やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 完全に伏線を張る回です。

では、どうぞ


日常、それは議論

 

 襲われる。手を向ける。吹き飛ばす。圧死する。

 試し打ちと言うのなら、こっちもやってみるべきだろう。

 魔力の波動照射。やってみたけど本当にできた。

 あまり多用できないが、威力は調節しやすいし、射程も中々。

 牽制や威嚇、やり方次第で誘導なんかにも使えそうだ。 

 だが、欠点は存在する。

 やはり魔力量に依存してしまう。まぁこの欠点はどうせすぐに問題なくなるだろうが。

 そしたらもう必需品になるレベルじゃないですかーやだー。

 今現在もその欠点は『黒龍』『青龍』で補えるのだが。

 ていうか、このままだと他のやつもチート臭するな……使うことが無いと思ってたあの二つも、普通に考えて十分実用性のある効果持ってたし。今度使ってみようかな?

 

 と、そんなことを考えてると、始まりの道に足を踏み入れる。

 ここの道は嫌いだ。広い癖に人が多くて、通りたくないのに、この道を通らないと帰れない。別に周りを少しぶっ壊せば人がいない所を通れるのだが、ギルドに目を付けられてしまうからやる気は無い。

 そこで、有効的な対処法を考えた。

 一つ!

 人が比較的少なくなる深夜まで待つ。

 うん、全然効果的じゃないね。

 二つ!

 冒険者たちの上を飛び越えていく。

 幸い頭上には空きがある。目立つかもしれんが、そこはまぁ認識阻害(技術)で。

 以上。結局、有効? な方法は一つしかない。

 毎度のことやっていることだ。もう手慣れた。

 薄暗い通りから一転し、眩しいくらいの明るさが目を射す。

 数瞬で光に順応し。はっきり見える光景は、更に多くなった冒険者の波。

 風となり、隙間を縫うようにしてバベルの外へと出る。人が多いのは本当に嫌だ。

 そこから跳躍、屋根へと跳び移る。明らかに可笑しい距離を跳んだが、跳んだ本人は何食わぬ顔で同じことを繰り返している。

 曲芸師でも簡単にはできない芸当を平然とやってのけているのだが、そのことを認識できている者は皆無、と言っていいだろう。

 道なき道を通っている彼は、簡単に目的地へ辿り着く。 

 中に入り、ある場所へと向かった。

 

「あら、シオン。今日はどんなご用件で?」  

 

高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)を二本と、暇ができたのでお話を」

 

「今日は空いているのですね。承りました。私の部屋で待っていてください」

 

「流石にそれはまずいです。主に、女性の部屋に男が一人で入ると言う点が」

 

 外見面は措いといて、性別的にはおと――――女でもあるんだった……

 

「問題ないですよ。シオンはそんなことしないでしょう? 残念な程一途なのですから」

  

「よくわかってらっしゃる」

     

 まぁ外見面で騙せてるから、風評被害に遭うこともないはずだ。

 アミッドさんから鍵を貸してもらい、『関係者以外立ち入り禁止』の札を無視して通り過ぎる。

 歯ぎしりの音が静かな廊下に響き、殺意の視線が直接向けられる。

 物騒だな~、と暖気(のんき)に思っているが、このような歓迎を受けるのは彼だけなのである。

 以前入ったドアに鍵を刺し込み、回して開錠。

 普通に中へと入り、無断だが、茶でも淹れておこうかと思い、部屋の端にあるティーセットを取る。

 使うのは『アッサム』。ロイヤルミルクティにでもしようか。

 知識だけの素人がやってどれ程の物ができるか、多分不味くはない、くらいの評価だろうが。

 置いてあった魔石焜炉の上に小さな鍋を置き、水と牛乳を入れ、火をかける。

 その間にもう一つの魔石焜炉で水を沸かす。

 うん、人の部屋の物を勝手に使うって、人としてどうなんだろ……あ、半分人じゃない。

 水が湯に変わったくらいで、ティーポットに茶葉を入れ、蒸らす。

 ティーポットの隙間から漂う匂いは中々のもの。流石アミッドさん、いい茶葉を持っている。

 鍋の方が沸騰していて、多分もういいだろう、と思うくらいになったので、火を止め、ティーポットの中に追加。そこから更に、少しばかり蒸らす。

 その間にカップとソーサーを用意して、適当な時間だが、カップに出来上がっていてほしいロイヤルミルクティを淹れる。

 香りはいい。元が良いからだろうが、味はどうだろうか。

 

「遅くなってごめんなさい。あら、いい香りね。淹れてくれたのかしら?」

 

「無断なうえに、素人の戯れ程度のできだと思いますが、丁度入りましたよ」

 

「戴けるかしら? シオンが淹れたものがどれ程のものか、気になりますから」

 

「不味くはないと思います。どうぞ、ロイヤルミルクティです」

 

「ありがとう」

 

 お礼を告げ、優雅な動作でカップを口元に運び、一口。

 

「!……美味しいわ。本当に素人なのですか」

 

