彼は呼符や聖晶石はなるべく貯めて一度に使い切るタイプのマスターだった。
そんな彼が本日召喚したのは……
「……天秤の守り手よー……って、結構長いんだなぁ」
「そうですね、冬木におけるサーヴァント召喚の補助も基本はほぼ聖杯が行ってくれるとは言え、魔術師側からの呼びかけとなる前準備……土地の霊脈や魔法陣の素材、図式、召喚者のコンディションのいい時間帯、呪文の詠唱、さらに触媒の用意。これらを怠るのは聖杯戦争で戦うマスターにとって死活問題となりますから」
とはいえ、カルデアの召喚式はかなり特殊な形なのでマスター自身の準備や負担はもっと小さいのですが。
と、マシュはいう。
ここは人理継続保証機関フィニス・カルデア。
その中でもサーヴァント召喚を行うための部屋……の、前。
藤丸立香は、去年の暮れに人理焼却から人類を救った、人類最強のマスター……ではあるが、基本的に魔術関係に関しては素人である。
素質がないわけではなく、さらに教育者たちも非常に優秀ではあるのだが、それでもまともに習い始めたのがカルデアに来てから、という短期間であり、昨年は基本的に人理修復のためのレイシフトこそが本業であったために、まだまだ知識、技術ともに魔術師としては素人の領域をでることはない。
が仮にも数々の英霊とともに数多の時代を駆け抜け救ってきたバイタリティの持ち主である。
どんなときにも前向きに、努力は怠っていない。
そんなこんなで今日は久しぶりに呼符や聖昌石が溜まってきたので、いっちょガチャをやってみようかという段階にきて、そもそもの英霊召喚についてのおさらいなどをしている所であった。
マシュはそんな藤丸の姿を見て
「人類を救ったあとも驕る事なく努力をする姿勢……やっぱり先輩はすごいです」
などと尊敬の念を高めているのだが。
「おいおい君たち、いつまで部屋の前で駄弁っているんだい。今日は久しぶりにガチャを回せるんだから早く回しなよ」
と、ダ・ヴィンチちゃんは急かす。
これは単にほかにも仕事があって忙しいから……と、いうよりも。彼、もしくは彼女が「ガチャは回したくなった時に回す教」の信者だからである。
ほかにも日付変更教、触媒用意教、欲しいサーヴァントにちなんだ行動教など、ガチャに関しては様々な宗教があるのだが基本的に当てにしない方が良いだろう、と藤丸もマシュも思っている。
本当に宗教で欲しいサーヴァントが手に入るなら今頃カルデアには全✩5のサーヴァントが揃っているのだから。
「まぁいいや。ダ・ヴィンチちゃんが忙しそうな点に関してはマジだからさっさと召喚しちゃおうか」
「そうですね、では先輩。頑張ってください」
こうして藤丸はさっそく召喚の準備に入る。
「さーてと、別に普段通り召喚してもいいんだけどせっかく勉強してたんだから雰囲気出して冬木風の詠唱だけでもやってみようかなー」
宗教は当てにしない、とは公言する藤丸ではあるが、何だかんだで運だのみのガチャ。
ちょっとくらいはジンクスに頼ってみたいし雰囲気も出してみたいよね、と思った結果。
先程まで勉強していた冬木のアインツベルン式召喚での詠唱を唱えてみることにしたのだった。
これに対してダ・ヴィンチちゃんは早くやれよ! と急かすこともなく。
良いのが出たらいいなぁとぼんやり祈りながら召喚を眺めている。
「……汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
そうして「それっぽい雰囲気」を醸し出しながらのガチャを引いた瞬間。
「あれ!? ちょ、ちょっと! まずいよこれ……せっかく10枚以上貯めた呼符やイベントの度に我慢して貯めてた聖晶石が一回分の召喚で消耗さちゃってる!」
「そんな! いえそれよりもそんな不測の事態で先輩は大丈夫なんですか!? 呼符なんかより先輩の安全を!」
