やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今日の一言。
 書いている私がシオンの性格を理解できなくなりそうです…

では、どうぞ


酒、それはトリガー

 ヘスティア様との『おはなし』の後結局スキルについては秘密にすることになり、ベルは何も知らないままだ。

 そして今日は久しぶりにベルと共にダンジョンに潜ることにしていた。待ち合わせ場所は二階層始めのルーム。

 早朝鍛錬後、敏捷のトレーニングついでに全力ノンストップでここまで来た所為か、少し疲れた。今は壁を壊し、朝食&休憩中だ。

 そして、修復され、壊す、その作業を十分ほど繰り返すとベルがやってきた。

 

「おはようございます。ベル」

 

「うん。おはようシオン」

 

「今日は何階層まで潜るんですか?」

 

「五階層くらいかな。けどその前にご飯食べていい?」

 

「食べてなかったのですか。構いませんよ」

 

 それにしても、昨日()()不始末だったとは言え、昨日、五階層で死にかけたのに、よくもまぁその階層で潜っていられるものだ。その度胸には感心してしまう。

 壁を壊し、ベルの隣に座ると、ベルが荷物を入れたバックパックの中から、弁当を取り出した。それを包む風呂敷は見覚えが無いことから、ベルの物では無いことがわかる。

 

「ベル、それは誰から頂いたのですか?」

 

「う~ん。名前はわからないんだけど、綺麗な女の人」

 

「知らない人からもらったのですか…何か対価は要求されましたか?」

 

「されたよ。『夕食は是非当店で』って言われた」

 

「そうですか。よければ私も一緒していいですか?できればヘスティア様も」

 

「もちろん!あ、でもお金足りるかな…」

 

「安心してください。私とヘスティア様の分は私が払います、ベルは自分で払ってくださいね」

 

「がんばる」

 

「いい心がけです」

 

――――――――――

 

少年朝食中…朝食中…

 

――――――――――

 

「ごちそうさまでした」

 

「では行きましょうか。今回はベルの成長を見るために来たので援護しかしませんよ」

 

「え…」

 

「いつもソロでしょうから殆ど変わりないでしょう。さ、行きますよ」

 

「わかった…」

 

 今日の目的は、ベルの観察だ。さて、どれほどかな。

 

 

   * * *

 

  観察によるベルの情報。

 武器は短刀(ナイフ)一撃離脱(ヒット&アウェイ)型で最も高い敏捷を利用した戦い方。

 攻撃を受け流す事も無く、型も技も駆け引きも無い。言ってしまえばただ殺しているだけ。

 基本逆手で短刀(ナイフ)を持ち、状況に合わせて持ち替え、刺突もする。

 モンスターとは戦えているが、無駄が多く、体力の持ちが悪くなる戦い方だ。

 それからいえること。ベルは、完全な素人と言うことだ。

 因みに言うと、偶に愛を叫びながら戦闘している。 

   情報おわり。

 

 酷いまとめだが私はこれが限界だ。

 観察は得意だがそれを言葉にすることが苦手なので、仕方ないと諦めている。

 

 そして現在ベルの【ステイタス】の更新中だ。

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の効果がどれほどのものなのか少し興味がある。  

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

【ステイタス】の値を映した羊皮紙を見て突然ベルが叫んだ。

何かと思いベルの持っていた羊皮紙を見て思わず出てきそうになった叫び声を堪える。

 

ベル・クラネル

 Lv.1

 力:I 82→H120

耐久:I 13→I 42

器用:I 96→H139

敏捷:H172→G225

魔力:I  0→

 《魔法》

【 】

 《スキル》

【————】

 

トータル160オーバー

 まじですか…【憧憬一途】恐るべし…これは本当に口外したらいけない。

 どうしてか頭痛がして、顳顬(こめかみ)を押さえているとヘスティア様が突然立ち上がり

 

「知るもんかっ」

 

 ぷいっ、と頬を膨らませ、ベルからそっぽを向く。

 ヤダ可愛い。そう思った私は悪くない。そして浮気でもない。断じて。

 そしてクローゼットへと向かい服を取り出しながら怒り気味の声音で吐き捨てるように言う。

 

「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくる。君たちもたまには()()で羽を伸ばして、()()()豪華な食事でもしてくればいいさっ」

