やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 よっし、しっかりシオンをオカシクしてやったぞ。

では、どうぞ 


彼の形容は異常者が最適解である

 

「貴方本当に、何時までこうしている気なの?」

 

「……状況への理解が追いつくまででお願いします」

 

「それって、どれくらいかかりそう?」

 

「不明」

 

 適当に、そよ風のように心地よい声に相手をしながら、後頭部の確かな柔らかさを堪能して、並行して状況理解を図る。

 まずここは心の中だ。アイズにそっくりだが全然違う女性、アリアが私を見下ろしている時点でそれは確実。そうだと決まってしまうから、少しばかりの疑問を覚える。

 景色が、全く異なるのだ。

 何もない草原が限りなく続き、晴天に照らし出されていたはずだ。だが今、見上げる(そら)は煙のような雲で(おお)われ、日差しなど射し込んでいない。だが不思議と辺りは明るいのだ。

 目を顔ごと横へ向けてみる。

 限りがない、そこは変わらないようだ。だがそれは草原などではなく、枯れてしまった荒野のよう。植物のようなものはなく、ただ地が広がり、すぅと吹く風が砂を飛ばしている。一体どうなっているのだろうか。

 そもそもだが、何故自分の心へ来ている? アリアに招かれたであろうが、その条件を満たしていない。何せ、吸血鬼化の解除どころか、それすらもしていないのだから。

 

「ひとつ、考えを正すわ。別に私が招いたわけじゃないの。今回は、貴方の方からやって来たのよ」

 

「……更に解らなくなってきた……」

 

「あらそう」

 

 私からここへ来ることなどできただろうか。今まで一度もないことだ。

 だとしたら条件も理由も知り様がない。まぁ原因として、この異変が挙げられるが。

 どうしてこうなった、そう言いたいものだ。最後の記憶としてあるのは―――そうだ、

神の恩恵(ファルナ)】を再度授かろうとしていたのだ。【ステイタス】を刻んでいる最中、猛烈な嫌な予感を感じ、だが時すでに遅し、理解不能な症状が発生して、それで気絶したのだ。そこまで覚えている。

 あれは一体何だったのだろうか。

 

「私にも理由は不確定で、ちゃんとしたものはないけれど……原因はそれよ」

 

「そんなの解ってますよ。問題は、何故それでなったか。刻まれただけで強烈な苦痛を味わい、気絶までするなんてことは異例中の異例でしょう。そもそも同じ相手に二度同じ()が刻んだこと自体異例なのですから、少しくらいの異常はあっても何もいえません」

 

 とやかく言っても誰が悪いわけでは無い。そんなことをしている暇があるのなら、ここから出る方法を模索しなくては。時間制限は何時もあったが、今回の変わった状況で同じくあるとは限らない。

 

「じゃあ、そろそろ退いてくれてもいいんじゃないの?」

 

「落ち着くのでこのままがいいのですが……」

 

「浮気者。あの子にあんなことまでしたのに、私の膝が名残惜しいの?」

 

「見てたのかよ……変態精霊」

 

「どっちが変態よ!」

 

 本当に、外見と中身が全然違う。威厳もクソも無く完全に子供だろ。

 だが覗きとは感心しない。どこぞの緋髪の変態精霊と変わりないではないか。

 ……思い出しても興奮してしまうから、さっさと元の話としよう。

 

「何か意見有ります?」

 

「無いわね。それより早く退()いてくれないと―――」

 

「退いてくれないと?」

  

「――キ、キスして窒息させるわよ」

 

「無理して言わんでいいわ。というかどうしてそうなった。まぁ解りましたよはいはい退けますよ。私にキスとか変態は本当にどちらなのやら……」

 

 若干呆れながら膝の上を退けると、ふぅと一息した音が聞こえたのは背後からだ。

 面白くてつい笑ってしまって、ただならぬ殺意が風となり吹いたのは、まぁ私が悪かったと言っておこう。悪びれる気は更々ないのだが。

 

「うーん、やっぱり変わってるなぁ……というかナニコレ、鎖? 斬れますかね……」

 

