やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 戦闘シーンを書くのは大の苦手であるが場面を想像すると楽しい。

では、どうぞ


傍観、それは激戦?

 

 もう既に暗がり。『夜』へと一刻ほど前に転じたここは、森の中だけあって光源乏しく視界の確保に労する。といってもただ目を慣れさせるだけなのだが。

 眼帯を外せば簡単に見えるものの、誰かに見つかった際、目を見られるのはあまり好ましくない。何故か索敵能力も落ちてしまっているから。

 

「随分と騒がしいですね」

 

 そんな森を抜けると、先は打って変わって灯りに包まれた野営地。

 慌ただしく人が動き回り、騒ぎ散らしている者まで。一体どうなっているのだろうか。

 

「どうかしたのですか?」

 

「あ、イレギュラー君! レフィーヤとアルゴノォト君知らない?」

 

 気になり声を掛けたのは、丁度目の前を通りかかったティオナさん。人選ミスではありそうだが、ある程度の状況把握には役立つだろう。……たぶん。

 それにしても、何故それだけでこんなに騒いでいるのだろうか。

 

「恐らく森の中でしょうけど……で、何故そのようなことを?」

 

「あ、説明してなかったね。あのね、さっきアルゴノォト君が水浴びしている中に入ってきたんだけど―――」 

  

 同罪を犯したベルの話から始まった。兄弟そろってなんということだか。

 曰く、アイズがひと暴れした後、木の上からベルが落ちて来たらしい。よって必然的に見えた絶景を見渡すと、アイズを見た後顔を真っ赤にして逃げ去ったそうな。

 その際レフィーヤに魔法を撃たれそうになり、死にかけたそうな。

 その後暫し時が経つとベルが野営地に戻って来たらしい。そこから始ったのが出血する程の土下座の連続だったそう。誤っている分私より罪は軽いか。

 いや、私は一人しか興味がなかったから、その他大勢は何ら気にしてないが。さらに加えて私の犯行だと気づいているのは多くて二人……いや三人か。

 とまぁそんなことはどうでも良く。

 

「―――で、叫びながら消えた二人を探していたと。こんな総出で?」

 

「ううん、それだけじゃないよ! イレギュラー君のことも探してたんだぁー」

 

「私を?」

 

「うん、アイズがなんかすっごいことになってて―――――」

 

 言葉途中で、最後まで続くことはなかった。

 右前方から()()()()()サーベルによって。

 

「はははっ、マジかよ危ねぇ……」

 

 人差し指と中指で挟み込み、鼻先掠らず止めたが、ティオナさんの少しばかりか切れた髪はどうしようもない。

 剣を見れば誰が飛ばしたかなんて明白。しかも風を纏っていたとなれば尚更。

 

「うおっと」

 

「~~~~~~~~ッ⁉⁉」

 

 次いで薙がれた元私の胴体があった場所。振り切った脚の持ち主は、顔だけでは無く兎に角真っ赤にしているアイズだ。

 切先を掴んでいた剣の柄を握られ引き抜かれると、今度は剣戟による攻め。理由は大体承知している、確実に引きずっているあれだ。

 

「ま、久しぶりに闘うのもいいでしょう。むしろ歓迎」

 

 見る限り、私に見せてくれた剣戟の中でも最大速度。完全に殺しにかかっているが、私は殺されるまでのことをしている―――のか? いや確かに見たのは悪いとは思っていなくもなくもないが。怒られる道理はあっても殺される道理は無い。結局殺されることは無いだろうが。最悪相打ちだ。  

 言葉発しながら、抜くのはやはり漆黒の一刀。流石に今の『一閃』で斬ったらアイズとて粉微塵になりかねない。いや割とマジで。

  

 それにしても、相変わらず綺麗な剣技だ。鋭く研ぎ澄まされて、多少性根が歪んでいるものの筋はまっすぐ。なんとも絶妙なところで中和している。

 対し私はまだまだ。性根も筋も歪み、研ぎ澄まされているなんて到底言えない。ただの殺意が刀を借りて動き回っているようなものだ。

 切れ味が抜群なのも鍛冶師のお陰。宛ら強く思えるのも、能力のお陰。

 全部が全部、私のものではない。

 頂上的な力は全て、誰かからもらい受けたものなのだから。

 

 だが、気分はそんなの関係ない。

 斬り合え(殺し合え)ていることが楽しい。本気で殺しに来られて、本気でなくとも全力で対抗できることが嬉しくてたまらない。

 集ってくる周りの他人など気にならない。ただ今の現状それだけあれば、それでよいと思えるまである。

 