「あ、ああ、そうだね。彼のバイタル……正常、ちょっと心拍数は高めだがこれはガチャの緊張だろう。生命に問題はないよ。問題なのは召喚されるモノだね」
「あわわ……私も今すぐ助けられれば!」
「いやしかしガチャ空間はプレイヤー……じゃなくてマスターだけの神聖な空間だ。私みたいなサーヴァントや君みたいなデミ・サーヴァントがしゃしゃり出るべきではないし……」
と、外野は大騒ぎ。
しかし呼び出した藤丸自身は冷静であった。
(金カード……で、天秤かぁ。天草ピックアップで引いたわけじゃないからジャンヌだなぁ。世間じゃスキルの微妙さや宝具デメリットのせいで評価は悪いけど✩5でルーラーの耐久力もあるから複合クラスのクエストだと結構活躍してくれるんだよな。持ってなかったから嬉しくないとは言わないよ)
と、冷静で的確な判断力をもって構えていた。
しかし、召喚演出でカードが下からめくれてサーヴァントの姿が明らかになるにつれ、小さくない困惑が生まれることになる。
召喚カードから出て来たのは、後光を放ち輪郭以外の姿が見えにくいがマントをまとい天秤を持った男である。
今まで多くの特異点を乗り越えた藤丸ですら初めて見るサーヴァント。
その男は召喚に応じて口を開く。
「わが名はジャスティスマン! この世の理を与る
真名・ジャスティスマン
筋力・A+
耐久・A+
敏捷・A+
魔力・A+
幸運・B
宝具・E
出典:史実、ゆでたまご
地域:超人墓場
属性:完璧
性別:男性
完璧超人、その祖である10人の始祖のひとり。
かつてゴールドマンとシルバーマンの戦いに裁きを下した神でもある。
保有スキル
天秤・Eランク(チャージ4ターン)
あらゆる事象の正否を問う天秤。しかしジャスティスマンが平気で冤罪を犯すように、あまり当てにはならない。
戦闘では確率で敵単体の攻撃力、防御力ダウン(1ターン)、そして対象の攻撃力、防御力、最大HPを大アップ(5ターン)のデメリットを持つ。
最初から所持。
ダイヤモンドヘッド・EXランク(チャージ12ターン)
ゴールドマンの硬度10ダイヤモンドパワーに匹敵すると言われる石頭。硬い。
戦闘では自分の防御力大アップ(3ターン)とダメージカット大(1ターン)、クリティカルスター生成の効果がある。
光のダンベル・EXランク(チャージ8ターン)
ジャスティスマンが所持するダンベル。
戦闘では味方単体のクリティカル威力、クリティカルスター集中をアップ(2ターン)させる。
クラススキル
幾億年の鍛錬・A+
ジャスティスマンが幾億年という長い年月をかけて鍛え続けた肉体、そして技術。
これによりあらゆる敵の攻撃を的確に防ぎ、あらゆる敵へ的確な攻撃を可能とする。
全クラスへの攻撃が2倍、全クラスからの攻撃が半減する。
ジャスティスマンはルーラークラスなので、アヴェンジャーに対しては攻撃、防御ともに等倍となり、ルーラー、シールダーが相手では攻撃、防御で有利に、バーサーカーに対しては攻撃が4倍のダメージで受けるダメージが等倍、それ以外のクラスに対しては与えるダメージが2倍で受けるダメージが半減、である。
宝具
完璧奥義・ジャッジメントペナルティ
敵単体へ超強力な攻撃と、攻撃力大ダウン(1ターン)、確率でチャージ減少、スタン、即死。
「……先輩、これはどこから突っ込めばいいんでしょう」
「へのつっぱりはいらんですよ」
手持ちの呼符、聖晶石のすべてを消費して召喚されたジャスティスマン。
そのステータスをみたマシュと藤丸は正直、コメントに困っていた。
ダ・ヴィンチちゃんもまた、知らない英霊の存在に少し混乱しているようだ。
「ま、まぁステータスやその他、すごく強力なサーヴァントだし……大当たり、だよな?」
「え、ええそうですね。特にクラススキルが反則です」
単体攻撃のサーヴァントとして強力すぎるジャスティスマン。
その能力には今まで多くのサーヴァントを見てきた藤丸も絶句するほどである。
