次回! 荒れる神会。
では、どうぞ
目移りすることさえなければ、結局移動は秒単位で終わらせることが出来る。
第六区画の外周寄り、見かけるのが大人より子供の方が多くなってきた。
ここ辺りが学区、あの鍛錬場はその近くということになるし、周辺に住居が無く、行けば判るくらいに目立つものとはどれ程のものなのだろうか。
とりあえず、第六区画を上から眺めてみると、あぁ確かに、判りやすい。
周辺に住宅が無い、というより建物がない。そこで悠々と動かないくすんだ黒色をした建造物。
だが、これは見つけるまでに苦労するだろう、普通は。
とりあえず、見つけることはできたのでそこに向かい落下。風の力を得て落下地点を調節し、鍛錬場の中心へ。
勿論勢いは最後に殺し、何も破壊することも、音も出すことなく着地完了。
「さて、耐久度チェックでもしましょうか」
間が良いことに人はいない。
まずは床と壁、ノック程度に叩いてある程度の耐久を確認。
―――――本気で拳を撃たなければ問題なし。
次は斬撃。これに耐えられなければ全くもって意味がないが。
―――――直接斬らなければ問題なし。
一応普段の鍛錬ならできそうだ。流石に模擬戦となると難しそうだが。
「よし、決定。買おう」
大丈夫なら即決、流石に一億ヴァリスを普段から持ち歩いている訳がなく、ホームに取りに戻らなくてはならないが、その後ギルドの直行して、掛かるのは精々三分程度か。
地を壊さない程度に蹴り、風で推進力を得てホームへと飛ぶ。
凄く気持ちいが、流石にこれを何度もするのはアリアに悪いか。次からは屋根を走るので我慢しよう。
さっさとホームに着くと金庫を開け、何故かそこに一番時間が掛かるのは可笑しい。
金庫の戸を閉め、二刀に一瞥してから階段を駆け上がった。
と言う訳で、四分でしたごめんなさい。
まさか予想以上に金庫に時間を盗られた。1億ヴァリスは簡単だったが、5700万ヴァリスを取り出すのに手間がかかった。途中から面倒になって6000万ヴァリス持ってきたけどね。
本日二度目のギルド、だが今向かうのは冒険者窓口ではなく一般窓口。
土地取引、民間クエスト発行はここで行われる。
利用者は比較的少ないので、並ぶことなど殆どない。
窓口前に立つと、窓口担当の受付嬢が一礼をしてきたのでこちらも返す。
「本日はどのようなご用件でしょう」
「土地取引、ある場所の買い取りを行う手続きをお願いします」
「はい、お承りしました。少々お待ちください」
一度席を立ち、尻尾を右往左往させながら奥へと向かっていく。恐らく契約書
それにしても、
余談だが、一般窓口には冒険者窓口と違って椅子がある。
「お待たせ致しました。まず、こちらの書類の記入をお願い致します」
差し出されのは、『条項』と書かれた書類。意味わからん。
だが内容を見るに、私が冒険者と言うことは判られているらしい。いつ死ぬかあやふやな私たちはこういったものが必要になるのだろう。
一、死した場合、後継人不在ならばギルドへの返還を命ず。
しょっぱなから凄いの来るなおい。
二、土地管理、近所付き合い等は自己責任とする。
なんだよこれ、こんなしょうもないこと書く必要あるのか……
三、以上を守ることを命ず。
「少ないなおい」
「申し訳ございません、ギルド長であるあの豚が適当なもので……」
おいおい上司にそんなこと言っていいのかよと思ったが、この人はどうやらエイナさんと同じハーフエルフらしい。それは嫌悪感を抱くのも仕方のないことだ。
とりあえず、名を入れて渡す。
「では、次にこちらにも記入をお願いいたします」
「今度はまともなものですよね……」
差し出されたのは『土地関連重要書類』と判りやすく書かれた書類。
重要なこともあってか、しっかりとした内容だった。
名前、性別、所属ファミリア等々の身元証明。
どこの区画の土地か、何の目的かなどの確認。
最後に記入日と名前。
余談だが、性別記入時に一瞬迷ってしまった。だって実質どっちもじゃん。
もう嫌になる事すらなくなった。
「で、では。少々お待ちを」
資料を置き、更にまた新たに資料を持ってくるためか奥へと向かった。
その間に思ったのだが、やけにギルドが騒がしい。
情報掲示板の前には多くの人だかりが形成されいているし、ギルド奥でも人が忙しなく動いている。
あっ、ミイシャさんが怒られてる。しかも理由が書類にコーヒーぶちまけたって……何と言うか、更に仕事が増えて後で縋りつかれそうな気がする。
終わったらすぐ帰ろ。
「お持たせしました、今から説明事項がありますので、こちらの書類に目を通しなが聞いてください」
渡された書類を一瞬で目を通す。早く帰りたいからね。
「解りました。要するに今後の契約とかは直談判をしろ、ということですね」
「ふぇ⁉ そ、そうですが……」
流石のギルド職員とて、これほど早く書類に目を通してしっかり理解できる人は知らないのだろう。間抜けな声がそう言っている。
まぁただの能力にものを言わせた荒業だけどね?