 

 そう言い残し、特注品の外套(コート)を羽織って、地下室から姿を消した。

 というか、二人で食べるのなら、寂しく食事をすることは無いと思うのだが。

 それより、

 

「ベル、どうしてヘスティア様は正常な判断ができない程怒っていたんですか?二人なのに寂しいと言っていましたよ」

 

「わかんない。【ステイタス】の上昇について聞いてたらいきなり怒って…」

 

 あーなるほど。【憧憬一途】か。懸想(おもい)の丈により効果向上ってところに秘密があるなんて言えないだろうし、ましてやヘスティア様はベルのことを好いているように見えるしな。どんまいヘスティア様。

 

「ベル、一つ言えることは、それは地雷になった。ということです」

 

「踏まないように気をつけます…」

 

「それでいいです。ではベル。豪華な食事にでも行きますか」

 

「え?あ、そうだった。神様は来なくなっちゃったけど、いこうか」

 

「ええ、因みに何て名前の店なんですか?」

 

「知らない」

 

「は?」

 

  

   * * *

 

 店の名前を憶えてなかった間抜けな我が弟ベルは、どうやら場所は覚えていたらしく、辿り着くことができた。名前は『豊饒の女主人』。『穣』ではなく『饒』とするところが飲食店らしいな。

 

「冒険者さん!」

 

 そう言いこちらにやってきたのはウエイトレスの服を着た、鈍色の髪の少女。

 

「来てくれたんですね」

 

「はい」

 

「自己紹介がまだでしたね、私、シル・フローヴァです」

 

「僕はベル・クラネルです。そしてこちらが」

 

 そう言いながら私に自己紹介を促してきたので答えようと口を開くと

 

「ベルさん、彼女がいたんですか」

 

 さっきまでとは比べ物にならない位低く、暗い声でそう言った。そういう彼女の顔は嫉妬と嫌悪が滲み出ていた。性別を間違えられたことは何度もあったが、彼女と間違われたのは初めてだ。

 

「ち、違います!この人は僕の兄です!」

 

「どうも、シル・フローヴァさん。シオン・クラネルです。ベル・クラネルの兄ですよ」

 

「そ、そうなんですか!失礼しました!ベルさんのお兄さんだとは知らずに!うぅ~…」

 

 ?…あぁ、そういうことか。なら少し

 

「あはは、気にしないでください将来の義妹(マイ・シスター)。この無礼は借りとしてベルに返してもらえればいいので」

 

「どういうこと?」

 

 意味が理解できず、首を傾げているベルに対し、

 

「な、ななななにいってるんですかぁぁっ!!」

 

 シルさんは顔を真っ赤にしていた。見た目は魔女っ娘だったが普通に恥ずかしいこともあるのか。

 …何でだろうか、いじりたくなってきた

 

「嫌ですか?そうでしたかぁ~残念です。なら他の…」

 

「それはだめです!」

 

「なにが駄目なのですか?できれば詳しく『ベルに』いってくれませんかね~」

 

 わざとらしく『ベルに』を強調したが効果はいかほどか。

 シルさんは真っ赤。効果は抜群のようだ。追撃しようと口を開く、

 

「あの、そろそろそこから避けて頂けませんか。他の方々の邪魔になるので」

 

 そして、声が割り込んできた。それは()()聞いた声に引けを取らない美しい声、若干怒気が含まれているがそれがわかる。声の発生源を見るとそれが納得できた。その声を発したのはエルフの女性だった。

 この店の制服であろうその緑色の服がとても似合っており、彼女のためにここの制服が緑なのではないかと思わせるほどだ。

 でも、何故だろうか、彼女のことを『綺麗』と思うことができない。どうしてだ?