「その鎖、貴方が苦しみ始めたあたりから突然出てきたのよ。貴方の【ステイタス】を楽しみにしていた所にいきなり出てきたんだから、とってもびっくりしたわ」

 

「ほほぅ、キーアイテムと。んじゃ斬りますか」

 

「待った方が良いよ、(あるじ)

 

「おっとぉ? これはどういう事でしょうかね」

 

 微かに引っかかりを覚えた声。だがそれはあり得るはずがない。第一に、ここにいて会話が成立する存在は、私とアリアしかいないのだから。

 声が飛んできた方向を向く。苦笑が思わず漏れてしまった。そんな顔をしてしまうほど、目の前の光景は信じがたいものなのだから。

 

「あぁーと。事後紹介頼めます? 吸血鬼さん」

 

「そんな堅苦しいもの必要ないだろう? ボクと主の仲じゃないか。それに前も聴いたと思うけど、何分名前がなくてね。あんな場所で生きてたんだから仕方ないと思ってよ。理解できるだろう?」

 

「……なるほど、色々解りました」

 

 眼前で気安く話していた、小さな角に鋭い犬歯()、巨大胸部装甲を持ちし黒髪ロングの美人。明らかに見覚えのある吸血鬼だ。私が使用している呪い(身体)、その本来の持ち主だろう。そうでないと辻褄(つじつま)が合わない。

 少しおかしなところはあるのだが、納得するしかないだろう。心の中では刀であるはずの彼女が、こうして精神中の肉体を持っていると言うことは、さて置こう。

 

「で、斬ってはいけないとは?」

 

「別にそういう事じゃないさ。斬らない方が良いってこと。ボクさっきそれに触れてみたんだけど、危うく消えかけたし。主じゃない誰かからの干渉を受けているってことだとボクは思うな」

 

「ほぅ、アリアはどう思います?」

 

(ほとん)ど同意見ね。加えて言うと、それが貴方の心を(いまし)めていること。そして私が緩和してあげたから感謝してくれてもいいのよ、という事かしら」

 

「毎度毎度のことお世話様ですね。感謝は後で、みっちりさせていただきますよ」

 

 縛められた理由に心当たりはないのだが、私にとって良くないものであることは判った。

 斬るのは早計だったか。それ以前に斬るための刀が今はないじゃないか。『一閃』を模っていた吸血鬼も今は肉体となっているし。

 

「ですが、自分の心に異物が混ざるのは釈然としませんね……何とか排除できませんか? というか今ふと出てきた疑問なのですが、何故吸血鬼さんは肉体に?」

 

「うーん、その吸血鬼さんって言うの嫌だなぁ……あ、肉体になった理由だけど、仕方なかったんだよね。こうしないと動けなかったし。下から急に出てきたんだよねぇ、この鎖が。それで、避けるために肉体に替わったの。その時に触れちゃって、消えかけたわけ」

 

「なるほど。あと、呼び名は考えておきますよ」

 

「ありがと♪」

 

 半ばどうでも良い純粋な疑問は解決できた。そして突然、というのがあの苦しみ始めたタイミングだろう。心の中で変異が起きた。肉体まで変わっていないといいが……懸念は出られてからだ。

 

「……普通なら、そろそろタイムリミットね」

 

「まだ何か変化を感じる訳ではありませんが……少し待ちますか」

 

 アリアの呼びかけに、その場に座って秒を刻み始める。自分でもそのタイムリミットは把握しているから、数えることくらいなら可能だ。

 59、58、57……一分を切り、その時を待った。心の中での時間は加速されているが、同じ倍率での時間を基準にしているのだから問題なく狂うことはない。

  

「3、2、1―――おわっ」

 

「主!?」

 

「シオン振り解いて! 精神体を縛られれば、二度と戻れないかもしれないわ!」

 

 最後の秒を刻んで、体が引っ張られる衝撃を得た。一瞬で腹に巻き付いた何かが、鎖だと知ったのは視認と共にアリアの叫びに似た警告によってだ。

 じゃりっ! という音と共に背にごつごつした衝撃を受ける。引き寄せられた結果、あの鎖の塊にぶつかったのだろう。柱状に天へ伸びているそれは、私を呑み込もうとしているのか、更に巻き付く場所を増やした。引き寄せられる力も増す。