 評価は予想以上に上々。そんなにかと思い自分でも飲んでみたが、普通に美味い。

 

「自画自賛になりますが、確かに美味しいですね。かじった程度でこれくらいに成れるとは……正直驚いてます」

 

 目分量でやった上に、蒸らす時間とかも完全に適当だったけどな…… 

 

「普通はこうは成らないはずなのですが……美味しいからいいです。では、お話に付き合ってもらいますよ」

 

「勿論です。ただし愚痴は無しですよ、愚痴られるのはもう嫌です……」

 

「あらそう。それですと、言いたいことの半分くらいが無くなるのですけど」

 

 愚痴が半分って、どれ程のストレスを抱えて暮らしているのか。少しくらいは……とか思っちゃうけど、ミイシャさんの愚痴のラッシュを味わった身としては、もう愚痴は嫌だ。と感じてしまうのだ。

 

「じゃあ、今日私が聞いたお話についての議論でもしましょうか」

 

「お話じゃなくなりますが、いいですよ。どんなことを聞いたのですか?」

 

「ある冒険者のことです」

 

 何かが引っかかるような違和感がした。だがその違和感もすぐ消える。

 

「その冒険者は先日、【ランクアップ】したそうです。昨日、その内容がギルドの情報掲示板に貼られていたのだとか」

 

 自分と同じ時期に、【ランクアップ】した人がいたのか。と、別方向のことを考え始める。

 

「その冒険者は、どうやら最速記録保持者(レコードホルスター)になったようで、その期間が約一ヶ月」

 

 はい、もう確定ですね、お疲れ様。なんでこんなに情報が回るのが早いかな……。

 

「死にそうになったが、逆転して生き延びた。というのがランクアップ原因だそうです。何で死にそうになったのかは不明。何に逆転したのかも不明。情報が少なすぎる、なのにギルドは公式公開をそれで済ませました。どういうことだと思いますか? シオン」

 

「担当のミイシャさんが碌に情報を集められなく、更に言えば資料の作成を面倒くさがった所為ですかね」

 

「そんなことは聞いてません。シオン、貴方何をしたのですか? 貴方の常識外の強さは実際に見たことはありませんが、大体知っています。そんな貴方が【ランクアップ】するには、相当量の

経験値(エクセリア)】が必要になるはずです。つまり、それほどの強敵と戦った、ということですね」

 

 そこまでわかっているなら何故聞くのだろうか。そんなことは聞いてはいけないだろう。こういうことを聞くと大体会話が続かなくなる。

 

「確かに戦って、死にかけました。相手の追及はよしてくださいね? 多分情報規制が掛かることなので」

 

 睡蓮(スイセン)の過去と思われる時の名は、ルキウス・イア。『二十七階層の悪夢』と言われた事件の首謀者の一人。あの事件の後に首が発見されたことから、死んだとされていたらしい。

 だが、人間を辞めた状態で現れた。黄泉帰り、蘇生、名称は様々だがそれが起きたのだろう。

 人が生き返ることは本来許されないこと。世界の法則に逆らうことなのだ。だから、ルキウス・イアと戦ってランクアップしたなんて、情報規制の対象になるには十分なのである。

 

「そぅ……ならいいです。それと、まだ言ってませんでしたね。【ランクアップ】おめでとうございます。シオン」

 

「心機一転ですか? あと、賛辞をもらうほどの事ではありませんよ。所要期間が極端に短いのも、私が異常なだけですし、それは今に始まったことではありませんから」

 

「そうでしたね。単身(ソロ)で中層に潜っていることも、Lv.5を圧倒したことも、貴方のする事の殆どが異常なことですからね」

 

 何か馬鹿にされているように感じるのは気のせいだろうか。別に普通を貫いているだけなのだが。その普通が世間一般ではないことは措いといて。

 

「それと、シオン。先程から気になっていたのですが、その片手袋は何ですか? 魔術的何かを感じるのですが」

 

「あ、わかりますか? これは特殊な魔道具(マジック・アイテム)で、結構便利なんですよ。並行詠唱、高速詠唱何のその、高威力の魔法の収束だって簡単。さらには魔力の波動を放てるので、魔法さえ保有していれば、これ一つだけでも十分戦えます」

 

「それって、チート、という系統の物ですか?」

 

「今更ですね。私に関わる物は大体チートですよ? 刀もそうですし」

 

「シオンが【ランクアップ】したのも、そのチートに原因が?」

 

「あ~、原因ではありませんが、通過点には存在します」

 

 主に吸血鬼化。『一閃』のこのチート能力は本当に助かっている。草薙さんに遇えて本当に良かった。

 

「まぁ、そのチートは、使い手次第でゴミにもなりますけどね。私のような人が使うからチートなんですよ。ほら、私、特殊ですから」

 

「言い方を変えて異常と言った方が馴染み深いですね」

 

 ちょっとーアミッドさん? 馴染みって、周知の事柄のように言うのやめてくれます? 私の異常さは周りの人だけが知っていればいいんですよ?

