Sword Art Online Re:βoot   作:mimitab_

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6.

2023年、12月。

アインクラッド 第32層 ヒュルゲンシュタイン

ギルドホーム

 

「49層の攻略参加メンバー発表するよ。タク、アイス、ニカ、僕の4人で行きます。ごめん。攻略組との折り合い上、全員は無理だったんだ。でも、まだまだ次があるから」

ハルがギルドメンバーに声をかける。呼ばれなかった仲間たちは残念そうだったが、ここは素直に従った。聞けば、ハルは夜中ずっと寝る間も惜しんでメンバー選出に頭を悩ませていたらしい。

 

「僕らが帰るまで30層までのフィールドに行くことは許すけど、勝手に上層のクエストはやらないように。じゃ、行ってくるよ」

ハルが元気よく手を挙げた。

「行ってくるぜー」

「行ってきます」

タクとニカがみんなに挨拶をしアイスがペコリと頭を下げ、残りのメンバーはギルドホームの玄関先で、緊張感と笑顔とを孕ませながら前線に赴く仲間たちを見送った。

 

 

 

Sword Art Online RE:Generation

第6話「攻略への挑戦」

 

 

 

アインクラッド 第49層 迷宮区 フロアボス部屋の前

 

「緊張します」

屈強な剣士の集団に囲まれた『β』の4人。その中でニカが言った。

「適度な緊張は必要だよ。でも呑まれないようにね」

ハルが優しく声をかけた。

「えぇと、掌に人を書いて飲み込む!」

ニカの様子にタクとアイスが微笑んだ。

「お前、それ緊張してんの?それとも俺らを笑わそうとしてる?」

「後者ですね」

「ち、違いますよ~」

タクとアイスによるユーモラスたっぷりな掛け合いのお陰で少し気持ちが解れたような気がしたニカ。

「お、指揮官のお出ましだぜ」

 

赤と白で染められた騎士服とマントを羽織った集団の中から1人の長身の男が現れた。その名はヒースクリフ。攻略組最強ギルド『血盟騎士団』のトップにして攻略の鬼。SAO最強の剣士とも言われており、下層にまで知られている超が付くほどの有名人だ。

「諸君。今日はボス攻略の参加に感謝する。第49層のボスは『フロストレザール』。偵察隊によれば冷気を纏った青い毛のライオンのような姿をしている。全長10メートル強の大型モンスターだ。HPは400万程。身体は氷のような鎧を装備しているが攻撃を幾らか与えることによって破壊は可能だと思われる」

集まった剣士たちを見渡しながら、ヒースクリフは落ち着きを払った様子でモンスターの詳細なデータを丁寧に説明する。

「我々血盟騎士団は前から攻める。ボスの攻撃も我々が受けて立とう。5人以上のギルド及びパーティは横から。それ以下の者たちは後方から攻めるように。基本中の基本だがスイッチのタイミングはちゃんと声に出すように。ラストアタックによるレアドロップ品があるようだが、それを奪い合うなんて情けない真似は私の前ではするな。以上だ」

作戦内容をしっかりと細かく説明する。

 

「諸君。この層をクリアすれば次は50層だ。半分までの希望の光が見えてきたが、まだまだ終わりではない。気を引き締めて行け」

ヒースクリフの凛とした声が響き渡り全員を鼓舞した。そして配下の者に合図をし、扉を開けさせる。

 

「ニカ。俺たちは剣を振るうが、お前は下がって回復に徹しろ。HPが減った奴なら誰でもいい。決して前に出てくるなよ?こんだけの大人数による大乱戦だ。フォローがいつも出来るとは限らない」

タクが言う。

「ニカさん。自分には回復しか出来ないなんて思わないでね。必要だと思ったから連れてきたんだ」

ハルがニッコリ笑って言った。

 

 

扉が開け放たれ、プレイヤーがなだれ込む。

吹き抜けなんじゃないかと思われる高い天井。部屋の中心が冷気に満ち、プレイヤーの吐く息が白い。そして中心に集まった冷気の霧が晴れ、モンスターが咆哮した。

 

 

「戦闘、開始!」

ヒースクリフが轟く。

 

 

