Sword Art Online Re:βoot   作:mimitab_

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2023年、11月。

アインクラッド 第32層 ヒュルゲンシュタイン

ギルドホーム

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「おぉ。ただいま・・・ぁあ?え?」

煙草精製の為にフィールドで薬草を採取していたシグがホームに帰宅すると玄関で出迎えてくれたのはメイド服姿のアイスだった。無口で物静かで身軽さを活かした戦闘を行いモンスターを淡々と刈りつくす彼女がツッコミどころ満載の格好で立っている。

「ア、アイちゃん!?どうした!?」

「罰ゲームです」

「は?」

「罰ゲームです」

 

 

 

Sword Art Online RE:Generation

第4話「感謝祭」

 

 

 

ノースは自室の姿見の前で未だに悶絶していた。鏡に映るその自身の姿は正しく正統派のメイド。濃紺のワンピースに白いフリルのついたエプロン。袖にも白いフリルが付いており、ご丁寧に赤のカチューシャまで上乗せさせられている。更に製作者の悪意を感じるぐらい、胸が強調されていたり、ドレスの丈が短かったりと女性の身体を意識した構造になっていた。このコスチュームを着用する発端を作ったのは紛れも無く自分だということが尚更屈辱的であった。

それは、先の採取クエストでのこと。確かにあの時、ノースは課題を出し達成できなければペナルティだと言ったのだ。しかしペナルティの内容は全く考えていなかった。最も、あの時は死にかけた上、メンバーには心配され、ハルには辛い思いをさせるなど色々なことがあったのですっかり忘れていた。

それが落ち着いた頃になって、アイスが「ペナルティは何をすればいいのですか?」と律儀に聞きに来たのであった。アイスが戦闘を中断して足を止めたのは自分に責任があるので「やらなくていいよ」と言ったのだが「そういうわけにはいきません」とバッサリ言い切られてしまったのだ。アイスがペナルティを受ける気満々なのに自分が受けないのは申し訳ないと思った矢先、話を聞いていたムニとヒートが、ショップで売れ残っていたハロウィンイベントのコスチュームが無料で手に入ったので、それを着ればいいと冗談まじりで提案したのであった。その結果がこのなんとも可愛らしいメイド服である。普段から黒のズボンと黒のシャツの上に銀のプレートメイルに黒のコートという男性的な装備をしているノースにとって、これは難関であった。

 

夜。

メンバーが全員集まって食卓を囲む中、ハルがウィンドウを操作しながら言った。

「食べながらでいいから聞いてね。明日予定通り、感謝祭クエストやるよ。詳しい情報は今みんなに詳細送りながら話すね」

「きたきたきた!やるぞー」

ムニがサンドウィッチを手に持ちながら興奮気味に叫び、隣に座るヒートと嬉しそうに顔を見合わせる。

「必要な薬草類も表記しといたからね。シグ君、倉庫から提供よろしく」

「ほーい」

シグがウィンドウをタップし確認をする。

「タク。ニカさんの調子はどう?」

「バッチリだよ。な?」

「大丈夫です」

タクの発言にニカが頷いた。その自信満々な表情からは数日前の弱気な姿など、どこにも見当たらない。

「よかった。でも無理することはないからね。お祭りイベントだし楽しくいこう。あと・・・」

ハルはそう言葉を置いてノースとアイスをチラリと見るが、すぐに目を背けた。

「あれ~?ハルちゃん、どうしたの?」

ヒートがニヤニヤしながらハルに言う。

「い、いや、目のやり場に困るというか・・・」

メイド服姿の2人を見てハルは顔を背けながら言った。アイスは何故か堂々としているが、ノースは先程からずっと顔を赤くして座っている。

「ふ、2人共。明日のクエストでもその格好なの?」

ノースに負けないぐらい顔を赤くしたハルが俯きながら聞いた。

「え?駄目ですか?」

アイスがキョトンとした表情をして言う。

「い、いや・・・ダメじゃないけど・・・」

「わ、わ、私はいつもの格好がいいです!」

ノースが声を大にして言う。

「でもノースさん。ペナルティですよ?」

「え?アイちゃん何でそんな意地悪・・・」

「それにコレで先程フィールドに出て戦闘をしたのですが、意外に耐久値高いし重くないしスピードアシストが付いているので素早さ上がるし、私明日これ着て行きます」

「・・・ペナルティになってねぇ」

アイスがハッキリと断言する中、タクが的確なツッコミをいれた。

「というか、その格好でフィールド出たのかよ」

シグも驚きである。

「アイちゃんは前からスカートだったから抵抗ないのかもしれないけど私はこれで戦闘なんて無理です!絶対に!」

ノースが声を張り上げる。

「ギャップ萌えという言葉がありますよ」

「ア、アイちゃん?」

「もう好きにしてください」

ハルがまだ顔を背けたまま締めくくった。

 

