九千言ったどー。
では、どうぞ
「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」
大洞窟に来るや否や、レフィーヤは詠唱を始めた。まだ状況が理解できていない中、必死に叫ぶ顔見知りに、気圧されたからである。
「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」
詠唱をしながら、周りを確認する。
周りにいるのは、ベートさん、フィルヴィスさんを含め、十六人。
全身白と全身黒の、仮面を付けた二人組。
【
刀を銜えていて、赤くくすんだ黒髪を持つ、羨ましい程大きいものを持ち、角の生えた女性。
「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」
少し妬ましい気持ちを持ってしまう中、詠唱は途切れさせない。
魔力が収束し、山吹色の
「前衛のみなさん! 逃げてください!」
その叫びに応じたのは、ベートさんとフィルヴィスさんなど近くの前衛数名。奥に居る人にはその声すら届いていないようで、反応が無い。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】」
それでも、撃てとせがまれているのだから、やるしかない。
放った火矢は、前方に居た食人花を焼き払い、さらに奥の四人の元まで飛ぶ。
奥の人たちには、一本も当たらなかったが、牽制程度にはなったようで、女性の一人が拘束から抜け出していた。
「おいっ、アイズはここにはいねえのか。答えろ」
魔法を打ち終えると、ベートさんがルルネさんの胸倉を掴み上げ、此処に来た目的である人物の行方を聞く。
「け、【剣姫】はさっきまで一緒に居たんだけど……分断させられて」
「あぁ? 分断?」
「それよりも!頼むっ。アスフィとシオンを助けてくれ!」
聞き捨てならない情報を話した後、ルルネさんは必死の懇願をしてきた。
「今アスフィは瀕死で多分碌に戦えないっ、シオンもさっき腕を斬られてた。だから――――」
ルルネさんの懇願は、最後まで続かなかった。
その理由は、ダンジョン内ではあり得ない程の強風が、体を叩きつけたから。
「アイズか⁉」
一匹の狼が、地面に脚を踏みしめながら、そう叫んだ
そう思ってしまうのは仕方がない。彼が知る中で、これほどの風を出せるのは彼女しかいないからだ。
でも、実際は違う。
その風は、魔法では無く、剣圧。ただ振るっただけの力。
だが、それに気づける者は、傍観者の中で一人たりとも存在しない。
「何だ……これ……」
ルルネさんが、風で声を途切らせながらも呟く。彼女らは、今何が起きているのか、この風が何なのか、この響く音が何なのか。全く理解できていない。
だが、比較的感覚の鋭い者が居た。その者は、何が起きているのかを辛うじて理解できていた。
「(戦闘……なのか……)」
その者は、生まれ持って鋭い感覚を有する獣人。彼はその感覚で、何とか、重なり合って響く音の正体を理解し、そこから推測でここまで至った。
「(でも、どこで
でも、彼はそれを確認できていない。人間に過ぎない彼に見えるわけがない戦闘は、音で捉えるしかなく、その音すら、同時に多方向から響き続ける為、把握ができない。
目を皿のようにして大洞窟内を見るも、剣を交える姿を確認できない。
「そうだ……今のうちに……」
「あぁ……? 何する気だ……」
いきなり風の向きに逆らい、前へ進もうとする
「シオンに……頼まれたんだ……自分が戦っている間に……【宝玉】を回収しろって」
「【宝玉】……それって……あの時の……?」
「うん……レフィーアも……手伝って……もらえるか?」
それにぶんぶんと首を横に振るレフィーア。残念そうな顔をルルネは浮かべたが、それでも彼女は前に進む。それに続いて彼女の仲間も前へと進み始めた。唯一【万能者】の姿が見えないが、それを気にする余裕がある者は、風に逆らって進む者の中で、一人もいない。
一歩一歩進んで行く。足取りは遅くとも、着実に。
体を前に倒し風の抵抗をなるべく抑える。
