戦闘描写って難しすぎない?
では、どうぞ
「アスフィさん、どうします?」
「応戦しましょう。こちらとしても彼等がここで何をしているのか、聞き出さなくてはいけませんから……ね」
「では、一人残せばいいですね」
「は?貴方は何を言って」
私は、アスフィさんの言葉を背に、向かってくる敵に突っ込む。
相手は遅い。何か策がある訳でも無く、ただ愚直に突っ込んで来るだけで技術もない。
ただ雑魚が集まっただけの集団。
「殺せ!!」
「無理ですよ」
得物を振り上げ、叫びながら突っ込んで来る者を、斬り付ける。
――――はずだった。
斬り付けること自体は簡単だっただろう。でも、できなかった。
相手のローブの隙間から見えた、紅玉。
あれは『火炎石』。深層域から入手できるドロップアイテム。下手に衝撃を与えたり、発火したら、爆発を起こす。しかも、相手はそれを最低でも三つは身に着けていた。
さっき『紅蓮』で斬っていたら巻き込まれていただろう。
「危なかったですね……」
「本当です!なんでいきなり突っ込んでるんですか!」
「おっとアスフィさん、すみません。でも、情報は手に入りましたよ。ローブの奴等は『死兵』です」
「な……それは本当なんですか」
「恐らく、そうでないと『火炎石』を身に着ける人は想像がつかないので」
「『火炎石』、ですか。下手に攻撃できませんね」
「アスフィさん、敵から情報を引き出すことは諦めますか?その方が楽なんですが」
「いえ、情報は引き出します。爆発させずに気絶させればいいでしょう?」
「簡単に言いますけど、気絶する前の最後の力を振り絞って自爆、ということも考えてくださいよ」
「そんなヘマ、貴方はしないでしょう?」
「随分と信用されましたね、では行ってきます」
「援護します」
『紅蓮』を納刀し、『雪斬繚乱』を抜き放つ。
今度は三人同時に襲ってきた。少しは考えたらしい。
でも、甘い。
左右の二人、そいつらの首を飛ばす。
飛び上がっていた正面の一人、跳躍して、そいつの後ろに回り込み、峰で頸椎を打つ。
自由落下の途中、ローブを斬り裂き、露わになった『火炎石』を斬り外した。
武器も手放し、気絶して無力となったそいつを、回し蹴りでアスフィさんの元まで飛ばしておく。
これで条件クリア。後は何も考えずに殺すだけだ。
追加で『紅蓮』を抜く。二刀流となった私は、またもや無双状態に入った。
やって来る敵を、今度はただ殺してゆく。
個体の敵は、首を落とし、集団の敵は、『紅蓮』の炎で『火炎石』に引火させ、爆死させる。連鎖爆発を周りにも起こさせるため、効果は凄まじい。
「……っ、何なんだあいつはっ」
「相棒、
「あぁ、
男がそう発した、次の瞬間、一斉に
沈黙していたものは動き出し、閉じ込められていたものは、黒檻を破壊して飛び出し、川のように蛇行して、ある一点へと向かった。
「面倒な」
それに対し、彼の反応はただそれだけ。焦ることも、取り乱す事も無い。
「シオン!後退しなさい!」
「必要ないです」
命令も、従う必要のないものは従わない。
まだ爆発していない『火炎石』を拾い上げ、大群の中心へと投げる。
『紅蓮』に風を纏わせ、炎を伸ばし、ある一点を狙い、振るった。
炎が向かうのは、落下していく、纏め上げられた『火炎石』。
炎剣はそれに当たり、引火させ、大爆発を引き起こした。
爆発は食人花達を瞬く間に呑み込み、滅却していく。
後に残ったのは、数体の瀕死の食人花と、所々に灯る炎だった。
一時後退し、情報の確認を行う。
「ルルネさん、相手の所属ファミリアは?」
「ゴメン、分かんなかった…」
「何故?死んでも屍体があれば、『
「違うんだよ!こいつ、【ステイタス】を見せないために、薬を仕込んでやがったんだ」
「それはどんな?」