 

翌日。

アインクラッド 第10層 深遠の森

 

「結構人いるねぇ」

クエスト受注場所に集まり周りを見渡したヒートが言った。

「人が密集する時間帯は外したつもりなんだけどな。まぁ、去年は出来なかった人多いから仕方ないか」

タクが言う。

「フラグ立ててきたよ」

ハルが受注完了の報せを届けた。

「じゃ、最終確認。森の中心を目指して進むよ。中心にイベントボスがいる。レアドロップ品は、槍属性のトライデントスピア。三叉にわかれた矛らしい。森でポップするモンスターはレベル低めだけど、稀に麻痺と毒攻撃があるから注意して。全員、麻痺治療と毒治療のポーション及び結晶は10ずつ持ってね。シグ君は多めに持っていざという時だせるように。戦闘指揮はタクに任せるよ。じゃ、よろしく」

ハルがタクとハイタッチした。

「はい。任されました。隊形の指示いくぞ。先頭にムニとヒートとアイス。中盤はハル、シグ、ニカ。しんがりはノースと俺。ニカは俺が指示するまで短剣で戦闘。ハル、ニカのフォロー頼むぞ。シグは先頭の3人の援護。後ろから来る奴は俺とノースで止めてみせる。こんなもんか」

タクの言葉にみんなが頷く。

「じゃ、行こうか。楽しもうぜ」

 

戦闘は滞りなく進んだ。第32層にホームを設置しているが、戦闘、連携、レベル全てに於いて高層でも通用する力が彼らにはある。第10層で出現するモンスターなど本来敵にはならない。ムニとヒートの完璧すぎる連携とアイスの有無を言わせない強烈な突撃がモンスターの集団に穴を開ける。そこからこぼれた手負いの敵をハルとニカが的確に倒していた。ハルの手厚いフォローのおかげか、ニカは大分自由に短剣を振るうことが出来るようになっていた。後ろからもポップしたモンスターが迫ってはくるが、しんがりのノースとタクの武器はどちらもリーチが長い為、モンスターたちは近距離まで近付いてこれない。更に隊形の中心位置で前と後ろに銃口を向けたシグの拳銃による射撃によって、モンスターの動きを上手く阻害していた。

 

「本当に着てきたな。メイド服」

小型の猪を刀身の大きな両手大剣で両断したムニが呟いた。

アイスはペナルティで支給されたメイド服をひらめかせ刺突攻撃を放っていた。緑が深まる森の中その格好で戦う姿は場違いすぎて逆に笑いを誘う。

「正直パンツ丸見えで困るんだけど」

ムニがアイスの姿を凝視しながら言うと隣で剣を光らせたヒートがその切っ先をムニに向けた。

「むーちゃん、何か言ったー?」

微笑んではいるが目は全く笑ってはいない。

「言ってない!何も言ってない!」

 

そして、メンバーは開けた場所に到達した。恐らく、ここが森の中心だろう。地響きがする。それは、どんどんと近付いてきて森の奥から巨大な七面鳥が現れた。更に剣を持った二足歩行する人間サイズの鶏のモンスターが5匹現れる。七面鳥の頭上にはHPゲージが4本表示されボスの名前である『Bold Turkey』の文字が表記されている。

「あれがボスだ。攻撃は主に硬化された翼による斬り裂き、衝撃は、噛み付き。稀にブレスを放つと聞いたが兆候は未だに不明。攻撃はランダムで変わるから接近する時は常にボスの些細な動きまで見逃すなよ」

タクが全員に声をかける。

 