各々の武器を手にプレイヤーが駆けていく。死に対する恐怖に打ち勝ち、ただ目の前の敵を倒しアインクラッドに囚われた仲間たちを解放する為に。

遠目から見ても血盟騎士団の動きは見事なものだった。最強と謳われているが決して噂だけが独り歩きしたわけではないというのは戦闘を見て分かった。1人1人がハイレベルな剣士で構成されており、攻撃力もさることながら防御力と連携も素晴らしい。両手盾や重量系の両手武器を持った重装兵がモンスターの攻撃を真正面から受け止め、後続の剣士が攻撃を加える。その単純な繰り返しではあるが、隊列が一切乱れない。味方通しで培われる絆、そして団長であるヒースクリフへの絶対的な信頼感がヒシヒシと伝わる。

「大したもんだなぁ」

「タク、見とれてないで僕らも行こう」

「あ、あぁ」

思わず足を止めてしまったタクにハルが声をかけた。

 

アイスは先頭を駆けていた。狙うは左後ろ脚。トップスピードの助走から鋭い剣技を放つが脚を覆う氷のような厚い鎧は容易には砕けない。しかし情報通り壊せないというわけでもないようだ。アイスに追いついた剣士たちが後ろ脚の鎧を夢中で斬りつけていく。ハルとタクも右後ろ脚に豪快に剣技を放つ。1人1人が出来ることをこなしていた。

そして後方に陣取ったニカは、前線で戦うプレイヤーたちのHPゲージをくまなく凝視していた。特にモンスターの正面で戦う血盟騎士団の体力の減りが激しい。前足を大きく振り上げることにより地面ごと抉るかのような攻撃に一気に半分以上HPを減らした1人の体力をすぐに回復させる。

今回のボス戦。まさか自分が赴くことになるとは夢にも思わなかった。ギルドの中では一番レベルが低いし近接戦闘など1人だけでは低層のモンスター相手だけでも苦労する。それでもハルは「来てほしい」と言ってくれた。ギルドでは生粋の戦闘職であるムニとヒートを差し置いての選出であった。それはつまり、戦闘ではないことが自分に求められているということ。ニカにしか出来ないことをハルが欲したということ。頼られた以上、そしてその仕事を引き受けた以上はやるしかない。自分の力を信じて精一杯。

 

「よし!」

タクの隣にいた屈強な身体つきをした男が槍で右後ろ脚の氷の鎧を粉砕し勢いに乗る。左後ろ脚の鎧の一点を執拗に狙っていたアイスは体勢を低くし、剣を後ろに引きながら刀身を輝かせる。細剣の最大刺突性重一撃必殺技『スラスティングスタブ』。顔を歪めることなく無表情のなまま剣を勢いよく突き刺すと氷の鎧が砕け散った。同時に他の箇所からも脚以外の鎧を破壊したことを伝える歓声が響き渡る。フロストレザールが鬱陶しそうに前脚で薙ぎ払いをするが血盟騎士団を初めとした重装兵で固められたボスの正面で戦うプレイヤーたちが持つ盾は脅威の防御力を保持し続けていた。

「このまま攻撃を加え続けろ」

ヒースクリフの凛とした声が聞こえる。ボスの周りに密集する全員が己の武器を輝かせ、ソードスキルを順々に当てボスのHPバーが残り2本になった時、急にボスが高く跳躍した。その巨大な身体はプレイヤーたちの頭上を跳び越え、集団との距離を開ける。そして口を開けると、その口内でドス紫色をした球体が耳をつんざく金切り音を上げながら急速に膨張していった。

 

「な、何だ?」

プレイヤーの何人かが言った瞬間、その何らかの収縮されたエネルギーの塊が放たれプレイヤーが多く集まる集団に飛んでくる。

「回避しろ!!」

ヒースクリフが叫び、球体が防御姿勢もまともにとれていない集団に着弾すると、それは強烈で強大な大爆発を引き起こした。近くにいたプレイヤーたちは粉塵と共に吹き飛ばされ壁に叩きつけられ動けない人も多い。着弾箇所にいたプレイヤーたちはニカが咄嗟に防御力向上補正をかけていなければ死んでいたであろう。HPを半分以上減らし赤く点滅するプレイヤーもいる中で死人が出なかったことは奇跡に近い。しかし、一刻も争う猶予もない時に地に伏したまま倒れて動けない人間がいることは確かだ。

「怪我人は退避させろ」

「大丈夫か、しっかりしろ」

「ヒール!もう大丈夫だ。ほら手を延ばせ」

手が空いた者がギルド関係なく助けを差し伸べる。そう。この空間ではみんなが仲間なのだ。ただ1つの目的に向かって突っ走る同士。

 