「効果は、体を腐らせる。その所為で、もうこいつ、骨になってやがる」
「さっきから臭っていた腐敗臭は、そいつのでしたか。なんという徹底ぶりでしょうかね」
どれだけの徹底ぶりかは、白骨死体をみればわかる。それは、先端の方から浸食を続け、次第に小さくなっていくのだ。骨まで残さないとは、中々の残虐さである。完全に捨て駒扱いだ。
「シオン、どうしますか」
「そうですね……あそこにいる人たちを捕らえる、または殺して宝玉を奪取します。私はあの宝玉に近づくことが出来ませんから、ルルネさんにお願いしましょう。アスフィさん、突っ込めますか?」
「可能です、敵は粗方貴方が消し飛ばしてくれましたから」
「わかりました」
少し会話をして作戦を立てると、私とアスフィさんは、仮面の二人組に目を向けた。
そして、突っ込む。
死兵でないことは、装備を見れば明白だ。なら、普通に戦えばいい。
アスフィさんは白仮面、私は黒仮面を狙う
先に懐へ飛び込めたのは、私だ。【ステイタス】におぞましい程補正を掛けているため、身体能力だけでも既にLv.4は超している。
黒仮面の人物は、無手で動こうとしなかった。だが、その立ち姿に隙は無い。
右手に持つ『紅蓮』で、首を狙い斬り込んだ。
相手はそれを最小限の動きで躱してくる。
黒仮面の人物の動きは、戦い慣れていた人のもの。それも、対人戦闘の。
追撃、『雪斬繚乱』での逆袈裟。またもや体を傾けて、紙一重で避けられる。
そこから、連撃を続けるも、全て避けられていく。
だが、ずっと同じようなことを続けるほど、私は愚かではない。
『紅蓮』を突き出し、避けさせる。体勢は予想通り傾けられている。
相手の重心目掛けて、『雪斬繚乱』で突く。それも避けられた。
だが、想定内。避けられたと言っても、今までで一番大きな隙ができている。
その瞬間を、『紅蓮』で斬り込む。だが、炎剣は肉を焼き斬ることは無かった。
『紅蓮』を止めたのは、相手の
相対距離約5M、睨み合いなんて感情のぶつかり合いは無い。ただ冷酷な、殺す、と言う殺意を向けているだけ。
「やはり、お前は殺しておかなければな」
そんな中、黒仮面の人物が言葉を発した。それは、男声であり、低いがよく聞こえる声。
「それは困りますね、私は死にたくありません」
それを軽口で返す。そういえば、何の情報も得られてないのだから、情報収集が可能ならば、なるべく集めておきたい。……簡単に殺せなくなったな。
「お前の心情などどうでもいい。危険因子を消したいだけだ」
「おや?私のことを『危険』と言えるのですね」
相手に危機意識を持たせないのは得意だったのだが、どうやら、この人には適応されないようだ。
「一つ、聞かせてもらえないだろうか」
ありゃ?敵からお願いされるなんて、珍しい。
「お前の名は、何と言う」
「それを言う意味が何処に?あと、相手の名を知りたければ、自分から名乗るのが礼儀ですよ」
「それもそうだな。だが、俺にはもう名が無い。一度
名を失う?意味不明なこと言うな。【ステイタス】に真名が刻まれてんだろ。
「だが、そうだな……
かなり悲しい花が好きなんだな。花言葉の中に『滅亡』なんてものがあったぞ。
「名乗られたら、私も名乗らなくてはなりませんね。私はシオン。シオン・クラネルと言います。憶えなくてもいいですよ。どうせ、憶えた意味がありませんから」
「いや、私は殺した人の名を一人一人憶えているのでな。全員
「なら、よっぽど意味がないですね。私は殺されませんよ」
「ふっ、そうか」
「さて、そろそろ再開しましょうか。貴方の名前通りにしてあげますよ」
「やれるものならな」
そして、一進一退の攻防戦が始まった。
結局、情報は得られなかったと同然だが、情報を得るために、手加減することはできないらしい。
