣を抜き、剣先をボスに向け轟いた。

プレイヤーが散らばり各々の戦闘位置につく。『血盟騎士団』の重装兵はヒースクリフを真ん中に横に並びボスの前に立ちはだかった。すぐにボスが刀を振り下ろすが防御力に定評のある重装兵の盾陣形はびくともしない。

「仕掛けろ!」

ヒースクリフが号令を出すと、周りのプレイヤーたちが自身の武器を構え四方八方から突撃する。『β』の五人も例外ではない。ボスの左方から迫り、強力な剣技を放つ。やはりここでも先陣をきるのは俊足を飛ばすアイス。それにムニとヒートが続く。

『β』でも先行隊に属する彼らは誰よりも先に先制攻撃を放ちたいという気持ちが髙い。早く強い敵と戦いたくて仕方がないのだろう。アバターの死が現実世界での死に直結するという絶対的なルールが存在する中で、そんな精神力を備えている時点で異常なのは間違いない。しかし『β』の人間はそんな異常者が多く集まっている。恐れを知らない感じさせることがない、端から見れば命知らずな戦闘スタイルが、周りの士気を高めるには充分であった。

 

「硬いね」

「でも白竜程じゃないな」

剣技を放ち終えたムニとヒートが話し合う。

武器、鎧には耐久値が存在する。ゼロになればどんなに強い装備でも粉々に砕け散る。そしてそれはモンスターにも当てはまる。絶対に壊せない装備は、この世界に存在しない。

無茶苦茶に剣技を放っているように見えて『β』の面々は鎧の繋ぎ目を正確に狙っていた。特にアイスのエストックによる刺突は寸分の狂いもなく目を見張るものがある。あのスピードで当てるべき箇所に確実に切っ先を突き立てることは容易ではない。

 

周囲の小さな人間が煩わしいのかボスは暴れ、刀を振り回すが、この攻略戦に集まったメンバーは全員が各フロアで強敵と命をかけて戦ってきた猛者たち。そんな我武者羅な振りに刈り取られるような素人は一人もいない。

 

ボスのHPバーが黄色に変わったとき、急に動きを止めたかと思うと、ボスは兜の下、顔がある位置からいきなり一本の刀を取り出し二刀流へと変化した。その二本の刀を不規則に振り回し始める。いくら我武者羅な振りでも、予測の出来ない二本の刀の軌道を一瞬で見極めるのは難しく、全プレイヤーが後ろに退がる中、一人の男が前に出た。

 

ヒースクリフ。SAO最強プレイヤーと言われる男が余裕だともとれる表情でボスの前に立つ。その身体を不規則な流れで軌道を描く二刀流による攻撃が襲うが、ヒースクリフは全ての斬撃を盾で受け止め弾いてみせる。驚くべきは盾を構える速さ。思えば、ヒースクリは今まで自身のHPを黄色すなわち半分まで減らしたことは一度もない。『血盟騎士団』の重装兵が束になっても適わない強固な防御力を保持しているのだ。そんな男に『神聖剣』という新たなスキルが加わった。あらゆる攻撃を防ぐ効果がある能力を身につけた男。彼がボスの前に立ち続けてくれる限り、彼が倒れることはない。

全ての斬撃を一人で受け止め続けるヒースクリフの姿に感化された他のプレイヤーたちが周りから攻めていく。もうボスのHPは残り少ない。

 