「ボールド?どういう意味?」

「ハゲって意味じゃなかった?」

ムニとヒートが話し始める。

「ハゲはbaldだ。あれは、強いとか勇敢なって意味だろ」

シグが訂正する。

「へぇ。じゃ、俺はボールドムニだな」

「じゃ、私はボールドヒート」

はしゃぐ2人は「で?」とニカの方を期待を込めて振り向く。

「なら私はボールドニカですね」

ニカが微笑みながら言うと賑やか担当の2人はニッコリ笑った。

「アホなこと言ってねぇで武器かまえろ」

タクが一喝する。

「ボールドタク!早く指示だしてくれ」

「ボールドタクちゃん!プリプリするとハゲちゃうよ」

「うるせぇ。ハゲ言うな!」

「ボールドタク!落ち着いて」

「ハルまで便乗すんな!ムニ、ヒート、アイスはボスに攻撃。翼の一振りに気を付けろ。モーションがデカいから回避出来る。情報通りなら飛行はしない。ただジャンプするぐらいはするだろうから踏み潰されんなよ。ハル、ノース、俺は鶏相手だ。前線の3人に行かせないようにな。シグは後方から射撃で全員の援護。お前ぐらい視野が広ければ可能だろ。ニカはシグの隣で戦闘支援だ。それに徹しろ」

「戦闘支援?」

ハルが尋ねる。

「あぁ。短剣だけ磨いたわけじゃねぇ。ニカ、みんなの度肝抜いてやれ。シグはニカに近寄る敵が出てきたらちゃんと倒せよ?」

「うぃっす」

「なら、行くぞ。戦闘開始!」

 

ムニ、ヒート、アイスが俊足を活かして巨大な七面鳥に接近する。それに感づいた鶏が行かせないように武器を向けるが、ハル、ノース、タクが弾いた。シグが七面鳥の頭に的確に弾丸を当てていく。

そしてニカは後方に居残ったまま、短剣を鞘に納め、ウィンドウを開き複数のアシストスキルを展開した。途端にニカとシグ以外の全員に、攻撃力向上補正、防御力向上補正が追加される。更に七面鳥を相手にする3人には素早さ向上補正まで上乗せされた。

「これは!」

自身のステータスを確認したハルは驚いた。

「凄いだろ?今じゃ誰よりもバトルスキルとアシストスキルを同時に多展開することが出来るんだぜ、あいつ」

タクが自分のことのように誇らしげに言った。

「昔から自分に出来ることを模索した結果らしい。最も使えるようになったのは昨日だけどな」

 

七面鳥を相手にする3人も自分の動きが格段に良くなり驚きを隠せないと同時に嬉しくもあった。

「ニーちゃん、サンキュー」

ヒートが楽しそうに言う。ムニも口元をニヤけさせながら腕の振りが異常に速くなり両手剣を豪快に扱っていた。

「助かります」

アイスは短く嬉しそうに呟き、七面鳥の足元に滑り込むと肌が剥き出しの両脚を斬りつけた。七面鳥は煩わしそうに首を振り脚を振り上げ足元にいるアイスを踏み潰そうとするが、本来スピードを売りにしている彼女に更に上書きされた素早さ向上補正によって彼女を捉えることは難しい。七面鳥は巨大な身体をしているせいか非常に鈍重であり、情報通り、攻撃のモーションが大きすぎるので3人は難なくかわしていた。

 

「スイッチ!」

ハルが叫ぶと、後ろからノースが前に出てきて2体の鶏をポリゴンに変えた。

「ナイス!」

ハルが嬉しそうに声をかける。更にその隣で3体を相手にしていたタクが、そのうちの2体をポリゴンに変える。残った1体はシグの射撃によって力尽きた。

「よし。俺らも七面鳥退治に行くか!ちっ!」

全ての鶏が消えた瞬間、タクの近くですぐに新たな鶏が5体ポップした。

「なんだこりゃ。永遠に出てくるのか」

「5体倒したら補充される仕組みなのかも」

「じゃあ、1体だけ残してみようか」

タクとノースが2体ずつ相手をする。ハルは残りの1体の攻撃を盾で防いだり剣で弾くだけで自分から攻撃は与えない。鶏は七面鳥ほど鈍重ではないが、猪や狼に比べると大して速くない。初歩的な片手直剣のソードスキルを使ってはくるが、それほど踏み込んだ攻撃もしてこない。

