やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言。
 ほどんど伏線をちらつかせる回。

では、どうぞ


嫌悪、それは視線

 現在、ダンジョン十五階層、中層と呼ばれている場所で、基本Lv.2になったらパーティーを組んで挑む階層だ。だが、私はLv.1あろうことか単独(ソロ)だ。それでも余裕をもっていられる。本当に私にここの常識は通用しないな…

 因みに装備は我が愛刀『一閃』―――オラリオに来てわかったが、【ヘファイスト・スファミリア】製第二級装備と同等らしい―――とミノタウロスの攻撃すら耐えるプロテクター―――実際に試した―――と急所を守れる最低限の防具と念のために短刀(ナイフ)を服の中に仕込んでいる。

 今日は稼ぐためにバックパックも少し大きめの物を使っている。勿論戦闘時は置いているが。

 そして、魔石と偶にドロップアイテムを回収していた時だ。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 遠くからの悲鳴、少し耳を澄ましてみる。私は風に音を乗せることで、かなり遠くまでの探知が可能だ。

 そして、聞こえたのは怒鳴り声―――多分男―――が三人分。そして、荒い足音、恐らく二十や三十はいる。

 こりゃ稼ぎになる。あんまり目立ちたくないけど……見捨てるのも良くないし。

 

 そう思ってからの行動は早い。魔石回収は終わっていなかったが、とりあえず落ちていたドロップアイテムだけバックパックにに詰め走る。勿論抜刀して補正もかける。

 そうしたらすぐに着いた。そこは私の来た道に向かい、一本道になっている。

 此方に向かってくるのは、三人の冒険者を先頭にした、モンスターの大群。

 多数から順に、アルミラージ、ヘルハウンド、ミノタウロス。そして少し下の層から来たのかライガーファングまでいた。後、音からして恐らくダンジョンワームもいる。

 これくらいなら、風を使えば一瞬だ。一本道だし()()()で全部斬れる。

 そして、納刀。だが刃を入れただけで()()が入る程の隙間は空いている。

 

「そこの方々、伏せてください」

 

 そう警告した。実際伏せないと()()()()()()

 私の編み出した技【虚空一閃】。刀が強く摩耗するため、また砥ぐまで使えないがとても強力な技。

 【ブレイク・ストーム】とは異なり、風を刃全体に纏わせる訳では無く、刃の先にだけ纏わせる。

 それを居合いの要領で抜刀し、横に一閃し剣圧を風圧に乗せた実態を持たぬ刃で斬る。

 一見何もない虚空を斬っているように見えるためこう名付けた。

 そして、先頭との距離5Mまで来てやっと伏せる冒険者。

 その瞬間、抜刀。ミノタウロスは()()()()()()が斬れ、魔石が欠ける。

 アルミラージは頭が無くなったりヘルハウンドは背中が抉られたりと(むご)いことになっていた。

 ライガーファングは魔石を消し飛ばしたのかすぐに消えた。

 ダンジョンワームは丁度良く頭を出していたため、見事にパッツン。

 ……これ、一般人が見たら確実に吐くレベル。

 まぁ、私は大丈夫なんですがね。それより魔石とドロップアイテムが大量 

 

「おい、あんた」

 

 そんなウキウキして回収を始めた私に、冒険者の一人が話しかけて来た。

 

「何ですか?魔石やドロップアイテムは渡しませんよ」

 

 これは私が倒した物です。なのでもう回収を始めている私です。

 

「いや、お礼が言いたくてな。助かった。魔石やアイテムはそっちのでいいさ」

 

「勿論です。そのつもりで助けましたから」

 

「それはどうなんだよ…まぁいい。俺はボールス・エルダーってんだ、あんたは」

 

「私はシオン・クラネルと言います。以後お見知りおきを、ボールス・エルダーさん」

 

「おう。そんじゃな。行くぞお前ら」

 

 あぁやっぱりあの人がリーダーだったか、一番強そうだし。どうでもいいけど。

 それより回収~ 

 

   * * *

 

 そして換金~ 

 あの後、バックパックがいっぱいになりそうだったので戻ってきた。道中でも回収し、満杯だ。

 昨日から約一日潜り、現在正午近く。

 

「さて、何ヴァリスになるでしょうかね」

 

 とりあえず、十万は超えるだろうな。あわよくば十五万…

 

「あいよ、23万6千ヴァリス」

 

