やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 エセ関西弁ってこんな感じかな?

では、どうぞ


日常、それは知らせ

 どうも~。あの後三時間ほど本気で説教して、ベルをガチ泣きさせた所為で、ヘスティア様から神威付きの説教で報復されたが、良いトレーニングになったとしか思っていない私だ。

 いや~、あれは中々辛かった。全身から力が抜けそうになるし、耐え抜こうとして、そっちに気力を回した所為で、呪いが身体に入ってきたし。危うく吸血鬼になるところだった。

 それで、今は豊饒の女主人の中。魔導書(グリモア)を読んだことが結局ベルとヘスティア様にばれてしまって、一悶着あったのだが、何故だろうか。私が責められた。うん、理不尽だよね完全に。

 と言うことで、謝りに来ている。何故か私まで、ね。 

 

「ベルさん…」

 

 シルさんが、申し訳ないと言わんばかりの視線をベルに送る。故意に渡して申し訳なく思うってかなり変だからね?それとも自覚ないのかな?

 そんな中、ボンッと、何か重い物が落ちる音が聞こえた。音の方向にはゴミ箱、その中には白紙で厚く重いだけの本。

 

「忘れな」

 

「はい?」

 

「読んじまったもんは仕方ない。置いてったやつが悪いんだ。気にすんじゃないよ」

 

「で、でも…」

 

「ベル、女将さんが言ってることは一応正しいですよ。もしかすると、自分が使えなくて、態と、置いていったのかもしれないのですから。まぁ、こんな高価な物なら、普通の()はしないと思いますが」

 

 あえて人を強調してみたが、反応したのは数名か……ここは【フレイヤ・ファミリア】に関わりのある人が多いのかな?

 

「……わかった。納得いかないけどわかった」

 

「よろしい。では、帰りましょうか。この後は【ミアハ・ファミリア】ですよね」

 

「うん、けど、ホームに装備を取りに行ってからね」

 

 

   * * *

 

「あ、ベル、シオン。久しぶり」

 

只今、【ミアハ・ファミリア】ホーム。【青の薬舗】。私は付き添いと、遅くなったが、ミアハ様へのお礼を言いに来ている。

 ついでに紹介しよう。カウンター席に座っている人は、ナァーザ・エリス。犬人(シアン・スロープ)の女性だ。現在の【ミアハ・ファミリア】ただ一人の団員でLv.2であり、頑張ってお金を稼ごうとしている。その理由はまだ知らないが、恐らく、右腕が関係あるのだろう。隠しているようだが、明らかにあれは義腕だ。かなり高い。【ミアハ・ファミリア】が現在貧困なのも、それが原因ではないだろうか。

 

「ナァーザさん。お久しぶりです。今日は回復薬(ポーション)と…精神回復薬(マジック・ポーション)?だっけ?それを買いに来ました」

 

「もしかしてベル、魔法が使えるようになったの?」

 

「はい!」

 

「よかったね。じゃあ用意するから少し待って」

 

「わかりました」

 

「ナァーザさん。ミアハ様は、何処に?」

 

「今日は私用で夕方まで帰ってこない。今日は私一人だけ…」 

 

 じゃあ今日はお礼言えないのか…残念だ。

 

「ナァーザさん。ミアハ様が戻られたら、『薬、有り難うございました』と伝えていただけませんか?」

 

「うん。わかった。はい、用意できたよ。全部で8700ヴァリス」

 

 その額を聞くと、ベルは一歩距離を取る。拒否を体現したのだろう。

 それに対し、ナァーザさんはイヌミミを垂らすことで、残念さを表現した。無意識的だろうけど。そして、カウンター下の棚から、二本の試験官を取り出す。

 

「これを8700ヴァリスで引き取ってくれたら、この二つの回復薬(ポーション)も合わせて9000ヴァリスで売ってあげる……どう?」

 

 おっと?それは詐欺じゃないか?取り出した回復薬(ポーション)は多分純度が他より低いし、効果も薄そうな割には高いし、うん、これはちょっと見過ごせないかな。

 

「じゃ、じゃぁ…」

 

「ナァーザさん。少し、回復薬(ポーション)の確認をしていいですか?」

 

「……どうして?」

 

「いえいえ、別に品質を疑っているわけではありませんよ。ただ、この回復薬(ポーション)が正当な価値になっているかと言うのをが気になったので。あ、もしかして、確認されたら不味いことでもありましたか?」

 

「……いいよ。はい」

 

 そう言って渡されたのは一本の純度の高そうな回復薬(ポーション)。あくどいな…

 まぁ、その作戦に乗ってやる必要も無いので、あえて、カウンターの上から取ったが、ナァーザさん。女性が舌打ちするものではありませんよ?

