やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 登場人物たった二人。

では、どうぞ


日常、それはお話

 さてさて、時は行き過ぎ昼頃。私はある場所に来ていた。

 北西のメインストリート、【ディアン・ケヒトファミリア】所有の治療院。

 今日は、回復薬(ポーション)切れたので、調達をしに来た。

 回復薬(ポーション)の価格的には【ミアハ・ファミリア】などで買ったほうが良いが、ここの回復薬(ポーション)類は品質がとても良い。値段はそれなりだが、問題ないくらいの価格だ。

 まぁ、来る理由はもう一つあるんだけどね。

 入り口であるドアを動かすと、『チリン』と鈴が鳴り、それが合図となる。

 ここの治療院は、行くカウンターによって用件が決められている。

 入り口から見て、手前にある白樺のカウンターでは回復薬(ポーション)などのダンジョンで使える物の購入。その一つ奥、カーリーメープルのカウンターでは治療・診察の依頼。一番奥にあるマンガシノロのカウンターでは、診察後の薬の受け取り。と言った感じだ。

 一つのカウンターに就くのは一人。他二つは決まっていないが、白樺のカウンターでは九割方()()()()()()がいる。此処に何度も訪れていると自然と顔見知りになれる為、それ目的で来る不純な輩もいるらしい。まぁ、それ目的で来なくとも自然と顔見知りになれたが。 

 

「こんにちは、アミッドさん」

 

「あら、久しぶりですね()()()。何が欲しいですか?」 

 

「今日は高等回復薬(ハイ・ポーション)が三本、解毒薬が一本です」

 

「かしこまりました」

 

 さて、アミッドさんが用意をしている間に、アミッドさんを紹介しよう。

  アミッド・テアサナーレ 性別:女性 種族:エルフ 二つ名【戦場の聖女(デア・セイント)】 

 特徴は白銀の長髪の美少女。そして、高位治癒魔法の使い手。

 頭がよく、優しい気性。だが商売や交渉が関わると、かなり腹黒くなる。

 巷でもかなり有名で、一応実力者でもある。

 エルフではあるが、別に過度な潔癖症はない。

 友達はいるらしいが、ほとんどがダンジョンに潜っている所為で、基本一人になってしまい、休日などはかなり寂しい思いをしているそうだ。

 

 と、こんな感じだ。

 丁度よく()()()細い瓶が、白樺のカウンターに置かれる。…五本?

 

「あの、アミッドさん?一本多くないですか?」

 

「サービスですよ。この分の代金はいりませんから、計6万2000ヴァリスです」

 

 あと、言い忘れたが、稀にこういうことをしてくれる。ありがたいが申し訳ない。

 まぁ、これの対抗策として、小袋にちょっと多めにお金をいれて渡すのだが…

 

「シオン、少し多いですよ」

 

 毎回ばれる。当たり前だが、それでも受け取ってくれよ…

 

「因みに、サービスの一本は、何の薬なんですか?」

 

「私が作った万能薬(エクリサー)です。品質は保証します」

 

「いやいやいや、保証してる物サービスで渡しちゃダメすよね…さらに言うと、サービスとして50万近くする万能薬(エクリサー)を渡すのは商売的に大丈夫なんですか…」

 

「問題ありません。作成過程で少しミスをしてしまって、効果が少し落ちた物ですから」

 

「それでもアミッドさんが作れば20万くらいの価値はありますよね…受け取れませんよ…」

 

 アミッドさんは、オラリオでも神を除いて、指折りの薬師である。その為調合アビリティも高く、少し間違えた程度では、最上級が普通になるだけだ。

 

「私からの優しさなんですけどね…仕方ありませんね。条件を出せば受け取っていただけますか?」

 

「えぇ、できればそれ相応も条件でお願いします」

 

「わかりました。では、お話し相手をお願いできますか?」

 

 はは、安定ですねアミッドさん。寂しんですよね?

 

「お願いではなく条件でしょう…不相応ですが…それでいいなら」

 

「ありがとうございます。誰も私とお話してくれなくて、寂しかったんです」

 

「やっぱりそうなんですね…」

 

 そういえば、アミッドさんはファミリア内で崇拝されてた…神よりも…

 その所為か、ファミリアの誰かがアミッドさんに実務以外で話しかけると、後で報復が来るらしい。恐ろしや…

 あ、私が報復を受けない理由は、少し前に報復に来たやつらを、ボコボコにしてやったからである。  

  

 

   * * *

 

 場所は何故か移り、アミッドさんの私室。話すならカウンターでも良くね?

【ディアン・ケヒトファミリア】治療院では、ファミリア上位の団員に、こうやって私室を与えているそうだ。

 私室のある場所は、関係者以外立ち入り禁止と書かれている札を通り越したところにあり、私が入ろうとすると、団員の人たちからは奇異の目で見られたが、アミッドさんを見ると、向けられるのが奇異から殺意に早変わりする。実にわかりやすい。

 豆知識だが、アミッドさんの私室はファミリア内で聖域とさている。

 アミッドさんの私室は本と何やら薬の材料らしき物が多い。かなりの量だが、それがしっかり纏められ、整理されている。

 部屋の中央には背もたれ付きの椅子と円状のテーブル。アミッドさん曰く、自分を除いて、片手の指で数えられるほどの人しか使ってないそうだ。因みに私がここに来たのは初めてである。

 

「そこに腰を掛けていて。紅茶を用意しますから」

 

「手伝いましょうか?」

 

