やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 毎日投稿きつくなってきた…

では、どうぞ




自爆、それは補正

 

今は【ステイタス】を更新した日の翌日の朝九時頃。スキルに『多重補正』と言うのが追加されていたので、どれほどのものかを試してみるところだ。場所は最近おなじみ十二階層巨大ルーム。お金集めも兼ねてきている。

 装備は戦闘衣(バトル・クロス)とプロテクター。刀類一式、鞘と簡易地図が入ったバックパック、レッグホルスターに高等回復薬(ハイ・ポーション)二本。解毒薬一本を入れている。いつも通り軽装だ。

 今日は(マーカー)は持ってきていない。もう簡易とはいえ、地図を作ったのだ。必要ない物を持ってきたりはしない。

 …っと、やって来たな『強化種』!今回はコボルトか十体しかいない。

 強化種のコボルドは灰色の毛並みの一部が変色している。今まで見た奴が変色していた色は、赤、黄、緑。の三食だ。それ以外は知らん。

 本来、『強化種』と言うのはモンスターの魔石を食べることによって強くなった個体のことを示すが、此処は違う。『強化種』自体が生まれてくるのだ。おかげで、上層でも中層以上の稼ぎになる。

 ここまでの道中で一本分の補正は試してきた。今回の戦闘が初の多重補正だ。さて、どんなものやら。

 とりあえず、邪魔なバックパックを下ろし、『一閃』を持ち替え、左腰から右手で『紅蓮』を抜刀。抜刀速度は言うまでもない。それで一体切り捨て、燃えていくのを眺めながら後退。腰を低くし『一閃』を右下段に構え、左脇腹から右肩にかけて斬る、逆袈裟切りを狙う。よく使う技だから大体これで分かる。

 感覚はいつも通り、構えもいつも通り、残るは【ステイタス】のみ。違いはそこに現れる。

 距離は5M。全然問題ない距離。彼方が来ないため、此方から攻める。

 急接近からの逆袈裟斬りで決まる――――はずだった。

 確かに殺せた。だが、違う。死因は斬殺ではない。圧殺だ。

 急接近するために、私は地面を強く蹴った。いつもの感覚で。そしたらどうだろうか。

 

―――コボルトに突っ込み、それもろとも壁に激突した。

 『ぐちゃ』と言う音が鳴り、凹んだ壁が何とも言えないことになる。戦闘衣(バトル・クロス)はもう何というか……二度と着たくない。

 

 もうわかった。とりあえず鬱憤晴らしだ。

 

――――――

 

 さて、血祭りにしてやったところで。思いついたことがある。

 

『吸血って、もしかすると服の血も吸えたりする?』

 

 と。試しに、刀身を戦闘衣(バトル。クロス)に密着させる。するとあら不思議、本当に吸われていきました。不思議ではなく呪いなんだが。

 良かった…と安心したのもつかの間、臭いが消えていないことに気づく。直ぐに洗えば落ちるだろうか…ちょうどよく水場の心当たりもあるし。行動は早い方がいいよね。

 

 臭いを取る。それだけの為に全力で走っている人がそこには居た。

 あ、ちゃんとバックパックは持ってるし、刀も二本抜いたままだよ!

 

――――――

 

「ふぅ、これくらいで良いですかね」

 

 現在地は、『迷宮の安楽地(アンダーレストポイント)(仮)』である。結局こんな名前にしてしまった。自身のネーミングセンスが情けない…

 っとそんなことはどうでも良く、今は、戦闘衣(バトル・クロス)を洗い終わったところだ。多分臭いは消えている。それを木にかけ、『紅蓮』を近づける。熱で乾かすためだが、刀をこんなことに使ってよいのだろうか…

 とりあえず、乾くまで暇なので、此処まで来るまでに何があったかを簡単に話そう。

 

 

 

①、とりあえず、一旦巨大ルームに戻った。

②、此処へ繋がる道に行った。

③、途中で珍しい『変異種』に会った。

④、そいつに、勢いを利用して()()()

⑤、木っ端微塵となり、魔石とドロップアイテムを残して消えた。

⑥、一時間でやっと到着。

⑦、全てにおいて、止まれず、壁、または木に激突してた。

 

  

   感想

 うん、収穫もあったけど、酷かった。あと、使いこなせればこれ多分チート級。

 高等回復薬(ハイ・ポーション)も解毒薬も粉微塵。防具なんて、腕につけているプロテクターしか原型を保ってない。他は粉微塵…【猛者】のとき並…いや、それを越したぞ…

 というか、今回のことで絶対耐久上昇値おかしくなってるだろ…私はもう諦め、慣れたが、ヘスティア様はまだ慣れてないようだからな…でも、どうしようもないことだから、仕方ないよね!