「ノース、何でメイド服着てこなかったの?」

タクがニヤニヤしながらノースに話しかけた。

「な!何言って』

ノースが動揺し鶏の剣を弾き損ね、切っ先がノースの左腕をかすった。

「お前、動揺しすぎ。危ねぇな」

「タク。ノースさんを困らせちゃダメだよ?」

「そうです。やめてください」

「でも、ハルだって正直着てきてほしかったろ?」

「な!何言って」

今度はハルが焦って鶏の剣を弾き損ね、思わず盾で身を守りながら後退する。

「おい14歳。正直だな」

そんな少年の姿を見てケラケラと面白そうに笑うタク。

「タク。黙ってないと斬るよ」

「でもノースはスタイルいいよねって前にお前言ってたじゃん」

「だ、だから!」

「え?」

2人の反応を楽しむタク。

「ノースのメイド服似合ってたよな?」

「だからね、今はそんな話やめてよ」

「似合ってたよな?」

「・・・うん。似合ってた」

ハルが負けを認めたように小さく呟くとノースは攻撃を弾くことも忘れ、顔を赤らめながら周囲にいる4体の鶏を一掃した。

「あー。ノース、俺の敵取るなよ」

「う、うるさい・・・です」

「何14歳に言われて赤面してんだよ」

「だぁぁ!うるさいです!私、前行きます!」

ノースはそう言って七面鳥の方へ駆け出した。

「あは、面白ぇ奴。ハル、俺も前行くけど大丈夫か?」

「うん」

ハルは鶏の最後の1体の攻撃を弾きながら言った。

「お2人さん、前行っていいよ~」

後方からシグが暢気そうに言って、鶏の頭を撃ち抜いた。すると被弾した鶏はよろけて地面に倒れこむと、そのまま眠り始めた。

「何だこれ?麻酔弾?」

「作ってみた。眠りから覚めたらまた撃つから心配しないで」

「いいねぇ」

「シグ君、ありがとう」

そう言ってハルとタクも前線に加わる。

 

「シグさん、そんなこと出来たんですね」

前線のメンバーに絶えずアシストスキルを追加しながらニカが言った。

「煙草精製の応用でな。薬莢に眠り草をこれでもかってぐらいブチ込んでみたんだ。巨大なモンスターには効果でないけどね。でも僕なんかよりも、ニカちゃんの方が凄ぇぞ。アシストスキルとバトルスキル併用で複数展開なんて器用すぎ。今までそんなこと出来る奴なんか聞いたことないぜ」

ニカの目の前には開かれたウィンドウが多数浮かんでいる。どれもが別のスキル発動によるものであった。この世界に於いてスキルと呼ばれるものは多く存在するが、その中でも援護に携わることのできるスキルは3種類ある。自分の力を高めるパッシブスキル。自分や他人のステータスを一時的に高めたり下げたりすることが可能なアシストスキル。そして対象となる敵のステータスを変えることができたり攻撃することや対象となるプレイヤーの回復を行うことが可能なバトルスキル。1つを長時間使うだけでも膨大な集中力と精神力が必要なのにも関わらず、ニカは2種類のスキルを同時に多数使用することができている。これまでも多くのプレイヤーが複数同時展開に挑戦してきたが、コントロールが難しく挫折していた人間も少なくない中でニカは平常心で起動することができている。

「タクさんにコツを教えてもらって」

「マジかよ。タクって何者なんだよ、ホントに」

シグが笑う。

「でも、ごめんなさい。射撃関連のアシストはまだ覚えてなくて」

「オーケーオーケー。気長にやってくれ。しかしカッコいいなニカちゃん。さしずめエフェクターってところか」

「エフェクター?」

「そ。このギルドでの役割さ。僕がシューターでニカちゃんはエフェクター。いい響きだろ」

「確かに。嬉しいです。ちょっと厨二病臭いですが」

「ハッキリ言うね」

 

「手応えはあるのになぁ」

両手剣のソードスキルを胴体に当て終えたムニが動き出しながら言った。

「落ち着いていこう。効いていないわけじゃないんだ」

ムニの硬直状態を守りながらハルが言う。その証拠に七面鳥のHPバーは2本半減少していた。

「残り1本ちょっとだ。基本に忠実でいこう。スイッチのタイミング気をつけろ」

タクが指示を飛ばした。

 

七面鳥のHPバーが残り1本になった時、急に七面鳥が後ろに下がった。そして新たに5体の鶏が目の前にポップし七面鳥を守るように立ちはだかる。後方に下がった怪鳥は大きく深呼吸を繰り返すようなモーションを始める。