「生き生きしてるな」

タクはアイスの戦闘を遠目で見ながら呟いた。

「そうだね」

ハルが同意する。

『β』きっての戦闘狂であるアイスをフロアボス戦に毎回参加させているのは、ちゃんとした理由がある。一つは間違いなく戦力になるということ。これは誰にでも当てはまるが、もう一つはアイスだけにしか当てはまらない特殊な理由だった。それは、アイスのストレス発散の為。どんな時でも強者と戦いたがる彼女の気持ちを汲んでのことだった。ムニとヒートは戦闘マニアで留まっているがアイスは戦闘狂い。ギルドの中で一番血の気が多く、本人もハルたちも口には出さないが、彼女の将来が心配になる程にアイスは血を求めている。戦場を求めている。戦っている時に一番自分が生きていることを実感する。相手が強ければ強い程、それを意識し真価を発揮する特殊なタイプだ。弱い敵にも容赦はしないがすぐに倒せてしまう為、アイスは物足りなさを感じてしまう。そうなった時の彼女は少々面倒臭い。大抵はタクが一時間デュエルに付き合わされることで緩和していた。二人の勝敗は今のところ五分五分であり、アイスもタクも勝負に手は抜かないのでいつだって真剣勝負であるが、付き合わされるタクからしてみれば、デュエルが終わった後は毎回疲労困憊である。それは、フロアボス討伐の時よりも疲れることが多い。

「今日は居残りデュエルないかな」

タクが笑って言うと、ハルも同情してニッコリ微笑む。

 

(いける)

アイスはボスの左方から攻め、鎧を破壊し確信する。正面の鎧はヒースクリフのお陰もあって破壊されている。弱点も見極めることが出来た。それはボスの左胸。人間でいう心臓部分。そこに刺突性のソードスキルを放てば終わる。ただそこに確実に当てる為には、ボスの刀を空中で躱す必要があるが、それは然程問題ではない。そして、その瞬間が気持ちの高揚に繋がることは誰よりもアイスが知っていることだった。

後方から助走をつけ、ボスの足元から跳躍する、刀を避けたらすぐにソードスキルが放てるように腕を剣技のモーションに合わせ発動させようとした時、急に一人のプレイヤーがアイスの目の前に飛び出してきた。アイスは急な乱入に仕方なくモーションをキャンセルし、地面に着地し退避する。アイスの前に飛び出したプレイヤーはボスの刀を細剣で弾き、アイスの傍に難なく着地する。その間に周りにいた剣士たちがボスのHPを減らし、武士の姿をしたボスは細かい破片に変わり砕け散った。

 

空中に浮かぶ『congratulation』の文字。第61層解放という結果に歓喜の渦が広がった。

 

アイスは自分の前に立ち剣を鞘に納めるプレイヤーを静かに見つめた。そのプレイヤーは姿勢を正し、赤と白の制服を翻しながらアイスに近寄る、

「危ないことはしないで下さい。あのまま貴方が突っ込んでいたら斬られていましたよ」

丁寧な物言いだが威圧的な口調。憤然とした表情で言い放つ『血盟騎士団』副団長、細剣使いの『閃光のアスナ』その人である。

「私がいち早く気付いて防御したから良かったものの」

対しアイスは無表情のまま何も言わず、エストックを鞘に納める。

「まったく、貴方のギルドメンバーは仲間が危険な行動をしているのに全然気にかけないのですね」

「アイスは斬撃がくること分かってたぜ?」

近くに寄ってきたムニが明るい調子で言った。

「そうですか?私にはそうは見えませんでした」

「そりゃ、あんたが『β』の人間じゃないからだ」

タクが呆れた調子で言う。

「何ですかそれは。同じギルドのメンバーだったら仲間が危険な戦闘をしていても簡単に見過ごすのですか?」

アスナはタクの方を向き睨みつけながら言う。

「危険な戦闘だと思ってないからな。こっちは毎日アイスの戦い方を見てるんだ。信頼してんだよ」

タクが静かに言う。

「そんなの、信頼とは言えません!」

タクの表情一つ乱さない落ち着いた姿にイラつきながらアスナが言った。

「何にしろ、アンタはアイスの攻撃を妨害したんだ。あいつに謝ったほうがいい」

「な!?」

タクの言葉にアスナの怒りは最高潮に達した。

「私は正しいと思ったことをしたまでです。感謝はされてもいいと思いますが、何故謝罪なんてしなきゃいけないんですか!?」

「タクさん」

不意にアスナの怒りを傍観していたアイスが口を開く。

「な、何?」

タクはアイスの口から放たれる言葉を覚悟しながら訊く。

「この後デュエル付き合ってください。三時間程」

「・・・やっぱり?」

「やっぱりです」

タクは深くため息を吐いてアスナの顔を見た。

「何ですか?」

アスナがタクの目を見る。

「アイちゃん、イラついてるなー」

「タク、お疲れー」

ヒートとムニが他人事のように笑い合ってタクに同情する。

 