「なんだ今の攻撃。ブレスじゃないよね」

「あんなの見たことねぇな」

「鎧を壊したことがトリガーかな」

ハルとタクがポーションを飲みながら体勢を整えボスの方を見やる。何故ならボスの方はもうとっくに体勢を立て直し、また口内にエネルギーを溜めていた。長い時間をかけて溜め続けた球体は先程よりも倍は大きい。

「糞!あんなん食らったら死ぬぞ」

「あればかり撃たれたら近付けねぇ!」

口々に叫ぶプレイヤーたちからは絶望の表情が見て取れる。

「盾持ちは前に来い。防ぎきるぞ。そして防御しながら打開策を見つける!」

ヒースクリフが配下の重装兵に命令しながら言った。

 

「タク、アイス!行こう」

ハルが片手直剣を構えて2人に言い駆け出した。2人もハルの言葉を受け同時に頷いて走り始める。プレイヤーたち大集団から3人だけがボスに向かって駆けていくのを見て、全員が「あいつらは何をやっているんだ!?」と訝しげに驚きながら不安そうに見つめる。ただ1人を除いて。

 

回復役に徹していたニカは戦いが始まってからずっと3人のことを気にかけていた。この部屋にいる全プレイヤーのHPバーには常に気を配っていたが、それを行いながらも『β』の3人の姿を確認し続けていた。だからこそいち早く対応が出来た。ボスに向かって走る仲間を見て、ニカはすぐに3人の思惑に気が付く。バトルスキルとアシストスキルのウィンドウを展開し、3人に攻撃力向上補正、素早さ向上補正、ブースターと呼ばれるスピード向上補正とジャンプ力向上補正という多種類のスキルを付加させるという荒業を一瞬でやってのける。3人はすぐに自分のステータスが上がったことに気が付いて微笑んだ。

 

ハル、タク、アイスは思った。あれだけの高エネルギーを持った球体。至近距離で食らえばそれは死を意味する。そしてそれはボスも同じ筈だと。

 

 

「僕は右側。タクは左側。ウィークポイントの首を斬りつける!アイスは鼻っ面に跳び乗って、あのデカい口を閉じさせるんだ!」

「あぁ!」「了解です」

 

 

走るスピードがニカによって格段に上がった3人は目にも止まらぬ速さでボスとの距離を詰めその巨体に迫る。そして3人共、ボスの顔面に向けて跳んだ。ハルとタクはジャンプしたままソードスキルを発動し重い斬撃を首に。アイスは開いた口の上に跳び乗り、その上顎に片膝をつきながら思い切り細剣を突き刺した。剣は深々とボスの上顎を貫いた。ボスの瞳には自分の口の上に剣を立てる戦士の姿。その戦士もまた無表情のままボスの瞳を捉えていた。剣を刺され首を斬りつけられたフロストレザールは咄嗟に口を閉じる。その瞬間、行き場を失った口内のエネルギーが大爆発を引き起こす。ボスの頭が煙に包まれる中、爆発する前に跳躍して衝撃を逃れたアイスが、先にボスの正面に着地していたハルとタクの間にスッと着地する。爆発の影響で巨大な獣は吹き飛び壁に直撃し倒れて動かない。しかしHPバーは、まだ僅かに残っていた。

 

「タフな野郎だ」

タクが闘士剥き出しの目をしながら歯を見せ笑いながら曲刀を持ち構える。

「でも、後少しだ」

ハルがアイスに助け起こされながら言った。

すると後方から「突撃だ!」と聞き覚えのある凛とした声が轟き、プレイヤーたちが瀕死のボスへ向けて駆けていく。

「僕らも行こう」

ハルが言った。2人も彼に続く。

 

 

空間に浮かび上がる『Congratulation』の文字。勝った。49層クリアだ。歓喜の渦が鳴り止まず、更に大きくなって部屋を満たした。

 

『ナイスファイト!」

喜び合うハル、タク、アイス、ニカの4人に知らないプレイヤーの1人が声をかけた。

「あんたら最高だったぜ」

近くにいた話したこともないプレイヤーも笑顔で言う。4人は見ず知らずの人たちに肩を叩かれ背中を叩かれ拍手されハイタッチをされて賞賛された。誰よりも小さなハルは屈強な男たちに囲まれ頭を撫でられている。そこには攻略会議で受けた侮蔑に満たされた視線は無い。みんなが手を叩き喜びを分かち合っていた。