そうして進んでいるのを、三人はただ見ていた。
「ベートさん……」
だが、そのうちの一人。心動かされた者がいた。
その者の名はレフィーア・ウィリディス。彼女はルルネの顔見知りでもあったことから、その必死さが、他の二人よりも伝わっているのだ。
「あぁっ、クソ! 行けばいいんだろ行けばっ」
「はい!」
「ウィリディス……お前も行くのか……」
「うん…あんなに……必死なんだから……」
「……わかった。私も行こう」
「ありがとう」
彼女たちも、【ヘルメス・ファミリア】に続き、風に逆らい始めた。
だがやはり押し寄せる風は強く、容易には進めない。比較的に
彼らが一歩一歩進んで行く。前方の【ヘルメス・ファミリア】に
ドンッ! とダンジョンを揺るがす音が響いた。
それと同時に押し寄せてきた強風が止む。前傾姿勢で進んでいた人は、全員地面に倒れ伏せ、
進んでいた彼らは、音のした方向を見た。そこには、血で服を染め、壁に凭れかかる黒髪の男。
「うそ……なんで……」
「フィ……フィルヴィス…さん?」
その男を見て、フィルヴィス・シャリアは、擦れ、恐怖するような声を出した。
さっきまでとは違うその姿に、困惑を覚えるレフィーア・ウィリディス。
「ルキウス・イア……」
「嘘つけっ! あいつが生きてる訳がねぇっ!」
血相を変えて反論するベート。その名前をレフィーアは聞いたことがあった。
過去にベート・ローガが憧れ、目指した男。過去にファミリア内で、ベートはその人について語っていた。
「もしかして……『二十七階層の悪夢』の首謀者の一人?」
「うるせぇ! 黙れっ!」
ルルネが確認のように問うたことを、必死で否定するベート。認めたくなかったのだ、彼の憧れた人物がそのようなことをしたと。
「あぁァァァあぁアァァアァぁぁァっ!」
男の叫び声が聞こえた。その声に反応し、全員がその方向を向く。だが、男の動きを捉えた者はいない。
悲痛な叫びが大洞窟内を反響し、その音が消えた。同時に暴風。
突如吹き荒れた暴風に、身をかがめ、堪える。暴風は数秒で終わりを告げ、視界が確保できると、そこにいた全員がそれを見た。
血の雨を浴び、妖艶な笑みを浮かべ、二刀の刀を持った、角の生えた女。
その美しく残酷な光景は、何故か目を離すことが出来ない。
「ふふ、ふふふ、サイコォ~」
静かに思える洞窟内で、その女声は妙に響いた。
* * *
あぁ……やばい。興奮しすぎた……
女、改めシオンは、現在進行形でとても後悔していた。
周りは血で染まっていて、自身も紅で染まっている。
吸血鬼のときの悪い癖である。戦いに興奮し、血を求めて、つい……と言った感じに。やり過ぎてしまうのだ。
もう
「(強かったな~)」
シオンはそう思った。彼を吸血鬼化させる程の実力の持ち主は、この世に何人存在するのだろうか。
実際、人間のままだと勝てなかった。超光速で動くのだって、人間の反応速度では不可能だし、第一肉体が耐えられない。
彼も人間を辞めていたのだろう。回復速度や反応速度は明らかに人間のそれとは異なっていた。
シオンは落としてしまった刀達を拾い上げ、鞘へと納めていった。
そして最後に『一閃』を――――とその時思い出す。
彼が吸血鬼化を解いた際に、前回はぶっ倒れたのだ。今回は人外の行動で体を酷使しているから、反動はすさまじいものだろう。
納めかけた刀を、再び抜く。
危うく忘れかけていたが、まだ一人敵はいるのだ。納刀しようとしている時点で可笑しい。
「さて、投降するか死ぬか、選んでください」
私は、満面の笑みで笑いかけながら、残っていた男を見た。
彼か完全に腰が引けている。恐怖だろうか。まぁ仕方ないだろう。目の前に自分では到底及ばないバケモノがいるのだ。しかも、そのバケモノが笑いながら彼にとっての死刑宣告をしてくる。恐怖以外のなにものでもない。
「ヴィ、
男が、苦し紛れの抵抗か。何かの名前を呼んだ。
その呼びかけに反応するかのように、
自分の何十倍も大きいそれを見て、一言。
「意味の無いことを……」
ただそれだけ。吸血鬼化したシオンにとって、この程度はただ大きいだけの的と同然。逃げもしなければ恐怖すらしない。