 

「はぁ、斬れないし、力入らねぇし、どうしたものか」

 

 必要以上に力が入れられない。それに手刀しか武器がない今、斬鉄などできようはずもない。普通なら焦りそうな状況だが、凍ったかのように思考は恐ろしく冷えていた。

 正直成す術が無い。縛られたらなんだのと言っていたが、そうなってしまうかもしれない。

 ふと、あの時が思い出された。

 

「あぁ、あれなら武器なんていらないか」

 

 心の中でするのは非常に危険であるが、まぁどっちにしろ危険である。まだ生存確率の高い方に賭けたほうがいいのは当たり前。

 一呼吸だけ、何もない空白を作った。長い長い、時間だ。だがどうだろう、気づいた時には圧がすっかり消えていた。

 鎖の擦れる音も、ずりずり痛む感触も、粗方無くなった。

 

 すぅっと、今度は温かなものに包まれて、自分が作った空白ではないものにより私は間を得る。

 神技と言うものはここまで簡単に発動できるものなのかと、少しばかりの落胆を覚えながら。

 

 

   * * *

 

「……なんだ、ここは現実か」

 

「そこは夢じゃないの!?」

 

 寝たままなのだろう。ただ仰向けにはされているが。

 明るい部屋。体内時計からみて十時ごろ、始めた時間と心の中に閉じ込められていた時間を差し引いても少しばかりこちらで眠っていたことになるか。

 もぞもぞと、体の違和感を払拭しようと動いてみるも、全く消える様子がない。というか逆に違和感が増した。軽い……というよりは、動かしやすすぎるといった感覚。覚えている感覚との差異があってどうにもむずがゆいのだ。

 

「―――あ、そうだ。ヘスティア様、【ステイタス】を写した紙は?」

 

「……ごめんよシオン君。ボクはこれ以上、君の【ステイタス】を見るとオカシクなってしまいそうだ。すまないけど、自分で見てはくれないかい?」

 

「―――? 別にいいですけど」

 

 上着は被せられていただけで着せられていたわけでは無く、上体を起こしたことでずり落ちそうになったのを掴む。やはり、反応速度も速くなっている。

 縦長の姿見に背を向けて、髪を除けながら首を曲げた。磨かれた明鏡にくっきりと映る。

 それには、流石に目を疑った。

 

 

 シオン・クラネル Lv

 力:―――

耐久:―――

器用:―――

敏捷:―――

魔力:―――

 

【鬼化】H 【神化】S

 

 《魔法》

【エアリアル】

付与魔法(エンチャント)

・風属性

・詠唱式【目覚めよ(テンペスト)

【フィーニス・マギカ】

・超広域殲滅魔法

二属性段階発動型魔法(デュアル・マジック)

 詠唱式

【全てを無に()せし劫火よ、全てを有のまま(とど)めし氷河よ。終焉へと向かう道を示せ】

 

・第一段階【終末の炎(インフェルノ)

詠唱式【始まりは灯火、次なるは戦火、劫火は戦の終わりの証として(もたら)された。ならば劫火を齎したまえ。醜き姿をさらす我に、どうか慈悲の炎を貸し与えてほしい。さすれば戦は終わりを告げる】

 

・第二段階【神々の黄昏(ラグナレク)

詠唱式【終わりの劫火は放たれた。だが、終わりは新たな始まりを呼ぶ。ならばこの終わりを続けよう。全てを(とど)める氷河の氷は、劫火の炎も包み込む。矛盾し合う二つの終わりは、やがて一つの終わりとなった。その終わりとは、滅び。愚かなる我は、それを望んで選ぶ。滅亡となる終焉を、我は自ら引き起こす】

 《スキル》

無限の恋慕(アンリミテット・アウェイク)

・覚醒する

・両想いの相手と範囲内にいるときのみ発動

・想いの丈により、効果は無限に向上する

・相手との接触中、相手にも効果は発動   

接続(テレパシー)

・干渉する

・効果範囲は集中力に依存

・相互接続可能

格我昇降(ボンデージ)

