艦隊これくしょん 〜第0艦隊、参ります!〜 作:土居内司令官(陸自ヲタ)
鎮守府に艦隊が帰投する。
「えーと、鳳翔さん。そちらはどなた?」
「えっと、出会ったというか、拾ったというか……」
男にしては長い黒髪の、白い制服を着た男性が鳳翔に尋ねる。
鳳翔率いる第11航空戦隊の後ろでは、第1機動艦隊のメンバーが辺りを見渡していた。そして発光信号で会話する。
(ちゃっかり付いてきたけど、大丈夫なの?)
(ちゃっかりというより、うっかりでしょ?)
(旗艦なのに、しっかりしてくださいよ、イソロクさん)
(ごめんなさい、お腹が減って……)
(原子力空母なのに?)
男性がポリポリと頭を掻く。
「所属を名乗ってもらえるかな? 近いようならウチから護衛隊を付けて送り届けるけど?」
「ご厚意ありがとうございます。日本国海軍 第1機動艦隊です。これから南極に向かうのですが」
こんごうの答えに、第1機動艦隊を除く全員が固まる。
(日本国海軍!?)
(南極って!?)
こんごうが首を傾げる。
「あの〜、おかしな事を言った覚えは無いんですが……」
すると、扶桑がこんごうに尋ねた。
「南極って、あの南極?」
「南極はいくつもありませんよ。FAFが地球へ総員撤退すると聞き、その出迎えと『監視』を」
監視の所に力がこもっていたが、気にしてはいけない。
更に全員が固まる。そして全員が同じ事を思うのであった。
(この人達、頭大丈夫!?)
足柄が主砲を向ける。3人は両手を上げるしかなかった。
「名前を言ってもらいましょうか?」
足柄がもう一度言った。
「か、海上自衛隊 第3護衛群 第3護衛隊所属、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦 1番艦 DDH-181 ひゅうがです!」
黒髪おかっぱの少女が言った。彼女は紺色の作業服とミニスカート、頭にはFCS-3多用途レーダー装備の前艦橋、両肩には20mmCIWS、右腕に全通甲板、左腕にMK41 VLS、両足首に短魚雷発射管があった。
「ロシア海軍、キーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦 4番艦 ピョートル・ヴェリーキイよ。言っとくけど、戦艦じゃないから」
銀髪ロングの少女が、何だか偉そうに名乗った。左手に130mm連装速射砲、背中に大量のVLS、全身に30mm・短SAM複合CIWSがある。
(どう見ても戦艦だ)
(主砲が駆逐艦並み……)
(戦艦なのか巡洋艦なのか駆逐艦なのか、全く分からないデース……)
6人はピョートルに対し、そう思った。
「アメリカ海軍、ニミッツ級原子力空母 1番艦 CVN-68 ニミッツと言うわ。ところで、私の可愛い子分達(随伴駆逐艦及び巡洋艦)を知らない?」
「知らないわよ」
足柄が答えた。
ニミッツは、金髪ポニーテールの髪型で、左腕に広大な飛行甲板、両肩と右腕にMK29 シー・スパロー8連装発射器や21連装RAM近接防御ミサイル発射器がある。そして右手でクロスボウを持っている。
「で、あなた達は所属が別々なのに、どうして一緒にいるの?」
足柄がもう一回尋ねた。それに対し、ひゅうがとピョートルとニミッツは顔を見合わせ、ニミッツが言った。
「気付いたら一緒にいた」
それには、足柄が驚く。
「気付いたらって……」
その時、ニミッツが左腕を水平にした。見れば、彼女の後方からE-2C ホークアイが着艦アプローチを開始している。
タッチダウン、アレスター(着艦フック、アレスティングフックとも言う)が3番ワイヤーに引っかかって制止した。直後、黄色いジャケットを着た妖精達が甲板へ駆け出し、E-2C ホークアイをエレベーターへ誘導する。そしてアングルドデッキの安全確認後、もう1機のE-2C ホークアイが着艦した。
「今の艦上機は何だ?」
一部始終を見ていた那智が、ニミッツに尋ねた。
「今の? ノースロップ・グラマン E-2C ホークアイ2000という、艦載早期警戒機、つまり索敵機よ」
ニミッツが惜しげもなく答えた。そしてピョートルが気付く。