高速でやって来る的を、シオンは光速で斬り返した。
「な……」
一刀のもとに斬り落とされた、巨大な食人花の頭を見て、誰もが唖然とする。
「抵抗はおしまいですか?」
またもや笑いかける。
含みのないその美しい笑みに、場にいた者達は恐怖した。
「なら、話してくださいよ。あなたたちの目的とやらを、いいですよね?」
「ことわ―――――」
男がその申し出に拒否を示そうとすると、胸に衝撃と痛みが走った。次には背中にも衝撃が走る。
耳の真横で、ギンッ、と何かか刺さる音がして、眼だけ動かすと、その方向には漆黒の刀。
まだ痛みの続く胸を見てみると、修復は進んでいるものの、派手に凹んでいる。
それを見て、男は何をされたかを理解した。
「いいですよね」
その申し出、もとい命令に、男は全力で首肯し、恐怖に負けて、話しだしてしまった。
男の頭には愛しの声が響く。だが、男はそれを恐怖で塗りつぶす。
聞かれたことをただ応える。聞かれていないことまでも話しているかもしれないが、そんなことどうでもいい。
男はただ恐怖に駆られるまま、話し続けた。
「なるほど、大体理解しました。貴方は何も知らない役立たずだと」
「ちがう……」
男は知っていることを全て話し終えていた。その上で言われたことがこれである。
だが、男改めオリヴァスの反論は口だけ、躾けられた子犬のように何もしてこない。
脅し用に刺していた『黒龍』も既に納刀している。
「もういいです」
シオンがそう告げ、動こうとしたその時。
派手に音を立て、洞窟内の壁の一部が粉砕した。
その穴からは、赤髪の女性が、吹き飛ばされたかのような勢いで飛び出してきて、背中を叩きつけられ、地面を削っていく。
その勢いが止まったのは、オリヴァスの真横。彼も驚きを隠せないでいた。
その後に、穴からはもう一人の人物が出てきた。
金髪金眼の少女。アイズ・ヴァレンシュタイン。
「ア、アイズさん⁉」
彼女の登場に、レフィーアは安心と驚きを覚える。彼女が此処に来た目的が、今思わぬ形で果たされたからだ。
アイズは周囲を見渡し、見たことのない女性に疑問と、同じファミリアの
レフィーア達には大丈夫と言うように頷き、見覚えのない女性には、警戒をしておく。
「遅いですよアイズ。待ちくたびれました」
「……誰?」
「あ、この姿を見せるのは初めてでしたね。わからないのも仕方がありません」
アイズは、彼女が何を言っているのか理解できなかった。だが、彼女の持っていた刀、そしてその刀の帯び方、それで該当する人物が一人いることを思い出す。
「……シオン? でも、え?」
流石のアイズとて、このことに動揺は隠せない。シオンが今と昔で別人のように変わっていたが、これは
「まぁ、説明は後でしますから、それより、ね」
その会話が行われている間に、もう一体の巨大な食人花こと
「【
それをアイズは風を纏った剣で斬り落とす。当たり前だが一撃だ。
「な、何なんだ……何なんだお前らはっ!!」
「もぅ、うるさいですね……黙れよ」
シオンがそう告げると、男は顔を蒼白させ、居すくまり、硬直してしまった。
取得している者が自体少なく、強力なその技を、容赦なくぶつけたのだから仕方ない。
「チッ、使えねぇ」
レヴィスはそんなオリヴァスを見て、吐き捨てるように呟くと、彼の前に立ち。
――――胸を貫いた
貫手で取り出されたそれをレヴィスは口へ運び、喰らった。
「あーあ。やっちゃった」
オリヴァスによれば彼女もまた『強化種』に近い存在。魔石を食糧とし、それを喰らえば強くなる。
食事を終えたレヴィスは、
接近し、紅の大剣と風の銀剣が交わる。
「「ッッ!」」
「(技量的にはアイズが上、でも単純な身体能力ならレヴィスが上、か)」
そこから二人の超高速接近戦闘が始ま―――いや、再開した。
「(私たちの目的の半分は果たされた。後は【宝玉】だけ)」
そんな中、一人冷静に状況を判断する。
「
シオンは、虚空に向かってそう呟いた。
勿論、そこには何もない。だが、シオンは虚空を虚空とは捉えていなかった。
そこには、少しおかしな気配の揺るぎがあるのだ。恐らく、ルルネさんが言っていた、誰にも見えなくなる、と言う
