「『転生者』って人達は、生き直しをした人なんですよね。
なんで、この世界で普通に生きていかないんですか?」
ちょうどアグナが老師と話をしている時、宿の部屋の中にいる慧香とアンディの間でも同じ内容について話していた。
「転生者っつうのは、単なる生き直しじゃ無くてさっき話した通り『特典』ていう特殊な能力を有して生まれてくる。
そうすると、どうしても他者に自分の力を見せつけたくなるもんだ」
アンディは備え付けの椅子を後ろに傾けて、腕を頭の後ろで組んだ。
人間━━━いや、生物であるなら『他者よりも優れていたい』という飽くなき欲望が生まれる。
転生者はその意志が強すぎるのだ。
「転生者の殆どは別世界の悪神だの魔神だのが気まぐれで飛ばしてきた奴らだ。
大抵そんな神の目に止まる奴らはろくな生涯なんか送ってない奴らばっかだ」
「じゃあ、良い方の転生者は善神が生み出した、という事なんですか?」
「いや、そうでもない」
慧香の問いにアンディは椅子を戻してから答えた。
「善神だけでなく正規に冥界とか天国に行く奴らをランダムに選ぶのが本来の転生だ。
死ぬ奴らなんて世界にいくらでもいる、その中で善人なら自分が選ばれたとなればそれこそ死んだ奴らの内の半分もいないだろう。
中には転生を拒んでその権利を他人に譲渡した奴もいたらしい」
「へぇ、そうなんですか・・・・・・・・・。
ところで、何でアンディさんはそんなに詳しいんですか?」
「それはだな
俺とアグナが転生者を殺すことを古龍種から直々に依頼されてるからだよ」
アグナサイド
アマツ老師との会話を終えて外に出てみるとすっかり日が西に傾いていた。
そろそろ約束の時間だろうか。
「それでは老師、またいつかお会いしましょう」
「そうさな。今度古龍種の会合があるからその時来なさい。
達者でな・・・・・・・・・・・・しかしすまないな、本来この転生者の抹殺は古龍種に課せられたものなんだがな」
するとアマツ老師は暗くなり始めた東の空を見つめた。
その視線を追ってみても俺には山と緑の森しか見えない。
「・・・・・・近頃、妙に龍脈が暴れておる。気を付けなさいな」
そう言って老師は体に風を纏い、姿を消した。
おそらくもう空高くまで登っていったのだろう、西の太陽を背にした巨大な龍の影が一瞬だが見えた気がした。
「アグナさ━━━ん!」
その声に反応して階段の下を見ると慧香とアンディが鳥居の下から俺を見上げていた。
どうやら迎えに来てくれたようだ。
「アグナ、老師との会話はどうだったか?」
「特には無かったが、ジエン老師からの伝言だそうで『食あたりには気をつけんさい』だとよ」
「アンディさん・・・・・・・・・・・・」
古龍種の方々にさえコイツの大食らいは知れ渡っているらしい。
だがジエン老師よ、気紛れでデルクスの群れを根絶やしにするあなたには言われたくないと思いますよ。
「あの人だけには言われたかねぇよ!」
「ま、そういう事だ。そろそろローレの言ってた詩吟屋に向かおう」
たしか、木彫りのガーグァが目印って言ってたよな。
まぁゆっくりと探すか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お?ここじゃねぇのか?」
「木彫りのガーグァと暖簾に『詩吟屋』の文字、間違いないですね」
辺りがすっかり暗くなった頃、俺達は件の旅館『詩吟屋』を見つけた。
なにぶん土地勘がなかったから時間がかかってしまった。
「あー!御三方ここにいましたか!」
すると暖簾を分けてローレが出てきた。
少しだが酒の匂いがするところを見て、もう先に始めているらしい。
「ローレさん、こんばんは」
「あ、ご丁寧にどーも。ささ、入って入って!」
ローレに導かれて座敷になっている宴会場に向かう。その最中から既に賑やかな音頭の声や野太い野次の声が響いてくる。
もう既に場は賑わっているようだ。
宴会場の入口を開けるとそこでは既にお膳が並べられ、既に酒を酌み交わしたりしているハンター達の姿がチラホラ見られた。
「おーい!主役のご到着だー!道を開けー」
「よ!待ってました!」
「おうおう!席ならあそこだぞー!」
「べっぴんさんと酒を飲めるたァ縁起がええのぉ!」
「テメーら酒飲むのやめんさい!」
一番奥のところに三つ並んで席が空いているからあそこに座ればいいのか。
ほかのハンターの邪魔にならないように端を歩いて三つの席の一番左に座る。
「そんじゃ、俺が右側取って慧香が中央な」
「え!?そ、そこはアグナさんにしましょうよ。一応三人の中ではリーダーなんですから」
「あのクエストは慧香の初めてのクエストだ。つまりそれによって受けた報酬に対して一番の主役は慧香だと俺は思う」