相手は二刀、此方は持つは五刀、使うは二刀。
攻撃の速さは今は互角、鋭さは私が有利、重さは相手が有利。
両者とも、攻撃は躱されるか受け流される。
止まることを知らない剣戟は、今も尚苛烈さを増し続けるが、掠りすらしない。
二人の間に声はない。声を発してできるわずかな隙すら、この二人は逃すことを知らない。
超高速近接戦闘。今行われているのは、それの見本のようなものだった。
超高速、などと言っているが、振られる刀は亜光速のレベルまで引き上がり、振っている者すら、眼で追うことは容易ではない。
重さを乗せた刀は受け流され、隙を作るのに利用される。あえて隙を作り出し、誘い込もうとするも、それに乗る程の馬鹿は、この戦いで立っていられない。
だが、その戦いにも、変化は生まれる。
片方が大きくギアを上げたのだ。
もう片方も、一刹那遅れてギアを上げる。
だが、その一刹那で十分だった。
光速で振られる刀は、視認なんてできない。ましてや、反応なんて追い付かない。
一刹那遅れた彼は、両の腕を半ばで斬り離され、後退を強いられた。
斬った男は追撃を試みるも、飛んできた、
その小瓶が飛んできた方向では、斬った男の
「シオン!アスフィ!」
半ばまで腕を無くした彼と、短剣を引き抜かれ、倒れた彼女の名が呼ばれた。
その二人は返事を返すことが出来ない。それほどの余裕がないのだ。
ゴトゴト、と何かが落とされる音がした。
その方向では、腕を斬られた彼が、帯刀していた刀をすべて落とし、しゃがみこんで、ある一本の刀を銜えようとしている。
よくあの状態で動けるものだ、と
彼が刀を銜え、立ち上がった。あの状態では、碌に戦うことはできないはずだ。なのに、彼から闘志が薄れることはなく、殺意が途切れることなく押し寄せて来る。
ふと、彼の口角が上がったのを見た。笑っているのだ。
そして彼は、自身の腕を斬り離した相手を、真正面から見つめ、気配を豹変させた。
同時に、何かが燃えたような音がする。それは斬り離された腕。
焦げた臭いが漂う中、黒仮面の男は見た。
彼の体が、変わっていくのを。
脚、胴体、顔、全身の筋肉が蠢き、浮き上がり、縮む。
髪の色が眩しい色から暗い色へ。右眼の色も、明るい色から暗い色へ。
数秒経つと、もう変化を終えていた。
身長は縮み、筋肉の付き方も変わり、容姿、髪色、体つき、全てが変わっていた。
斬ったはずの腕が、そこにはあり、戦える状態となっている。
豹変した気配も普通ではない。
それより気になったのが、
男が、彼女から目が離せない中。洞窟内に、大轟音が響いた。
その大轟音の原因は、男の元までやってきて、回避を行う。
だが、それは男にとって最悪手だった。
男は飛んできた火矢を切り落とせばよかったのだ。だが、男は反射的に避けていた。その際に、彼女から目を離してしまったのだ。
男も自身の失態に気づき、彼女がいるはずの場所を見たが、もうそこには何もない。
だが、代わりとばかりに、背後から尋常じゃない程冷酷な、『死』というものを感じた。
男は、体を倒しながら反転し、
ギンッ、と音が鳴り、防ぐことはできた。それは奇跡に近い。
その衝撃は凄まじいものだった。受け流す余裕なんて無く、無慈悲に吹き飛ばされる。
男は思った、次に彼女を見失えば、本当に、死ぬ、と。
そして、今の自分では、歯が立たないことを。
「あまり使いたくなかったのだが、やむ負えん」
男は彼女から目を離さず、腰へと手を伸ばし、極彩色に光る塊を取り出した。
男はそれを口へと運び、
口に含んだそれを呑み込み、また齧って呑み込む。
持っていたそれが無くなると、吹き飛ばされたことによってできた傷は、完治していた。
即座に立ち上がり、構えをとる。相手も既に構えていて、二人の間に、先程とは比べものにならない程の殺気や闘志が交わされていた。