「どうしたの?」

「何の騒ぎだね?」

遠くで会話していたハルとヒースクリフがやって来た。アスナが簡単に説明をする。自分に非は全くないと付け加えて。

「成程。アスナ君が良かれと思ってやったことが結果的に妨害になってしまったということかな。それはすまないことをした。しかし、アスナ君も悪気があったわけではない。分かってくれ」

ヒースクリフが落ち着いた口調で言う。発言する言葉の選び方が見事だ。どちらにも非はないと思わせる的確な力だった。

「しかし、それでも分かり合えないなら提案がある。君たちも剣士だろう。剣士なら剣士らしく剣で決着をつけたら如何かな?」

そう微笑みながら言った。

「団長が仰るのなら私は構いませんが」

アスナが自身の細剣の柄に手をかけて言った。対するアイスはというと。

「私は強者としか戦いたくありません」

そう言い切り去っていく。

「あちゃー」

アイスの挑発的な言葉にムニとヒートが同時に額を押さえた。息ピッタリの反応である。

こんなことを言われて怒らない人間がいる筈がない。

「な!?」

アスナは顔を真っ赤にして言葉を失っている。

「相当キレてんな、あいつ」

タクがため息を吐くと、ハルが心配そうにアイスの後を追う。

 

「ヒースクリフさん、すいませんね」

タクが頭を下げると団長はクスクスと笑う。

「構わないさ。こちらも副団長が迷惑をかけてすまない」

「団長!」

ヒースクリフが丁寧に頭を下げるとアスナが不服そうに声をあげるが、ヒースクリフはそれを目で制した。

「アスナ君。少しは『β』を信頼してみたらどうかな?最前線の攻略は『血盟騎士団』だけでは出来ない。他のギルドに感謝することは大切だ。では『β』の諸君、失礼」

ヒースクリフはサイド頭を下げて去っていく。アスナも無言で軽く頭を下げると、団長の後についていった。

 

「流石だな」

ムニが言うとタクとヒートが頷く。

「大人の風格ってやつかな」

「ありゃ上に立つ人間としての素質がある。羨ましいぜ」

 

 

夜。

アインクラッド 第50層 アルゲート

ギルドホーム

 

「タク兄、お疲れ」

シュートが食卓のテーブルに突っ伏すタクにお茶を出した。先程まで鬱憤が溜まったアイスと四時間に及ぶデュエルを終えたばかりだった。

「あぁ、さんきゅ」

タクは出されたお茶を一気に飲み干した。

「アイ姉、凄かったね」

「おぉ。あいつエストックになってから更に強くなりやがった。怪物だよ怪物」

「でも、それに負けないタク兄も凄かった」

シュートが素直に感動して言う。

「そりゃ負けたくねぇもん。まぁ、18勝21負で今日は俺の負けだけど」

タクが悔しそうに言った。

「俺も強くなるぞー。聞いてよ、短剣の熟練度800超えたんだぜ」

シュートが誇らしげに言った。

「マジか。いいね。明日アイスと戦ってみれば?」

「え?無理」

「即答だな。強くなる宣言はどこいった」

「いきなりボスレベルじゃん。というかここの他人、みんなボスレベルじゃん」

「そんなことないって。自分の力の差を見極める為にもさ・・・いいこと思いついた」

タクは閃く。

「絶対いいことじゃない」

シュートはタクの恍惚とした表情に怯える。

 

「『β』デュエルトーナメントやろう」

「ほらー」

「『ほらー』じゃ、ねぇよ。強くなりてぇんだろ?俺もなりたいし。ギルメンの手の内を知っとくのは一緒に戦う時に役立つぞ」

タクは満面の笑みでトーナメント表作りを開始する。その様子にシュートは、もうトーナメントが始まっていることを感じるのだった。

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