 取った試験官の蓋を外し、まずはにおいを嗅ぐ。別段臭いわけでは無く、どちらかと言えばいい匂いだ。溶液は、色が薄い。純度が低いのだ。これでは効果が著しく低下する。

 値段をつけるなら、頑張っても200ヴァリス。それくらいが正当な価格か。

 

「ベル、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】の方が全然いいですね。そちらに行って勝ったほうがお得です」

 

「ぐぬぬ………わかった。追加二本で8500ヴァリス」

 

「可笑しいですね~そんな高いわけがないんですがね~4000ヴァリス」

 

「これとこれを入れ替えて、8000ヴァリス」

 

「あ、少しは良くなりましたね。5500ヴァリス」

 

「………8600ヴァリス。これ以上は無理」

 

「おや?こんなところに純度の低そうな回復薬(ポーション)が。そして、あっちには純度が普通の回復薬(ポーション)が。では、これとあれを交換して6200ヴァリス」

 

「うぅぅぅぅ………わかった……」

 

 大幅値引き完了。詐欺されずに済んだ~

 

「ありがとうございます。ベル、お金はありますね?」

 

「う、うん。でもさ、ちょっとやり過ぎじゃない?流石に引いたよ?」

 

 あれ?普通にやっただけなんだが…あ、価値観のズレと言うやつか。

 

「いいんですよ、相手方も納得したんですから。してなかったらお店を変えるだけですけど」

 

「かなり残酷なことするね…」

 

 

   * * *

 

 あの後、ベルはダンジョンへ向かうため、私とは別行動となった。

 ベルは、まだリリとの契約期間が続いているため、一緒にダンジョンに潜っている。多分、リリに警告したから問題ないと思うが、明日辺りにでもこっそり様子を窺いにストーキングしますか。

 ……ストーキングを然も当たり前かのように言う私ってどうなんだろ…

 まぁそんな私の人間性などどうでも良いのだ。

 それより今は、何か面白いネタが欲しいのだ。 

 事件が起こったり、【猛者】が襲ってきたリ、誰かとばったり会ったり… 

 とにかく、何でもいいから、暇をつぶせるようなことが起きてほしいのだ。

 なんか、こういうことを言ってると、そこらの娯楽大好きな神共と変わらん気がするのだが……気にしないことにしよう。

 ぶらぶら町を散策。オラリオは、豊富な店舗数と屋台によって、歩くだけでも、気づいたら色々な物に目が行って、時間を十分に潰せるのだ。まぁ、基本屋根の上を歩いている所為で、店の中とかは、見えにくいが。

 だが、屋根の上はいい。誰かにぶつかることもないし、通行人事態がいないため、気を使う必要もない。あと、道と比べて涼しい。人口密度の理由もあるだろうが、此方は風がよく当たるのだ。

 と、何やら珍しい顔ぶれがあるな。

 

【ロキ・ファミリア】主神、神ロキ。

九魔女(ナインヘル)】リヴェリア・リヨス・アルーヴ。

 ギルド職員兼冒険者アドバイザー、エイナ・チュール。  

 

 なんか面白そうだな。話しかけてみるか?いや、そうなると神ロキが邪魔だな……別にいいか。

 ひょいっと、屋根から飛び降りて、お三方の進行方向を塞ぐ形で着地する。

 

「な、なんや!」

 

「慌てなくていいですよ。こんにちは、皆さん」

 

「ん?君は確か、シオン・クラネルだったか」

 

「シオン君?どうしてここに?と言うより今どうやって来たの?」

 

「普通に屋根の上から跳んできただけですよ」

 

「それって普通じゃないよね…」

 

 マジで?いや、極当たり前のように今までやってたんだけど…。 

 

「それで、何をしに来たんだ?ただ用も無くそこに立っているわけではないだろう」

 

「はい。まぁ、面白そうだったので話しかけてみただけですが」

 

「君は神と同じような考え方を有しているのだな…」

 

 いや、ほとんど否定できないけど、神と同じはなんか嫌だな…

 

「なんや、シオンたんか、あ、せやせや。シオンたん、うちのファミリア入らんか?」

 

 たんってなんだよたんって。愛称か?気持ち悪いな…

 

「魅力的な提案ですが、前向きに検討すると言う形で現状維持させていただきます」

 

「お、これは中々いい返事、期待できそうやな~」

 

 だって、暗黙のルールとして、同じファミリア同士じゃないと結婚でき無いし。

 

「んで、面白そうなことなんてないんやけど、どうする?リヴェリア」

 

「そうだな、このまま客人としてシオンも黄昏の館に招待するか?」

 

「せやな、シオンたんにはいろいろ聞きたいことがあるしな~」

 

 ありゃ?なんか話が勝手に進んでるぞ?