「何だ、急に」

深呼吸するたびに七面鳥のHPバーが回復していく。

「回復!?そんなことするのか」

タクが鶏の頭を曲刀で斬りつけながら言った。

「それはズルいぞ」

ムニが鶏の脇をすり抜けて両手剣の剣先を向けながら突進する。七面鳥は再度大きく息を吸い込むと腹が大きく膨張し始めた。

「あれは!ダメだ!ムニ!下がって」

膨張に気付いたハルが叫ぶがムニには聞こえていない。

「全員下がれ!防御しろ!」

タクが叫ぶ。

「させるかああああぁぁぁぁ!!」

ムニの赤く輝く両手剣の刀身が七面鳥の頭まで後数センチというところで、怪鳥は嘴を開き強烈な臭気を含む息吹を放った。衝撃波がメンバーを包み込み立ちはだかっていた鶏5体をもまとめて巻き込み、後方まで回避していたのにも関わらず前線メンバー全員が吹き飛ばされた。

「みんな無事か!?」

タクがすぐに体制を起こして確認をする。

「ムニは?」

ノースも立ち上がって周りを見渡した。

「ぐわああぁぁああ!!」

立ち込める砂煙の中からムニが錐揉みしながら転がってくる。

「むーちゃん!」

急いで駆け寄ったヒートはムニのステータスを確認する。HPバーの横には麻痺と毒のマーク。至近距離で広範囲ステータス異常付加の攻撃を食らいムニのHPバーは半分以上削られ赤く点滅を繰り返していた。

「・・・身体が動か・・・ねぇ。気持ち悪ぃ」

ヒートが自分のストレージから回復結晶を取り出そうとした瞬間、急にムニが犯されていた麻痺毒のマークが消える。

 

「状態異常はもう消しました」

 

肩で息をしながらニカが言う。更に衝撃波を受けHPを減らしたメンバー全員の体力がほぼ完全に回復している。大人数にかけた広範囲ヒール。魔法という概念が存在しない筈のSAOに於いて、そんなスキルがあったとは情報屋が公開しているスキルリストにも載っていない代物を彼女はやり遂げた。何故ここまでの力が扱えるかは不明だが、スキルを発動し終え表情に疲れを見せるニカの足元はおぼつかず、咄嗟に隣にいたシグが身体を支える。

「へぇ、やるじゃん」

タクはニカが持つ未知の力と機転に感心して呟く。

「みんな、もう少しです。先程のブレス攻撃は体力を変換させて使う技。ボスの残り体力は少ない筈です」

ニカが言う。

「よし、仕上げだ。みんな行けるよな」

タクがメンバーを鼓舞する。

「ふざけやがって。めっちゃ不快だったぞ、この野郎」

ムニがフラリと立ち上がりながら苛立ち吐き捨てる。

「むーちゃん」

「何だよ」

「次、突っ込む時は私も連れていってね」

ヒートの明るい笑顔を受けて、ムニはバツが悪そうに頭をかいた。

「ニカ。戦闘支援の判断はこれから全部お前に任せる。お前の力だ。好きに使え」

「はい!」

タクの言葉にニカが力強く元気いっぱいに返事をした。

「みんなにもう1回アシストスキルをかけます。それからアイスさんには追加でこれ」

シグに肩を支えられながらスキルを展開させる。そしてアイスに先程ボス戦になる前に覚えたばかりのスキルを選択した。スキル名はブースター。爆発的なジャンプ力を付加させることが出来る技。

 

七面鳥はHPを減らしながらも体制を整えていた。その巨体に向けて各々の武器を構えた6人が駆けていく。その先頭を行くアイスを誰も追い抜くことは出来ない。みるみるうちに仲間との距離を離し怪鳥との差を縮める。そして鳥の数メートル先でジャンプし頭上を跳び越え背後に着地し、すぐに後ろから斬り込んだ。タクとノースは同時に己の武器の刀身を眩く光らせ七面鳥の胴体に深く突き刺し薙ぎ払う。