気配の揺るぎは、【宝玉】がある方向へと向かった。
『!』
だが、あと少し、と言うところで揺るぎはなくなり、はっきりとした気配となった。
代わりに、新たにはっきりとしない気配が現れる。
「(
アスフィさんは
「完全ではないが、十分に育った、エニュオに持っていけ!」
『ワカッタ』
【宝玉】は、紫の
不気味な、不協和音に近い肉声で返事をした後、数ある出入り口の一つに疾走した。
それを追いかけようと、足に力を入れるも、バランスを崩し、膝をついてしまう。そろそろ本当に限界が近いらしい。
「ルルネ! 追いかけなさい!」
そう指示されたルルネさんは、驚きながらも、歯を食いしばり、駆け出す。
「
だが、最後の一匹である巨大花に阻まれた。突っ込めず、後退を強いられる。
その指示を出したレヴィスは、アイズを振り払い、更なる命令をする。
「産み続けろ! 枯れ果てるまで! 力を絞りつくせ!」
瞬間、大地が鳴動する。
ピキッ、ピキピキッと
「やばいですね……」
天井、壁面、大洞窟内に存在する蕾が、一斉に花開いた。
壁からも、ピキッ、ピキピキッ、と音が鳴る。
モンスターが生まれる前兆。そうとしか思えない。
モンスターが増えるだけなら問題ない。限界は近くとも、雑魚を殺す程度は可能だ。
だが、モンスターが生まれるとなると、話が変わる。
二次災害。この量だと、生まれた後に、この空間自体が崩れる。
「アスフィさん、撤退です。二次災害が予想できます」
「……そうですね、全員、直ちに撤退準備!【剣姫】も急いでください!」
「……ッ!」
アイズもその指示に従い、退こうとするが、レヴィスに阻まれてしまう。不意を突かた所為で、得物が飛ばされ、無手での格闘戦を強いられていた。
完全に逃げきれてない中、大量の
それは一気に押し寄せて来る。シオンやベートは問題なく対処できても、瀕死のアスフィや、魔導士などは、碌に戦えない。
その二人は、戦えない者たちを守ろうとして、アイズを助けに行きたい気持ちを必死に抑えている。
「―――私を守ってください!」
レフィーアがそう叫んだ。その叫びに対する意見が飛んでくる中、彼女は『私を信じて!』と叫び、
「さっさと詠唱してください。私はあっちに行きたいんです」
「わかってます!」
「全員!
「適当ですね!」
「上等だっ!」
シオンは限界が近く、ベートは満足に動きまわれない。だが、二人は最大限に力を発揮できなくとも、
「【ウィーシュの名の元に願う】!」
山吹色の
「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと
淀みなく高速で詠われ、紡がれていく詠唱。次第に増える魔力光。
「【繋ぐ絆、
一言一言に含まれる感情。その思いをに乗せられる
「【至れ、妖精の輪】」
押し寄せて来る数が増える。だが、届くことは無い。
「【どうか―――――力を貸し与えてほしい】」
魔力が組まれ、収束する。
「【エルフ・リング】」
山吹色の
彼女しか持ちえない、
強力な魔法を打つことだってできる。だが、それには相応の時間を要する。
いくら彼女が高速詠唱を行っているとはいえ、まだかかる。
「【盾となれ、破邪の
時間稼ぎか、もう一人のエルフが超短文詠唱を行う。
「【ディオ・グレイル】!」
叫ばれる魔法名。白い輝きを放つ円形障壁が出現した。
その輝きは、押し寄せる
それを好機と見た。
シオンとベートは即座にアイズの元へ向かう。ベートは直接突っ込み、シオンは遠回りをして。
「―――――【まもなく、
第二の
「よこせ、アイズ!」
「【忍び寄る戦火、
気流が吹き荒れ、力強い詠い声が高らかに響き、繰り広げられる死闘は激しさを増す。
「【開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」
シオンは激しい戦闘には参加せず、ある物を探していた。
「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり】」
そして、見つかる。銀に輝く剣。
「アイズ! 得物は手放さないでください!」