「とりあえず種火やフォウくんを大量に与えてレベルを上げて再臨しまくろう!」
そうして再臨させると、シルエットが解除され頭が変形した姿に、さらに次はマントを脱ぎ、最終再臨ではテリーマン戦での「確実にお前を殺すつもりで闘ってやろう」のカットを元にしたイラストにセイントグラフが変化するのであった。
「先輩、ジャスティスマンさんは再臨のための必要な素材の数がとんでもないです」
「さ、さすがルーラークラス……そしてあれだけ強ければなぁ」
「ハワー。マスターよ。ついでと言ってはなんだが私は第一スキルのレベルを10にまで上げておいたぞ。カルデア中の素材をかき集めてなんとかレベル10になったのでな」
「勝手になにやってんの!?」
藤丸は、第一スキル以外はあげるつもりだったのによりによって第一スキルを上げられていたことにショックを隠せなかった。
さらに言えばほかのサーヴァント達のスキル用に貯めていた素材を勝手に使われた怒りもある。
「たまったものではありませんよー!」
「フフフ……やってしまったものは仕方あるまい。その分の償いは戦いでさせてもらおう」
サイコマンのような形相で怒りを示す藤丸だがジャスティスマンは余裕でいなし、その戦闘力を見せつける。
「どうやらバスター2枚、アーツ2枚、クイック1枚のバランス型のようですね。ただクイックの性能はヒット数も少なく……星産み要員としては微妙と言ったところでしょうか。クリティカルスターをたくさん排出する人とPTを組むと良さそうです」
「第一スキルは使えないけど第3スキルも考えると星を沢山出せるサーヴァントと組ませるのもいいし、クリティカルアップで殴れるやつと組ませてみてもいいかもな。回復系はないけどクラススキルとクラス特性の合計で防御力が馬鹿みたいに高いから回復はあんまり必要無さそうだし」
ジャスティスマンの戦いを見てマシュや藤丸はそのように彼を評価する。
勝手に使えない第一スキルのために素材を使うという最悪な行為をされはしたが、それを補うほどの強さといえよう。
が、高難易度などのクエストでは敵のHPは高くなる。
さらに1.5部からは一度の戦闘でも敵を一撃死させられないシステムがあるために……
「ジャッジメント・ペナルティー!
と、ジャスティスマンの宝具(というかNP消費奥義)を受けても死なない敵が現れたのだが。
「あれ? ジャスティスマンが居なくなったぞ」
「本当ですね。 ……あ、ステラー! のように使ったら自分も戦線離脱な宝具だったのかもしれませんよ、アレ」
「なるほどね」
急にいなくなるジャスティスマン。
その時のバトルはなんとか切り抜けたのだが、藤丸がどこを探してもジャスティスマンの姿を見つけることはできなかった。
そうカルデアの霊基保管庫を見たとしても。
「い、一体何が起こっているんだ……あ」
その時、マスターの脳裏にサーヴァントの特性、ステータスなどが浮かぶ間隔を感じた藤丸。
そこでジャスティスマンの最終スキルを知ってしまう。
スキル
「ダブル・ジョパティ」
ランク・A++
二重刑罰の禁止。
ジャッジメントペナルティを受けて生き残った相手がいるのなら、これからは下等超人の新たなる力も認めねばならない時が来たのだとジャスティスマンが敗北を認める条件が整ったこととなる。
この時のジャスティスマンはたとえあやつが相手であろうと意見を変えず、袂を分かつことになるのである。
ゲームシステム的にはデータがなくなる、といったところであろうか。
このような情報が脳裏に浮かんでしまった。
「せめて素材返せよ!」
数秒ほどその情報を反諾した藤丸は、そのような叫び声をあげなくてはやってられない気持ちになったのであった。
ジャスティスマンのステータスで宝具がEなのは天秤が宝具だからです。
ジャッジメントペナルティは奥義であって本来は宝具ではありません。
ゲームシステム上は宝具扱いとなっています。