 より一層と増した騒ぎは、誰もが見て、だが追い付けず、それでも高揚する闘いが(もたら)した興奮。ある種興奮した彼女と、まんま興奮した私の影響によって出来上がったもの。

 だがそれは、六人の手によって鎮められる。

 

「そこまでだ」

 

 まず一人の声と魔力により止められ、

 

「これ以上暴れられると」

 

「困るんじゃよ」

 

 次に二人の手により刃を向ける相手を変えざるを得なくなり、

 

「せーのっ!」

 

「はぁぁぁっ!」

「オラァッ!」

 

 最後に双子とワン吉の同時攻撃を流すことで、彼女の相手をできなくなってしまったのだ。

 

「ちょっとちょっとぉ、無粋ではありませんかねぇ……それに、魔法まで用意する程ですか? あ、あとワン吉帰って来てたのですね。てっきり死んだかと思ってました」

 

「その通り死にかけたわクソがっ! お陰で一日寝込んだぞふざけんな!」

 

「ありゃまぁ大変だったのですね。お疲れさん」

 

 軽口で込み上げてきた無性な怒りを発散させると、一度目を閉じ、ゆっくりと開ける。

 視界内に映る小人族(フィンさん)ドワーフ(ガレスさん)が武器を構え眼を飛ばし、アイズを後ろに控えさせて殺意を滲ませた。そうでもしないと、止められないと解っているのだろう。

 かくいうアイズは魔法を待機させながら説教すると言う器用なことをものの見事に実践しているリヴェリアさんに正座させられている。いじけた様子はかなり可愛い。

 

「で、どうしてこんなことになったのかな? アイズが一向に話さないで君を呼べの一点張りで、何一つわかっていないから、説明を頼めると有難いのだけれど」

 

「あはは、それは私に死ねと言っているようなものですよ、いや割とマジで」

 

 と言っても、肉体的でも精神的でも無く、主にあなた方が私に抱くイメージが、だが。

 話すとなればアイズの裸を完全記憶して今も鮮明に思い出せることが事の中心であり、そこから派生して何故見れたかということになり、追及結果私があの女性(人物)であったとヒュルテ姉妹にバレる。

 つまり、私が完全に女性の身体をしていたことが確実に変態扱いとなり、更に言えば否定のしようがないから、ただ言われるがままなのだ。

 

 空笑いを浮かべながら得物を納めると、彼らも得物を下ろしてくれた。

 リヴェリアさんは何故か未だ魔法を待機状態で保ち続けているが。どちらにしろあまり脅威では無いから其のままでよいのだが。

 

「それからもう一つ、君はどうして僕たちの攻撃に対処できたのかな」

 

「単なる反射神経ですよ」

 

 事実。嘘偽りはないといえる。

 本当に先程のフィンさんとガレスさんにやられた連突連打。絶妙な位置を突いていたが、まだ対処できるレベルだった。ガレスさんは六割方力任せだから流せばいいし、フィンさんは冷静に最善手を打つからこそ読みやすい。

 といっても、見えてから反応していたのだが。だからこそ反射神経である。

 

「……シオン」

 

「ん、どうしましたか?」

 

 正座から立ち上がったアイズが、フィンさんとガレスさんの後ろから出てくると、私の前に俯きながら立ち止まった。そして、低い声音で私の名を呼ぶ。 

 彼我の距離は手を伸ばさなくとも届くほどの距離。必然見下ろす形になる私は、解けた力で反省の色が色濃く映るアイズをじっと見つめた。

 

「いきなり、その……襲ったりして、ごめんなさい……」

 

「いいですよ。むしろいつでも襲ってきてください。全力で対抗しますから」

 

 それに周りがギョッとするのを感じ取っているが、知って知らぬふりをする。ただ本心を述べただけである。心から反省しているような彼女におふざけなどできようまずも無い。

 

「……あと、ね……シオンに見られるのは、その、心の準備が居るから……次からは、ちゃんと言ってから、ね……」

 

「ま、マジですか」

 

 勿論それは『言ってから』というところでは無く、『言ったら別に良い』と言うところだ。

 つまりはその……あんなことやこんなことも良いかもしれず……

 思わずグッと、拳を握った。顔を綻んでいそうだ。下心によって。自分の見当が外れてこれほどよかったと思えたことは今まで類を見ない。

 

「おいテメェ、何喜んでやがる」

 

「アイズとあなたには到底至れない関係に慣れたことへの喜びの片鱗を思わず出してしまっただけです。お気になさらず」   

 