「君らの中で刀スキルを上げている人はいるかい?」

片手直剣を背負った1人のプレイヤーが4人に近寄ってきた。

「刀スキル?」

「曲刀を鍛えると出現する両手剣属性の武器のことだ」

近くにいた赤い鎧を着た武士のような格好のプレイヤーがタクに説明した。

「一応、俺が曲刀使ってるけど」

「これラストアタックによるドロップ報酬だ。よかったら貰ってくれよ」

「い、いいのか?」

「今回はあんたらの功績の方がデカい。それに俺には必要ないからさ」

男が自身の武器を指差して言い、ストレージから刀を取り出しタクに差し出す。

「せっかくだから貰っておきなよ」

沢山の人に頭を撫でられ、髪がグシャグシャになったハルが言った。

「あ、あぁ。ありがとう」

タクが差し出された武器を受け取る。

「俺、あんたらのこと最初はよく思ってなかったんだ。ごめんな。その謝罪も兼ねてのお礼だと思ってくれ」

その言葉は誰よりもハルが一番嬉しかった。復讐に燃え孤独に生きなくても、視線に耐え切れず己の殻に閉じこもって生きなくても、自分の力を出し切ったことによって得られた絆。イグ。君も早く、この嬉しさを僕と分かち合ってよ・・・。そうハルは心の中で思った。

 

「君達」

急に後ろから声をかけられ『β』の4人が振り向くと、血盟騎士団の団長ヒースクリフが立っていた。その隣には騎士団幹部のアスナが無表情のまま立っていた。どこか不機嫌そうにも見える彼女はチラチラとタクの方を見ているが、タクは努めて気付かないフリをした。

「先の戦闘。そして判断。実に見事だった。独断行動とは言え、結果があれなら責めるわけにもいかない」

若干、上から目線で気取った言い方ではあったが、何故か悪い気はしない不思議な喋り方をする男だった。

「ここで1つ提案があるのだが・・・」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「嫌だね」

「断ります」

ハルとニカが丁寧に頭を下げ、タクとアイスが物怖じもせず、あっけらかんと言い放った。

「即答かね」

「はい」

ハルが言い切った。

「血盟騎士団に入れば、君達にはいい待遇が受けられるように計らうぞ。幹部の座を用意することも可能だ。そして益々強くなれる」

「お言葉ですが、僕たちがそんなもの欲しがっているように見えますか?僕たちには、もう帰るところがありますので」

ヒースクリフとハル。歳の差も慎重の差も威厳の差も違う。その2人がしばらく見つめ合った。

「それはギルドホーム・・・ということかな?」

「それもありますが、現実の世界にということですよ。ヒースクリフさん」

ハルが丁寧な口調で訂正した。

「騎士団の幹部のポジション。そんな居場所で満足する程、僕たち大人じゃないんです」

丁寧ではあるが、どこか挑発しているかのようにも感じ、アスナが少しだけ眉をひそめた。

 

 

―――『あいつは大人を全く信用していない』

 

 

前にタクに言われた言葉がアスナの脳裏をよぎる。この少年の過去に何が起こり何を抱え込んでいるのかは想像もつかないし無理に詮索する気もない。そして、この少年の元に集ったメンバー1人1人が何を原動力にして生きているのかも分からないし、これも無理に詮索する気はない。ただ、ハルが団長を見つめる眼光の鋭さ。そしてその少年の姿に何も言わず事の成り行きを少年に託しているタク、アイス、ニカの3人。自分の価値観だけでは理解できない何かが『β』にはあると感じ取るだけで、アスナは精一杯だった。

 

「ふむ。断られたことは残念ではあるが致し方あるまい。また相見えることを楽しみにしておこうか」

ヒースクリフはそう言ってマントを翻し去っていった。アスナもそれに習い続く。ハルはその2人の背中に丁寧に頭を下げた。ニカも頭を下げる。タクとアイスにいたっては会釈もせず、その背中を見送った。

 

「よ~し、帰ろう!」

ハルが両手を挙げて大きくノビをしながら3人に振り返って言う。

「そうしましょう」

ニカが手を叩き賛同する。

「お腹が空きました」

アイスが腹に手をやりながら暢気に言った。

「何か土産でも買って帰るか」

「タクさんの驕りですか?いぇーい」

「おい、こら」

タクの発言にアイスは喜ぶか、全く感情がこもっていない。

 

 

ギルド『β』。

今まで最前線に顔を出さなかった小さなギルド。

その勇姿がアインクラッド中に知れ渡っていくのに、さほど時間はかからなかった。

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