・継続的能力固定 

・器に依存し、能力を向上 

・器の昇華を(いまし)めにより抑制する 

 《異能力》

発展模倣(トレース)

・完全に理解した技の模倣 

想像(イメージ)依存 

 

 

 

 

「意味不明」

 

「それはボクが言いたいよ! 何だい《異能力》って! そもそも【神化】って君は本当にどれだけ! あぁァァ!? というか『アビリティ』がなんで表示されてないのさ!? Lvまで無いって本当に意味不明なんだよき・み・は!?」

 

「それに加えて《スキル》変わってますし。何で【ランクアップ】もしてないのに『発展アビリティ』が出てきたのやら……」

 

 疑問は目白押し。誰かがこの【ステイタス】を決めているなら、その人に意見してやりたいものだ。「もう少し、わかりやすくしろ」と。 

 これは本気でばれる訳にはいかなくなった。最悪消されるぞ、これ。 

 

「そんなにオカシイの? というかシオン大丈夫? すっごい苦しそうなのが一転して普通になって戸惑ってるのはわたしなんだけど」

 

「私もこれまでになく―――というほどでもないですけど混乱してますよ……」

 

 ペタペタ体を触られて、息を荒くしているのは少し寒気がするのだが、上を着てしまえばそんなことはなくなる。心配しているようにみせかけて発情するのは止して欲しい。

 

「ティア、ヘスティア様、お判りでしょうが口外厳禁です。したら問答無用で殺します。相手含めて」

 

「ボクもかい!?」

 

「でもちょっと……シオンの手で死ぬって言うのは……なんかいいかも」

 

「くっ、ここにも変態精霊がいたかっ」

 

 死と言うものは基本的に抑止力となるのだが、死を恐れない人と、知らない人。死を望んでいる人には全く効果がない。死を望む人には死を遠ざけさせ、知らぬ人には教えて、だが恐れぬ人となると本当にどうしようもないのだ。ただ殺すしかなくなる。

 まぁティアはうっかりがない限り口外することはない。今の発言そのものが(いまし)めとなるだろうから。だが心配はそのうっかりで、かなり確率が高いことだ。

 

「はぁ、ま、とりあえず私はいろいろ試したいので、ちょっとダンジョン行ってきますね。独り深層まで行くと思うので……半日くらいで帰って来ると思います」

 

 魔石回収という名の小遣い稼ぎを省けば前は半日かからないが、『アビリティ』が不明の今少し上乗せして考えておくべきだろう。

 意気揚々と金庫に手を掛けて、「待ってくれ」というヘスティア様の声で開けるのを一旦止める。

 

「その前に、ベル君を安心させてはくれないかい?」

 

「何故?」

 

 はぁと落胆のように溜め息を吐かれた。馬鹿を見るようなジト目で私を見つめ、詰め寄りながら畳みかける。

 

「き・み・はっ、もう少し自覚を持った方が良いんだよっ、自分がどれだけの存在かって言うのをっ」

 

 目の鼻の先で停まる。だが言葉は次々と押しかけてきた。

 

「シオン君が死んだかもって言うのをベル君に伝えた時っ、ボクの前では元気を見せかけてくれたけど、知ってるんだっ。その後ベル君が泣いてたことだってっ……」

 

「あぁなるほど。で、そのベルは今どこに?」

 

「ミアハのところさ。行ってあげてくれ」

 

「はいはい、お承りました。その後ダンジョンに直接向かいますので、そのつもりで」

 

 ベルからしてみれば、家族をまた無くしてしまったと言う事だろう。お祖父さんが失踪したときにあれだけ悲しんだのだ、無理もない。元々寂しがりやで心優しいのだ。

 さっさと準備を済ませて、ティアを留守番させたまま私は、ぽんっと一っ飛びしたのであった。

 

 

 

 

   




8/17、私は手抜きと言われた理由が、自分の思っていたものと異なるのではないかと言う考えに至った。
それは、魔法の欄のことである。
ほんと……手抜きしてないとか言って、すみませんでした。はい、忘れてましたとも。コピペで書いてないから超広域殲滅魔法の存在を消していることになってましたねごめんなさい。
マジで……気をつけます。  




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