 

「シオンたん、暇なんやろ?ついてきぃや。うちらのホームに招待したるわ。エイナちゃんと一緒にな」

 

 なんかわからんが、どうやらホームに招待されたらしい。

 

 アイズに会えるかな…

 

 

   * * *

 

 黄昏の館門前。ビリッと体に電気が走るような感覚を覚える。どうやらアイズはいるようだ。

 

―――ひそかにガッツポーズ。  

 

 門に居たのは、先日と同じでアキさんと男性のヒューマン。

 アキさんと知り合いのことにリヴェリアさん――本人からそう呼べと言われ、神ロキからは、ママとかお母さんと呼ぶといいと言われた――達が驚いた様子を見せたが、何も言ってはこなかった。

 正門を通り、ホームの扉を神ロキが開けようとすると、同時に内側から扉が開けられ、ゴツンッと鈍い音を鳴らす。それをしたのは、小首傾げる美少女。アイズだった。

 

「アイズたんひどいで~」

 

「ごめん、ロキ。シオン、こんにちは。おかえりなさい、リヴェリア」

 

「ああ、ただいま、アイズ」

 

「こんにちはアイズ、やっぱり気づいたんですね」

 

 その問いに首肯でアイズは答えた。他の面々の頭の上に、クエスチョンマークが浮かんでいるのは仕方のないことだろう。

 

「シオン、その人は…誰?」

 

 そう言いながら指し示したのはエイナさん。あれ?知り合いじゃなかったんだ。

 

「あ……わ。私はっ」

 

「この人は、エイナ・チュール。ギルド職員兼冒険者アドバイザーであり、ベルの担当職員でもあります」

 

 『ベル』と言った瞬間、落ち込んだ表情を見せたアイズ。やっぱり膝枕のこと落ち込んでるのか…あとでベルに説教追加だな。

 

「初めまして、アイズ・ヴァレンシュタインです」

 

「は、初めましてっ。エイナ・チュールですっ、以後お見知りおきを…」

 

 

 

 その後は何故かアイズに案内され、応接間らしき場所に着いた。

 紅茶などもアイズが用意しようとしていたが、リヴェリアさんに止められ、渋々ながらも引き下がっていた。その時の頬を膨らました顔は、絶対忘れない。カワイカッタ…

 

「さて、なんか聞きたいことがあるんやなかったか?」

 

 と、着いて早々、神酒(ソーマ)をグラスに分け、一気に呷った神ロキは、エイナさんが来た目的を話すよう求めた。

 

「はい。【ソーマ・ファミリア】についてです、神ロキ」

 

 あれ?エイナさん【ソーマ・ファミリア】について聞きたかったの?なんで?

 …あれか、リリだな。心配性だね~相変わらず。

 

「なんや、ソーマか。いいで、どんなこと聞きたい?」

 

「そうですね……では、【ソーマ・ファミリア】を取り巻く異常性について、なぜそうなったか教えて頂けますか?」

 

「おっけー。んじゃ、話す前に、これ飲んでみぃ」

 

 エイナさんに差し出されたのは、芳醇な香りを放つ、神酒(ソーマ)。の失敗作。

 少し躊躇した様子を見せたが、普通に飲んだ。エルフの人でもお酒って普通に飲むんだ…あ、エイナさんはハーフエルフか。

 でも、美味しそうだな~。ちょっと飲んでみたいかも…

 

「何や、シオンたんも飲みたそうな顔しとるな。ええで、飲みぃ」

 

 どうやら、私の心情を読まれたらしく、神酒(ソーマ)を入れたグラスを、机の上で滑らせて渡してきた。それを持って一気に呷る。

 

「美味しニャ~」

 

 口の中に広がるのは、香りと味が見事に混ざった、今まで感じたことのない味。これは一杯で出来上がるレベル。本物も飲んでみたいな…

 

「それを飲んで美味いって言える人、久しぶりに見たわ。てか、ニャってなんや?」

 

 おっと、また出てしまった。酔うと何故か口調が変わっちゃうんだよ…

 

「お気にニャさらず~」

 

「かわいい…」

 

 そんな小声がアイズから聞こえた。アイズ、嬉しいけど男にかわいいとか言っちゃだめだよ?傷つく人だっているんだけらね?

