この世界において大きな大陸は全部で三つある。
ドンドルマ、ポッケ村などのハンター達の憧れの地が多くひしめく旧大陸。
ロックラックやユクモ村、貿易や郷土の文化などによって経済を支えている新大陸。
そして、すべてが未だ謎に包まれている未開の大陸。
その新大陸の東海岸付近に広がるように発展している商業都市、それがタンジアである。
貿易によって運び込まれたたくさんに商品が立ち並ぶ様はまさに圧巻の一言。
海岸に沿うようにして竜骨のようにも牙のようにも見える巨大な支柱がせり出し、その間に雨よけの布を組み合わせることでアーケードのような構造になっている。
気前のいい海の男達が集まり、訪れた商人や船乗り、釣り人そしてハンター達で活気溢れることから『船乗りのオアシス』とも呼ばれている。
慧香サイド
「ただ今帰りました!」
家の入り口から中に向けて声を出します。
すると、中の方からドタドタと走ってくる音が響いてきます。すると、
「おかえり、お姉ちゃん!!」
「おかえりなさい、慧香」
弟のユーセルと、母さんのアリセアが出てき━━━いや、ユーセルに至ってはフライングタックルをかましてきた。
痛いです地味に・・・・・・。
「あらあら、ユーはほんとにお姉ちゃんが好きなのね」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん♪♪」
「痛い・・・・・・鳩尾グリグリするなぁ」
これが我が家の日常です。
しかし、
「こんにちは」
「よう!お邪魔するぜ慧香!」
入り口からアグナとアンディが入ってきた瞬間、弟が固まった。
そして数秒後、母さんの顔に・・・・・・識別不明な笑顔が浮かんだ。
「あら・・・・・・あらあらあらあら♪♪」
な、何だか『面白いものを見つけた』とでも言いたげな声を連呼する。
そして固まっていた弟がその声を聞いてに再起動した。
「お、おおおお!お姉ちゃんが二人になってる━!!!???」
入り口から入ってきたアグナを見て弟がパニックに陥った。
まあ、普通に考えてそうなりますよね・・・実の姉とそっくりな人が入ってきたんですから。
私でも驚きますよ。
「父さーん!お姉ちゃんが彼氏連れてきた!!」
「ちょっとぉーーー!!!」
アンディさんの事私の彼氏と勘違いしたまま父さんのとこ行かないで!!母さんもニヤニヤしないで止めて!
「なんだか賑やかな家族だな」
「アンディさんも何とか行ってください!」
「おう!実はな慧香の母さん、こいつが惚れてんのは俺じゃなくてこn」
「イーーーヤーーーーーー!!!!!」
アンディさん変なこと言わないで下さい!!
アグナサイド
一言で言って慧香の家族は至って普通だった。
仲のいい元気な弟に面倒みの良さそうな柔らかい笑顔(?)を浮かべている母親。
どこか遠くの俺の家族を思い出させるようなそんなアットホームな雰囲気が家族全体から滲み出ている。
しかしアグナ、そしてアンディはこの家の付近に来てからただならぬ威圧感を感じていた。
「アンディ。もしかしたら慧香の父親は・・・」
「あぁ、十中八九ハンター・・・・・・しかもかなりの腕と実績を持つ恐らくG級に名を馳せる程の強者だなこりゃ」
慧香の家はこの地方特有の布などをテント状に張り、風の通り道を作る構造になっていて、時折吹き付けてくる海風のがかすかな潮の香りを運んでくる。
だがそれを跳ね除けるかのようなプレッシャーが入り口から入った奥のテーブルに座っている男からこちらへ向けて発せられている。
短く切り揃えられた短髪は歳の割には白く、彫りの深い顔にわずかながら無精髭をはやしている。
タンジアの港によく似合う褐色に焼けた肌にユクモの地で着られる浴衣というものを着込んで佇んでいる
「・・・慧香、おかえり。ずいぶんと遅かったじゃないか」
「う、うん・・・・・・ちょっと道中トラブルがあって」
「そうか・・・・・・・・・・・・・・・刀を出しなさい」
その男が息を大きく吸い込み、続けて吐いてから唐突に切り出した。
慧香は一瞬だけ肩を震わせたが、観念して背にさしてあった太刀の鞘を金具から外し父親へと渡した。
父親が受け取った太刀を眺め、鞘から引き抜くと同時に周囲に吐き気を催す生臭さが広がる。
「と、父さん。これってその、血だよね・・・」
横から覗き込んでいた弟もそのあまりの臭いに顔をしかめている。
しかし当の本人はそんなことを気にする素振りも見せずに血がこびり付き歪んでしまっている刀身をマジマジと見ている。
「━━━ジャギィ65頭にジャギノス39頭、そしてドスジャギィに一太刀・・・・・・と、言ったところか」
「すげぇな、そんなことまで分かるのかよ」
「何せこの刀は私が鍛えた代物、それくらいは手に取るように分かる」
そして父親は刀を鞘に戻して背後に置いた。
慧香とその弟と母親がテーブルに着き、アグナとアンディもそれに習って腰を下ろす。
「慧香の父親、
どうも、うちの慧香を助けていただきありがとうございます」
「いえ、お気付かいなく。アグナと申す者で、こっちは相棒のアンディ。
二人して各地を転々としている旅人です」
一応嘘は言ってないからな。
旅人(?)かは少し怪しいが二人して旅をし、各地の色々な狩場にお邪魔しているからあながち間違いではない・・・・・・はず。
それに『俺達モンスターです』なんていきなり言われてもパニックになるだけ。なるべく騒ぎは広めたくない。
「お礼に食事をお出ししたいと思うのですが・・・・・・・・・
「つまりこちらの正体を知っているということですね」
「えぇ、私も昔ハンターを営んでいましてな。
『
「『砂剛の鬼』だぁ!?」
突然アンディが素っ頓狂な声を上げた。
それも無理も無い、何故なら。
「あのジエン翁の牙を太刀一つて叩き折ったのってあんただったのか!?」
「ジエンってことは、あの峯山龍ジエン・モーランですか!?」
これには慧香も驚く。
まさか自分の父親が竜族の頂点に位置する龍達━━古龍種と相見えたことがあるなんて自慢話なんてレベルの話じゃない、もはや一種の英雄譚である。
「ハハハハッ!!尾ひれが付きすぎですなそれは。
折ったと言ってもものの四分の一を切り落としたくらいですし、それにその戦いで体にガタがきてしまって。
それでハンター業を引退したんですよ」
そこで総厳は妻アリセアの差し出した湯飲みに口をつけ、アグナとアンディのことをジッと見つめた。
その目には二種類の感情がこもっていた。
一つはハンターとして相手の力量を驕ることなくただ明確に見る狩人の目。
そして、今まで育ててきた愛娘の旅立ちを素直に喜び未来を応援する父親の目。
しかしそんな感情をふたりは知るよしもなかった。
「アグナ殿、アンディ殿」
ここまで威風堂々とした出で立ちだった総厳が頭を下げて言った。
「どうか、慧香をあなたがたの旅に付き添わさせてはくれないでしょうか」