叫びながら投げる。それは寸分たがわずアイズの横に向かい、通り過ぎようとする愛剣を、アイズは片手でつかみ取る。
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】!」
その間にも詠い続けられ、戦いを苛烈さを増していく。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」
己を賭け、叫び、暴れる狼も、負けじとばかりに勢いを増していく。
「【焼きつくせ、スルトの剣―――我が名はアールヴ】!」
「【レア・ラーヴァテイン】!」
魔法名が叫ばれ、
何もかもを溶かす広域殲滅魔法が、洞窟内を火の海に変える。
「るォおおおおおおおおおおおおおおおッッ」
大轟音で満たされる大洞窟、その中で、一人の狼が叫ぶ。
叫ぶ狼は力を増し、逆転の一撃を相手にぶつける。
「なっ⁉」
それは決定打とはならない。だが、
「【
その隙を、風の銀剣が斬り込む。
振り下ろされるその剣は、防御に使われた紅の大剣を切断し、振り上げられたその剣は、胸部の魔石付近を抉り取り、宙に跳び、叩きつけられたその剣は、防御を気にせず吹き飛ばした。
両足を地面につけるも、勢いは緩まず、弱々しい赤光を放つ
「はぁ、はっ……」
全力を出し、満身創痍の
「……今のお前には、勝てないようだな」
「この
「っ⁉」
そう告げられ息を呑むアイズ。彼女のやろうとしているのことに気づいたのだろう。
止めようとした、だが手遅れ。
拳を握り、体重と遠心力を乗せた横殴りの一撃を、
亀裂が走り、新たな罅が生まれ、それが一気に増えてゆく。
次には甲高い音を立て、盛大に破壊音を響かせた。
「逃げなければ埋まるぞ? 特に、助けが必要なお前の仲間はな」
碌に動けず、座り込んでいる人たちを見て、レヴィスは言い放った。
岩盤が降り注ぐ。
唇を噛み、自分の計算の浅さを恨んだ。
慌てふためきながら、撤退行動に移っている冒険者達。
指示に従い動く【ヘルメス・ファミリア】。
罵詈雑言を交わしながら、肩を貸される狼。
差し出したくとも差し出せないその手を捕まれ、体を支えるエルフ。
その姿に、アイズも撤退を決める。
「『アリア』、五十九階層に行け」
アイズが、背を向け走り出そうとすると、背後からそんな言葉を投げかけられた。
「ちょうど面白いことになっている。お前の知りたいものがわかるぞ」
「……どういう意味ですか?」
「薄々感づいているんだろう? お前の話が本当だとしても、体に流れる血が教えている筈だ」
「…………」
その言葉に、アイズは何も返さない。いや、返せないのかもしれない。
「お前
レヴィスは自覚していた。今の自分では彼女に太刀打ちできないことを。
だから、誘導する。自分がやる必要が無いのなら、楽でいいから。
「地上の連中は私達を利用しようとしている……精々こちらも利用してやるさ」
最後に言い放った、独白めいた言葉を、アイズは理解できない。
「おい、【剣姫】!」
「アイズ、急げ!」
彼女はルルネとベートに呼ばれ、交していた視線を切り、まだ塞がれていない出口へ向かった。
レヴィスは一歩たりともそこから動かない。崩落で見えなくなるまで、彼女はレヴィスを見つめていた。
岩で隠れる一瞬前、何かがレヴィスの前に現れた気がしたが、それが何かかはわからなかった。
彼女たちは、二十四階層
ただ一人を除いて。
オリキャラ紹介!!
本名、ルキウス・イア。
ベートが過去に憧れていた男。強くなりたいと願っていたベートは、オラリオに来て、彼を知った。
当時の都市で、指折りの冒険者に数えられていた彼は、ファミリアの団長としても名を馳せており、自分の戦闘スタイルと似通っていたことから、彼の憧れとなるには十分だった。
だが、彼は、闇派閥と関わっていた。
『二十七階層の悪夢』
彼はその首謀者の一人だった。
関りを始めたのは、その一年前。
相棒となったオリヴァス・アクト。
彼がどういった経緯で、どういった理由で闇に堕ちたかを知る者はいない。
ベートは、彼がその事件の首謀者としてギルドに名が挙がった時、狂気に陥りかけたという。