合図がある訳でも無い、なのに二人は同時に動き出す。
そこから始まった戦闘。それは、もう視認できるものなどいない、超光速戦闘。
人間ではそんなことはできない。だが、この二人にはできた。
この二人は、既に、人間では無かったからである。
ぶつかり合う音が、途切れることなく響く。
音と共にやって来る剣圧は、地面を踏みしめないと、碌に立って入れれない程。
風に乗せられ飛び散る鮮血は、染み込むものと、蒸発するものに分かれる。
そんな中を、二人の武人は認識し、戦っていた。
『殺す』、それ以外のことは考えない。考える余裕もない。
二刀の
相手を傷を与え、自らも傷を負う。負った傷から回復していき、振り出しへ戻る。
そんな攻防戦が繰り返される。削られるのは、精神と体力。それが尽き、先に攻撃を緩めたほうが、殺される。
「そろそろ終わりにしますか」
そんな音を、微かに捉えた。だが、意味を理解する余裕はない。
男は隙の無い彼女に、
そんなことは最悪手に等しい。逃がすわけも無く、懐に飛び込み、振るう。
殺した。
そう思ったが、現実は異なっている。
男が振るった
胸を何かが横に切り裂くような感覚に見舞われたが、傷はない。痛みも無い。
少しの困惑が生まれた。その瞬間が隙となり、突かれる。
鳩尾に衝撃。当たった感覚はあるのに、痛みは全くない。不思議な感覚。
次の瞬間、彼女が遠ざかって行く。そして、背中に衝撃と痛み。
何かと思えば、壁に凭れかっかていた。
彼女が遠ざかったわけでは無い、私が吹き飛ばされ、遠ざかったのだ。
彼女はさっきまでとは違い、新たに一刀の漆黒の刀を握っている。
彼女の足元には、男の
壁にぶつかった衝撃でできた傷が治る。その間に状況の整理を行った。
だが、整理する間もなく、ある言葉が浮かぶ。
『そろそろ終わりにしますか』
美しい女声で告げられたその言葉。意味をようやく理解する。
彼女は本気を出していた訳では無い。普通に戦っていただけ。
ふざけろ。
そう思う。男は全身全霊を持って、本気で相手をしていた。なのに、相手は違う。
男は武人だ。そんな侮辱に耐えられるわけがない。
「あぁァァァあぁアァァアァぁぁァっ!」
男は叫んだ。
この世の理不尽に
男は嘆いた。
事実を認めたくない自分の弱さを
男は願った。
ただ一人の、目の前の彼女を殺すことを
強い思いの元、男は一刀の
そんな男を彼女は見つめ、微笑む。
その顔は酷く美しく、その眼は酷く冷たく、見る者を恐怖させるには十分だった。
全身全霊の一刀。男の思いを乗せたそれを、彼女は漆黒の一刀で断ち斬る。
無慈悲なまでに冷酷なその一刀に、男が斬られることは無く、生き延びた。
だがそれも刹那的なこと、もう片方の刀で、男の首が飛ばされた。
それだけで、勝負は付いたはず。なのに彼女は斬撃を止めない。
漆黒の刀で男の首無しの体を空中晒し、もう一刀の刀でそれを斬り裂く。
一瞬後。男の肉体は欠片も残っていなかった。代わりに、赤黒い液体の雨が降る。
「ふふ、ふふふ、サイコォ~」
その中心には、高揚した女声を発する、全身を赤に染めた、美しい女性。
狂ってるとしか思えない光景。
その光景は、
オリキャラ紹介!
今回もこちらの方!
『私は名を既に失っている。だが、名乗るなら、睡蓮、だな』
と言う訳で、睡蓮さん!
彼は出番少なく殺されてしまいましたが、一応、ね。
名は不明(睡蓮) 種族:元ヒューマン 性別:男
武器は湾曲刀を使っていて、オラリオに一時期名を連ねたLv.5
二十七階層の悪夢で消息不明となった人物の一人。
黒髪黒目黒服黒仮面。湾曲刀まで黒色と、中々の黒好き。
もう一人の男の相棒で、付き合いは長く、信頼を置いていた。
旧ファミリアでは、団長を務めていたほどの実力の持ち主。