「大丈夫ですよ。一応シオンは立場的にはお客様なんですから」

 

 まぁ、人の厚意を無下にするわけにもいかんし、従っておく。

 黙々と作業を進めていくアミッドさん。それと共に部屋の中には特徴的な強い香りが充満する。その香りは心が落ち着くような、甘い香り。とても良い匂いだ。

 目下のテーブルにソーサーが置かれ、その上に、紅茶の入ったカップが置かれる。

 

「ダージリンのストレートよ」

 

 ダージリンって確か紅茶の茶葉の中でもかなり高いやつじゃなかったっけ?それを出してくれるって…本当に心優し人だ。

 

「ありがとうございます」

 

「少し飲んでもらえないかしら。シオンの好みを知っておきたいわ」

 

「では、遠慮なく」

 

 と言っても、好みも何も、紅茶は全然飲んだことが無いため、品種くらいしか知らない。飲んだことが無いのに知っているのはおかしいと思うが、見ていたら憶えてしまっだけだ。

 とりあえず、一口。

 

「どうかしら?」

 

「とても美味しいです」

 

 口の中に広がる深く、柔らかい味。少量の砂糖でも入れたのか、仄かな甘み。抵抗することなく喉へと運ばれ、すぐになくなってしまったが、美味しい、とだけは断定して言えた。

 

「ふふ、ありがとう。じゃあ、お話でもしましょうか」

 

「そういえばそうですね。何か話題でもありますか?」

 

「そうですね……いつも通り世間話から入りましょうか」

 

「いいですね。それで大体広がっていきますから」

 

―――――――

 

「アイズが来たんですか?」

  

「ええ。長期の探索に行かれるのだとか」

 

「そうですか……明日は無理そうですかね…」

 

「無理そうとは?」

 

「なんでもありませんよ」

 

―――――――

 

「初めて会った時から思っていたんですが、シオンはアイズに似てますよね」 

 

「どのあたりがですが?」

 

「性格はそれほど似てないんですが、顔立ちや、無茶をするところや、剣技が凄いところが似てますね」

 

「顔立ちや剣技は主観にすぎませんが、私って無茶してます?」

 

「世間一般ではそういいます。Lv.1のソロで中層に潜るところとかは」

 

「私にとっては無茶ではないんですがね…」

 

―――――――

 

「換金できないドロップアイテム?」

 

「はい。ギルドの換金所で『価値がわからないから、換金できないと言われました」

 

「そのドロップアイテムはどういう物なのかしら?」

 

「『変異種』の、多分シルバーバックが落とした、皮です」

 

「Lv.1で『変異種』に会い、討伐したんですか…運が良いのか悪いのか測りかねますね…」

 

―――――――

 

「その刀、やはり一級品ですよね」

 

「一度使い物にならなくなった二級品を直すついでに一級品にしてもらいました。これを直したのはとても腕の立つ刀鍛冶ですよ」

 

「そうなんですか…その刀、少し抜いてみてもいいですか?」

 

「あはは、やめておいた方がいいですよ。下手すれば触るだけで死にますから」

 

「凄い危険な物を持ち歩いてるのね…」

 

―――――――

 

「今日はこのあたりにしておきましょうか。良い時間を過ごせました。ありがとうございます」

 

「お礼を言うのは見当違いですよ。これは条件なんですから。まぁ、条件が無くても、暇な時などにまた話し相手に来ますよ」

 

「ふふ、シオンは優しいですよね」

 

「いえいえ、言ってしまえばただの暇つぶしですよ」

 

「それでも、シオンと話せるのは楽しいですよ。では、また今度」

 

「ええ、また今度」

 

 

   * * *

 

 治療院を出ると、陽光は既に途絶え、雲一つ無い空から下りて来る月光が、街に活気をもたらしていた。

 外の喧騒は相変わらず()むことを知らず、昼とは一風変わった賑やかさをもたらしてくれる。

 

 現在時刻は六時過ぎ、ベルとヘスティア様のデートはもう始まっている頃だ。二人にとっては残念なことに失敗するだろうが。

 ヘスティア様は三大処女神の内の一人。今まで男っ気何て無かったのだ。そんなヘスティア様がデートとなったら娯楽に飢えた神共が集まって来るに違いない。

 可哀相のな()だ。せっかくのチャンスを他の馬鹿()に邪魔されるとは。

 まぁ、考え無しに行動したヘスティア様が悪いか。

 

 そんなことを考えながら裏道を通り、ホームへと向かう。ホーム周辺の地図は既に憶えているため、迷うことなどない。

 まぁそんなわけで、すぐに着いてしまうホーム。勿論、誰もいない。

 普段は賑やかなことが当たり前の場所が静寂に包まれているというのは、多少の空虚さを感じてしまう。

 ()()()()()、だが。 

 いつも通り、生活の規則(ルーティーン)をこなす。私の行うことは、全て一人でできることだ。誰かが居ないとできない、なんてことは起きない。 

 その証拠に、二時間もすれば今日やることは全て終わってしまった。ベルたちは帰って来てない。

 別に、待たなくてもいいだろう。ベルだってもう子供じゃない。

 そんなわけで、いつもお世話になっている壁に寄りかかり、ゆっくりと目を閉じた。

  

 

 

 

 

 




 今回、独自設定はいってますよ。
 アミッドの種族を私が知らないため、魔法を使える。高位治癒術を使えて、美少女、と言うところから、エルフ、と勝手に決めました。後腹黒も。

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