「今から行っても大丈夫でしょうかね……」
「あ、あの。それともう一枚書類がありまして……確約書ですが……」
「あ、お金払っていませんでしたね」
「はい、支払方法ですが……」
そうか、1億なんぞ普通は一括で払えないもんな。だけど、私は普通ではない!
音を態と立てて1億5700万ヴァリスを置く。
300万ヴァリスは既に移し終えている。
「一括で大丈夫です」
「な……」
こには唖然とするしかあるまい。いや、そもそも1億とか持っていたとしても一括にする人などそういないだろうから。仕方のないことだけどね。
「……は、はい。では、こちらの確約書に記入をお願いします」
半ば機械的な動作でそう言いながら二枚の『確約書』を差し出してきた。いろいろ書いてあるそれの下部にある一括の欄に丸を付け、記名。
「それでは、ありがとうございました」
「…………」
確約書を一枚持ち、黙りこくってしまった受付嬢の人に背を向け、ギルドを早々に立ち去った。
最後までミイシャさんに見つかること無く、ね。
* * *
「へー意外と大きいですね」
学区の校舎を見た第一感想がそれ。まだ日も落ちることがない今、学区中枢部、通称『職員塔』だったか、そこに私は向かっていた。
学区と言っても外周または壁外、内部、中枢に分かれていて、外周は内部の周りに造られた7M程の壁の外側。内部が内側、そして中枢が生徒が基本的に立ち入らないらしい『職員塔』だ、
内部に入るには正門を通るしかなく、しかも許可なく入れないという警備体制。警備自体は私からして見るからに脆いけどね。
「待て、そこを通るには許可が必要だ。通行証を見せろ」
堂々と正門を通ろうとしたが、結局止められた。まぁ気配を紛らわせてない私が悪いけどね、態とだけど。
「断る! 持って無いですから」
まぁ通行証などなくても確約書があるのでそれを見せて、内容を理解してくれたのか通してもらえたんだけどね。
緩すぎだろ警備、偽造疑えよ。
ここからは流石に人もいるだろうから、煩わしくなるのも嫌だし気配を紛らわせて進行。といっても数秒で着いたけどね。一本道だったし。
中枢部には門はあったけど警備はいない。大丈夫かよ学区。
何か一際大きい部屋が見えるからそこが責任者の部屋だろう。ダイナミック入室したら楽しそうだけど、直すが面倒だし止めておこう。
戸を開け真正面に建物の構造が描かれた位置図があったのでそれを憶えて、さっさと予想通りの責任者の部屋へ向かう。
だが、鍵が閉まっていた。取りに行くのも面倒、ならやることは
「一つ!」
扉を蹴破ること。
といっても加減はしたので錠を壊す程度で済んだが。
中に突入すると、そこには執務机で寝こけていた責任者と思われる人物。口端から液体が垂れているのが寝ていた証拠だ。うん、汚い。
「だ、誰だね君は!」
「あ、どうもこんにちは。シオン・クラネルと言います。以後お見知りおきを」
社交辞令的に恭しく挨拶する。敬意は欠片ほどしか持っていないが。
「誰だね⁉ 私は君のことなど……まさか、『
そんな呼び方あったのかよ、どうでもいいけど。
てか情報早いな、まだ公開されて……一週間以上経ってるじゃん、なら普通か。
「ま、そのことは措いといて。私がここに来たのは」
そこで執務机に一瞬で迫って確約書を叩きつけ、続ける。
「直談判をする為です」
一瞬で近づかれたことに驚きすぎて声も出ていなかったが、そこはどうでもいいことで、その状態で責任者? が確約書に目を通し始めた。