「おい待て、どういうこっだぁそりゃ」

 

「察しろ」

 

 というのは酷な話で、無理も無いこと仕方ない事。

 今では顔を真っ赤にしているであろうことが少しひょこっと隙間から出る耳で判りやすいまでにわかるアイズの頭に手を置き、なでなでと小動物を相手するかのようにしていると、周りからまた声が上がる。

 それを意に返さずに、終局を迎えた小さき戦いに幕を下ろす。

 

「うんじゃ、私はちょっと用事ができたので、また後で」

 

「あっ……」  

 

 名残惜しそうに手を伸ばしたアイズに掴まれること無く、私がこの場を去ることで。

 確かにあのままアイズといるのは吝かどころかこちらからお願いする程なのだが、あちらがヤバそうなので助けるべきだろう。

 僅かに捉えた甲高い怒りの声と重低音の宛ら虫のような声を頼りに、暗闇と化した森を一直線に()()

 

「そぃっ」

 

「―――――――⁉」 

 

 そして領域内に捉えた極彩色のモンスターに、一太刀浴びせた。

 またもや低く唸るかのように悲鳴を上げると、ぽっかりと穴があることに気づく。

 その先に、二名の気配がある事にも。

 自身の気配(殺意)でモンスターを牽制しながら、その穴を覗くと、言い合う二人の姿が。

 

「おーい、お二人さぁーん。まだ生きる力はありますかぁ~?」

 

 呼びかけると、漸く気づいたかようではっと二人は顔を上げた。

 数瞬の呆然(ぼうぜん)とした間があったが、そこから復活した二人はけたたましく、驚くべきことに溶かされている自分の足など気にも留めていない様子。

 

「シ、シオン⁉ そんなところで何してんのさ⁉」

 

「ちょっと興味本位で見物をしに」

 

「見物なんかしてないで参戦してくださいよ! 貴方が斬れば一瞬でしょう⁉」

 

「確かにそうですけど……それだとつまらなくないですか?」

 

「「そんなの関係ない!」」

 

 見事に合わさった二人の声に仲の良さを感じてやはり見物をしていた方が良いと感じる。

 それに。大体此奴は潜在能力(ポテンシャル)Lv.3・4と言ったところだ。どうせ二人なら勝てるだろう。私の手伝いなどなくとも何ら問題ない。

 

「んじゃ、頑張ってくださいねぇ~」

 

「「ふざけんな!!」」

 

 これまた合わさる声は、もはや口調まで変わってしまい、二人がどれ程本気かよく伝わって来るが、ソンナの知らん。頑張っての一言で切るまでだ。

 

 何せ、倒すべき敵はこいつだけではない。

 見るからに食人花(ヴィオラス)と同系統のモンスター。ならば放ったのは怪人(レヴィス)もとい闇派閥(イヴィルス)しかありえない。つまりは近くにそれらがいる可能性が非常に高いわけだ。

 率直に言えば、今現在の右手側。何故か階層の端へ向かう気配が十数名分ほど確認できている。ここにきて気配探知も大体本調子に戻って来たか。

 

 といっても、すぐさま追わずに動向を確認してから捕らえるのだが。

 なのでまだ空白の時間がある。つまりはそこが見物時間だ。

 

 双方姿を確認できない位置へ数歩下がることで移動し、そのまま見物。中の様子は見えなくとも、普通に感じ取れているから。一挙手一投足、内部構造すら全て。

 

「お、やっと喧嘩止めた。判断が遅いな……」

 

 言い合っていた二人は―――――主にレフィーヤが原因だが―――――一時休戦とでも言わんばかりに結託し、漸く攻撃と言える攻撃を浴びせ始めた。

 だがあたふたしている所為で、敵の攻撃は避けられてはいるものの危うい。

 一体いつになったら此奴(こいつ)の弱点に気づくのだろうか。

 

「やはり遅いな……」

 

 ようやく気付いて実戦しているが、気づくのが本当に遅い。

 此奴は狙いを定めるために、わかりやすくも視線を向ける。逆手にとれば、視線が向いている方向にのみ確実な攻撃が来る、ということだ。

 ひっちゃかめっちゃかに触手を動かされでもしたら、簡単に潰れるだろうが、その心配はなかろう。第一触手が少ないし、加えて最大二本同時にしか動かせないように見える。

 

『アァァァ――――――――――――』

 

「~~~~~~~~~っっ!!」

 