 

「とりあえず、シオンの異常さについてはもういいです。何も得られなさそうなので。シオン、何か面白い話はありませんか?」

 

「それ、話しの振り方でしてはいけないことベスト3に入る言葉ですよ。まぁありますけど」

 

「どんなお話ですか?」

 

「性欲についてです」

 

「…………はい?」

 

 その後はちょっとした体験談を元に語った。

 性欲について熱心に語るのは、中々、勇気と恥じらいに耐えゆる心が必要な行為だが、羞恥心など、午前中に使い切っているし、勇気など知らん。

 私が語ったのは、自分のことが中心だ。まぁそれを直接は言わないが。

 一時間程語り、さらに一時間程ディスカッションをした。

 

「結論をどうぞ、アミッドさん」

 

「ええ、シオンは異常者では無く変態でした」

 

「ちょっと待ってください。話が全然纏まっていません。大体、何処をどう考えたら私が変態になるのですか」

 

「一から説明しましょう」

 

 こういう場合、長くなるのが鉄則である。気長に聞こう。

 

「まず言うと、振った話題が可笑しいです。女性に普通そんなこと言いますか? 言いませんよね? 大体、何で語れるんですか。男性は皆そうなのですか? それとも、やはりシオンだけが変なのですか?」

 

 何故か駄目だしされてる……というか罵倒も交じってるし。

 

「それと、何でシオンが性転換できるんですか、遠まわしに言ってあやふやにしようとしてましたが、体験談の質から言って無理があるのですよ」  

 

 ありゃ? 分かっちゃったんだ。流石アミッドさん、でもそれなら、変態呼ばわりされる謂れは無い気がするのだが。

 

「あと、性欲が殆ど消え失せたのは分かりました。そしてただ一人に感じる、と言うことも分かりました」

 

 因みにそのただ一人とは――――て、言うまでも無いことだろう。

 そして、性欲のことだが、これは一種の防衛本能だと考えている。

 男女の性欲とは、同じようで全く違う。それが一つの意識に集まるのだ。私の魔法のように全くの別ものに変異してしまうかもしれない。だから、どちらも消す。そして均衡を保つ。

 そしたら何故彼女が例外か、と言うのは、本能を抑えるのは昔から理性と決まっている。なら、恋愛感情と言う理性で抑えたに過ぎない。簡単なことなのだ。

 

「そこはまぁ許容しましょう。ですが、私が気になったのはその先です。吸血鬼の回復能力と回復手段についてですが」

 

 特に回復手段がある訳では無いのだが。感覚的には、痛みを感じてすぐ消える、みたいなものだ。勝手に治るのである。

 

「不死とまで言われる、無くなった物すら戻す回復能力。そこは人外だからこその所業と言えます。シオンがそれになってしまった事は許せませんが、それは後でいいのです。それより、回復手段が許せません。生き物の血を吸う? 見逃し難いことなのですが」

 

「いえ、血を飲まなくても回復はできますよ? ただ、力を使えば使うほど吸血の欲求が増大していくので、結局吸った方が良い、と言うだけです」

 

「殆ど変わりないではありませんか」

 

 いや、結構違うけど。実際、吸わなくても死にはしない。ただ、ちょっと理性が吹き飛んで、本能に忠実な怪物に成り果てるだけだから。だけで済まされることではないが。

 

「それに。その吸血鬼化でどうして性別が変わるのですか。原理が分かりません。しかもその所為でシオンの性欲が………」

 

 え、なに? なんでそんな無念そうな顔してるの? 性欲ってそんなに無くなっちゃいけないもの? ない方が平和で良いと思うんだけど。流石に皆無はダメだが。

 

「わかりました」

 

「何をどう分かったのか嫌な予感がするので聞かせてください」

 

「私がシオンの性欲を取り戻します」

 

 何言ってんだこの人。数秒はそう思ってしまった、実際問題無理に等しい。しかも、性欲自体は限定的だが存在しているので、取り戻す必要な無い。

 

「何故?」

 

「シオンを普通の年相応の人にする為です。そうすれば……」

 

「いえ、それは不可能です。まず私を普通にすることだけでもう無理なことは確定してますし、年相応と言われても、私は一応年相応に恋もしてるのですよ?」 

 

「不可能を可能にするのが医者です。私はその医者なのですから、問題ありません。絶対何とかしてみせます」

 

 どうしてそこまで必死なのか……医者の矜持とかでもあるのだろうか。

 

「と言う訳で、早速研究を始めます。シオン、楽しみにしていてください」

 

 いや、無駄な欲求が増えるから正直楽しみではないのだが……

 

「ではシオン。今日のお話は終わりですね。また今度もお願いできますか?」

 

「それはいいですよ。私もアミッドさんと話すの結構好きですから」

 

 まぁ今日はお話ではなく殆ど議論だったが。

 

「では、また今度に。失礼します」

 

 別れの挨拶を告げ、部屋を後にする。

 彼と彼女が背を向け合った時、二人がどんな顔をしていたかは、お互い知る由も無かった。

 

 


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