「ふむ……なるほど。クラネル氏はここを購入されたのか」
「ええ、必要だったので。それで、契約についてですが、条件付きで継続でも良いですよ」
別に私が独占する気もないし、更に言うと金を稼げるチャンスかもしれん。
「本当かね? 実際それならありがたいのだが、その条件とは?」
「紙と羽ペンありますか?」
「あぁ、これだ」
口頭で説明して忘れられるより、こうして現物を残した方が手っ取り早く、合理的だ。
『条件』
一、利用時間は朝九時から夜九時まで。
二、利用後は必ず清掃する。
三、料理場およびシャワー等の内部施設の使用は禁ずる。
四、破損等が見られた場合、即時報告する。
五、壁への攻撃を禁ずる。
六、中規模以上の攻撃魔法の使用を禁ずる。
七、月々1000万ヴァリスの支払いを要求する。
と書き記して、その紙を差し出す。
「……この程度でよいのか?」
「何ならもう少しきつくしても良いですよ?」
「いや、やめておくれ。月に3・4000万など払うことが出来ないからな」
おや? 適当に妥当点を考えて書いてみたけど、案外良さそう。
意外とすぐに終わるもかもしれん。
「では、この条件を呑ませて頂こう」
「はい、では早速1000万ヴァリスを」
「了解した。少し待っていてくれ」
やわらかそうな椅子から立ち上がり、隣室に繋がる扉へ向かう責任者?
やがて持ってきたのが膨れた袋。
「1000万ヴァリス、丁度です」
「はい、ありがとうございます」
袋を手渡しで受け取り、持ちからえろうと半回転して背を向けたが、そこで気づく。
――――これ、1000万じゃなく1100万じゃん、と。
「あの、もう一度聞きますよ。これは本当に1000万ヴァリス丁度ですか?」
「ええ、そのはずです」
「…………」
思わず押し黙ってしまった。いや、仕方ないだろ。
私は心の中で、この学区に言ってやっることにした。
『お前等絶対馬鹿だろ』
と。
静かに背を向け、私は哀れなこの人物から離れることにした。
本当に大丈夫かよ、学区。
* * *
日が落ち、久しぶりの独り夕飯を楽しんでいたころ。
「あ、シオン。帰ってたんだ」
「えぇ、おかえりなさい、ベル、ついでにヘスティア様」
「ついでとは何だいついでとは、失礼じゃないか」
「失礼と言うなら人の食事中に話しかけてきたことが本来失礼ですよ、二人とも」
そこまで礼儀に関してしつこく言う気は無いが、正直言うと私は食事中の会話と言うのが嫌いである。宴などの宴席では別だが。あそこは喋ってなんぼのところだし。
「それで、二人はどうして一日も留守に?」
「ベル君が寝込んじゃって、バベルの治療室に居たんだよ。ボクはそれの付き添い」
「ベル、何かやらかしたのですか?」
「あはは、ちょっよ無茶しちゃってね。でも、そのお陰で『ランクアップ』で来たんだぁ~」
言葉始めは苦笑気味だったが、進むにつれ段々と頬を緩ませ、喜びでか頭を掻き始める。照れているようにも見えるが、正直胸を張ってほしい。
「おめでとうございます。
「そこ言わないでよ!」
「君たち二人は……はぁ、明日の
頭を抱えて縮こまっているが、一体何に懸念を感じているのだろうか。私もついていくし問題は……もしかして、知らないのか?
――――なら、面白いかもしれん。
「ヘスティア様」
「ん? なんだいシオン君」
「明日、頑張りましょうね」
「?」
一応、ヒントは与えておいたが、気づくだろうか。
はてさて、明日が楽しみになってきた。
UA、15万突破。ありがとうございます!