 

「…オン…シオン!」

 

「…ッ…どうかしましたか?ベル」

 

「刀…」

 

「刀?」

 

 何のことかと思い、腰の刀を見ると、私は柄に手を添え鞘を掴み、抜刀の姿勢を取っていた。

 

「おっと、申し訳ございません。無意識でした」

 

「無意識でそのようなことはやめて頂きたい。この店の人たちは()()()()()に敏感だ」

 

「そういう…なるほど、以後気をつけておきます」

 

「そうしてください。では、どうぞ中へ」

 

 中に入り、私とベルは端のカウンター席に案内された。

 ベルが私の左隣に座り、刀は外し、右側に倒れないように掛ける。

 

「あんたらがシルのお客さんかい?冒険者の癖に可愛い顔してるねえ!」

 

「「ほっといてください」」

 

 反射的に反論した相手は、ドワーフの女将さん。

 

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってくれよぉ!」

 

「⁉」

 

「ベル?大食漢だったんですか?初耳です」

 

「僕もだよ!いつからそうなったのさ!」

 

 その瞬間、ベルがシルさんの方を向く

 

「……えへへ」

 

 なにこれ可愛い、けどこれは罠だな。

 

「えへへ、じゃねー⁉」

 

「見事に嵌りましたね、ベル。それで、どうしてこうなったんですか?」

 

「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振る舞ってあげて、と伝えたら……尾鰭がついてあんな話になってしまって」

 

「絶対に故意じゃないですか⁉」

 

「私、応援してますからっ」

 

「私はシルさんを応援してますよ」

 

「ちょっとシオンさん!」

 

「シルさん⁉ シオンと言い合いしてないでまずは誤解を解いてよ!」

 

 ベルはなにを躍起になっているんだろうか?

 

「絶対大食いなんてしませんよ⁉ただでさえうちの【ファミリア】は貧乏なんですから!」

 

 あぁそういうことか。心配性だな~ベルは

 

「安心してください」

 

「なにを⁉」

 

「幸い、まだ私の懐が暖かいですし、中層にサポーターを二人ほど連れて本気で潜れば、貧乏生活も脱却できると思うので」

 

「それじゃあ問題ないですね」

 

「問題あるよね⁉」

 

「まだ中層に潜る気はありませんけど」

 

「だめじゃん!!」

 

「まぁまぁ落ち着いてください。シルさん、私には魚料理とそれに合うお酒をお願いします」

 

「はい、わかりました」

 

「ベルはとりあえず女将さんが出してくるであろうもの食べてください」

 

「え?僕まだ何も」

 

「はいよ!」

 

 ベルの言葉を遮るように出て来たのは、女将さんの声と大盛りの料理であった。それが出された瞬間に言葉で表せないような悲鳴がベルから聞こえた気がしたが、女将さんはそんなの関係なしと言わんばかりにまた次のものを持ってくる。

 

「シオンさん。魚料理は本日のおススメ、それに合うお酒も持ってきました」

 

「ありがとうございます、シルさん」

 

「ねぇシオン。お酒なんて飲んだことあったっけ?」

 

「無いですよ。これが初めてです」

 

「ふ~ん。大丈夫なの?」

 

「わかりません。ですけど、飲んでみればわかります。ではベル、乾杯でもしましょう」

 

「乾杯?なんかいいことあったっけ?」

 

「私たちの冒険者になった記念です。していなかったでしょう?だからそれについてです。それと今度、【ヘスティア・ファミリア】結成記念もしましょうね」

 

「そうだね。じゃあ冒険者になった記念に、乾杯」

 

「乾杯」

 

 そういい、私たちが乾杯したのは醸造酒(エール)。ベルが赤色で私が白色のものだ。

 お酒は詳しくないが、おいしいと思えた。さらに魚と一緒に飲み込むとまた味わい深い。

 ベルの方にさらに料理が追加されて青ざめていたが、そんなのは気にしなかった。

 

「楽しんでますか?」

 

 シルさんがこちらにやって来ながら問うて来るが相手はベルに任せるとしよう。

 そう決め黙々と食べ、飲む。さらに追加、食べ、飲む。次第に思考回路が落ちていく。

 ベルのことを大食漢と言っていたが、意外と私がそうなのかもしれない。

 そうして食べていると、体に電気が走るような感覚を覚える。一時的に手が止まり、

 

「ニャ~。ご予約のお客様、ご来店ニャ」

 

 猫人(キャット・ピープル)の少女が大声を出し、【ロキ・ファミリア】の有名所が店内に入って来た。

 

 

 




 シルさんの自己紹介について。
シルさんが自己紹介をするタイミングは原作とアニメで異なっています。
なので今回は自己紹介のタイミングをアニメに合わせました。
 
UA一万突破!やっとだ…

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