 

 さて、高火力のおかげで、もう乾いたし満杯になるまで狩ってから、帰りますか。

 

 

   * * *

 

 突然だがここで、私が気配を紛らわさない、もしくは気配を現してしまうときについて教えておく。

Ⅰ、誰かと一緒に居るとき!

Ⅱ、買い物をするとき!

Ⅲ、説教中…

Ⅳ、換金のとき!

Ⅴ、めちゃくちゃ嬉しい時! 

 

 これを憶えておいていただきたい!

 

 ではここで問題だ。

 

「よっしゃっぁぁぁぁ!!!!」

 

 この時、気配を現した。それは何故?

 正解は………Ⅳ&Ⅴ、換金中めちゃくちゃ嬉しかった時!

 

「だ、大丈夫かね?」

 

「は!……申し訳ございません……」

 

 換金してくれる人に言われ、自身の失態に気づく。いやでも、こりゃ仕方ないだろ。

 あの後、7時間程あの場所に潜り、ひたすら斬って、体に補正を慣れさせていた。そして気づいたら満杯。体も慣れていた。

 そして、帰還したのは、日がもう少しで沈み始める夕刻。

 満杯のバックパックの中身を見せたところ、凄い驚かれたが、何のことかはわからず、とりあえず換金したところ、その額がなんと―――81万3790ヴァリス。…とドロップアイテム。

 冷静になってみると、何でドロップアイテムが?

 

「このドロップアイテムは換金できないよ。価値がわからない」

 

 不思議そうにしている私の顔が見えたのか、ちゃんと答えてくれた。因みに峰打ちで倒した『変異種』の皮である。多分…シルバーバック。一番それに似てた。

 でも価値がわからないとは…珍しい。

 

「そうですか、では、他を当たります。それでは」

 

 換金されたお金を小袋に―――二つ使ったが――入れ、シルバーバック?の皮はバックに入れた。換金所から帰る際にドロップアイテムを持つというのは新鮮な気分だ。

 

「お、お、落としたぁぁ⁉」

 

 ギルドから出ていこうとすると、先の私のように大声で叫ぶ人が、歓喜ではなく悲痛な叫びだったが、それを発したのは顔を真っ青にした、白髪のヒューマン。ベルだ。

 

「どうかしたのですか?ベル。何かを落としたようですが」

 

「え、シ、シオン!あ、あの、その…」

 

 答えるまで時間が掛かりそうなので、自分で探る。

 落とした。そのことで悲痛な叫びを上げるということは、相当大切な物。ベルが大切にしている物は、金、【ヘスティア・ナイフ】、エイナさんからもらったプロテクター。これくらいだろうか。

 

 金は…小袋があるし…プロテクター落とさない…と言うことは

 さっ!と後ろに回り込み腰を見る。そこにはあるはずの漆黒の短刀(ナイフ)が無かった。

 

「【ヘスティア・ナイフ】ですか…」

 

「う、うん!どうしよう!どこに!どこに落としちゃったのかな⁉」

 

 まず、その落としたという考えから捨てるべきだと思うが…

 

「ベル、焦らないでください。手分けして探しましょう。私は屋根伝いで気配を探してみますから、ベルは大通りを探してください」

 

「わかった!お願い!」

 

 気合の籠った返答をもらい、すぐさま飛び出す。相手には気づかれないよう気配は念のため紛らわし、裏路地中心に跳び回る。

 そして、二つの気配を捉える。その気配は何度もあったことのある相手だ。

 進行方向を塞ぐ形で降り立つ。迷惑だろうが、緊急事態だ。

 

「リューさん、シルさん。このあ辺りでベルの漆黒の短刀(ナイフ)を持った人を見ませんでしたか」

 

「…どうされたのですか、シオンさん。かなり焦っておられるようですが」

 

「実はベルがその漆黒の短刀(ナイフ)を落とした。は本人の言い分ですが、恐らく盗まれましてね。犯人を捜しているところです」

 