「おい待て。ホークアイ2000?」
「うん。データリンク向上型」
「あんたの艦載機を全て羅列してみろ」
「え? ノースロップ・グラマン F-14D スーパートムキャットにボーイング F/A-18F スーパーホーネット、ノースロップ・グラマン E-2C ホークアイ2000、ノースロップ・グラマン A-6E イントルーダー、ノースロップ・グラマン EA-6B プラウラー、ボーイング EA-18G グラウラー、ロッキード S-3B バイキング、シコルスキー MH-60R、シコルスキー MH-60Sよ」
「あんたは一体何処の時代から来たのよ!? 見事に艦載機がカオスになっているわよ!」
「やだなぁ、1980年よ」
「嘘付け! その時代にスーパートムキャットもスーパーホーネットも飛んでない!」
「その辺はあれよ、設定上の都合(注・『作者の勝手でしょ』とも訳される)よ」
「くっ、何て作者だ……!」
ピョートルがそう吐き捨てる。
2人の口喧嘩に埒があかないため、那智が口を挟んだ。
「とりあえず、我々の鎮守府に来るか?」
「行く行く〜!」
「おいこら」
ニミッツの首根っこをピョートルが掴んだ。そしてひそひそ話を始めた。
「相手は旧日本海軍よ? いきなり行って、鹵獲されたらどうするんだ」
「とは言っても、ここじゃあの化け物に常に命を狙われるのよ? 艦載機やひゅうがちゃんの燃料、そして弾薬は無限じゃない。私達には補給が必要よ」
「……確かに、そうだけど」
「だいたい、あなたはロシアでしょ? ついて来る必要無いじゃない」
「私は防空巡洋艦よ? 支援が無いと戦えないの」
「……ピョートルちゃんって、寂しがり屋?」
「馬鹿な! 私は、ソ連の崩壊と共に、姉やドック仲間が次々いなくなったんだ。1人には、慣れている……」
すると、ニミッツがピョートルを抱き締めた。
「そっかそっか。私も、キティ先輩やインディ先輩、ミッドウェー先輩を失ったもの。エンター姉さんの次は、私かぁ……。これも現代艦の運命だもの。戦闘ではなく、味方が命を奪う、仕方ないよ」
「うっ、キーロフ姉ぇぇぇ!」
ピョートルが泣き始めた。駆逐艦の主砲を手にした戦艦クラスの少女が、化け物並みの大きさの正規空母に抱き締められて号泣している光景は、旧日本海軍の艦艇にとってカオスとしか言いようの無かった。
「提督!」
そこそこ長い黒髪の少女、大淀が走ってくる。提督と呼ばれた、白い制服を着た男が大淀の方を向いた。
「どうした?」
「第4戦隊の榛名が大破したため、帰投するそうです!」
「分かった! ドックを開けて、高速修理と補給の用意を!」
「了解しました!」
大淀が戻っていく。そして、男は再び頭を掻いた。
「さて、一体どうするべきだろうか……」
そこで、鳳翔が提案してみた。
「でしたら、保護とかはいかがでしょう? 彼女達はかなり戦えそうですし」
「……そうだな」
そして、男は第1機動艦隊を向いた。
「どうせなら、ここで戦力として働いてみないか? 燃料や弾薬の補給なら心配無いし、もしかしたらより強い装備だって――」
「どうする?」
ありあけが遮った。第1機動艦隊は頭を並べ、ひそひそと会議を行う。
「確かに、補給は大事ですよ。燃料も弾薬も数に限りがありますからね」
「でも、南極に行かないと……」
「こんなおかしな状況です。南極に行った所で、FAFがいるとは限りません」
「ぐぬぬ……」
そして、決断した。
「分かりました、第1機動艦隊旗艦・アドミラル56及び僚艦こんごう、きりしま、ぐんじょう、あさぎ、きりさめ、ありあけは貴方方に『協力』します」
アドミラル56がそう言った。
日本海軍の面々は互いに顔を見合わせ、そして新たな仲間を歓迎した。
「第4戦隊、帰投!」
「弾薬降ろせ!」
「榛名と足柄をドックへ! あと金剛も!」
大損害の第4戦隊が帰投した。大破の榛名、中破の金剛と足柄が修理ドックへ担ぎ込まれ、そして見た事の無い3人は司令室へと連れられる。
「ここが日本海軍の総本山ね……」
「あんた、本当にアメリカ?」
「わ、私達はここで食べられるのでしょうか?」