「ヒート、足元を抜けるぞ」

「オーケイ」

ムニとヒートはスピードを落とさないまま七面鳥の足元まで走り込み狭い股の間をスライディングで滑り抜け背後に回り込む。

前線に追いついたハルは足をとめずに更に速く走り、片手直剣を青く光らせ5連劇の重いソードスキルを放つ。3対3のバランスの取れた挟み討ちによる息の合った連携攻撃。互いが互いをカバーし合い、確実に剣をヒットさせていく。

 

「ニカちゃん、ちょっとごめん」

シグが支えていたニカの肩を優しく降ろし地面に座らせるとメイン武器を変更した。彼が装備したのはフリントロック式のピストル。現代の銃とは違う構造の銃で特徴的なのは撃鉄の起こし方と装填の仕方。マズルローダーと呼ばれ銃口に装薬と弾丸を詰める。現時点で最強クラスの拳銃と呼ばれるこの銃は、ハンドガンにしては非常に大振りで反動もその分大きい。片手で撃とうものなら、その反動と衝撃で腕がもぎ取れると言われており、シグの数少ない銃仲間の間でも不評続きの銃である。それを両手で構えガシリと無機質なトリガーを引くと、音速で飛ぶ丸い鉄の小さな球は七面鳥の目玉を抉り抜いた。

「もういっちょ」

シグはすぐにリロードを始める。特殊な構造をしている為、この世界で存在している銃の中では一番装填時間がかかるのも不評である1つの理由だ。破壊力と貫通力はスナイパーライフルの通常弾並みに絶大だとしても、反動が大きすぎて命中率は大幅に下がり乱戦には勿論向かない。銃器が実装されたこの世界だが、剣とは違い銃の為のスキルは未だに判明されていない為、銃を扱うプレイヤーは己の実力のみで撃たなくてはならない。それがこの世界で銃を扱う人間が少ない大きな理由である。しかし、シグは射撃に関しては絶対的な自信を持っていた。そうでもなければ、こんなフリントロック式のデカブツなど持とうとは思わない。幾らリロードに時間がかかろうが今回は頼りになる仲間が沢山いる。装填を終えたシグは狙いを定める。狙いをつけたら3秒以内に引き金を引くとシグはいつも心に決めていた。長い時間ターゲットを見つめ続けても集中力が途切れるだけだ。そして迷いなくトリガーを引いた。撃ちだされた弾丸が七面鳥のもう1つの目玉を撃ち抜いた。

 

目玉欠損により視界を失った七面鳥は当てずっぽうに暴れ周り嘴を地面に突き刺してくる。それをハルは冷静に盾で受け止めようとするが、滅茶苦茶で不規則な攻撃に予測しきれない。その危険性を察知したノースがハルの右隣に立って槍で防御した。

「全く、シグったら。前線のことも少しは考えてほしいけど。ハル」

ノースは後方で大降りのピストルをくるくると回して弄るシグに愚痴りながらも改めて少年に向き直る。

「なに?」

「私はここにいるよ」

「!」

ハルが驚いてノースの顔を見上げた。

「私はハルの隣にいるからね。だから1人じゃないよ。安心して」

「俺もいるぜ」

タクがすっとハルの左に立った。

「うん!」

ハルが嬉しそうに頷く。

背後に回った3人の追撃も加わり、七面鳥はHPバーを大きく減らす。残りは1ミリも満たない。

「首がやっぱ弱いな。ハル、俺を踏み台にして跳べ」

タクがそう言って膝をついた。助走をつけたハルがタクの背中に足を乗せ力強く踏み込む。そしてそのまま巨大な七面鳥の首元まで跳躍した。

「うおおおおりゃあああああ!!」

首を斬り裂くと巨大な身体はポリゴンへと変わり全員に破片がキラキラと輝きながら降り注ぐ中、落ちてきたハルはタクにキャッチされた。そして空間に浮かび上がる『Congratulation』の文字。クエストクリアを伝える証。

 

「よっしゃああああああああああああ!!」

メンバー全員が飛び上がり歓喜に包まれた。

 

 

アインクラッド 第25層 シールドクリフ

料理屋「Dice Kitchen」

 

馴染みのある店に足を運ぶと店主のオヤジは不機嫌そうにハルたちを見つめた。

「お前ら、もしかしてボールドターキーの肉持ってきたのか?」

 