「なんですかその自論・・・・・・・・・」
結局、慧香も観念して中央に座ったところでローレが立ち上がり皆を鎮めた。
「えー、それでは新しくここに来られたアグナさん、慧香さん、アンディさんを歓迎するにいたってこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
御三方、あの屑を仕留めてくださり誠にありがとうございます。
まぁ、ぶっちゃけアイツが消えて嬉しい人がここに、いる全員だから気にしなくてドンチャンしてください!」
「意外に辛辣だなお前・・・・・・・・・」
アンディのつぶやきが聞こえたのはおそらく俺と慧香ぐらいだろう。
「そんじゃ!気を取り直して━━━━乾杯!!!!」
「「「「「「「『乾杯!!!!!』」」」」」」」
もうそこからは収集のつかないことになった。
酔ったハンターが慧香に寄ろうとするのをアンディがアッパーカットで沈め、俺に近寄ってくる女性ハンターを慧香がガードしに行って少ししたらゆでダコみたいに顔を赤くして帰ってきた。
遂には酒比べを始め、次々とハンターたちがダウンする中最後まで飲み続けていたのはローレと鍛冶屋の竜人族の爺さんだった。
「なーに!!この程度じゃ負けられませんよ!もっと持ってきてください!」
「アウアウ!!若い奴には負けちゃおれんで!私も追加じゃぁ、どんどん持ってけぇ!」
・・・・・・・・・・・・何杯ぐらいするのか数えるか。
結果は竜人族の爺さんの粘り勝ちだった。
ちなみに開けた酒樽は二人合わせて2樽開けたのことらしい。
「そんで、宴終わってから俺らを呼んだ理由ってのはなんだ?」
「アンディさん、サボテンの花は帰ってから食べましょうよ」
「だめだ、あークソ。誰だよ俺の料理にはじけクルミ混ぜ込んだの」
「食べたんですかそれ!?」
宴会が無事終わり帰りかけたところで俺らはローレに呼び止められ、彼女の予約した宿屋の部屋に来ていた。
「御三方、突然お呼びたてしてすいませんでした」
慧香とローレがベッドに座り込み、俺とアンディは椅子を持ってきて座る。
「それとローレ。その口調、素じゃないだろ。戻してくれないか」
「・・・・・・やっぱりバレてたかぁ。まぁ急ごしらえの丁寧語なんて役に立たないな全く」
急にローレの口調が変わり目を白黒させるがアンディはあまり動じてないようだ。
というかまず見た目と言葉使いの差がありすぎて、不自然だと思わない方が怪しい。
「そんじゃぶっちゃけ聞きますけど、アグナさんとアンディさんって人間じゃないですよね?
おふたりからする匂いがどうも人からする匂いじゃないんですよ」
「・・・・・・・・・・・・そういう君も転生者だよね?」
その一言を聞いてローレはこっちの目を見るように体勢を変えた。
「やっぱりバレますね、それじゃ隠し事無しで行きましょう。
私はローレ・バァンテス。ギルドから依頼を受けた転生者、及び『虛竜』の抹殺を名に受けています。
竜族のおふた方は虛竜についてもご存知ですよね」
『虛竜』とは転生者が人間に転生したのに対して元人間だった者が竜族に転生した個体を指す名称だ。
転生者と違う点で言えばまず個体数が少ないことだ。
そもそも転生する者の殆どは悪人である故に人間的な欲求を満たしたいものが多い。
それに転生者と同じで虛竜には特典というものがランダムにつく。
しかもそれは状況によっては環境を破壊するレベルのものがつくこともある。
「んで、虛竜狩りのエキスパートが俺らになんの用だ?」
「実は最近、新たな竜族が発見されたのですが、その個体の特殊さ故にG級のハンターですらも狩猟できないんですよ。
それで、天変地異の様な虛竜を狩ってる私達に白羽の矢が立ったんですけど、一人じゃ心もとないので」
「つまりは手伝って欲しいと?」
「そういう事になりますね、もちろんちゃんとした見返りもありますし」
・・・・・・・・・・・・未知の竜との戦闘か、たしかに前の俺達なら受けていたが今は慧香を預かっている最中。
あまり危険は冒したくない。
「━━━━アグナさん、ひょっとして私の事心配してます?」
「・・・・・・・・・・・・アグナ、お前顔に出すぎたぞ」
・・・・・・・・・やはりバレたか、それと慧香その目は止めてくれ。その覚悟を秘めた目を俺に向けるな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ジ━━)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『足手纏いなんかにはならない』って言ってる目だなありゃ・・・・・・・・・仕方ない。
「ローレ、その依頼直々に俺達も同行させてもらう」