「そうですか…本当ならば協力したいのですが…お使い中でして…」

 

「わかっています。なので、見つけたら戦闘音でも響かせてくれればすぐに向かいます」

 

「わかりました。見つけられ…」

 

 会話途中、何故かリューさんの言葉が止まった。何かと思うと私の後ろをじっくり見ている。一応、気配を見ると、二つの気配が感じられた。そのうち一つは見慣れた気配。

 その気配が私の横を通る。暗くて見えにくいが、左手で袖の中に()()をしまった。だが、それが何なのかは確定している。

 

「「待て」」

 

 私とリューさんの言葉が被った。普段なら笑ってしまうだろうが、今はそんな状況ではない。

 

「そこの小人族(パルゥム)。左の裾に隠した武器、それは誰のだ」

 

 強めの口調であえて相手を見ず、威圧だけを飛ばす。

 

「誰のと言われましても…これは私の武器です」

 

 はぁ、ふざけた回答。セオリー中のセオリー

 

「抜かせ糞泥棒。それは俺の弟の世界に一つしかない武器だぞ!!」

 

 そう叫ぶと同時に刀は抜かない本気の後ろ回し蹴り。小人族(パルゥム)は物凄い勢いでフっ飛ばされ、闇の中へと消えてゆく。その途中で【ヘスティア・ナイフ】が落ちた気がしたので、リューさんに回収を頼む。

 私は、あの小人族(パルゥム)逃がすわけがなく、飛躍し屋根へ。それを伝い、気配が向かう方向、大通りに向かう。

 追いかけていると、気配が大通りに出た。そして止まる。好機とみて跳躍、屋根が凹んだ気がしたが気にしない。着地するのは気配の横。着地する前、滞空中でベルを見つけた。ベルは何故か私が追った気配の主である犬人(シアンスロープ)()()()を抱え、話していた。

 何故だ?着地後すぐに思った言葉。それは二つの疑問が重なった言葉だった。

 私が追っていた男の小人族(パルゥム)が確かにあいつなのに、目下に居るのは女の子で犬人(シアンスロープ)であるということ。

 そして、ベルがそいつのことをまるで知り合いのように呼んでいたこと。

 とりあえず、探ってみる。口調も戻せ。

 

「……ベル。どうして女の子を抱いているのですか?公衆の面前で」

 

「あ、シオン。なんでかわからないけど、リリが飛び出してきたんだよ」

 

 リリ?こいつの事か?

 

「その犬人(シアンスロープ)とはどういう関係なんですか?」

 

「あ、今日ね、サポーターをやってもらったんだ」

 

「サポーター?ベルから誘ったんですか?」

 

「ううん。リリから話しかけてきてくれたんだ」

 

 よし、大体わかった。

 こいつ――まぁリリとする。リリは確実にベルから短刀(ナイフ)を盗った。それも、気づかれない程巧みな技で。恐らく慣れてる。そしてリリは、はじめっから短刀(ナイフ)を狙っていた。それでベルのサポーターを申し出た。ってところか。

 

「シオンさん。それにクラネルさん」

 

 と、結論に至ったところで、リューさんと…少し遅れてシルさんがやってきた。リューさんの右手には漆黒の短刀(ナイフ)が握られていた、ちゃんと回収してくれたことに感謝せねば。

 

「リューさん?どうしてここに?」

 

「……違うようですね」

 

「はい?」

 

「いえ、なんでもありません。先程の質問ですが、裏路地で、シオンさんと会いまして…そうでしたクラネルさん。これ、どうぞ」

 

「え?」

 

 差し出したのは、今まで探していた漆黒の短刀(ナイフ)、【ヘスティア・ナイフ】である。

 

「ど、どうしてこれを…」

 

「先程、小人族(パルゥム)の男がそれを所持していまして、押収しました」

 

「そ、そうですかぁ~拾ってくれたのかな…」

 

 どんだけお人好し脳なんだよ私の弟は。美徳かもしれんがもう少し人を疑おうね?

 

「じゃあベル。私は先に帰ってますので、どうぞその犬人(シアンスロープ)と仲良くしていてください」

 

「え?その言い方なんか嫌な感じがするんだけど」

 

「気のせいですよ」

 

 さて…対策を立てなくちゃな。

 

 

 

 


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