「は?」

 

「なんだい。なんか文句でも」

 

「え、いや。多すぎませんか?」

 

「ドロップアイテムが多いからな。普通なんだよ」

 

 まじかよ、中層一日潜ればこんなに稼げんのかよ。私の上層での半日による地道な稼ぎで頑張ってた努力返せよ。それでも一日八万は稼いでたけど。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 それにしても、これなら新しい装備買えるか?研磨に使う砥石を買ったとしても余るし、問題ないか。

 うーん、でも何を買うか…さすがに一級装備は買えないし…でも『一閃』以上の刀が欲しいよな…

 いやでも、刀じゃなくて両刀の武器でもいいかもな…

 そんなことを帰り道、歩きながら考えていた。

 そして、豊饒の女主人。夕食はここにしようと決めていた時だ。

 

「…ッ!誰だ!!」

 

 私はいつでも抜刀できる構えになる。ある方向に向かって。

 ()()を感じた。私が、だ。

 私は基本、この目立つ見た目であるため、気配を周りに紛らせ、探知しにくいようにしている。隠密(ハイド)と言われる狩りの技術だ。

 その私を見つける。つまりは私の隠密(ハイド)を見破れるだけの()()()

 視線を感じたのは背後。しかも唯の視線ではない。好意、奇異、悪意、殺意、害意。そんなものならまだよかった。でも感じたのは全く違うもの、()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな視線。

 正直言って、気持ちが悪い。そんなもの

 

 でも、私が向いた方向、裏路地へ入る道。そこには誰一人としていなかった。

 念のため音の探知を行う。でも、周りが騒がしくていつもの効果が発揮できない。

 

「何だったんだですか…」

 

 そうつぶやいた私に、『こっちのセリフだよ』と言わんばかりに冷たい視線を向けられた。この視線の方が、まだましだ。そして戦闘態勢を解く。念のため警戒は忘れない。

 

「あ、あの~シオンさん?」

 

 戦闘態勢を解いた私に誰かが話しかけて来た。声からしてシルさん。

 

「どうかなされましたか?シルさん」

 

「いえ、大声を出されていたので、何かあったのかと…」

 

 あぁ、そりゃ店の前で大声出せば聞こえるよね。

 

「お気になさらず。もう大丈夫ですので。あと、今日も行かせてもらいます」

 

「そうですか。では、お待ちしています」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 それにしても、さっきの視線。あれは誰のなんだ… 

 

 

   * * *

 

「ただいまです。ベル」

 

「あ、お帰りシオン。神様見なかった?」

 

「ヘスティア様?帰ってくるのは明日では?」

 

「いや、わかってるけど…心配でさ…」

 

 良かったですね、ヘスティア様。心配してもらえるほど思われているようですよ。あ、でもベルは知人なら誰でも心配するか。

 

「あ、そうだシオン。なんかミアハ様からシオンにって渡された物があるんだけど…」

 

 渡された?何か頼んだか?

 

「これ何?なんかミアハ様が『一応持っておきたまえ』って言ってたけど」

 

 そして出されたのが何かが入っているであろう箱。

 

「心当たりがありませんね…開けてみましょう」

 

 そしてその中身は、

 

「胃薬…」

 

 あぁ、だいたい分かった。

 私は、先日、吐きそうになった時、【ミアハ・ファミリア】のホーム兼店である、青の薬舗に行った。そこで消化剤を買うためだ。恐らく、そのことを心配に思い無償でくれたのだろう。ミアハ様、本当の人格者だよな…

 

「本当に、あの()はお人好しですね。ベル並みです」

 

「え⁉僕ってお人好しなの⁉」

 

 自覚なかったのかよ…そっちの方が驚きだよ。

 

「まぁ、そんなことより、ベル。昼食(ランチ)は終えましたか?私はまだなので今から作りますが」

 

 現在、かなり空腹。冷蔵庫―――には一応食材を入れてあるし大丈夫だろ。

 

「まだ食べてない!シオン作って!」

 

 子供かよ。その反応はちょっと幼稚過ぎませんかね…作りますけど。

 

「わかりました。では、七分程お待ちを」

 

――――――

 

男の娘料理中………少年料理中……

 

――――――

 

「完成です。さぁ食べましょう」

 

「うん!」

 

「「いただきます」」

 

 今日の料理は極めて普通。臭みを抜いた焼肉に、オラリオに来てからすぐに作った、クラネル家特性のソースを使って味付けしたのと、肉の油を使い、炒めた野菜。それに安定のじゃが丸くん。

 じゃが丸くんはいらない?ベルもヘスティア様も始めはそう言った。だがじゃが丸くんを嘗めるなよ!これはな、最後にクラネル家特性ソースを少し浸けて食べるとかなり上手い!塩味と同等だ!