「何処の映画よ」
ひゅうがの心配に、ピョートルが冷静に突っ込んだ。
そして翔鶴の案内で司令室に入った。
すると、そこには真っ青な顔で倒れる男と、うろたえる第1機動艦隊の姿があった。
数分前――
「では早速、先ほど消耗した弾薬と燃料を補充したいのですが」
司令室にて、こんごうが提督にそう言った。
「弾薬は渡すけど、燃料(食料)は夕食の時間でいいかな? 君達の事を、鎮守府の皆に紹介したいし」
「分かりました」
話がとんとん拍子で片付いた。そしてきりしまときりさめがアドミラル56を小突く。
「「おい旗艦」」
「ごめんなさい人見知りで……」
その間にも、こんごうと提督が話している。
「じゃあ消耗した弾薬の種類と量をこの紙に書いて、補給部に提出するんだ。そしたら補給を受けられる」
「なるほど。ミサイルはありますか?」
「みさいる? よく分かんないけど、補給部は何でも作れるから、たぶんあると思うよ?」
「ふむふむ。ありがとうございます」
「いいっていいって。これから一緒に戦う仲だからね」
そう言って提督は笑った。こんごうも笑顔を返し、書類を受け取る。
「では、消耗した弾薬を書き出します。皆さん、順々に言ってください」
筆を手にしたこんごうが言う。既に書類には「20mm装弾筒付高速徹甲弾 400発、127mm着発信管付砲弾 2発」と書かれている。
「えっと、私は93式空対艦ミサイルを8発です」
アドミラル56が言った。そしてきりしまが手を挙げる。
「20mm徹甲を120発、127mm対空弾を4発」
ぐんじょうが右手を挙げた。
「巡洋艦ぐんじょう、127mm近接信管付対空砲弾を9発です」
あさぎが手を挙げる。
「私は、発展型シー・スパロー短距離SAM(艦対空ミサイル)を4発ですわ」
きりさめが口を開く。
「76mm対空弾を11発、それだけよ」
ありあけが手を挙げた。
「私は20mm徹甲弾を240発」
こんごうはそれらを書き出し、そして提督に見せた。
「20mmってことは高角砲(対空砲)だよね? こんなに使う?」
「私達に搭載されている20mmCIWSは、1秒間に75発撃ち出せますからね。超音速で迫るミサイルも撃ち落とせます」
「……何か怖いなぁ。やっぱり思ったけど、君達って未来から来たの?」
「そう思います?」
「だって、ぐんじょうさんとあさぎさんって、アメリカ出身でしょ? アドミラル56さんだって、俺達にとって最新の空母用カタパルトを持っているし」
普通に話すこんごうと提督を見て、ありあけがぼそっと言う。
「こんごうさんの方が旗艦らしい」
その言葉は、アドミラル56の心に深く刺さった。
早速提督は補給部に電話し、第1機動艦隊の要求する物資があるか確認した。
〔ありますね〕
「あるんだ。シー・スパローなんて聞いたこと無いけど」
〔数十年後にアメリカが開発する個艦防空用ミサイル、誘導機能付噴進弾ですからね〕
「どうして補給部がそれを知っているんだ……」
〔そんなことは置いといて、ちなみに調達費用は――〕
提督の顔から血の気が引き、そしてぶっ倒れた。
翔鶴が倒れた提督に駆け寄って介抱する。一方、未来からやってきた3人――ニミッツ、ピョートル・ヴェリーキイ、ひゅうが――は、第1機動艦隊をまじまじと見ていた。
「あ!」
ひゅうがが大声を出した。
「こんごう先輩! きりしま先輩! きりさめちゃん! ありあけちゃん! また会えて嬉しいです! もう私1人かと!」
「あなた誰?」
きりさめが冷たく言った。それには、ひゅうがが衝撃を受ける。
「忘れられるなんて! ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦 1番艦 DDH-181 ひゅうがですよ! 最近はいずもちゃんやかがちゃんに人気を奪われてるけど、海上自衛隊初の全通甲板を持った護衛艦ですよ!」
それを聞き、ありあけがぼそっと言う。
「海上自衛隊なんて組織は、31年前に無くなったよ」
「え!? じゃあ、あなた達は一体!?」
「日本国海軍に属しています」
こんごうが言った。ひゅうがは何度もこんごうの言葉を反芻し、そして叫んだ。