ボールドターキーの肉。

それは感謝祭クエストクリアの報酬の1つであった。レアドロップ品とされていたトライデントスピアは出なかったが、感謝祭らしく鳥の肉が報酬で出たのであった。受け取ったはいいが調理スキルをコンプリートしていなければ食べることのできない代物であり、そんなプレイヤーはこのギルドには存在しないので、オヤジに頼んで調理してもらうことにしたのだった。

「いま作るから、そこ置いて待っとけ」

オヤジはいつもの柔和な笑顔など一片も見せず、ぶっきら棒に言い放ちながら厨房へ去って行く。

「なんだか機嫌悪そうだね」

ハルがノースに話しかけると、店の奥でテーブルを片付けていた青年が笑顔で近付いてくる。

「ごめんね。父ちゃん無愛想で」

彼はオヤジの実の息子であるフィックス。現実世界でもオヤジが経営する店を手伝っていたらしく、このゲームにオヤジを誘ったのも彼だった。

「何かあったんですか?」

「ほら今日は感謝祭クエだろ。それで報酬の1つがこのAクラスの肉だからさ。お宅らの他にも調理してほしいって人がひっきりなしに来るんだよ。今日はお宅らで35組目。感謝祭クエは後1週間ぐらい続くからもっと来るだろうね。最初は珍しい食材が調理できるってんで父ちゃん張り切ってたんだけどね。流石に飽きたらしい」

ノースの問いかけにケラケラ笑いながらフィックスが答えた。

「それは何というか、ご愁傷様です」

「気にしないで。料理すんのが俺たちの仕事なんだからさ、父ちゃんも贅沢言うなって言ってやったんだけどな。報酬で香草も幾つか出たでしょ?あれ少しくれたら付け合せにパスタとサラダでも作るよ」

「やった!」

フィックスの気前のいい一言にメンバーが喜ぶ。

 

 

アインクラッド 第32層 ヒュルゲンシュタイン

ギルドホーム

 

食卓には色とりどりの料理が並んでいた。フィックスがなだめてくれた結果、なんだかんだ言ってオヤジが沢山作ってくれたのだ。七面鳥の調理方法も様々だ。ローストにしたものからパスタに和えたもの、スープの具材にも使われている。

「かんぱーい」

声が重なる。食べ物を口に運び、その絶品さに舌鼓を打ちながら今日のクエスト話に花を咲かせる一同。

「ステータス異常とか一生の不覚」

明るく振舞ってはいるがいつになく落ち込んだ表情のムニに「私を置いていったバツだー」とヒートが彼の背中を叩きながら茶々をいれる。

「後でニカに、ありがとうって良いなよ。あんたと私たち回復した後のニカ、フラフラだったんだから」

ノースが言った。

「ニカちゃん、凄かったな。あんなん使えるの知らなかった」

シグがローストターキーを更に放り込みながら言った。

「タクが言うには、昔から習得しようと頑張ってたみたいだよ。タクはそれを後押ししたにすぎないって」

野菜を小動物のようにモシャモシャ食べながらハルが言う。

「早く帰ってこいよな。今日の主役」

シグが言った。

 

 

アインクラッド 第1層 はじまりの街

黒鉄球の碑 広場

 

タクとニカは黒鉄球の碑の前でタクの妹がまだ生きているかを確認していた。名前に線は入っていない。2人は胸を撫で下ろした。当初タクはコッソリ1人で行くつもりであったが、ニカが「私も行っていいですか」と尋ねてきたので断る理由もなく2人で来ていた。

「よかったですね」

ニカが微笑む。タクは彼女の顔を見た。その表情に数日前自分のことをギルドのお荷物だと発言していた彼女の姿はもうない。

「タクさん」

「ん?」

「私、タクさんに感謝しています。今日は本当に楽しかったです」

「そうか。俺もニカには感謝している。今日のニカは最高だったぜ」

「ホントですか?」

ニカは嬉しそうに顔を赤らめた。

「あぁ。特にムニの状態異常の解除。メンバーの回復。どれも見事な判断だった。チーム戦ではああいう力が不可欠だ。でもまだ体力が追いついていないのがネックだけどな。これからゆっくり物にしていこうぜ。頼りにしてるからな」

タクはニカの頭に手を置いて優しく撫でる。

「わっ、わ」

ニカはタクの大きな手で撫でられ更に顔を赤くする。

 

「ははっ。帰るか。飯が無くならないうちに」

「はい!」

 

2人は足を軽やかにして帰路へ。

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