 その証拠に―――――――

 

 

 

――――――十二分後。

 

「やっぱり美味しい!」

 

 ほらな!()()()()()()()凄いだろう!

 

――――――三分後。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 結局、じゃが丸くん、三つ食べてしまった…

 

「シオン、今日はこれからどうるの?」

 

 私が食器類を片付けているとベルがそんなことを聞いてきた。やることと言えば

 

「研磨、それと鍛錬。夕食は豊饒の女主人で、その後就寝。ですかね、ベルは」

 

「僕はギルドに行ってくる。聞きたいことがあるんだ」

 

「そうですか、では行ってらっしゃい」

 

「うん。あ、でも、洗い物…」

 

「気にしないで下さい。私がやっておきます」

 

「わかった。じゃあ行ってくる」

 

「はい」

 

   * * *

 

 夕方、豊饒の女主人内、カウンター席。手持ち六万ヴァリス。

 

「女将さん。今日の手持ちは六万なので昨日よりは少なくお願いします」

 

「あいよ!ちょっと待ってな!」

 

 そして待つこと数分。

 

「クラネルさん。あの、お話があるのですが」

 

 来たのは料理ではなく、エルフのウエイトレス。

 

「あなたは?」

 

 実際誰か知らない。

 

「申し遅れました。私は、リューと言います」

 

「では、知っているようですがこちらも。シオン・クラネルですファミリーネームだとベルと被るので、ベルが居る時は名前でお願いします」 

 

「わかりました、シオンさん」

 

 あれ?ベルが居る時でいいと言ったはずだが…まぁいいか。

 

「それで、何でしょうか」

 

「はい。先日のことです」

 

 やっぱりね。それしかないと思った。

 

「シオンさんはご自身を、駆け出し、つまりLv.1と言っていましたが、本当ですか?」

 

 そこか、普通思うだろうね、当たり前の疑問だ。

 

「勿論本当ですよ」

 

 て言っても信じてもらえないだろうから、

 

「リューさんは、私が駄犬を倒したから信じられないのでしょう?駄犬はあれでもLv.5ですからね。それは仕方ないです。()()()()()()()()、ですけど」

 

 私の言い分を聞いているリューさんは頭の上に疑問符が浮かんでいたので続ける。

 

「つまり、私に()()()()()()()()。と言うことです。そもそも、Lvが高い=強い。とオラリオ(ここ)では思われているようですが、そうではありません。Lv(強さ)を覆すだけの技量。それがあればいいんですよ。私にはそれがあっただけです」

 

 まぁ、これは私が普通じゃないから言えることなんだけどね。

 

「そんなの無茶苦茶だ…」

 

「でも、実例がここにいます。自分の目を信じてください」

 

「……そうするしかないようだ。それでは、シオンさん」

 

 リューさんが去って行くのと同時に料理が出される。今回は大胆な骨付き肉からだ。

 それを食べる、出された酒を飲む。そしてまた追加される。

 追加、食べる、飲む、そのローテーションが何十回か続いた。

 

「あんた、ほんとに食うね…」

 

「美味しいですから。それと、ごちそうさまです」

 

「あいよ!代金六万ヴァリス丁度だよ」

 

「いい調整です。これ、六万ヴァリスです。また来ますね」

 

「あいよ、また大金使っておくれ」

 

 はは、それは客に対して言い方を改めたほうがいいかもしれないよ?

 

 

 ふー。今日も食べた食べた。醸造酒(エール)も五杯に抑えたし、二日酔いも大丈夫だろ。

 そして、帰路を辿った。

 自分に向けられる視線に気づかぬまま。

 

 

 

 

 




 今回の原作との違い。
ベルが二日目の昼にホームに居る。
原作では昼頃はダンジョンに居ましたがこの作品では異なります。ご注意ください。

 それと悩みです。

 リューさんをどうするか。
原作通り?それともシオンに片思い?
 リューさん好きだから何とかしてあげたい私です…

あと、魔法発動に修正加えました

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