 突然にして訪れた高周波。明らかに人間に害しかないその波数は、耳を(つんざ)き感覚が一段と鋭い私のようなものには最悪の攻撃。視界が歪むは平衡感覚が曖昧になるは音が遠ざかるは……【耐異常】未取得な私にとって有効過ぎる、そして観戦する私にまで影響を及ぼした迷惑極まりない攻撃……

 

「ぅるっさいわぁぁ!」

 

 耳鳴りまで聞こえて来てうんざりとした矢先、我慢ならない手が半ば勝手に動いた。

 それはいとも容易くその発生源まで地ごと穿ち、短い悲鳴が上がり続けている。

 止めることだけが目的だったので死んだことはなかろうと踏んでいた。

 地へ向かって何かを投げたかのような姿勢で硬直するのは私。なぜなら実際に転がっていた水晶片を全力投球したからである。

 崩れる寸での地面だが、私は決して悪くない。悪いのは迷惑極まりないこんな攻撃を仕掛けたこのモンスターだ。

 

「てっ、よく魔法爆発(イグニス・ファトゥス)になららなかったな……魔法消滅しちゃってるけど」

 

 投げた水晶片は見事に命中していて高周波は無力化したが、いかんせん触手は管轄外で、のたうち回ったそれが隙を見いだし詠唱していたレフィーヤに激突したのだ。

 心中謝罪しつつ、中々にして上出来なベルの庇いによって命からがら立ち上がったレフィーヤから、唖然としている気配が伝わった。

 それはベルが今まさに行った無詠唱魔法(ファイヤボルト)の連射の所為か。

 

「そりゃまぁ驚くでしょうけどね、初見なら大体」

 

 常識外の魔法だ。魔術師(メイジ)や魔導士なら誰もが喉から出るほどその秘密を知りたくなるだろう。無詠唱はそれほど貴重だ。

 

「うんじゃ、そろそろ行きますかね」

 

 レフィーヤも詠唱に入ったし、失敗したとしてもベルが何とかするだろう。確か見るからに強そうなベルらしいスキルを保持している筈だから、最悪それを使うだろうし。どんなものかは知らんけど。

 

 モンスターを無視して、更に食人花(ヴィオラス)も素通りして、真正面から遭遇させる。

 闇派閥(イヴィルス)の残党共を、処刑人()に。

 

「やぁ、相変わらず死に腐った髑髏みたいな気配をしてますね」

 

「誰だお前は……」 

 

 低く、動揺も押し殺しているかのような声が返された。

 それには恐怖も滲んでいる。気づいているのだろうか、以前自分たちの同胞? を惨殺したのが私だということに。

 いや、ただ単に今現在漏れ出る抑えきることなどできようはずも無い無性な殺気が原因だろう。理由は定かではないが、今にも殺したいという気持ちを首の皮一枚分ほどで抑えているのは苦労する。こいつらからは、ある程度の情報を引きださないといけないから。

 

 背後で大音響の白光が煌めいたことがわかるが、そんなことは後だ。

 

「三人でいいや、あとはいらない」

 

「何を―――――」

 

 取り囲むように組まれた陣形を、一刀にして崩す。

 リーダー格に見える正面の男と、その隣の二人だけを残し、他はぼそっ、と地面に重いナニカが落ちる音と、次いで重低音となって届く地に張りついたナニカがない(むくろ)だけを残していなくなってしまった。

 絶え間なく流れ出る躯を源とした液体を一瞥して、衝動を努めて抑えながら居(すく)まった眼前の三人に問うた。

 

「お仲間さんの助けを呼ぶのはおススメしませんよ? 他の二部隊計八名を見逃しているのは、単に取るに足らないから。呼ぶようなら構いませんけど……同じようになりますよ?」

 

 つんつん、と暗闇の中ですら輝く鈍色の刀の切先で躯を刺した。

 意味はそれで伝わるだろう、仲間を呼ぶようなことはしなかった。闇派閥(イヴィルス)ながらにして、命の尊さ大切さを知っているのか。全く、皮肉なことだ。

 

「じゃ、吐いてもらおうか。吐瀉(としゃ)物は遠慮するけど」

 

 ニタァと口角がつり上がるのを自覚しながら、私は彼らの首をつかみ取った。

 手近な木に三人とも(はりつけ)ると。そこから始めるのは明らかな―――

 

「―――拷問を始めようか」

 

 自決用のもの全てを取り除いたこいつらは、もう既に、ただの道具である。

 人の尊厳などかなぐり捨てた、ただの情報。

 よって、死などなく生も無い。つまりはどうしてって言い。

 

 最低最悪の考えの下、私はアソ―――情報収集を開始した、

 


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