「そんな! 日本国憲法 第9条は!? シビリアンコントロールは!?」
「……シビリアンコントロールはまだ残ってますよ」
そして、ひゅうがの目から大粒の涙が溢れ出る。
「うっ、うっ……せっかく仲間がいたと思ったのに……!」
泣き崩れるひゅうがを、こんごうが抱き締める。
その光景を見、ぐんじょうが一言。
「イソロクさんも、あれぐらいやれれば……」
「無理ですよ」
そして夕食時、鎮守府の大食堂にて。
「えっと、本日からお世話になります、第1機動艦隊旗艦・アドミラル56です!」
「第1機動艦隊所属、駆逐艦こんごうです」
「妹のきりしまだよ! 四露死苦!(注・不適切な表現をお詫びします)」
「巡洋艦ぐんじょうです。以下お見知り置きを」
「あさぎですわ。皆様、姉共々よろしくお願いしますわ」
「きりさめよ。その……よろしく」
「ありあけです。不出来な姉をどうぞよろしく」
「あ、あの、ひゅうがです……言っておきますが、空母ではありません!」
「ロシア海軍、原子力重巡洋艦ピョートル・ヴェリーキイよ。よろしく」
「アメリカ海軍、史上2番目の原子力空母、ニミッツよ! しくよろ〜」
「あんた、本当にアメリカ海軍なの?」
「失敬な。戦闘機に乗る有段者の首相がいる国の軍艦に言われたくはないわ」
「あんたの来た時代では、まだKGBのはずよ」
「おっと失言」
それぞれ異なる未来からやってきた10人――アドミラル56、こんごう、きりしま、ぐんじょう、あさぎ、きりさめ、ありあけ、ひゅうが、ピョートル・ヴェリーキイ、ニミッツ――が自己紹介した。皆が拍手したりはやし立てたりする中、警報が鳴った。
「緊急地震速報?」
「だ、弾道ミサイルを知らせるJアラートですかっ!?」
「ここにある訳無いでしょ」
10人は知らなかったが、鎮守府の皆はあたふたと食堂の証明を消し、外へ出ようとする。
「あの、一体何が!?」
こんごうが加賀に尋ねると、加賀は冷たく言った。
「空襲警報よ。全く、哨戒隊は何をしているのかしら」
すると、防空頭巾を被った提督が言った。
「哨戒隊は今出してないよ。空中待機の機はいくつか上げてるけど」
それには、加賀が衝撃を受けた。
「それで、空中待機は!?」
「紫電を2個飛行隊分」
そして加賀は思い出す。この鎮守府の陸上航空戦力は紫電が4個飛行隊しかないという壊滅的状況を。
それを聞いていたニミッツが、何かを思いついた。
「ミラちゃん、ひゅうがちゃん、こんごうちゃん、きりしまちゃん、ちょっと集合」
そう言われ、アドミラル56、ひゅうが、こんごう、きりしまは立ち止まる。
「何ですかニミッツさん」
「早くしないと、黒こげになってしまうのに!」
こんごうときりしまが文句を言う。赤城と大和、ドックから出たばかりの榛名は呑気に飯を食べている。
「どうせなら、このまま出撃しない?」
そう言って、ニミッツはいたずらに笑う。すかさずこんごうときりしまがニミッツを殴った。
「馬鹿ですか? やっぱり米国人は頭くるくるパーなんですか?」
「これだからアメリカは好きじゃないのよ!」
こんごうときりしまがニミッツに掴みかかる中、加賀と蒼龍と飛龍と矢矧と能代と金剛と霧島と比叡が、赤城・大和・榛名を食堂から引きずり出す。
「赤城さん、補給は後よ」
「ああっ! 私の元気の源が!」
「榛名は大丈夫です! 空襲なんて怖くありません!」
「馬鹿っ! また大破するわよ!」
そんな茶番を横目に、こんごうは再びニミッツに殴りかかる。
「待って待って! 私の話を聞いて!」
「どうせなら電飾して屋根に飾っとく?」
「いいね。よく目立つと思うよ」
こんごうときりしまは、ニミッツを爆撃の的にしようと考えた。が、ニミッツの次の一言に止まった。
「私達がいかに強いか、見せつけるいいチャンスじゃない!?」
こんごうはニミッツから手を離し、そして乗った。
「二度とこんな無茶はしませんからね」
「良かった、こんごうちゃんは分かってくれた!」
艤装を身に着けた5人の少女が、波止場から海へと滑り降りる。そして浮かんだ彼女達は、敵を求めて全速前進する。