 

「いや、気になるから。まぁええけど、で、エイナちゃんはどや?」

 

「……………」

 

「エイナちゃ~ん」

 

「……はッ。……申し訳ございません。心ここにあらずの状態になってました…」

 

 え?確かに美味しいけどそれほどじゃないよね?

 

「やっぱりこれが普通の反応やな」

 

 え?これが普通なの?やばいな神酒(ソーマ)。そうならない私はやっぱり異常。

 

「続けるで。これが面白いとこなんやけど、今飲んだ神酒(ソーマ)は失敗作なんやって」

 

「え……と言うことは、完成品があると…」

 

「せやで、シオンたんが全く驚かないのがつまらんけど」

 

 いやだって知ってたし。後、面白味を私に求めないでね?

 

「【ソーマ・ファミリア】の異常性。ありゃ完成品の神酒(ソーマ)によるもんや」

 

「……それは、どういう…」

 

「エイナちゃんが言う異常性って、例えば金に執着してる、とかやろ?」

 

「はい。その通りです」

 

「なんでそんなに執着するかっちゅうと、神酒(ソーマ)が欲しいからや」

 

 説明不足じゃないか?もう少し詳しく言ってやれよ。

 

「【ソーマ・ファミリア】では、調達資金の成績上位者に、神酒(ソーマ)を配っとるんよ。完成品のな」

 

「それが、どうして…」

 

「【ソーマ・ファミリア】では、入団の儀として、完成品の神酒(ソーマ)を飲ませるんや。あれはヤバイで、心の底から酔える。文字通りの心酔しちまうんや。一酌、いや、一滴飲んだら忘れられず、また求める。そして、もらえる手段があるから……ちゅうことや」

 

 まぁ、もう一つの理由もあるんだけどね。エイナさんが知りたいのは()()()じゃないと思うけど、直接関係あるのは()()なんだよな~。

  

「つまり、あそこの子が崇拝してるのは、(ソーマ)やなく神酒(ソーマ)。求めてるのは作成者(ソーマ)であって神酒(ソーマ)。意味、わかるか?」

 

「…………」

 

 流石に、エイナさんは理解できないかな?誠実だから、仕方がないか。

 

「まだ聞きたいことはあるか?」

 

「いえ、もう大丈夫です。本当にありがとうございました」

 

「気にせんでええ。うちも美人で可愛いエイナちゃんと話せてよかったわ」

 

 話が終わり、のっそりと立ち上がる神ロキ。そして、ゆったりとした足取りで、此方に向かってきたかと思えば、目的は隣に座っているアイズだった。

 

「ほれ、アイズたん。気分転換に【ステイタス】更新でもしよか」

 

「わかりました…」

 

「シオンたんもついて来るか?アイズたんの裸が…やっぱダメや」

 

 チッ、見たかったのに…ケチだなこの神。

 

「いこか、アイズたん。あ、手元が狂って体触っちゃうかもしれへんが許してな~」

 

「変なことしたら斬りますよ」

 

「まじでぇ⁉」

 

「またね、シオン」

 

「またニャ~」

 

 と、そんな会話をしながら、応接間を後にする二人。残念ながら私はついて行ってはいけないらしい。 

 

「シオン君。ヴァレンシュタイン氏と仲いいんだね」

 

 そして、応接間の扉が閉まると同時に、エイナさんがそんなことを聞いて来た。

 

「少し縁があるだけニャ~」

 

「縁?シオン君ってヴァレンシュタイン氏の姉弟か何かだったの?」

 

「違うぞエイナ。シオンは昔、アイズに助けられているんだ」

 

 ありゃ?知ってたんだ。

 

「え?でもシオン君はオラリオの外から…」

 

「オラリオの外に出たときに、偶々な。昔とは随分印象が変わっているがな」

 

 昔との。印象?

 

「ちょっと待つニャ。ニャんで昔の…」

 

「アイズたんLv.6キタァァァァァァァァァァァァァァァァァッァァァ!!」

 

 私の質問を遮ったのは、とても良い知らせを叫ぶ声だった。

 

 ……あとエイナさん。口の中に入れた物を噴き出さないでください。

 

 

 

 




 途中で区切れず長くなってしまった…

 あと、念のために警告タグ追加しました。

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